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3巻

3-3

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 というわけで俺と、ついでにフローラは森の奥地へ調査にやってきた。ラウラを呼ぼうかとも考えたが、覇気が凄まじいので、森のエルフを刺激しかねないと判断し、断念した。
 結果として魔力の制御に通じ、隠密行動に適した(と言えば聞こえはいいが単に地味な)俺と、案内役のフローラというメンバーに落ち着いたわけだ。

「森のエルフの居場所に心当たりはあるのか?」
「ないのじゃ。あればすでにその辺りに結界でも張って、被害を抑えようとするはずじゃろう?」

 もっともだ。だが、伝承によれば大森林の西奥地にある古代遺跡に手がかりがあるという。
 魔物に気付かれぬように魔力を絞りながら高速移動し、途中で巨狼の魔物を従えるなんてことをしつつも、ついに遺跡に辿り着いた。

「ご苦労なのじゃ」
「ク、クウウン」

 魔物は去っていった。それにしても、魔物は完全にフローラに怯えていた。
 従えたのはフローラだったのだが、確か『洗脳せんのう秘孔ひこう』とやらを刺激していた。それによって恐怖を植え付けられたということなのだろう。恐ろしや、エルフ族。
 それはともあれ、遺跡はやたら壮大で冒険にうってつけな――わけではなく、こぢんまりとした感じだ。

「ふむ、見た目はただの寂れた遺跡じゃのう」

 柱は折れ、壁には穴が開き、入り口は崩れ、浸水している。植物の根やくきが浸食したのが原因だろう。慎重に歩を進め、壁に開く巨大な穴から内部に入ると、一部欠損した壁画があった。

「これは……人間か? そしてもう一人はエルフ?」

 人間と、耳のとがった人間が、簡単な線で描かれていた。

「こちらにもあるのじゃ。一人の人間と……これが恐らく森のエルフじゃろう。横には古代文字で……『光を通じて』? 意味不明じゃ」

 フローラが指した場所を見ると、手をかざす一人の人間と、それを受ける毛むくじゃらの怪物の姿が描かれている。何を表しているんだろうか。
 他に手がかりがないか探してみたが、特に何もなかった。

「完全に、手詰まりだな」
「そうじゃな。この遺跡から得られた情報は、遺跡が『森のエルフ』と関連していたことだけじゃ」

 付近を探索してみてもいいが、なんせ大森林は広すぎる。ここまで見つからないなら、見つけない方が良い気もしてきたが……

「一旦休憩せぬか? 足がくたびれてしまったのじゃ」
「くたびれたのは巨狼だと思うけど」
「洗脳の秘孔!」
「ア、アブナッ!」

 いつか寝てる隙に洗脳されそうで非常に心配だ。ともかく、遺跡内の穴に水がたまり、良い感じの足湯スポットになっていたので水を殺菌した上で温める。遺跡温泉。うむ、繁盛はんじょうしそうだ。
 二人揃って足湯に足をひたして、思わず目をつむる。
 虫の声、風の揺らぎ、木々の擦れる音、そしてじんわりとあたたかなお湯が、徐々に心と体をほぐしていく。まさか遺跡での足湯がこんなに良いものだとは。少し場違いな気がしなくもないが。

「ふふ、温泉はとても素敵じゃな。里の外に出なければわからぬことも多いと、最近は特に実感するのう」
「そういやエルフ族は、風呂に入らないのか?」
「無論入る。しかし、少し形状が違うのじゃ。それに、こんなふうに素足をさらけ出すこともない」
「それは初耳だな」
「うむ。エルフ族は足元を隠すのじゃ。自然とともに生きるエルフ族にとって、大地と繋がる足は神聖なのじゃよ」

 フローラの話に思わず感心する。先ほど彼女は「里の外に出なければわからないことも多い」と言ったが、俺だってそうだ。ローデシナに来ていなければ、俺はエルフ族のことなんて知らずに生きていただろう。偶然が世界を広げてくれるのかもしれない。

