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2章 魔法使いと戦争

12.召集令状

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 水超級魔法使いイメルダがウルスア領を旅立った同時刻。
 ある男がウルスア領を目指し急ぎ足で進んでいた。

 その男の手には1つの令状。
 それは戦地への"招待状"であった。


           ーーーーーーーーーー


 イメルダさんが旅立った3日後、いきなり領主からファクトリア家に従える全員に招集がかかった。
 なんかとても大切なお知らせらしい。
 みんな大慌てだ。

 俺ともども数百人は入れる広間に通されると、人々は口々になぜ呼ばれたのか話し合っていた。
 顔色はみなよくない。
 そして領主が告げた言葉はおおよその人が予想していた言葉だった。

 「王国から徴兵が来た。騎士50人を出兵に命じる、との事だ」

 ざわざわ、と動揺が走る。
 誰しも戦争になんて行きたくない。
 それは騎士とて同じだ。
 俺も勘違いしていたが、ウルスア領にいる騎士は単なる戦場好きではない。
 何よりも守りたい人を守るために騎士をやっているのだ。

 「私は誰に行け、などとは言わない。希望する者だけ言って欲しい。足りなかった場合は私が罰を受ける」

 領主の言葉にまたざわめきが広がった。

 「もし、徴兵に応じた場合、もうここには帰ってこれない可能性が高い。だから各々よく考えて決断して欲しい」

 どうやら領主は....いや領主様は素晴らしいお方であったようだ。
 広間にいる人々はみなその寛大さに涙を流していた。

 「俺は行くぜ!!」

 と1人の騎士団員が叫んだ。
 いかにも喧嘩っ早そうなやつだ。

 「俺たちは領主様に恩がある!もし俺たちが行かずに領主様が罰を受けるぐらいなら俺は行くぜ!」

 なんという美談だろうか。
 そのお陰か、彼の言葉の後に騎士団員はそれぞれ声を上げ始めた。

 ちなみに俺はもちろん行かない。
 まだ子供だし行かせようとするやつもいないだろう。

 「待て!」

 いきなりガドの大きな声が広間に響き渡った。

 「我々騎士団員が全員行っては、ここを守るものがいなくなる。誰か残るものも必要だ」

 ウルスア領に総勢60人いるの騎士団も、50人行けば残り10人。
 この人数でこの広い領地を守るには少し無理がある。
 だが....

 「僕もこの領地を守ります」

 ここぞとばかりに戦争には行かないアピールと同時に働くことも示しておいた。
 これで責められることもなかろう。

 「おぉ!子供とはいえ超級魔法使いに守ってもらえるんだったら百人力だ!これでその問題も大丈夫だな!」

 と騎士団の1人。ちょろい。
 周りの人々と胸を撫で下ろす。
 いつの間にそんなに信用される存在になっていんだ。

 「分かった。誰が徴兵に応じるか後でまとめよう」

 とガドが締め、一応会議的なものは終わった。
 そういえばガドは行くんだろうか。


             ーーーーーーーーーーー


 「という事があったんですが何かご存知ですか?」

 俺は城の魔法室で水魔法をぶっ放しながらエミリアに尋ねた。

「いいえ、何も聞いてないですよ?」

 やはり、か。

 「レイは行くんですか?」

 エミリアが同じく水魔法をぶちかましながら聞いてきた。彼女も立派な魔法使いだ。初球の。
 
 「いいえ、僕は行きません。ただし守備隊としてこの城を守ることになっています」
 「それならホッとしますね。レイが行ってしまったら毎日の張り合いがなくなっちゃいますから....」

 おっとそんなこと言われたら嬉しいじゃないですか。
 てかあれ?

 「前までは僕のこと君づけで呼んでませんでした?」
 「べ、別にいいですよね?もう結構経ちますから」

 少し顔を逸らして言うその姿はとても可愛らしい。
 まさに役得ポジションである。

 「そんな事より!ガドさんとは何も話さなくていいんですか?恐らく行ってしまうんでしょう?」
 
 キッ、と顔を上げて話をすり替えられた。

 「はい、まだ詳しくは聞いてないですが恐らくは行くでしょう」

 だが正直ガドとは気まずい。
 もうすぐで一年になるとはいえ、赤の他人って言ってしまえばそれで終わりだ。
 未だにちょっと距離感がいまいち掴めない。

 「ちゃんと話した方がいいですよ。何かが起こってからじゃ遅いんですから」
 「じゃあ今日明日の夜あたりにでも話してみます」

 気が乗らないが、いつかは話さなければならないんだ。
 なら早い方がいい。

 「それで、なんですけど。今から私の部屋に来ませんか?渡したいものがあるんです」

 えっ?
 本当に!?

 「もちろん行きます!!」
 「えっ。うん。じゃあ行きましょう」

 俺の食いつきに驚きながらもエミリアは嫌そうな顔はしていなかった。

              ーーーーーーーーーー

 初めて入るエミリアの部屋は想像通り、女の子感がすごかった。
 ピンク色のカーテン。無数にあるぬいぐるみ。
 明るい色と可愛いものを基調としたカラフルな色合いがいかにもそれっぽい。
 そして可愛い女の子と2人きり。
 最高のシチュエーションだ。
 もちろん手を出せばクビが飛ぶので何もしない。

 「あんまりジロジロ見ないでくださいね?」
 「あ、すみません」

 怒られた。
 しかし中身は21歳の大の男が12歳の少女の部屋でドキドキするなど。
 俺は断じてロリコンでは無いはずだ。
 8歳の体が影響しているのか?
 そういうことにしておこう。

 「それで渡したいものは、これです!」

 といって手渡されたのは腕時計...というよりドーナツ状のリングだった。

 「これは?」
 「これは魔導具マジックツールの1つ、『伝達の腕輪』です。これを付けてると、もう片方の人の場所と生存状況がわかようになっているんです」
 「もう片方?あと1つは誰が付けてるんですか?」
 「................私です」

 それぐらい察してよ、というジトっとした目線を感じる。

 「あ、ありがとうございます」
 「.....うん!これがあると何があっても心配せずにすみますね
 ....それに、お揃いだし」

 「え?最後なんて言いました?」
 「なんにもないですよ」

 気のせいだったかな。
 贈り物に感動していたら聞きそびれてしまった。

 「では僕は屋敷に戻ります。
 このブレスレット、ありがとうございました。大切にしますね」
「ふふ、大切にしてくださいね」

 少し上機嫌な彼女の声。
 俺も上機嫌だ。

 しかし今からはガドとの話だ。
 落差が激しい。
 頑張ろう。
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