18 / 51
2巻
2-2
しおりを挟む
☆
俺、ドーマは家畜を解体して保存するための部屋――保存室を訪れていた。
先日のラミア探しは飛竜が出たことで、むしろそっちと遭遇する方が危険だろうという結論になり一時中断となった。
風が次第に冷たくなり、冬将軍の到来を予感させるこの頃だ。
せっかく空いた時間はうちの冬支度――つまり、家畜を保存食にするのに充てようと思い至ったのである。
うちでは野菜や家畜を自前で育てているからな。
「ウーさんにブーちゃん、ニコラを許してほしいのです……」
保存室の奥、ニコラは牛や豚をデカい肉切り包丁でバッタバッタと斬り伏せていた。
血塗れで包丁を振り回す幼女。とんだホラーである。
ニコラは家畜や作物の一つ一つに名前を付けるほど愛情を持って育てている。
それなのに笑顔でそいつらを無慈悲に収穫して調理し、「これは元トムでこれは元ジェリーで……」と名前を紹介しながら俺たちに食わせてくるわけで……どう折り合いをつけているんだろうと不思議に思わずにはいられない。
「ウーさんのお肉はハムに……ブーちゃんのお肉はベーコンに……」
ニコラがそう呟きながら作業しているのを見て、俺は思わず恐怖に震えた。
手遅れになる前に、あいつを逃がしてやらなければ……
俺は慌てて保存室を抜け出し、養豚場へ向かう。
一際大きく、額に傷のある豚が俺の方へ寄ってきた。
名前をアレックスという。
「アレックス、ここはダメだ。こっちへ来い」
「ブヒ?」
俺はあらゆる魔術を駆使し、有無を言わさず――ブヒブヒは言わせたが――アレックスを連行する。
中庭の陰になっているところまで避難したあと、俺はポッケからドングリを取り出し、アレックスに差し出す。
「よしよしアレックス、ゆっくり食え」
「ブヒッヒッ」
愛い奴め。
カラスに襲われていたところを保護した当初は近寄ってすらこなかったのに。
餌付けの甲斐あって、アレックスはすっかり俺に懐いていた。
美味しそうにドングリを頬張る様はあまりにも可愛い。間抜けな顔からも愛嬌が溢れている。
俺はアレックスに対して、真剣に愛着を抱いている。
アレックスなしでは生きていけないほどに。
慈しみを込めて、アレックスを撫でる。
その時、猛烈な悪寒が俺を襲った。
「おや、よく肥えた豚さんが一匹……」
「ひ、ひぃっ!? ニコラ……」
ヌッと不気味な笑みを携え現れたのは、血塗れの肉切り包丁を持ったニコラだった。
彼女は肥えたアレックスを見て、ニタリと笑う。
「待ってくれ、こ、これは違うんだ!」
俺の弁明を無視して、ニコラはゆっくりとこちらに近付いてくる。
「豚さん、みんなが待っているのですよ」
て、天国で!?
「ひっ! 逃げろアレックス!」
「ブヒッ?」
ドングリを食べることに夢中なアレックスは、非道な殺意に気付かない!
