左遷でしたら喜んで! 王宮魔術師の第二の人生はのんびり、もふもふ、ときどきキノコ?

みずうし

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3巻

3-2

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「――何か来る」

 そう口にしつつ、クラウスが剣を構える。
 一瞬遅れて、リシェも「戦闘態勢!」と叫んだ。
 それからほどなくして、森の大樹のそでから巨大な泥人形どろにんぎょうのような怪物が姿を現した。
 全身は岩と泥で覆われ、生気せいきのない二つの目玉だけがギロッと目の前の冒険者を捉えている。
 その異様な姿に、リシェは呆然と声を上げる。

「な、何よこいつ……S級の魔物でも、こんなの見たことない……!」
「リーダー、先手必勝だ。やっちまおう」
「同意でござる」

 そんなふうにシャインとモヒカが鼓舞こぶするのを後目しりめに、怪物は周囲の木々を吹き飛ばしながらジリジリ近付いてくる。
 シャインは大盾を、モヒカは弓を構え、イレーナは精神を統一し始める。
 怪物が大地を踏みしだく音がその場の全員の耳朶じだを刺激し、まばたきもできないほどの緊張が走る。
 一瞬が、永遠のように感じられるが、攻撃する隙がない。
 死にかねない、とリシェは本能が叫ぶのを感じた。
 彼女はこのレベルの魔物と対峙たいじしたことがなかった。
 それでも、どうにか笑みを浮かべて口を開く。

「落ち着け、こちらにはクラウスさんもいる。全員で攻撃すれば必ず勝て――」

 だが、リシェが言い終える前に、剣が落ちる音がした。
「……え?」と、イレーナが驚きと絶望の混じった声を発した。
 強敵を前に視線を外すわけにはいかない。
 しかし、リシェは思わず振り返った――振り返らざるをえなかった。

「ぐっ……がっ……」

 そこには苦痛で顔をゆがませながら目を押さえ、地面に倒れるクラウスの姿があった。
 呆気あっけにとられたリシェに向かって、怪物が腕を振るう。

「リーダー、あぶねえ!!」

 シャインは大盾で攻撃を防いだ――が、盾はベコンと大きくへこむ。

「な、なんてパワーだ……こりゃ何回も、もたねえぞ」

 シャインがそう呟く隣で、イレーナはすぐさま詠唱を始める。そして、杖を構えた。

「――の恵みよ、私に力をお与えください。『火炎陣かえんじん』!!」

 イレーナの杖があわく光り、赤い炎が怪物を包む。
 これがイレーナをS級たらしめた『三層式連立魔法陣さんそうしきれんりつまほうじん』を用いた魔術である。
 連立魔法陣とは魔法陣を複数組み合わせてより高度な魔術を生み出す技術。つまりこの魔術は、三つの異なる魔術が掛け合わさってできている。
 どんな敵でも焼き尽くす、火炎陣。これを発動した上で勝てない相手なんていなかった。その事実が彼女を『煉獄』たらしめている。
 シャインは思わず笑う。

「ハハハ、すさまじいな。久しぶりに見たぜ、王宮魔術師にも匹敵ひってきするという魔術! だが魔力を全部消費しちまうんだろう!?」
「それでも問題ないわ。最大火力の『煉獄』は全てを焼き尽くすのだから……!」

 怪物は業火ごうかに包まれている。
 しかし、次の瞬間には、火炎陣は難なく弾かれてしまった。
 煙の中から無傷の怪物が顔を出し、巨大な腕を振るってくる。

「そ、そんな、私の魔術がかないなんて……」
「危ないでござる!」

 すんでのところでモヒカがイレーナを抱きかかえて跳んで、その腕を避けた。
 泥の腕は地面をえぐり、木々を吹き飛ばし、岩石をもくだいた。
 イレーナの顔が青ざめる。

(もし直撃していれば、骨も残らなかったわ……)
「ぜ、全員態勢を立て直すんだ!」

 リシェは叫びながら、怪物に飛びかかった。怪物が振り回す腕を華麗にかわし、舞いながら何度も敵を切り刻む技『五月雨さみだれ剣舞けんぶ』で指を二本、切り落とす。

(硬いが、切れる。全員で戦えば、勝てない相手じゃない!)

