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4章 ラグナロクの大迷宮

47.巣窟

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重い体を引きずってようやく立ち上がるとアドルフが人差し指を口に当てていた。
「しっ。静かに」
よく耳を澄ますと確かに足音が聞こえる。1体だけじゃない。2体...いや、3体はいるだろう。

隠れながら空洞先の通路を見るアドルフに近づくと小声でアドルフは言った。
「俺が2体やる。お前は後の1体をやれ」
「了解です」

段々足音が大きくなり、やがて鉢合わせするんじゃないかーーと思うぐらい足音の主が近づいた時、アドルフが動いた。
一瞬で身を翻し、抜いていた剣を振るう。

さあ俺もーーと思ったところで気付いた。
ーーーー魔物を切り裂いた音が聞こえてない。普通なら魔物を切り裂いた音が聞こえるはずだ。.....あのアドルフの剣が当たってないのか。

「まずいな。この強さ、この容姿、間違いねえ」
アドルフに遅れ、俺も飛び出すと確かに見たことがない魔物がそこにはいた。
ファクトリア領付近の森で狩ったような弱い魔物ではないらしい。
狼のような魔物には狼頭が3つあり、ケロベロスと言ってもいい魔物だ。亀のような魔物には甲羅にトゲが付いており、某アクションゲームのト○ゾーと酷似していた。甲羅の色も赤色である。その狼が2体、亀が一体俺たちを警戒するように唸り声をあげていた。

「こいつらA級以上の魔物だ。気をつけろよ!」
「A級!?」
A級、というといつかの白蛇と同じレベル。あの強さが3体、か。これやばくないか。

「グゥゥルルルルル」
狼が唸り、アドルフに飛びかかる。
アドルフはそれを簡単そうに受け流し狼の頭の1つを切り落とした。
簡単にあしらわれた事が意外だったのか狼はすぐさま逃げかえりジリジリ後退していく。
さすがS級冒険者といったところだ。

「ギャウウオオオオ」
次は亀が唸り始めた。とてもあの図体で飛びかかってこられるとは思えないが。
なんて思っていたら急に亀の甲羅が赤く光りだした。
それに伴い亀の口も赤い光を帯びてくる。
まさか赤い液体をゲロゲロするんじゃなかろうな。

「魔法だ!」
アドルフがとっさに叫ぶ。
その瞬間、亀の口から火の玉が吐き出された。火の玉は勢いよく飛び出し、俺の足元に着弾ーーしようとしてその姿を消した。

「ギャウオオオウ?」

突然消えた火の玉に思わず頭を傾げる亀。
魔力が少ないと言うのに魔惑を使ってしまった。まあ死ぬよかマシだがキッツイなこれ。

「よし、十分だ」
アドルフの声がそう聞こえた瞬間、亀の頭が切り落とされた。亀の首から血が飛び散る。
相変わらずものすごい。
「グゥゥルルルルル!!!」
仲間を一体葬られたことに怒った狼が俺に飛びかかってくる。
早い。が見えないほどじゃない。俺も強くなってるんだろう。
"清剣流"で受け流し、そのままカウンターで一撃を加える。狼の頭が1つ落ちた。

「やるじゃねえか!」
「ま、まあこれぐらい」
「レイ、足震えてるわよ」
「.....それは言わないでシルク」

呆れた顔をしながらアドルフはさらに狼の頭を1つ切り落とした。
明らかに顔を2つ切り落とされた狼は狼狽えている。人間ってこんな強かったっけ?って顔だ。

「ふっ、あと2体か。こんな魔物久しぶりだしな!腕がなるぜ!!」
「キャッ、キャオウ?」

狼さん、南無。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー



どうやら転移した場所はアドルフによると推定20層ぐらいらしい。
大体20層を超えてくるあたりでA級の魔物が出てくるようだ。まあ15層ぐらい飛ばせたので良いんじゃないんだろうか。

「ま、そうも言ってられねえんだよな」

「え、15層ぐらい飛ばせてラッキーじゃないんですか?」

「いいか、迷宮には5層ごとに"守護者"ってのがいる。その守護者ってのはその5層で出てきた魔物をベースに作られるものだ」

「つまり.....?」

「つまり飛ばしてきた俺達にはどんな魔物がベースにされた守護者か分からないって事だ。予想外の攻撃とかざらにあるぞ」

普通は今までの魔物で対処法が練れるけど、体験していない俺達はぶっつけ本番になるってことか。
だがそんなにヤバそうなことじゃ無さそうだが。この層には狼と亀しか出てきてないしな。あれがミックスしても大したものにはならんだろう。

「取り敢えずこの層を制圧してさっさと次に行くぞ。完全攻略型は長く留まるほどジリ貧になる。食料もそう無いしな」

「なんかアドルフさん迷宮に入ると性格変わるんですね」

「.....それは褒めてんのか?」

「ええ。頼りになるリーダーって感じですし、何より強いですから」

「....なんかレイに褒められると気持ち悪いなあ。言っとくがお前も10歳でその強さは化け物だからな?なあシルク?」

「確かに私が10歳の時はせいぜい上級が使えたくらい。そこから火魔法だけ8年かけて極めて極級になったからレイなら全属性でもできるんじゃない?」

「.....あれ?シルクって何歳?」

「20よ」

「ウソッ!?」
その見た目で20!?大学生ってことか。いや、まじ高校生ぐらいにしか見えないんだが。

「よく言われるわ。20にもなってその格好はメルヘンチックすぎるぞって」

わかってんのかい。確かに20にもなって羽衣みたいな服は着ないよなあ。

「じゃあなんで着てるの?」

「.....落ち着くからよ」

あー、性格に反して中身は少女嗜好って感じですか。悪くない。ギャップってやつだな。

「に、似合ってないってレイが言うならやめるけど.....」

「え、別にやめなくていいよ。似合ってるって」

「そ、そう?」

「オイコラ、イチャつくのやめろ。そろそろ行くぞ」

アドルフよ....せっかくいい流れだったのに。

「多分次の空洞に守護者がいる。気を引き締めろよ」

確かにひしひし感じ取れていた。何か不気味な雰囲気が次の空洞へ続く通路から漂ってきていることに。

「んじゃ、行くか!」
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