「ん? でも家では結構裸足はだしじゃないか?」
「その方が楽なのじゃ」
「神聖さはどうした」
「冗談じゃ。エルフ族は女同士で親密になると『裸足の付き合い』という関係になるのじゃよ。お主らは『パジャマパーティー』と言うんじゃったか?」
「……ということは」
「くふふ、無論、お主抜きで女子会を何度も開いておるぞ?」

 ……もちろん俺が場違いなことはわかってる。だがなんなのだろう。この疎外感そがいかんは。対抗して俺も男子会を開くしかない。バストンとクラウスと……ただのいつもの飲み会である。
 会話が途切れ、ちゃぷちゃぷという心地よい水音だけが響く。
 ふと足元を見ると、二人の足の差に驚く。フローラの足はしなやかで柔らかく、脚線美って感じだ。俺とは月とスッポン、金のべ棒とその辺の木の棒ぐらいには違う。

「そういえば、今裸足なのは大丈夫なのか?」

 まさかフローラにタブーを犯させたりはしていないだろうか。もしもの時は、俺のでん宝刀ほうとう、全力土下座が火をくぜ。

「……それを私に言わせるのか?」

 予想とは違った言葉が返ってきた。
 あ、あれ? 急にフローラが近くに感じられる……いや、精神的にじゃなく物理的に近付いてきているのか。
 気付けば、お互いの鼓動が聞こえてきそうなほど近い。彼女は下からこちらを覗き込んでくる。
 ふと、お互いの足がぴとりと触れる。
 フローラの吐息が頬に当たった――まさにその時だった。
 ズウゥゥゥゥウウンと地響きが遺跡を揺らす。
 そして、多量の魔力が放射されているのを感じる。
 ……なんて、冷静に分析している場合ではなさそうだ。ガラガラと遺跡が崩れ始める。

「ま、まずい、脱出するぞ」

 フローラの手を引き、遺跡から抜け出した。
 その直後、遺跡は崩壊した。貴重な資料が台無しだ。
 だがそれよりも、大森林の一部が燃え盛っていることの方が大問題だろう。

「偶然というのは、往々おうおうにして卑怯ひきょうじゃのう……」

 黒狼の戯れが先に森のエルフを見つけてしまったって感じか?
 急いで現地へ向かう。さいわい、休んだおかげで足は軽い。
 辿り着いたのは、木々がなぎ倒されている、爆心地のような場所。現場に到着するまでに三回ほど爆発が起きていたが、それによって地形が変わってしまったようだ。
 冒険者たちの姿は見えない。ただ一人、雇い主である考古学者のモペイユがしゃがみ込んで顔を手で覆っていた。

「だ、だから言ったんだ。様子を見ようって。わ、私のせいじゃない……」
「一体何があったんだ?」

 話しかけても返答はない。ただモペイユは「邪神が……」と青ざめた顔で呟くだけだ。

「恐らくアレのことじゃろう。得体の知れぬ、奇妙な魔力に覆われておるわ」

 フローラが指し示したのは、爆心地の中心に静かに鎮座ちんざする、毛むくじゃらの球体だった。
 球体からは無数の毛糸が伸び、剣を振るうリシェをもてあそんでいる。その周囲には、手足を折られたシャインが転がり、毛糸に巻き込まれて白目をいたモヒカが、気絶している。イレーナはその場にへたり込んでガクガクと震えていた。彼女の魔力はとうに底をつき、その場でリシェの勝利を願うほかないようだ。だが、そのリシェもすでに満身創痍まんしんそういである。

「五月雨剣舞!」

 華麗に毛糸を避けつつ振るわれたリシェの剣は、分厚い毛に防がれた。
 そして、剣が弾き飛ばされる。
 球体は高い硬度を持った毛の束で無防備なリシェの肩を、腹部を、足首を打ち据えた。
 リシェは低くにごったうめき声を上げ、地面に転がる。