くっ、ここは伝家の宝刀、最終奥義の土下座を使って媚を売るしか……
「――っと、冗談なのです。この豚さんは殺さないのですよ?」
ニコラは先ほどまでの恐ろしい表情が嘘だったかのように、優しく微笑んだ。
俺はビクビクしながら聞く。
「そ、そうなのか?」
「ご主人様が大切になさっている豚さんなのです。ニコラも愛情は大切にするのです」
「なんてこった」
ニコラは作物や畜産に対しては冷血メイドであり、アレックスとてハムにされても不思議ではないと思っていた。しかし、どうやらそれは俺の思い違いだったようだ。
良かったな、アレックス。
「そんなことより、ワインの醸造をやってみたいのです」
ニコラの突然の提案に、俺は思わず顔を向けた。
「ワイン?」
ニコラが言うには、ローデシナ村には食料はあれど飲み物が水くらいしかなく、酒もほとんどないんだとか。
ハムやベーコンといったアテはあるのに酒はない状況か。
この家に住む者のほとんどは酒を飲まないが、帝国組のサーシャやナターリャは呑兵衛なので辛かろう。
そういえば、厳しい寒さをしのぐためにアルコールは必要だとクラウスもぼやいていた。
もしも余れば高値で売れるだろうし……ワイン造り、アリかもしれない。
「だけどワインなんて造れるのか?」
俺が疑問を呈すと、ニコラは胸を張る。
「フフフ、このニコラに任せてほしいのですよ!」
と、いうわけで家のみんなにクラウスと、冒険者ギルドの職員であるバストンを加えたメンバーでワイン製造に勤しむことになった。
村ではブドウが山ほど取れるが、ワイン造りのノウハウは辺境にまで伝わっていなかったらしい。
クラウスとバストンが話を聞くなり、家に大量に除梗された状態のブドウを持ってきてくれた。
バストンは俺の肩に手を置いて笑みを浮かべる。
「ふむ、同胞ドーマよ。今日ほど同胞を誇らしく思った日はない」
「そんなに!?」
どんだけ酒に飢えてたんだよ。
「これだけあればワイン風呂ができるわね……」
「まったくだ。ジュルリ」
サーシャとクラウスの目がイッている。
……早く作業を進めねば。いつの間にか周囲にヤバい酒好きが増えているのだ。
「今回造るのは黒ブドウを使った赤ワインなのです」
ニコラの言葉に、バストンとクラウスの二人は満足そうに頷いている。
「ふむ、なかなか乙だ」
「渋みがいいんだよな、渋みが」
二人はこう言っているが、酒をほとんど飲まない俺にはワインの違いがよくわからない。
自称ワインのお姉さんことサーシャに解説を請う。
彼女曰く、果汁や皮、種までブドウの全てを使うのが赤ワイン。果汁だけを利用するのが白ワイン。そのため赤ワインの方が渋みを感じられるらしい。
……またつまらぬ知識を得てしまった。
さて、そんなこんなでワインの製造が始まる。
まずは果実を砕いて果汁を抽出する破砕という作業からだ。
「全部魔術で潰しちゃっていいか?」
適当に魔術を放とうとしたら、「ま、待ちなさい!」と言われ、サーシャに肩を掴まれた。ふと周りを見ると、ワインおじさんことバストンとクラウスも俺を囲んでいる。
な、なんだこの異様な光景は……
「馬鹿野郎! ブドウは魔術で潰すんじゃねえ! 足で踏んで潰すんだよ!」
こんなに真剣に怒るクラウス、戦闘の時にも見たことないぞ。
「踏む?」
ニコラも俺と同じく不思議に思ったらしい。
「魔術で潰すのと何が違うのです? 魔術の方が早くて正確だと思うのです」
だがやれやれとばかりにサーシャが嘆息した。
「わかってないわね。これは『儀式』なのよ。ブドウを人の足で踏み潰すこと自体に意味があるの」
「でもなんか、ばっちくないか?」
「ばっちくないわよ!!」
サーシャが吠えた。
衛生的にどうなのかなぁって思っただけなんだけど……
プンプンしているサーシャに代わり、バストンが落ち着いた様子で説明してくれる。
「ふむ、同胞よ。何も全てのブドウを踏むわけではない。最初に一部のブドウを踏み、それでワインを造るのだ」
次いでクラウスが補足する。ワインおじさんズによる見事な連携プレー。
「そうだ。んでその完成品をブドウの神に祈りと感謝を込めて捧げるんだよ。それ以外は魔術で潰したブドウを使っても問題はないというわけだ」
神に感謝を示すためと言われてしまえば、効率化を極めし魔術師である俺も引き下がらざるを得ない。
俺以上に効率化を極めしメイドのニコラも渋々頷いた。
ちなみにノコやラウラはワインになど興味がないのか後ろの方で日向ぼっこしている。
俺もそっちに交ざりたい。
「ひとまずブドウを踏まなきゃいけないことはわかりました。じゃあ早速踏んでいいですか?」
俺の問いかけに今まで饒舌だったクラウスとバストンは急に口ごもる。
「う、まあそれがだな……」
「なんというか……まあ俺たちゃあ、一時間ぐらい散歩してくるからよ、その間に儀式を終わらしといてくれ」
そう言い残し、突然離脱するクラウスとバストン。意味がわからん。
だがハテナを浮かべる俺とニコラを放置して、サーシャはテキパキと大きな桶を用意し、そこにブドウの果実を敷き詰めた。
そして暇を持て余したラウラやノコ、ニコラを招集する。サーシャの手には真っ白のワンピースが握られている。どうやら事前に『儀式』に備えて用意してきたものらしい。
『着替える場所を用意して』とサーシャに目で訴えられた俺が魔術で外部から見えない空間を用意すると、四人はそこで着替え始める。
しばらくすると、ワンピースを纏った四人が出てきた。
「サーシャ、俺もブドウを潰すの手伝おうか?」
「要らないわ」
あっさりと用なしの烙印を押されてしまった。
俺も散歩に行けばよかったぜ!