 そこから戦況は、拮抗きっこうした。
 イレーナはポーションで魔力を回復させつつ水魔術で泥を崩し、モヒカは弓で魔物の注意を引く。
 そしてシャインが攻撃を受け、リシェが一撃を加える。
 見事なコンビネーションで、段々と怪物にダメージを与えていく。

「全員集中力を保て! このまま押し切るぞ!」

 怪物の指は一本にまで減り、腕もがれ、着実に弱ってきている。動きもどこか緩慢かんまんだ。
 希望の光が見えてきた――そう誰しもが思ったその時。無慈悲むじひな現実が突きつけられる。

「さ、再生しているだと……?」

 そう口にしたリシェの目の前で、怪物はいとも容易たやすく元通りの姿に再生した。
 イレーナは、絶望のあまりひざを突く。

「に、逃げなきゃ……こ、こんなところで死にたくない!」
「ま、待つんだ。みんなで戦えば必ず勝てる。屈するな!」

 リシェは強い言葉で鼓舞した。
 スラム街で生まれ、汚い大人に搾取さくしゅされ続けるばかりだった幼少期。それでも努力し、力をつけ、勝ち続ければ誰もが認める人間になれる――リシェはそう信じて生きてきた。
 怪物が、過去に自分をだました大人と重なる。

(今度は仲間にまで手を出そうというのか。世界は、私から奪うばかりだ!)

 憎悪ぞうおの炎を原動力にして、リシェは剣を構え直す。
 そんな彼女の目の前に、の怪物が姿を現した。
 シャインの動きが止まる。モヒカも撤退の準備を始めた。まだ、戦う意思があるのはリシェだけだった。

「いつか勝てるんだ! 戦い続ける限り! 敗北はない!」

 リシェはそう口にしつつ、一体目の泥の怪物に飛びかかり、剣を振るう。
 無我夢中で剣を振るう。それが正解なのだと自分自身に言い聞かせるように。
 その時――突然怪物が弾け飛んだ。
 内部からばくさんし、奥深くに埋め込まれていたコアがあらわになる。そのコアもどこかから現れた白い毛並みを持った巨大なとらによって噛み砕かれた。
 その横では二体目の怪物が凄まじい熱と炎に包まれている。それは数秒でちりとなった。
 リシェは剣を下ろし、シャインは再び固まり、イレーナは思わず立ち上がっていた。

「い、一体何が起こったんだ?」

 リシェが呟く。こんな超人的な所業を誰が――そう思いながら、周囲を見回す。

「だ、大丈夫ですか?」

 現れたのは、ボロを纏った魔術師だった。灰色の髪、へらへらした笑み、やけに立派な杖。全てが胡散くさい。そんなふうに思いつつ、リシェは愛想あいそ笑いを浮かべ、声をかける。

「……今のは君が――いや、そんなわけはないか。我々は平気だ。もう少しで倒せるところだったのだが、何故か魔物が爆散してね。強い魔物だった。君は会わなかったのか?」

 リシェからしてみれば、目の前には魔物と無関係なC級魔術師と、尻尾しっぽを振る小さな白い犬がいるに過ぎない。

「強い魔物……? さあ。ところでクラウスは?」
「あの通りだ。突然倒れてしまってね」

 ドーマは早速クラウスを介抱しに行く。その背中に、リシェは問いかける。

「ところで、泥の怪物を倒した人物を知らないか?」
「え? あれなら俺が倒しましたよ」
「何?」

 リシェは思わず耳を疑った。嘘だと直感的に思ったが、魔物が倒されてからすぐにドーマが現れたのも確かだ。

(まさか本当に彼が……?)

 首をひねるリシェを前に、ドーマはへらっとした表情で言う。

「実験中の魔術が意外と高威力で……あ、け、怪我けがとかしていないですよね?」
「ああ、怪我はしていないが……」
(実験中の魔術? 未完成の代物であの怪物を倒したと言うのか?)