「こ、こんなにも歯が立たないなんて……だが、どうにか殺さないと……甚大じんだいな被害が……」

 リシェはそう呟きながら絶望した面持ちで球体を見上げていたが、俺たちに気付き、必死に声を張り上げた。

「な、何をしているんだ! 早く逃げろ! こんな奴、誰も勝てない!」

 先ほどの攻撃ではいが潰されたのか、声はかすれ、口から飛沫しぶきが飛ぶ。
 イレーナも俺たちに気付いたようだが、顔を伏せた。

「き、君たちみたいなのが何人来ても意味ないのよ……ク、クラウスさんなら……殺せるかも……クラウスさんを呼んできてよ!」

 そう叫ぶと、俺らの前に結界を張った。
 確かに例の球体はおぞましい魔力を放っている。
 草木はれ、大地はかわき、空気は重い。
 だが、どうにも敵意があるようには思えなかった。実際、黒狼の戯れは誰一人としてまだ死んでいない。あの球体は本当に邪神と関わっているのか?

「あれは確かに森のエルフじゃが……邪気は感じぬ」
「ああ、俺もただ『藪蛇やぶへびをつついただけじゃないか』って思ってる」
「うむ。同じ意見のようじゃな」

 だが、このまま手をこまねいている時間はないことも確かだ。じわじわと広がる魔力によって次々に木が枯れ、森の強靭きょうじんな魔物たちが白目を剥いて倒れている。
 放置すれば魔力は、村まで到達するだろう。文献にあった『森が半分消失した』って記述の根拠はこれか。なんとかあの球体と意思疎通が図れればいいのだが……そう考えていた時だった。
 近くの茂みが揺れ、見覚えのある白虎とキノコが飛び出してきた。

「ふう、森の様子がおかしいと思って来てみたら……人間さん、これはどういうことです?」
「ノコ! どうしてこんなとこにいるんだ。引きこもりのお前が!」
「どうもこうも、魔力がうるさくて眠れないですからね」

 ノコはちょこんとイフの背中から降りると、とことこと無防備に球体に近付いていく。
 イレーナの結界は簡単に割れた。

「キ、キノコに私の三層式魔術結界が……」
「人間のおろかさを、久々に思い出したですよ」

 ノコはそんなふうに悪態をつきながら、球体に近付く。
 毛束がブオンと空気を切りながらノコに迫るが、フローラが結界を張って守ってくれた。
 無数の毛束に対し、フローラもまた無数の結界で防ぐ――という高速の攻防が続く。
 リシェはそれを、口を開けてただただ眺めていた。
 球体の間近まで到達すると、ノコは困ったように首をかしげた。

「毛玉の中に引きこもってるですよ。親近感は湧きますが」
「吹き飛ばせばいいのか?」

 風魔術で毛束を全て吹き飛ばすと、小さな丸っこい生物が現れた。俺たちを見て怯えたように「キュウ」と鳴くと、ポロポロと涙を零す。
 よく見るとそいつは切り傷をつけられ、出血していた。

「まったく、人間は無神経ですね。あの温厚な『毛糸族』に手を出すなんて」
「毛糸族? 邪神とかじゃ――ないんだな」

 黒狼の戯れの面々と丸っこい生物を治癒しながら尋ねると、ノコはせせら笑う。

「ノコの親愛なる枕が邪神? ただの臆病おくびょうな『毛』ですよ」

 確かに枕にすると気持ち良さそうな見た目だが……『毛』って。
 ノコは周囲を見渡す。られて俺も辺りを見ると、目の前にいるのと同じ生物が何体も木々に隠れてこちらを覗いているのがわかる。

「臆病なんじゃろう。近付いてこぬが……まさか『森のエルフ』がこのような種族だとはのう」

『毛糸族』を治癒し終わると、おぞましい魔力は収まった。小さな枕くらいのサイズの毛糸族は「キュウウ」と鳴いてノコの手に寄り添い、ぱあと笑顔になって二度飛び跳ねた。

「ありがとう、と言っていますよ」

 毛糸族は俺たちを恨むどころか、お礼まで言ってきた。邪神どころかまるで無害だ。
 リシェとイレーナはポカーンとしながら立ち尽くしていた。
 ハッとしたように、リシェがノコに聞く。

