上 下
31 / 119
3章 王宮魔法使い

26.王様と宰相

しおりを挟む
「おぬしがファクトリアの天才児、レイ・スペルガーか。それにしてもあのガドの息子だとはな!やつも父親になったか!」
王は愉快そうに笑うと、俺を試すようにニヤリと笑う。

「それでウチの自慢の騎士はどうだったか?ま、天才児からすれば余裕だっただろうがの!」
カッカッカ、と乾いた笑いをする。
余裕どころか死にかけたんだがな。

「・・・レイ殿はおっしゃる通り天才児でございました。私では歯が立ちません」
エーミールのまさかの裏切り。

「はっはっはっ!また素晴らしい人材が来たものだな!」
今度は豪快に笑う王。
なんなんだこれは。

「・・・・ここにおりましたか。王よ。」

ぐちゃぐちゃになった応接室にひんやりとした冷徹な声が透きわたる。
ガヤガヤしていた会話はピタッと止まった。

「.....めんどくさい奴に見つかった。」
王はご自慢のひげをを触りながらポツリとこぼす。

「・・・これは、どういうことか。エーミール。」
「ハッ!本来王宮魔法使いとして呼ばれたはずのレイ・スペルガー殿を暗殺しようとし、王に止められた次第でございます。」
騎士団副騎士長のエーミールが順上に従うあたり、この声の主はものすごい権力者か。

俺がその姿を確認できないのは、動けないからである。
なぜか。後ろから首元に剣を突き立てられているからだ。

「ではこれはレイ・スペルガーか。王よ。これはどういうことか説明してもらいたく存じます。」
「拒否権はあるのかの?」
「否。」
即行で否定されたな。

「これはーーーその.....手違いだな。書記部の人間が間違えたらしい。はっはっは。そんなこともあるだろう?」
「重要人物の接待は王の最終決定で決まるもの。書記部が間違えるなどありえません。」
王の顔がだんだん引きつっていく。
あのーー王様?

「......ではあれだ!指令が何かが起こって捻じ曲げられたのだ!」
「誰にです?」
「それはそのぅ....刺客とか」
「そんなことはありえません。重要書類の運搬は第1騎士団が行っているため刺客に書き換えられるなど不可能です。」
「ぐっ.....!他にもーーーー」
「もう結構でございます。レイ・スペルガー。誠に申し訳ない。」
どんどん王としての品格が下がっている王は、やっちまった、って感じに顔面蒼白だ。

「エーミールももっと疑問を持つべきだ。上からの指示に従っているだけでは何も変わらない。もっと考えて動け。」
「はっ。申し訳ごさいません。」
エーミールはさっきからずっと膝をついて、よく見る騎士がするポーズをとっている。
よほどすごいやつなのか。

しかしまだ俺はその人物の顔を見ることができない。未だに剣を突きつけられているからだ。

「あのー。そろそろ剣をしまってくれませんか?」
「・・・いいだろう。」
後ろから剣の気配が消え、シャっという剣を鞘に収める音が聞こえる。

俺が振り返ると今まで冷徹な声でこの場を支配した男の姿が見えた。
青髪を七三に分け、その瞳も碧色だ。顔自体はしゅっとしており、確かにイケメンだがその顔には表情がない。身長は王と同じぐらいの180cmぐらいだった。
この世界で180cmは平均だというから大して珍しくもない。

「申し遅れた。私はアリア王国宰相を務めているベディヴィエール・ロスト・パラディンと申す。」
そう言うベディヴィエールの顔には少しの笑顔すらない。
宰相、というと国の超重要ポジションだ。王に次ぐ2番目の権力者、だったけな?

「先ほどはすまなかった。このお詫びは後日しよう。」
お詫びだなんて、そんな
「ありがたく頂戴いたします。」

「わかった。では王。城にお帰り下さい。まだまだ書類が残っています。レヴィアタン。」
「はい。ここに。」
ドアから新たな人物が出てきた。30ぐらいの女性だろうか。
宰相と同じ、青色の髪で、右目が髪で隠れている。後髪は腰まであり髪先はうねるように回っている。
瞳は見たこともない白色で大人の美女といった感じだ。

「レイ・スペルガーを魔法省まで連れて行け。」
「了解しました。」

彼女は右手でビシッと敬礼し、俺に視線をやる。
目があうとニコッと笑ってきた。
10歳のガキに色目を使うなどとなんてやつだ。動揺なんかしていない。

「レイ君。こっちへいらっしゃい。」
.......!
色目ではなく微笑ましく子供を見る大人の目だっただと!
なんてできるやつだ。ショックなんか受けてない。

俺は彼女に引率され、来た時よりも一層豪華な馬車に乗らされた。

ガタガタガタと細かく振動する馬車の中、彼女は困ったように笑って言う。
「宰相様は無愛想で無表情だけど芯はいい人なのよ。悪く思わないでね。」

こくっと頷く。
確かに悪い人ではなさそうだった。

「あっ、自己紹介がまだだったわね。私はレヴィアタン・デアモル。こう見えてもなかなか強いのよ。一応丹赤騎士だからね」

「丹赤騎士?」

「あ、騎士のランク分けのことよ。首飾りの色がそれを示してあってね、弱い方から黒白黄赤青紫の6つに、その色でも上位の"丹"と下位の"脈"に分かれるのよ」

合計12のランク付けということか。
日本でいう軍曹とか大佐とかそんな感じのやつだろう。
そして彼女は丹赤だから上からの5番目のランクか。
微妙だな。

「ちなみにさっきのエーミールさんは脈紫騎士。」
2番目.....さすがに強いはずだ。

「魔法使いの階級も同じ仕組みだから、覚えるといいわ。」
「なんで初中上超とかのランクと別々になっているんですか?」
それが最も気になる点。
強さ順なら別に分ける必要もない。

「騎士と魔法使いの階級には"権力"もあるのよ。」
「権力?」
「ええ。紫に近づけば近づくほど権力が強くなるわ。全世界共通だしね。確か赤が男爵、青は子爵程度の権力、紫は伯爵ぐらいの権力を持つわ。」
騎士が貴族と同レベルの権力を持てるのか。
一番低い男爵といえども貴族だ。彼女は貴族級の権力を持っていることになる。
なんか偉い人に見えてきた。


後から聞いた話だが、脈黒騎士が初級の剣士しろうとレベル、丹赤騎士が超級レベル、丹紫騎士が極級レベルらしい。
そりゃエーミールが見えないわけだ。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

転生したので、とりあえず最強を目指してみることにしました。

和麻
ファンタジー
俺はある日、村を故郷を喪った。 家族を喪った。 もう二度と、大切なものを失わないためにも俺は、強くなることを決意する。 そのためには、努力を惜しまない! まあ、面倒なことになりたくないから影の薄いモブでいたいけど。 なにげに最強キャラを目指そうぜ! 地球で生きていた頃の知識と、転生するときに神様から貰ったチートを生かし、最強を目指します。 主人公は、騎士団に入ったり、学園に入学したり、冒険者になったりします。 とにかく、気の向くままに、いきあたりばったりに書いてるので不定期更新です。 最初シリアスだったのにギャグ要素が濃くなって来ました。 というか登場人物たちが暴走しすぎて迷走中です、、、。 もはや、どうなっていくのか作者にも想像がつかない。 1月25日改稿しました!多少表現が追加されていますが、読まなくても問題ありません。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...