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6章 吸血鬼と魔法使い

64.198階層の守護者

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 前回の守護者の戦い、ゴブリンキングの戦いで現在地が195階層ということがわかり、そこからさらに2段上がった197階層で休憩をとり、今は198階層にまで到達していた。

 197階層でとった休憩というのも休憩とは言えないものだがないよりマシだ。
 そんなわけで魔物が徐々にエグくなってきている。

 「キエェェェエエ!!」

 俺とハクリの周りを無数の魔物が弾けるように動き、その姿は目視が難し
いほどに早い。
 ハクリ曰くここからが本番らしい。200年前のハクリもここ198階層の魔物と守護者に苦しめられ、なんとか192階層まで逃げ帰ったそうだ。

 つまりここを越えれば俺は200年前のハクリを超えたことになる。

 まあ実際魔物は尋常じゃないほど強いんだけどな。
 だって飛び回る姿見えないもん。姿は猿のくせに。

 シャッとその猿の1匹が飛び込んできた。あまりの速さに内心驚愕しながらも身を剃らせ猿の攻撃を避ける。
 ちなみにその猿は避けられた先の岩壁を粉砕していた。なんと恐ろしい。

 「キシャアアアア!!」

 その猿の特攻が合図だったかのように次々と群れをなしていた猿たちが飛びかかってくる。
 一体一体とんでもないスピードで避けるのにも一苦労だ。
 しかしこちらも受け身なだけではない。甘い攻撃があれば魔導で攻撃してノックアウト。これが主な戦術になりつつある。

 大規模な魔法でドカーンと行きたいところだがそんな暇さえ与えてくれないのがこの迷宮の魔物だ。

 そんな戦法で少しずつ数を減らしていくと、猿が痺れを切らしたのか攻撃がピタリと止んだ。

 「お?来ないのか?ほら来いよ臆病猿どもめ」

 俺の挑発がわかっているのかいないのか猿は威嚇するだけに留まる。
 てかなんで俺は猿に挑発送ってんだろ。
 まさかこれが本当の迷宮の魔物恐怖.....!!実は迷宮は変人にさせるための矯正施設でしたー!なるほど、水神様はこの施設出身なわけですね。
 となって欲しくないところである。

 「んじゃ俺から行くぞ猿ども........ん?」

 俺が鳴らない拳をポキポキしていると威嚇する猿の集団から他より一回り大きな猿が出てきた。
 その面はやけに自信満タンである。
 こいつがボス猿か。
 
 「キィッッキッキッキ!」

 ボス猿は俺を見ると不敵に笑い、手をクイクイさせて変なポーズを決める。
 いや違うな。あれは挑発か。

 猿ごときが俺を挑発しよって....。そんなんで動じると思うか?全く馬鹿なやつめ。

 「ウゼェんだよクソ猿ゥゥ!!雷撃!」

 乗ってしまったよチクショウ。猿の攻撃地味にストレス溜まるんすよ.....。

 だが消し去ったボス猿と他の猿で一件落着、ようやく次に進めるーーーと思った矢先であった。

 僅かな殺気を感じ、後ろを振り返ることなく大きく体を反らす。その瞬間空気が裂かれたようにボス猿の大爪が俺の髪先をちょん切った。
 
 「キィ!」

 ボス猿はしくじったとばかりに舌打ちし、華麗なバク転を決めると少し離れたところで止まった。
 俺の雷撃が猿に効かなかったらしい。

 ・・・てかハクリは何やってんだ?

 そう思いボス猿を警戒しながら振り向かずに側にいるはずのハクリに声をかける。

 「なぁ、どうしたんだ?」

 その問いかけは小魚がクジラに飲み込まれるように洞窟に消え飲まれる。
 返事が返ってこなかった。

 思わず俺は振り向き、ハクリの姿を確認しようとするもその姿は近くには見当たらない。
 あの猿ごときに殺られるのは考えにくいし音も残さず消えるなんてありえない。
 一体何が......

