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3章 王宮魔法使い

25.予期せぬ出来事

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「悪いのう。なんだかわからんがお主を殺さんといけないらしい。悪く思うな。」
「なっ....!」
殺気を撒き散らし、エーミールが剣を抜いた。
予期せぬことだった。
なんでこうなったのかは知らんが話し合いで片がつくものではなさそうだ。

「マーブル!」
「わかった!まかせて!」
さすがに多勢に無勢はきつい。
やる気満々のマーブルを呼び出すと、腰に携えた剣を抜く。
この狭い部屋では魔法を使ってたら自爆しかねない。

「ほう。精霊か!それもなかなかの.....。ふっ。面白いのぅ」
全然面白くねぇよ!

「ふむ。では一戦交えてみるか。」
エーミールが剣を構える、と同時にエーミールの足元に粘着性の液体を発生させた。
粘着玉スライムボール。先手必勝だ!

「むっ?」
足を取られたことに意識を向けたエーミール。
その隙をついて"投石岩"を放った。
老人だろうが容赦はしない。殺しはしないが気絶させる。

俺は振り向くと、黒いマントの男と対峙したーーーー

「土壁!」

ガァァン、と低い音が鳴り響く。
土壁を使ったのはマーブルだった。

「ほっほ。この程度でわしが片付くとでも?舐められたものじゃな。」
傷ついた様子を一切見せないエーミールはニヤリと笑った。

「清剣流かよ。」
エーミールの構えはまさしく清剣流の基本の構え、"流源の型"であった。
そしておそらく超級クラス以上ーーー

「わしに注目してくれるのはいいが、後ろのやつは黙っていないぞ?」
「.....っ!」
振り向きざまに黒い影が視界の端に映った。

そこからはあっという間であった。

振り下ろされた剣を清剣流"上段流しの技"で下に受け流すと、すぐさま横に払うような剣技が飛んでくる。
それを"剣腹の流"で滑らしながら上に受け流す。

2度の剣技を受け流された黒服の男はバランスを崩し、俺は無防備な黒服の男の腹に勢いよく蹴り込んだ。
何年も訓練している間に身についた剣術である。

「ぐっ....」

黒服の男は曲芸師のようにバク転しながら後ろに下がった。
意外と戦えるものだ。
てかガドより弱い。これならいける。

氷柱つらら

室内なので比較的小さな、しかし魔力は十分に込める。

「ふんっ!」

黒服は力任せにそれを剣でかち割る。
それを俺は待っていた。得意の流れだ。

衝撃電流インパルス!」

水を通すことでより威力の強まった電気の流れが黒服の体を駆け巡る。

「ぐああぁっ!」

電流の痺れで黒服は倒れこむと、俺を悔しそうに睨んだ。
その顔は黒髪茶目と、この世界では珍しい顔立ちをしている。だが転生者ということもないだろう。

「ハウル様!」
黒服とともにいた騎士が心配し駆け寄っていく。
黒服の名前はハウルというようだ。前世は金髪イケメンに生まれて城でも動かしてたんだろう。

騎士が倒した俺を差し置いて黒服に行くところ、かなりの上流身分か慕われているかのどちらかか、あるいは騎士が間抜けなだけか。
どちらにせよ、こんなビッグチャンス逃すはずもない。

「投石岩」

ゴンゴンッ、と野球ボールサイズの岩が騎士たちの頭に直撃し、気絶した。チョロい。

さあ後はエーミールだけだ。
俺はマーブルが足止めをしているであろうエーミールを振り返る。

「———え?」

「なかなかしぶといなー。もう。」
「ほっほっほ。まだまだ現役じゃわい。」

なんか楽しそうなおじ孫の会話のようだが、やっていることはすごい。
マーブルが氷のつぶてを周囲に漂わせ、攻撃するが、エーミールはそれを一本の剣のみではじき返している。
キンキンッ
っと剣とつぶてが当たる音が部屋に響く。

なんだかとてもシュールだ。
猫が氷を飛ばし、老人が目にも留まらぬ速さで手を動かし弾き飛ばす。
そして老人の足元にはべったりとした液体。
これが美少女とかだったら華がでたんだろうなー。

「レイ何してんのさ!早く手伝ってよ!」
おっと。遠い目をしている時ではなかった。

「むむ。ハウルもやられたか。ここらが潮時かの?」
眉間にしわを寄せたエーミールがボソッとつぶやく。
逃げるつもりか?

だが、エーミールが動いたのは後ろではなく前だった。
粘り液体で動かせないはずの足を踏み出す。一歩目を踏み込んだ。

「ほっ!」

わずか一瞬。
エーミールが消えた。

「うっ!」
次に見えたのは氷のつぶてを大量に出していたはずのマーブルが剣の柄で弾き飛ばされるところだった。

「は?」
ドチャっとマーブルが地面に叩きつけられる。
そしてエーミールはというと二歩目を踏み込もうとしていた。

やばいーーー考える間もなくそう判断した俺の頭がとったのはエーミールの足元に砂を作り出すことだった。

「ふっ!」

エーミールは不安定になった足場にも動じることなく、二歩目を踏みこむ。

圧倒的スピードで飛び込んでくる凄腕の剣士。
周りの時間がスローになる。頭では何かを考えることはできるが体が動かない。
剣を振りかぶり、俺を殺そうとするエーミールをただ眺めることしかできなかった。

あ、これ死んだーーーーーーー


「待てええええええええいいいい!」

ピタッ、とエーミールの剣先が俺の頭スレスレで止まる。

「はっ?.....えっ?......はっ?」
もう死ぬもんだと思ってた矢先、口から出てくるのは困惑の声。

「ハァハァッ!間に合った!エーミール、剣をしまえ!」
「.........はっ。」

急いでここに駆けてきたのは30歳ぐらいの金髪碧眼で顎に茶髭をたくわえたハリウッドスターみたいな男だ。

「ど、どういうことです?」
「すまないな。こちらの手違いだった!誠に申し訳ない!」
突如現れて息を切らしながら深々と頭をさげるハリウッドスター。
いや、誰だよこいつ。

「こちらは.........アリア王国14代国王、ディッセルバーン・エドワード・アリア様じゃ。」
エーミールが俺の心中を察したように紹介をしてくれた。
って
「国王!?」

「ああ。いかにも。」
笑って俺に手を差し出す国王。

「なんでええええ!?」
礼儀もへったくれもない驚きと疑問の混じった声がつい出てしまう。

「こちらの手違いで王宮魔法使いともあろう方を殺してしまうかもしれなかったからな。」
再び国王はにっこり笑った。





 
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