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3章 王宮魔法使い

28.王女アルシア・エドワード・アリア

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「それでレイ君は確か第3王女付きだったっけ?」
イメルダさんが寮に向かう途中、尋ねた。
「はい。そうですが.....」
「気をつけたほうがいいよ。」
「え?何がですか?」
「第3王女のいい噂はあまり聞かなくてね。メイドを殴った、だとか新人魔法教師にお茶をぶっかけた、だとかね。」
う、うわあ。
「今までに何度も魔法教師が辞めてるからね。それも1週間も経たないうちに。」
うわあー。
「ま、頑張るんだね。」
新人をいじめる暴力系お姫様っぽいな。
まじかぁ.....

「その話はさておき、着いたよ。」
と言って目の前にあったのはこれまた立派な屋敷だった。
大きさでいうと小学校の校舎ぐらい。
「ここに住んでいるのは王宮魔法使いと専属魔法使い、メイドの2、30人ぐらいかな。」
「このでっかい屋敷に30人ですか!?」
「ああ。そんなものだよ。」
ファクトリア領の屋敷にはこれより小さかったのに騎士60人がいたからな。それでも部屋余ってたのに....。
やっぱり王都はんぱねぇ。

さらに立派だったのは外見だけでなく内面もだった。大理石を主にして作られた床に赤いふわふわのカーペットがひかれ、光を照らす魔導具で明るく照らされている。上にはシャンデリアも付いていた。超豪華だ。

「あ、そうそう。王城へ行く時は馬車乗り場の業者に頼めばいいから。さっきシルクが言ってた通り、40分もあれば着くよ」
ここ、魔法省は王城があるアルドレッド地区から一つ隣のアルーシア地区の1番街にある。
アルドレッドとアルーシアはアリア王国の初代国王王妃の名前で、この二つの地区に重要施設が集まっているらしい。
閑話休題。

ともあれ王女相手に遅刻なんてしてはまずそうだ。俺の場合、プラスαで暴力王女というのも付いているしな。
決して遅刻はしないようにしよう。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「はあっはあっはあっ。」
いきなり遅刻したああああ!!
まさか来た時に止まった馬車乗り場が客用で公務員は別のところだとは!

王城の階段を駆け上がる。目的の王女様の部屋は確か5階の一番左だったはず。
王城は某魔法映画のホグワーツ城の2倍ぐらいの感じだ。要塞というよりも外見重視みたいだな。

「はあはあっ。着いた....!」
なんとか5階に到着し、部屋前のドアにたどり着いた。1分前だ。
護衛の兵士に貰ったばかりの身分証を見せ、ドアをノックする。

「どうぞ」
「失礼します」
ドアノブを回し、ドアを開けた。
王女様の部屋、という割には意外とこじんまりとした部屋だった。それでもまあ大きいが。
部屋の中央に丸テーブルと椅子が3つ置いてある。そのうち二つは王女様とお付きの侍女で埋まっていた。
たぶん40ぐらいのベテランそうな女性が侍女で俺と同じぐらいの歳の金髪の子が王女様だろう。

「初めまして。今日からアルシア様に魔法学を教えさせていただく、レイ・スペルガーと申します」
テーブルの少し手前でしっかりとお辞儀をして挨拶する。
この国にはそんなに挨拶の形式は重要にされていない。大事なのは言葉だそうだ。失礼の無いように挨拶をすればそれでOKらしい。

「お顔をあげてください。」
言ったのは王女様だろうか。某珈琲店のネコおじいさんを頭に乗せた少女の声がする。声優になれそうだ。さすが異世界クオリティ。

「私は第3王女アルシア・エドワード・アリアと申します。丁寧なご挨拶をありがとうございます」
王女様は金髪をセミロングのような長さに揃え後ろでちょんと括ったような髪型で、碧眼をしており幼い年齢といえども将来美人になる面影が十分にあった。

ってあれ?王女様って暴力系お姫様じゃなかったっけ?普通にそれっぽい王女様だが。
今は猫をかぶっているだけか?

「レイ様は10歳ということで。その歳で王宮魔法使いとはすごいですね」
普通に世間話を振ってきた。今のところ荒れっぽい感じはしない。だが何か違和感を感じる。なんだろう?