 リシェは一旦思考を整理する。S級冒険者でも苦戦した魔物を、辺境のおかしな魔術師が未完成の魔術一撃で吹き飛ばした――それが事実だとすれば導き出される結論は、たった一つ。

「なるほど、我々と戦って弱りきっていた魔物の弱点に、偶然君が魔術を当てた。そしてたまたま近くにいた謎の虎が魔物を倒した……そう考えるべきだな」

 リシェは勝手に納得した。
 あんな馬鹿げたマネを、こんな田舎のC級魔術師ができるはずがない。そう判断したのである。

「そ、そうよね。だってそもそもあの魔物に魔術はほとんど効いていなかったものね……」
「ああ、あんな化け物、王宮魔術師でも倒せないはずだ」

 リシェの呟きを聞いていたイレーナとシャインもそう口にしながらうんうんと頷いている。
 ドーマの方へとツカツカ歩いていき、リシェは腕を組んで言う。

「あまり余計なことをするなよ。君は、我々の成長を阻害そがいしたんだ。それにこんな場所までついてきて……君が迷子まいごになったらさがすのは我々なんだからな。まあ、一応礼は言っておくが……って聞いているのか?」
「え? すみません、クラウスが心配なので先に帰りますね」
「は?」
ぐ帰ったら魔物もいないんで。では」

 ドーマはクラウスを背負うと、そのまま去っていった。
 黒狼の戯れの面々は呆気にとられ、互いに顔を見合わせて笑い合った。
 また一つ死地を乗り越えた。その充実感が体を満たすのを、彼女たちは確かに感じていた。
 ひとしきり笑ってから、リシェは言う。

「一旦村に戻ろう。雇い主も気絶していることだしな」

 そう、戦闘中にモペイユがうんともすんとも言っていなかったのは、早々に気絶していたから。
 シャインがモペイユを背負い、黒狼の戯れはローデシナに帰還した。
 帰り道ではドーマの言った通り、何故か魔物が出なかった。



 2


「……ということがあったんだよ」
「ほう。ドーマ、やはりお主の巻き込まれ体質は相当のものじゃのう」

 今、俺はそう相槌を打つフローラの故郷であるエルフの里――通称エルリンクにやってきていた。
 かつては枢機卿の策謀さくぼうおさのリーディンを捕らえられ、大変な事態になっていたものの、今ではすっかり平和である。また、元々はかなり排他的はいたてきだったエルリンクだが、その一件をきっかけにグルーデンと、関わりを持つことになった。
 そんなわけで、現在エルリンクには領主から直接認可を受けた数名の人間が常駐じょうちゅうしている。それによって、異種族の俺が出向いても奇異な目で見られることはなくなった。
 かつてエルリンクにとらわれた際にパンイチで脱獄だつごくしたことから『パンイチのドーマ』といういささか不本意なあだ名がついているが。

「で、本題です。正体不明の謎の頭痛を治す秘薬はありませんか?」

 フローラの隣に座っている彼女の両親――リーディンとラーフにそう聞いてみる。
 実は、今日ここを訪れたのには明確な理由がある。
 クラウスの謎の頭痛があまりに治らないので、魔術に明るいエルフならもしや何か知っているのではないか……と頼ってみたのだ。ちなみにクラウスは今、俺に担がれている。重い。
 薬師として優秀らしいラーフは顎に手を当てる。

「うーん、そうね……」
「そうですよね、流石さすがにエルフと言えどもないですよね」
「十箱ぐらいあるわよ」
「あるんかい!」
「エルフはひまだもの。隙あらば薬を作っていたから、在庫はたくさんあるわ!」

 というわけで、クラウスにはその薬を飲ませ、手近なソファーに寝かせてやった。
 これで快方に向かっていくことだろう。頭痛の原因は不明だが、俺が考えても仕方がない。
 そうして戻ってきて――ふと、あることを思い出す。

「そういえばシャーレがいないようですが、どうしたんです?」
「ああ、あの実に好ましい青年か」

 枢機卿を退けた際にともに戦った王宮騎士の『武帝ぶてい』ことシャーレ。
 彼は別れ際に、野菜が美味いという情報を聞いて、エルリンクに滞在すると言っていたはずだ。
 ここに来るまでにも彼の姿を見ていないので、何か問題でも起こしたのかと思ったのだが、どうやらリーディンの反応を見るに、そうではないらしい。