 「なっ!」

 再び殺気を感じ、ボス猿の方を見ると同時に肉塊・・が崩れ落ちる。
 ーーーボス猿は何者かによって一瞬で絶命させられていた。
 全身が傷だらけになり、腹には大穴が開いて吹き出した血と臓器が溢れ落ちて嘔吐感を誘い出す。
 しかしそんなことに感けている暇ではない。

 「魔導探査サーチ

 広がる塵のように広がった魔力は広がった範囲の情報をくまなく俺に伝える。
 言わばレーダーのようなものだ。便利だがその反面大量に魔力を消費するため、ハクリにも「これを使うのは時と場所を考えろ」と言われている。
 もう今が使うべきだと俺は感じたのだ。

 やがて魔力がどんどん洞窟に広がっていき、その詳細の情報が伝達されてくる。実際には情報量が多すぎて半分ほどしかわからないがそれでも十分だ。
 ・・・・しかし.....

 「何もいないなこりゃあ」

 俺の魔導探査が届く範囲、半径200mには少なくとも何もいない。
 ではハクリとボス猿が倒れたりいなくなったのは何なのだろうか。

 ・・・・何もいない?

 「違う。何もいないはずがない。ここは迷宮の中だぞ?200mで何もいないはずがない。
 とすればーーー」

 キィィィィィィイイイン

 その時、かすかな金切り音が聞こえたと同時に俺の魔導探査があるものを捉え、それを察知したと同時に俺は特大ハンマーで吹っ飛ばされたような打撃を受けた。
 腹部に強い衝撃を受け、魔装でカバーしているのにも関わらず肺の空気を毟り取られた。
 周囲の景色がとんでもない速度で過ぎていき、やがて爆弾が爆発したような音とともに止まる。

 一発で意識が刈り取られそうな打撃になんとか堪え、自分が岩壁に吹っ飛ばされていたことを知った。

 「・・・お主もやられたか」

 ふと、隣を見ると同じく壁に打ち付けられて壁にひびが入った横で立っているハクリがいた。
 あんまり傷付いては無さそうだ。
 正直俺はかなりしんどいが。

 「ここって......」

 「あの金切り音が聞こえたか?あれに運ばれてきた・・・・・・らしい」

 運ばれてきた?
 疑問に思い今の洞窟の全景を見ると、俺と同じように岩壁に叩きつけられ無残に粉々になった死体が幾つも有る。流石に全て魔物のものだが。

 「じゃあなんだ、あの見えない頭突きで運ばれてきたってことか?」

 俺がそう聞くとハクリは頷く。
 確かにあの音がしてから魔導探査で察知し、俺が攻撃されたのは一秒にも満たない。
 つまりーーー
 
 「音速並みの速さで移動する魔物か、それとも化け物か.....」

 「どちらにせよアレに反応できるのは世界でも少数じゃろうな」

 それも元七大列強のハクリが届かないレベル、のな。
 いよいよ恐ろしいレベルになってきた。
 それにしてもこの洞窟は広い。だだっ広すぎる。

 キィィィィィィイイイン

 その時、再び金切り音が聞こえた。
 俺とハクリがサッと身構え、攻撃に警戒する。

 が、起こったのは全くの予想外のことだった。

 何処からともなく金色の光がヒラリヒラリと舞い、眩しいほど輝く黄金の翼をめいいっぱい開く鳥が洞窟の空を飛び回る。
 鳳凰、もしくは不死鳥、などと勝手に称したくなるほど美しいその鳥に思わず見惚れていた。

 鳥はバサバサっと翼を大きくはためかせて少し高い岩場に陣取ると、本当に声を出しているかのように喋った。今まで通り、何故かアナウンスが流れる守護者などとは比べものにならないほど本当に声を出しているように見える。

 いや、実際喋っていた・・・・・

 【我は198階層のラグナロクの守護者、ジン。この階層を突破したければ我を倒すが良い。
 ーーーーよ、吸血鬼の王よ、そなたらの力、我に示すが.......】

 そこでふと黄金の鳥は口を閉じる。
 まるで無理やり閉じさせられたようにも見えたが。
 しかし途中で声が途切れたのは一体.....。

 鳥が口を閉じたことで洞窟内に静寂が訪れた。不気味なほどに静かであり、逆に嵐の前の静けさのようなことを思わせる。


 ーーーそして次に訪れたのは歪んだ・・・空間だった。
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