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1章 領主ファクトリア家
9.新人魔法使いの魔法講座
しおりを挟む翌日。
エミリアとルシアとの2回目の対面だ。
「エミリア様とルシア様に魔法をお教えいたしますレイ・スペルガーと申します。よろしくお願いします」
丁寧に自己紹介をする。
なんたって領主の子供。舐めた態度を取ると即座に首が飛ぶかもしれんからな。
物理的に。
簡単に考えていたが実は戦々恐々である。
「長女のエミリア・ファクトリアです。教わる立場ですけれども、この家でわからないことがあれば何でも言ってくださいね」
なんか俺よりしっかりしている気が....
12歳って確か小6だよね?
とてもそうは見えない。
「長男のルシア・ファクトリアです!
7歳です!
魔法使えれるように頑張ります!」
うん。まぁこっちは年相応だった。
これが普通だよ。
いやガドも俺に対して同じことを思ってるかもしれないが。
「では時間もないので早速授業に行きたいと思います」
今日は1時間しかない。貴族様は忙しいのだ。
ぱっぱと行かねばな。
『マーブル。出番だよ』
『りょうか~い!』
心でマーブルはそう言うと、スポポポーンという効果音とともに目の前に現れた。
全裸になってそうな効果音はもう少しマシなものはないのかと疑うレベルだが、エミリアとルシアは突然現れた猫に興味深々だった。
まあ、元々全裸だから関係ないか。
「やぁ!こんにちはお嬢さん方。僕の名前はマー...」
ぶにゅ。
何かと思えばエミリアが突然マーブルを抱きしめていた。
な、なんと羨ま....じゃなくて微笑ましい光景なんだ。
「か、かわいい~!!!」
猫を頬にスリスリしながらエミリアは高揚した顔で悶えていた。
大人っぽいお嬢さんも子供みたいな一面あるようだ。
『痛い!レイ!おいレイ!ちょっと早く離すように言ってよ!!』
『へ?こんな可愛い子に抱きつかれて何が不満なんだ?』
『ちょっ!やめて!早く止めて!』
ちっ。仕方ないな。
贅沢なんだぞ全く。
「エミリア様。マーブルが痛がっているので離してもらってやれないでしょうか?」
「あっ。申し訳ありません。」
エミリアは少し顔を赤くしながら残念そうにマーブルを下ろした。
マーブルはやれやれと首を振る。どうやら今のがどんなにご褒美だったかをわかっていないようだ。
「こちらは僕の精霊、マーブルです。今から魔力量と適正属性を測らせてもらいますね」
「その子精霊だったのね。可愛いのも納得だわ」
精霊だと可愛いのかは知らないが、精霊が禁忌とかではない事は既に確認済みだ。
選ばれし者しか契約できない事も。
言ったらガドもチャラ領主も驚いてたな。
スカッとしたぜ。
ちなみに選ばれし者は世界中にごまんと居るらしい。
割とガバガバである。
『んじゃ、マーブルよろしく』
『オッケー!』
マーブルは空中浮遊すると手を前に差し出した。前に見たやつだ。
「うーーーーー」
そんなマーブルをエミリアが目を星のように輝かせながら見ている。
まるでアイドルを見ているかのように。
そんな目をしてもマーブルはやらないぞ。
代わりに俺はどうだい?
だめですか。
『.....レイ』
『なんだ?早く言ってあげなよ』
『あのさ、エミリアは正常なんだけどルシアがね.....』
やけにマーブルは口澱んでいた。
割とズバズバモノを言う性格だと思っていたが。
なにかあったのか?
『魔力がないんだ』
『ない?そんなことあるのか?』
『うん。普通の人間は少なからずもあるはずなんだけどルシアは0なんだ。こんな事初めてだよ....』
『それで魔法は使えるのか...?』
『もちろん使えないよ。0なんだから。
だからルシアに魔法を教えるのは不可能だよ』
まじかよ。
なんて言えばいいんだ?
目を燃やすやる気満々の子供に現実を見せるのが俺の初仕事とは。とほほ。
ていうかその前に静まっているこの空間をどうにかせねば。
「えーっと、エミリア様はですね。魔力量は上級程度。属性は光、ですね」
ちなみに俺の魔力量は極級程度らしい。
マーブルが言うには莫大な保有量らしいが、比較対象がないのでよくわからない。
「それでそのルシア様はですね....
魔力量が0とのことです」
「ゼロ?そんなことあり得るんですか?」
0、という数字を聞いてエミリアが目を見開いた。
「はい。精霊によるとこんな人は初めてだ、と。」
「そんな.....」
弟の不運にエミリアが苦悶の表情を浮かべた。
ルシアは驚いて動けないでいる様子だ。
心が痛い。
「ですから、ルシア様は魔法が使えないようです」
「そう....なんだ」
ルシアはそう呟くと顔を俯かせた。
場には通夜のような空気が流れている。
「どうにか出来ないの?例えば私の魔力を分けてあげるとか」
心優しいエミリアの問いにもマーブルは横に顔を振った。
『できないよ。
分けられたとしても他人の魔力を取り込んだら死んじゃうよ。残念だけどルシア君は魔法を諦めた方がいい』
そのままを伝える。
時として現実は残酷だが、嘘をついても意味はない。
ルシアは泣き出すかと思いきや絞り出すような声でつぶやいた。
「....わかりました」
ゴーン ゴーン ゴーン
そんな重い空気の中、重い鐘の声が響いてきた。
授業の終了を知らせる鐘だ。
正直助かった。こんな状況で何を言えばいいかも何をすればいいかもわからなかったからな。
しかし明日から一体どうなるのだろうか。
ーーーーーーーーーーーー
昨日、あれだけ心配したがエミリアは今日も元気で魔法講座に来た。
ルシアは魔法から剣へと気持ちを切り替えたようだ。
流石あの領主の子供である。
俺もクビにされなくてホッとする。
「では早速開始します。
まずは光の初級魔法、『光球』からです。僕に続けて詠唱してください」
俺はカッコつけてバッッ、と手を広げる。
「大いなる光の精霊よ!光輝なる光の力を今ここに!『光球』!」
と無駄にハキハキと、カッコつけて詠唱してみた。
俺の目の前には周囲を照らす光る球が出来ている。
名前の通り、光る球が出るだけの魔法だ。
目潰しぐらいにはなるかもしれないが、まあ日常用の魔法だな。
「お、大いなる光の精霊よ!光輝なる光の力を今ここに!『光球』!」
俺を真似してエミリアも手を広げて詠唱している。
正直手を広げる意味は全くない、
だが声も姿も非常に可愛い。見た目も大事なのだ。
まあ肝心の魔法は影も形も出なかった。
「な、何も出ませんが?」
「最初はそんなものです。やってるうちに出るようになります。さぁもう一度!今度はもっと可愛い声で!」
「か、可愛い声で...?」
「失礼。間違えました」
そんなこんなで俺とエミリア、ちょっとマーブルの魔法講座は進んでいくのだった。
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