「彼ならエルリンクの野菜を食べつくすと王都へ逃げた」
「問題起こしてる!」
「ははは、冗談だ。彼と我らエルフ族は実に良い関係だったよ。残念ながら王都へ帰還したのは真実だがね」

 リーディンのギャグセンスは壊滅的かいめつてきだ。見た目は若いのに中身は親父おやじなんだよな。
 確かリーディンは二百歳を超えていたはずだが、威厳はまるでない。

「そういえばドーマ君、どうだね、その……普段の生活は。フローラは役に立っているかね?」
「まあ別に役に立つ必要はないんですが、いて言うならフローラは水のようです」
「ほう、なら君は魚かね」
「うふ、心配する必要はなさそうね」

 回答としては間違っていなかったらしい。隣でフローラがうんうんと満足そうに頷いているし。
 ラーフとリーディンは顔を見合わせる。
 そして何故か突然、リーディンが立ち上がった。

「心配ごとはまだある!」
「な、なんでしょう?」
「……その、戦士にかぶとはつけているのか?」

 戦士に兜? なんのことだろうか。さっきの話の流れ的に、『水を得た魚』みたいな意味の、エルフ族の慣用句だろうか。
 ピキーン。
 ここで、俺の頭がえた。ここは俺の対応力を見られているに違いない。エルフ族にとって戦士とは名誉ある役割。そして、エルフ族にとって兜とは初心者を指すと見た。
『つけている』の意味はわからないが、フローラは俺たちの家で『名誉あるお客さん』から『新人入居者』になれたか――馴染なじめているのかと問うているのだろう。
 俺らは彼らにとって異種族。親として気になるのも無理はない。安心させてやる必要があるな。
 俺は自信満々に言い放つ。

「もちろんです。まあ、もうすぐ兜を脱いでもおかしくないですが」

 なんせフローラはすっかり屋敷に馴染んでいて、もう家族の一員みたいなものだからな。

「な、なんだって!?」

 だがリーディンは驚愕きょうがくしたように目を見開いたあと、すっかりしぼんでしまった。
 あ、あれ? なんか間違えたか?

「お、お主は何を言っているのじゃ!?」
「あらあら、孫の顔が楽しみね」

 孫? よくわからないがフローラは赤面して、慌てたように立ち上がる。

「ド、ドーマは誤解しておるようなのじゃ! 母上もわかっておろう!?」

 俺はおずおずと聞く。

「……ラーフさん、ちなみに『戦士に兜をつける』の意味って?」
避妊ひにんしてるのかってことよ」
「なんてことを聞くんだ……」

 滅茶苦茶めちゃくちゃセンシティブな話題だった。
 そのあと俺は、なんとか誤解を解いた。
 リーディンは生気を取り戻し、ラーフは「ふふ、もう少し背中を押せば……」とかなんとか不穏なことを言っている。

「まあドーマ君、君も男だからわかると思うが……行動には責任がともなうんだからな?」

 リーディンの言葉はやけに重い。まるで実感してきたような言い草だ。

「私も責任をラーフに取らされたばかりに族長に……アガッ」

 ラーフはニコニコしながらリーディンのわきを小突いた。
 リーディンは滝のような汗を流し始め、勢い良く立ち上がった。

「す、すまない、ちょっと野菜に肥料をあげに行ってくるよ……」
「え? ええ」

 リーディンはそそくさと退室した。今から肥料をあげに?
 疑問に思っていると、フローラが耳打ちしてくる。

「母上は人の身体把握にけておる。今押したのは腹痛のツボじゃ」
「ああ、肥料をあげるって、お花をみに行くみたいなことなのか」

 エルフ族は独特な慣用句が多すぎる。そして感性もなかなかに変わっている。フローラがかなり常識人だと思えてくるほどには。そういえばフローラはエルリンクでは少し浮いていた。それは常識人すぎるからってことなのかも。
 とんでもエルフ代表のラーフは、またしてもよくわからないことを口にする。

「そういえばドーマ君、私にも敬語ではなくていいんですよ? それにラーフではなく、家族名のドチョペフラーって呼んでください」
「いや、ラーフさんの方が呼びやすいような」
「親愛名のフコンゼポチョでもいいですよ」
「母上はもうどこかに行くのじゃ!」

