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4章 ラグナロクの大迷宮

45.罠

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エーミールが消えた瞬間、一欠片の肉片が吹き飛んだ。
よく見るとーー足だった。
数秒遅れてドサリと音がする。左足を失ったルカクが倒れた音だった。

「片手片足のお主じゃあもう逃げることも出来ないのう。さあ、どうするのじゃ?」
ルカクを見下ろし、微笑を浮かべるエーミール。
わざと片手片足を斬ったのか。性格ホント悪いなあの爺さん。悪役のすることだろそれ。

「くっ...........ふっ、ハッハッハッハッハ!」
何かと思いきやいきなりルカクが笑い出した。物凄く気持ち悪いが、片手片足失えば誰だってそうなるか。いや笑いはしないな。

「何がおかしいのじゃ?」
片足でルカクの傷口を抉るように踏むエーミールが尋ねる。爺さんマジ怖い。

「何がって!?決まってるじゃないか!?今から起こることを想像しただけだよ!!」
ルカクはさぞ可笑しそうにヘラヘラ笑っている。
誰もがルカクの妄言だと思ったその時、エーミールが高速で1歩下がった。

「.......ほう。なかなか強者じゃのうお主」
エーミールの元いた場所には銀色に輝く剣が振り下ろされていた。

「.......えっ?」
いつの間にかルカクの後ろに人がいた。そのことに今まで誰も・・気付かなかったことが不思議なくらいに。

「ハッハッハ!何の用意もせずに俺がここに来ていると思ったか?残念ー!あと一息だったなあ!.......おい、取り敢えず俺を守れ」
散々興奮したように叫んだあと、ルカクが這い蹲りながら偉そうに命じた。
それに応じてルカクの後ろにいた、全身黒服で包まれた顔を見せない男が片手を上げる。
その瞬間、どこから湧き出たのか大量の黒服達が俺たちを囲んだ。

「この者達は?」
くぐもった声で黒服がルカクを治療しながら尋ねる。
「殺せ」
「了解しました」
黒服が片手を上げる。

その瞬間、囲むように立っていた黒服が俺達との間合いを詰めーーーようとして吹っ飛ばされた。

「仲間には手出しはさせんでよ。ワシはリーダーじゃからなあ」
エーミールは剣を鞘に収めながらそう言った。
格好よさすぎるぜあの爺さん。普段はアレだけどいざとなったら凄いな。普段はアレだけど。

「とは言えこのままじゃ、ちとまずい。お前さんらそこの薬箱からアドルフを治せる薬を探してくれんか?」
「あ、ああ」
エーミールの言葉で我を取り戻したようにフレッドは薬箱を弄り始めた。
てか俺倒れたまんまだけど放置っすか。魔力使いすぎて立てないんだけど.....?

「レイ、大丈夫?」
誰か助けてっー、と思っていたらシルクが膝立ち状態で俺を見下ろすのが見えた。
「ん、魔力使いすぎた。しばらく動けないかも。シルクは?」
「私もあと上級1つが限界。フウも私以上に疲弊してる。何か打開策がないと厳しいかもね」
ほら、とシルクは周囲を指差した。

「おいおい.....まじかよ....」
さっきエーミールが吹っ飛ばしたはずの黒服達が蘇っている。
向こうは復活する多数の黒服、こっちはエーミールと疲弊したメンバーだけ。精霊を呼び出そうにもいくらかの魔力がいるから魔力がほとんど無い今、呼び出すのは賭けになる。
本当にまずい。いくらエーミールが踏ん張ってもいつかはジリ貧だ。
何か....何か打開策は......。

「ねえ、この地面に何か書かれてない?」
唐突にシルクがそう切り出した。
言われてみれば地面に消えないチョークのような白い線が書かれている気がする。
円だ。半径10mはある円に見える。

「・・・・恐らく魔法陣。魔法陣中央に魔力を流し込めば発動する。・・・何が発動するかは賭けだけど・・・」
フウが疲れ果てて地面に横になりながら教えてくれた。

何かしらが発動する魔法陣。正直賭けなわけだがこの状況を打開するにはこれしか無いか。
だが見える限り魔法陣中央までは黒服達を突っ切って行かないといけない。いや、まず魔力がないから発動すること自体不可能、か。
せめて少しの魔力さえあれば......。

