異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし

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3章 王宮魔法使い

35.異変の理由

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王城に到着した俺を待っていたのは、宰相のベディヴィエールだった。
「来たか。こっちだ」
相変わらず愛想のない顔でスタコラサッサと歩き出すベディヴィエールは余裕が無さそうに見える。
「何がーー」
「事情は着いたら話す」
黙らされた。なんか苦手だこの人。

階段を上り通路を進みまた階段を上り、と複雑な王城を歩き進めること10分。
着いたのは煌びやかな部屋ーーではなく大きいながら質素な部屋だった。倉庫、といった感じだろうか。
その部屋にはすでに20人近くも集まっていて、見知った顔も何人かいる。

「王。これで全員でございます」
ざわめいていた部屋に静寂が訪れた。
「そうか。ではこれより緊急対策会議を行う!アストロズ!」
「ハッ!」
アストロズ、と呼ばれた男性が一歩出てきた。
「この度、皆様を招集させていただいたのはとある理由があります。それはーー」
「迷宮だろう?」
自信に満ち溢れた声。その人物を見ると俺も知っているやつだった。
「その通りですアドルフ殿。今回王宮魔法使いから騎士団、冒険者まで招集したのは迷宮が出現したからです。」
「ちょっと待て。ただの迷宮ごときで俺を呼んだのか?」
苛立ちを持った声を発したのは緑髪の長髪に黒眼、貴族風の服装をした男。
いちいち話を切らないでほしい。
ごとき・・・というのは話を全て聞いてからにしないかい?フレッドくん?」
「お前は....ヨハネの騎士か。雑魚が調子乗ると死ぬぞ?」
「フっ。死ぬのはどっちだろうね」
こんなとこで煽り合いかよ。
ヨハネの騎士、と言われたのは鎧に包まれて顔も見えないやつだ。
暑くないのだろうか。

「黙れ。」
その声で静寂が再び訪れる。
言ったのはーーー水神だ。変なやつなだけじゃないらしい。
「......説明を続けます。今回の迷宮はただの・・・迷宮ではありません。ーーーラグナロクの迷宮です」
「ラグナロクだと!?」
途端にざわめきが広がる。
ラグナロクって確かRPGとかによく出てくる世界の終焉的なやつだよな。それがなんなんだ?
「あのーラグナロクの迷宮とは?」
おずおずと手を挙げる金髪そばかすの少年。
俺も聞きたかったけど雰囲気的に聞けなかったことを......。ナイスだ少年!
「ラグナロクの迷宮、とは言わば"天災"です。存在するだけで周りに害を及ぼし、その危険性から発生直後に攻略する必要があります。」
迷宮が天災?なんかよく分からんがヤバイ方向に向かっていることだけはわかる。
「害の例として、魔物の大量発生や大規模な地揺れなどかあります」
なるほど。だからゴブリンがあんな多かったのか。

「だが不可解だ。なぜこんなに集める必要がある?」
背中に大剣、黒のコートを羽織るクール系の男が尋ねた。確かに迷宮攻略にしてはいささか人が多すぎる。
「それは今回現れた迷宮が一つじゃないから、だろ?」
ヨハネの騎士とやらが確信を持ったように言った。
「ああ。一つじゃない。」
アストロズの代わりにベディヴィエールが告げる。ざわざわとざわめきが広がった。
「2つ、か?」
探るように尋ねるフレッド。

その答えとして返したベディヴィエールの言葉はさらに場を震撼させた。

「ーーーー4つだ」


 
 ーーーーーーーーーーーーーーーー



王城の第3塔の最上階部分、そこにその部屋はあった。部屋全体に防音の魔法が施され、警備は厳重なものとなっている。
そこには9人の者たちが通されていた。

「で?誰がリーダーだ?」
試すように笑うその男はSランクの冒険者、雷剣のアドルフだ。
「ほっほ。若者よ。そう急ぐでないぞ」
それを嗜めるように笑ったのは脈紫騎士の騎士、エーミール。
「まずはそれぞれ自己紹介をするべきよ。お互いの安全のためにもね」
冷たく言い放つのは第1王宮魔法使い、シルクだった。
「あのー、とりあえず座りません?」
立っているのがしんどくなり呼びかける少年は第3王宮魔法使い、レイ・スペルガー。彼はフカフカのソファがすぐ側にあるのに座れない雰囲気に汗を滲ませていた。

全体が同意し、ソファに腰掛ける。
少年はソファの柔らかさに感嘆しながら前を見据えた。その目にはテーブルに置かれたクッキーが写っている。
「・・・食べれば?」
シルクが呆れたようにジト目でレイを見据える。
「すみません。クエストの途中で呼ばれたのでご飯食べてなくて」
少年はクッキーをがっつき始める。
その部屋にはもう最初のような雰囲気はなかった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

正式に迷宮攻略が発表され、次に話されたのは"チーム分け"だ。
なんでも4つの迷宮を4チームで同時に攻略していくらしい。だからあんなに人が居たという。ちなみに俺のチームはBチームだ。
それにしてもこのクッキー美味しいな。地球でも引けを取らないぞ?

「ごほんっ。とりあえず自己紹介といこうか。まず僕から。僕はファドルド族のルカク・ファドルド。よろしく」
そう言ったのはギザギザの赤色の短髪をした外見に見合わぬ丁寧な言葉遣いの青年。
ファドルド族というと確かアリア王国の北に住む民族だ。マサイ族的なものだと聞いた。今度ジャンプでも見せてもらおう。

「・・・・・・フウ。丹青魔法使い」
ボソッと呟くように言ったのは蒼髪ボブカットの少女。チョコンとしていて可愛らしい子だ。まあ今の俺より年は上だが。

「俺はS級冒険者のアドルフ・ミチシルド。隣の2人は俺の仲間の同じくS級。ミルフィーユとガーリスだ。」
あいつはギルドで会った残念なやつか。こんなとこで会うとはな。あとでシルク紹介して凍てつくされるといい。

「・・・俺はリーン傭兵団のフレッドだ。雑魚と慣れ合うつもりはない。邪魔にならない程度で勝手にやるといい」
誰だが知らんが、こういう奴はホラー映画では最初に死ぬと決まっている。ご愁傷様だ。

そしてあとは俺とシルクとエーミール。基本知っている顔が自己紹介をし、次はリーダー決めになった。

「んじゃあリーダーは俺だな!」
ふふん、と勝ちほこるアドルフ。こいつ何言ってんだ感が部屋に漂うと同時に負けじと手を挙げたのが1人。
「・・・んっ!」
無口な少女、フウだ。
全員が内心で「いや、無理だろ!?」と突っ込むのが聞こえた気がする。
「まぁまあ。というかリーダーはもう決まっておる。ワシじゃ。」
「はよ言えよ!」
テヘッとするエーミールに突っ込んだフレッドに目が集まる。

「あ、いやゴホンッ。続けろ」
まあさっきからイライラと俺たちのやり取りを聞いていたのは気づいていたが、そういうキャラでしたか。ホラー映画の下りは撤回しよう。

「まあそういうことでリーダーのエーミールじゃ。よろしくのぅ」
爺さんのくせにお茶けたエーミールの挨拶とともにBチームの迷宮攻略は幕を開けた。


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