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6章 吸血鬼と魔法使い

65.闇の乱入者

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 メキィメキメキ

 なんだろう、まるで空間がへし折られるような音がし、その中心部分からワープゲートのようなものが生成されていく。

 【・・・霊鳥の眷属よ、我に害なすものを罰せ改めん、大霊鳥ここにあらん】

 上空でその様子を見守っていた鳥は呪文のような言葉を呟き、その周りに火の玉を生成する。
 するとその火の玉は次第に姿を変え、黄金の美しい鳥とはいかないものの、一目で只者ではないとわかる鳥の魔物が生み出てきた。

 その魔物たちを周囲に配置し、鳥は今もなお空間を破り続ける黒いものを観察する。その目は全てを透き通すような冷めた目だった。

 鳥も、俺も、ハクリも、ただ1人とさえ空間破りに注目しない者はいない。
 鳥肌が立つほど不気味なその黒い物体はすでにいつかの象以上に大きくなっていた。

 【攻略者よ、これから起こる事全て其方らには関係ない。我を以ってを仕留める。
 手出しは無用だ】

 もうすぐ黒い物体が空間をほとんど破ってしまうのではないか、という時、黄金の鳥が動き出した。
 自ら眷属を連れて一瞬で姿を消す。
 そして黒い物体に爆発音が轟いた時、空間を破っていた奴が正体を現した。

 「な..........なんだよあれ.....」

 蠢めく黒い因子、右手に構える全てを切り裂きそうな鎌、深淵のような擦り切れたローブ、そして決して暗闇で見える事のない顔。

 まるで死神のような奴が姿を現した。
 その大きさは優に5mを超えており、蠢めく黒い因子が黄金で輝いていた洞窟内を静まり帰らせる。
 まるで全てのものが支配されているかのような感覚に陥った。その体に触れただけで消えてしまいそうな、そんな感覚。
 足は震え、唇は乾き、背筋には悪寒が止まらない。

 なんだなんだなんだなんだアレは。

 それが恐怖と言っていいのかわからないが、動けないのはハクリも一緒のようだった。
 唖然とした顔でその死神を見つめている。

 そんな俺達を他所に死神は鎌を持っていない方の手、左手をゆっくりと俺達と全く掛け離れた所へと向ける。

 その瞬間、見えない速度で飛んでいるはず黄金の鳥らが暗闇から湧き出てきた無数の手々に捕らえられた。その後ろではその手に眷属が串刺しにされている。
 あの見えない速度で飛ぶ鳥を捕まえた、その時点で圧倒的な実力は理解できる。そして一番死神が驚異的なのが奴が纏うこの黒い因子だった。
 このおかげで俺の全ての感覚器官が恐怖に震えていると言ってもいい。
 それほどまでに奴の纏う因子は恐ろしいものだった。

 【我を捉える者よ、これを受けてみよ!
  『風の空撃ヴァンエアレイド』】

 そんな中、ホラー映画のような手に捕らえられながらも黄金の鳥は魔法を放った。
 
 ーーー風の空撃。確か聞いた事がある。
 魔法使いなら誰でも目指す魔法の極み『神の天啓』と呼ばれ、5属性火水然風光を極めたものに到達できる境地。
 その『神の天啓』の一つ、『風の空撃』。

 『風』を極めた者にしか使えない神級の魔法だ。
 そんな魔法を、黄金の鳥は詠唱なしで言い放ったのだ。

 そしてその魔法はとんでもないものだった。
 死神の全方位から極大の風の刃が生成され、まるで死神を取り囲む一つの球のように見え、その影響で空気が揺らぐ。その刃は一瞬にして死神に襲いかかり、死神の擦り切れたローブが飛び散る、と同時に死神本体に深く突き刺さった。

 さらにその間にも死神の上空に風の球が生成されていた。
 そしてその球から猛烈な勢いで死神に降り注ぐ風のレーザービーム、即ち風圧による圧殺魔法が放たれた。
 レーザービームはどんどん太くなっていき、やがて死神が一本の風の柱に飲み込まれる。
 周囲にも嵐のようなの風が吹き荒れ、少なくとも岩壁が削られて最初より洞窟が数段階広くなったような気がした。

 全て俺がやってきた闘いと別次元だ。俺の雷豪でさえ風の刃の一本分程度しかないだろう。
 それが百、いや千、いやもしかしたら万ぐらいあるかもしれない。
 ともかく物凄い魔法だった。

 ーーーだが死神は死なない。
 風のレーザービームが止むと、死神が無傷な姿を現わす。散ったはずのローブでさえ傷付いた様子はなく、本体はなおさらだ。

 【・・・・・・・・】

 魔法を防がれたのにも関わらず黄金の鳥は言葉を発さない。あまりの強さに驚いているのか、と思い鳥を見るとその予想を遥かに裏切る物が目に焼きつく。

 ーーーーー死体。
 あの黄金の鳥が死体となって無残にも引き裂かれていた。
 音速で動き、神級の魔法をも撃つあの黄金の鳥が、呆気なく死んだ。

 「あ、あ、あ.....」

 もはや発する言葉をなかった。
 恐怖だけが全身を包み、今すぐにでも逃げ出したいのに足が震えて動かない。

 まるで永遠のようだった。
 死神が黄金の鳥を殺害し、こちらを向くまでだ。
 その黒い因子をズズズと動かしながら闇をこちらへ向ける。

 【従イ申ソウ.......我ガ主人ヨ.....」

 そして次に俺が見たのはその死神が跪く姿だったーーーー
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