いや、待てよ。確か俺は魔力を回復する術を持っている。

「.......魔力結晶!」
しばらく取り出していなかった水晶玉をポケットから取り出す。
「....なんで貴重な魔力結晶を、と言いたいところだけど今は聞かないわ。それがあれば魔方陣を発動できるはず」

早速俺は魔力結晶を使おうとーーーして気付いた。
あれ?これどうやって使うんだ?
取り敢えず胸に当ててみるーーが何も起こらない。

「......何やってるの?」
「いやー使い方がわかんない」
「...呆れた。魔力を吸い取るように念じればいいだけよ」

念じるだけかよ!なんか、こう、神秘的な動作とか、いるかとねえ?
えーっと?魔力を吸い取るイメージ、吸い取る吸い取る......。

「おおっ!なんか魔力が回復した!」
「はい良かった。次はどうやってあれを突破するかだね」
なんか対応が雑だ。いやこんな状況だから間違ってはいないけれども。

魔力が回復したため、体を起き上がらせ"あれ"を見ると再びエーミールが粉砕していた。
まだ大丈夫そうだが落ちるのも時間の問題だ。

「これ以上エーミールさんに負担はかけられない。だれか突破できる人が他にーー」
「俺が行く」
突然背後から声がかかり、振り返ると目の下にクマができているアドルフだった。

「もう大丈夫なんですか!?」
「ああ。いつまでも休んではいられない。あれを突破するんだろう?その役目、俺に任せてくれ」
「いや、俺がやる。アドルフはまだ無理だ」
ストップをかけたのはフレッドだった。
確かに今まで大怪我を負っていた人に任せるのは危険だ。

「いや、君はどちらかというと1対1が得意だろう?俺は多人数相手が得意だ。だから俺がやる」
「.......どうしてもやるようだな。だったら2人でーー」
「いや、フレッドは敵の意識がこっちに向かないように陽動してくれ」
「.......わかったよ。だが、死ぬなよ?」
「フッ、雷剣と呼ばれた男の凄まじさ見せてやるよ」
フレッドとアドルフはお互いがっちり握手を交わした。なんてハリウッドなアメリカンなんだ。
なんて言ってる場合じゃない。

「じゃあ、行くぞ!」

そう掛け声を上げ、まずフレッドが飛び出した。大声を上げ、黒服に斬りかかる。
ルカクや黒服の意識がそちらへ向いた瞬間、すべての準備は整った。

「よし。今だ」
そう小さくつぶやき、アドルフは颯爽と飛び出した。
一瞬で3人を斬り伏せ、魔法陣の中央へ道を開ける。
俺は置いて行かれないよう全力で走った。

「.......やつら何をする気だ?」
やっとルカクらの意識がこっちに向いた時、俺たちはすでに魔法陣中央に到達していた。
あとは魔法陣に魔力を込めるだけ。

俺は魔法陣に手を置き、魔力を込める。
魔法陣中心部から光の波がどんどん広がっていく。

「.......ッ!!魔法陣かっ!まずい!魔力を込めさせるな!」
魔法陣に気付いたルカクが黒服に命令し、黒服達は俺の元へ駆け寄るーーーつもりが再び吹っ飛ばされる。

「邪魔するでない」

「くっそ!老ぼれジジイが!!」

そんな戦いを横目で見ながら、さらに魔力を込める。
どんどん光は広がっていき、やがて魔法陣全体を覆おうとしていた。

その時、急に体の力が抜けた。

まさかもう魔力が無くなったのか.....?
もう直ぐ発動できそうな時に......!

「手を離さないで!」

誰かが俺の手を握った。握りながら魔法陣に魔力が流れているのを感じる。

「シルク.....?」
「言ったでしょ。上級一発分は魔力残ってるって」

あーーなるほど。
そんな納得と共に、ついに魔法陣が全て輝いた。

地面に直径20mの大きな魔法陣が浮かび上がる。
誰もがその輝きに目を奪われていた。

隣で戦っていたアドルフがふと漏らす。

「これは.....転移の魔法陣.....」
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