「私もそのようになれればなとーーー熱っ!」
王女様がテーブルの上のコップを掴もうとして、掴み損ない、中の紅茶が俺のズボンへとかかった。

「あっつ!」
「あっ、申し訳ありませんっ!」
いきなりの熱湯に俺がジタバタすると王女様がハンカチを持って駆け寄り、かがみこんでズボンを拭き始めた。
てかそこ拭かれるとやばいんだが。
「あ、いや大丈夫ですよ」
「いや、でも!」
抗議するように頭をあげた王女様の頭が俺の顎にぶち当たる。
「ぶっっ!」
いきなりアッパーをくらった俺は椅子ごと後ろに倒れこんだ。
「も、申し訳ありませんっ!」

思いっきり倒れこんだ痛みに耐えながらも俺は王女様の性格がなんとなくわかった。
王女様は多分、暴力系じゃなくてドジっ子系だ。
ドジっ子属性なんて知らない今までの教師が勘違いしたんだろう。

「王女様っ!」
お付きの侍女がきつい口調でピシリと叱りつける。
「うぅ」
王女様はショボンと肩を落とし、立ち上がった俺に向き直った。
「ごめんなさい」
うるうるとした上目遣いで俺を見る。
俺はロリコンじゃないのでズッキューンとはいかなかったがなかなか破壊力が高い。
「全然大丈夫ですよ」
そういうとあからさまにホッとしたようだった。

「それにしてもアルシア様、いくらなんでも棒読みすぎです。もう少しお慣れください」
侍女の方が王女様に言う。それを俺の目の前で言ってはいけない気がするが。
しかしそうか。さっきの違和感は棒読みか。声に意識がいってわからなかった。
「だって上品に話さないとまた辞めちゃうと思って緊張しちゃって」
「いえいえ、今回は違いますよ。ねえレイ殿?」
いやいや、睨みながら言うのやめてくれません!?変なこと言ったら締め上げるぞオーラ出てますよ!?

「も、モチロンデストモー」
「ほんと!?よかった!」
王女様は心から嬉しそうに笑った。
侍女は、その言葉忘れんなよ?といった風に俺を見て笑っている。ゾゾゾと鳥肌がたった。この人だけは敵に回さないようにしよう。

「で、では早速授業の方をーーー」
「あ、ちょっと待ってください。もう一方ひとかたくる予定ですので」
「もう一方?」
「なんとーーーー」

コンコンッ

王女様が正体を告げようとしたところでノックがあった。
「どうぞ」
「失礼します」
その声は聞き覚えのある声だった。
先日、もう関わらないでおこうと思っていた人物の声。

「まさかーーーー」
ドアが開き、入ってきたのは銀髪に羽衣のような服をまとった少女。

「第1王宮魔法使いのシルク・パラディン、ただいま参上いたしました」
愛想のかけらもない淡々とした声。その声で彼女は俺を見つけ、こう言った。

「あら、雑魚の人」
「ええええええぇ!」
俺の印象それ!?

「あ、知り合いだったのですか!」
王女様が素っ頓狂な声を上げる。
「これは.....どういうことですか?」
「今日から2人とも私の教師ということです!」
王女様は自慢するように答える。
「えーっと?確かシルク様は第一王子の専属では.....?」
「それは私が説明するわ。第一王子様に留学の話が来て、私はお役御免された訳よ。そして第3王女の教師に選ばれた」
「クビということでーーー」
「断じてクビではないわ。そういうことで私は協力するつもりは無いけどよろしくね」
協力するつもり無いんだったら何をよろしくするんだ!?

「あれ?お二人は仲がいいんですか?」
「「よくないです」」
声が重なった。
「正直レイ様は邪魔で仕方がないですが王女様のお役に立てるようにこの身を捧げます。」
一言余計だよ!!
「僕は無愛想で失礼を常時働いてしまうシルク様を精一杯サポートするよう心がけます。」
「なっ!」
さすがに腹が立ったのでやり返した。

「まあ。お二人とも仲がいいんですね」
「「よくないです」」
「ふふふ。息ぴったりじゃないですか。ねえミーナ?」
侍女の方はミーナというらしい。
「それよりもアルシア様。今飲んだのはシルク様の紅茶ですよ」
「あっ.......」
こちらもドジっぷりを見事に発揮していた。
なかなかカオスな授業になりそうだ。



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