「わ、我々が見た時は怪物のような見た目だったのに……騙されているんじゃないのか?」
「やれやれ、哀れな人間はみんな見た目で判断しますね。本質を見通すノコからすれば全て同じに見えますけど」
「ぜ、全部同じ?」
「毛糸族が怪物なら、哀れな人間もみんな怪物ですよ」
「……我々も怪物、か」

 ノコの後ろに隠れていた毛糸族は、リシェたちが戦意を失ったのを感じ取ったのだろう、ちょこんと俺とフローラ、そして黒狼の戯れの手に跳んできて、ちいさな粒を渡してくれた。
 リシェはおそおそるそれを手に取り、不思議そうな顔で観察する。

「こ、これは大丈夫なんだろうな……」
「春になるときれいに咲く、と言ってます」

 毛糸族はにっこり笑ってから、楽しそうに跳ねた。先ほどの戦闘を忘れたかのように。
 毛糸族の言葉を聞いて、リシェとイレーナは武器を取り落とし、少し悲しそうな表情で呟いた。

「彼らにとって怪物だったのは、我々の方だったんだな」

 あとからノコに聞いた話によれば、普段毛糸族はエルフ族の伝承の通り、みにくい魔物のような姿で生活しているらしい。だがそれは威嚇いかくみたいなもの。恐らくエルフ族もその姿を勘違いして伝承を残したのだろう。
 毛糸族は本来草花くさばなとともに生き、隠れて暮らす温厚な種族だった。誰にも迷惑をかけず、森の中でひっそり暮らしていた毛糸族に、今回はわざわざ手を出してしまったということみたいだ。
 黒狼の戯れの面々は、深く落ち込んでいた。そして『見識を広めるためにローデシナや大森林を見て回りたい』とか言い出した。適当に魔物を討伐しながら案内したのだが、ローデシナを出発する頃には、俺に対しても敬意のある接し方をするようになった。

「我々はまだ、世界を知らなかったんだな」

 リシェたちは俺やクラウスにそんなふうに感謝を伝え、大森林を去っていった。
 何故か俺にだけやたら魔術に関する質問……否、尋問じんもんをしていったが、あれはなんだったんだろうか。


 ☆


 ガラガラという音とともに、黒狼の戯れを乗せた馬車がローデシナからグルーデンへの道を駆けていく。
 行きは意気揚々いきようようといった調子の彼女たちだったが、帰りは意気消沈いきしょうちんそのものといった様子だ。
 自分たちの力を過信し、善意のかたまりのような毛糸族を傷つけてしまったこともそうだが、それ以上に、後に起こったことが衝撃的だったのだ。
 大森林を見回っていると、あの強敵だった泥の魔物――すらもものともしないようなおぞましい魔物の死体が大量に転がっていたのだ。それも瞬殺されたような、爆散死体である。大木のような魔物のどてっぱらに大穴が開いているのを見た時、イレーナは思わず恐れとともに『だ、誰か爆弾でも使ったの?』なんて呟いた。だが、その後ドーマに案内されるうちに、ようやく黒狼の戯れは『誰が泥の魔物を倒したのか』を理解した。
 そんな顛末てんまつを思い出し、イレーナは言う。

「……あのドーマという魔術師、一体何者なの?」
「ハハハ、わからないが、俺はゾクゾクしてきちまったよ。なあモヒカ」
「無論、拙者も同感でござる。世の中は広い」

 リシェは頷く。

「彼はそれを我々に教えてくれたに違いない。そう、まるで賢者の如く……」

 黒狼の戯れは視線を合わせ、頷き合った。
 ……それから数か月後、『大森林の賢者』という歌が吟遊詩人ぎんゆうしじんによって王都に広められることになるのだが、本人はそんなことを知るよしもなかった。


 ☆


 冒険者が帰ってからも、考古学者のモペイユはローデシナに残ることになった。まだやり残したことがあるらしい。村のはずれに家を借りたらしいのだが、数日後、何故か彼は俺の元を訪れた。
 何やら、二人きりで話したいらしい。人気ひとけのない場所に案内される。
 ま、まさか告白か!? 俺には心に決めた人が――

「……君は王宮魔術師のドーマだね?」
「!! 知っていたんですか?」
「ふ、ふふ、魔力を見て確信してね。やはりそうか……」

 モペイユは口角を上げる。そして俺の肩をがしりと掴んだ。
 や、やはり告白なのか?