 ドチョペフ『ラー・フ』コンゼポチョ、略してラーフさんはそそくさと退室した。
 家族名だけでなく親愛名まであるとは……ん? そういえばフローラの名前も長かったはずだ。

「フローラの家族名と親愛名はなんなんだ?」
「なんじゃ、出会った時に話したであろう? フローラ・フォン・メレンブルクと。家族名はメレンブルクじゃ」
「親愛名は?」
「大賢者様じゃ」

 こいつも全然常識人じゃなかった。
 話を聞くと、家族名とか親愛名とかは自分で適当につけるらしい。だから自分以外ほとんど誰も覚えていないらしい。なんて適当な種族だ!
 そんな他愛たあいもない話をしていると、クラウスが目を覚ました。

「ここは……」
「ああ、エルフの里、通称、適当の里です」
「ひどいのじゃ!」

 クラウスに水を持ってきてやってから、一通り事情を説明した。
 すると彼は立ち上がり、一気に水を飲み干し、言う。

「そうか。迷惑をかけたな、助かったよ」
「いえいえ。で、その頭痛の理由はわかっているんですか?」
「いや、俺も何故痛むのか、わからねえんだ。体調は悪くねえ。だが、時折痛む。まあ持病みたいなもんさ」

 クラウスは自嘲じちょう気味に笑った。戦いの最中で気を失ったことに、プライドが傷ついているのだろう。俺にできることは、目をらして話を変えることだけだ。

「そういえば例の黒狼の戯れは何故あんな奥地に? 偶然弱い魔物しかいなかったから良かったものの、危ないですよ」
「ああ、そういや森のエルフを探してるとか、なんとか言っていたな」

 森のエルフ? エルリンクのエルフ族と何か関係があるのだろうか。
 フローラを見やると、彼女は耳を疑ったかのような顔で硬直していた。

「森のエルフ……じゃと? 確かにそう言ったのか?」
「そうだ。邪神信仰とかなんとかな」
「ふむ、なるほどのう。よもや人族がその噂を知っているとは」

 フローラは神妙しんみょうな顔つきで考え込んでいた。
 普段ではあまりお目にかかれないけわしい表情だ。俺は思わず声をかける。

「その森のエルフとやらは危険なのか?」
「森のエルフが危険だという伝承はないのじゃが、彼らに絡んだ連中は無事に帰還できないという言い伝えがあるのじゃ。人族にはこんな言葉があるのじゃろう? 『触らぬ神にたたりなし』。まさに森のエルフはそんな存在と言えようぞ」

 フローラによれば、森のエルフは『エルフ』と名がつくものの、外見はまったくエルフと異なるんだとか。完全に全身を毛で覆われ、腕を四本持ち、巨大な歯で獲物を捕食する魔物らしい。だが極めて内向的で、こちらから手を出さなければ襲われることはない、と。

「調査ぐらいならば大丈夫であろう。手を出さなければ平気じゃ」
「ちなみに、手を出すとどうなるんだ?」
「歴史書には『森が半分消失した』と」

 恐ろしいな。何より全ての情報のソースが伝承なことが恐ろしい。偶然、意図せず彼らの逆鱗げきりんに触れたために村が全滅、なんて洒落しゃれにならないことが起こっても不思議じゃない。
 調査して正しい情報を得たいと思ってしまう。あの考古学者も同じ目的なのだろうか。

「……黒狼の戯れよりも先んじて調査する必要があるな。元々は俺の責務だ」
「ク、クラウスはまだ無理ですよ」

 ソファーから立ち上がろうとするクラウスを慌てて押さえ込む。どう見ても彼の体調は万全ではない。
 だが確かに、黒狼の戯れの面々が森のエルフを刺激する可能性だってあるのだ。調査は急ぐ必要がある。

「すぐに誰かが調査しなければいけませんね」

 俺の言葉に、フローラとクラウスが頷く。

「うむ、森のエルフを刺激しないような覇気はきのない人物が良いと思うのじゃ」
「ああ、無駄に健康で、やたら暇で、なおかつ何故か腕が立つ奴が……」

 二人は一斉に俺を見た。

「あ、お、俺? 確かに暇だけど!」

 なんか言い方にとげがないか!?


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