「『エリナーゼ』という名前に聞き覚えはないかい?」

 思わず俺は硬直した。告白じゃなかったからではない。
 エリナーゼ、もちろん知っている。
 ニコラの前の主人で、時代にそぐわない魔術を使っていた正体不明の魔女だ。

「その反応、知っているんだね? ふふ、ふ、ここまで来た甲斐かいがあったよ。あ、ああ、疑わないでくれ、私は危害を加えたいわけではない」

 急に興奮したかと思えば、怯え出してしまった。感情の波が激しい男だ。

「実は森のエルフを調べるというのは建前に過ぎなかった。私の真の目的はエリナーゼを調べることなのだ」
「……話が見えてきませんが?」
「そうだね、では王都の障壁は知っているかい。広大な王都を囲む、巨大な障壁……巨人が殴っても、いくら魔術を打ち込んでも決して崩れないという」
「もちろん知ってますよ。王都四大不思議の一つですからね」
「そんなものがあるのかい?」

 王宮魔術師としていくらか真面目に働いていた時、聞いたことがある。
 王都四大不思議――王都の障壁、地下の無限回廊、妖怪爺ようかいじいと呼ばれる不死身ふじみの大司教、そして絶倫ぜつりんすぎる国王、だ。

「最後の方、適当じゃないか?」
「自分で考えたんです」
「そうか」

 ともかく、王都の障壁は、首席魔術師の権限を使ってもまったく情報が出てこなかった。
 誰もが、過去の文献でさえも障壁については沈黙ちんもくを守っていたのだ。
 その時はロストテクノロジーなのかと割り切って、真相究明は諦めたのだが……

「私は、数々の手がかりから障壁について調べていた。そして辿り着いたんだ。『エリナーゼ』という名前にね」
「……まさかエリナーゼが障壁を創った――?」
「その可能性が高い。私はエリナーゼが何者なのか調べようとした。……だが、それから私は命を狙われ始めたんだ」
「……!?」
「王国は何かを隠している。誰にも知られないよう厳重に秘密を守っているのさ。そして、それにエリナーゼが深く関わっている。ここまでは確かだろう」

 モペイユは興奮気味に言い放った。
 学者にとって探究欲は、命をかけてでも満たしたいものなのだろう。

「君は何か知らないか? なんでもいいんだ。私は人生をかけて、王国の謎を解き明かしたい……ただそれだけなんだ」

 モペイユが嘘を言ってるようには見えない。
 だが、彼が命を狙われているとなれば、簡単に話すわけにもいかないだろう。

「……すみませんが、名前を知っている程度でしてね」
「そうか。わかった。だがエリナーゼはローデシナと何らかの関係があったようだ。これを渡そう。何かわかったら教えてほしい」

 そう言って、モペイユはとある装置を手渡してきた。金属製の球体だ。早速解析しようと魔力をこめる。その瞬間、どこかの風景が映し出された。

「これは、一種の記録装置ですか。この術式構造……面白いですね」
「現在の首席魔術師が開発した装置らしいよ。何かあればこれで記録し、私に渡してくれ」

 そう残して、モペイユは去っていった。
 エリナーゼの手がかりなら家の地下に眠っている。しかしニコラの大切な思い出でもある。俺の判断で勝手に他人に見せられるものでもない。彼には悪いが、重要な情報を伝えるほど信頼できていないのだ。
 しかし記録装置か……現首席は結構頑張っているようだ。この調子なら、俺も罪悪感なく左遷生活を満喫できるというもの。それにしてもこの術式は面白い。少しいじれば映像記録もできそうだ。
 俺は早速、改造に取りかかるのだった。


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