すると側で静かに様子を眺めていたナターリャが、俺に一冊の本を渡してきた。
『ゴブリンでもわかる! ワイン製造!』
おちょくったタイトルだがノケモノにされるのも癪なので、読み込むことにする。
本の冒頭のページに神に奉納するワインに関する情報が載っていた。
どれどれ……
最初の儀式では穢れなき処女の足で果実の破砕を行い、それで造ったワインを納める。
処女の足で踏まれることでワインが純潔さと聖性を持ち、美味しくなるためである、と。
なるほど、そんな意味があったのかー。
どうやらブドウの神はユニコーンだったらしい。
などと俺が失礼なことを考えている間に、四人はブドウ踏みを開始していた。
「……ひゃっ、結構冷たいわね」と、どこか楽しそうに驚きの声を上げるサーシャ。
「んっ……ごつごつする」と口にしつつも、いつも通りの無表情でぶどうを潰すラウラ。
「ベタベタしてて気持ち悪いのです」と言いながら、嫌そうな顔で小さく足を動かすニコラ。
「ブドウ如きがキノコの上に立とうなど百年早いです」と偉そうにしているノコ。
そんなふうにキャッキャしながら四人がブドウを踏んでいる側で、俺はいたたまれない気持ちに襲われていた。
なるほど、今ならばワインおじさんズが離脱したワケもわかる。
若い女性が白の衣装を身に纏い、素足で赤いブドウを踏み潰す様は白と赤の対比が美しく、確かに華やかだ。
だがなんだろうか、この謎のいかがわしさは……
俺は結局イフと散歩に出かけた。
途中でクラウスやバストンと合流したので、一緒に魚を釣ることにする。
釣りは煩悩退散にちょうどいいからな。
「「釣りはいいぞ」」
ワインおじさんたちは、釣りおじさんと化していた。
しばらく釣りを堪能して家に戻ると、儀式はすでに終わっていた。
よし、ここからは力作業だ。俺も協力できるだろう。
そんなわけで、残りのブドウを魔術で砕く。
結構な量があったが、魔術を使えばあっという間だった。
そうして搾った果汁を巨大な木樽に入れ、工房で保管する。発酵させることで糖分をアルコールに変えるのだ。普通は一ヶ月以上の時間をかけて天然発酵させるのだが、今回はノコのキノコに含まれる酵母を使う。
キノコパワーは万能なのだ。
「しょうがないのでキノコの実力を見せてやります」
ノコをやる気にさせるため、俺はエールを送る。アルコールだけに。
「ヒュー! 流石ノコ!」
「人間さんうるさいです」
「はい」
ノコは文句を言いつつも、なんやかんや酵母を与えてくれた。
そうして出来上がった液体を、大きな樽に詰めて工房に運び込み、今日やることはとりあえず終了だ。
ワイン造りは初めてだったが、案外楽しかった。完成するのが楽しみだ。
二週間ほどが経った。
今日は仕上げの作業を行う予定だ。ワインを保管していた工房にサーシャとクラウスとともに入ると、芳醇なブドウの香りに加えて、アルコール特有のツンとした匂いが感じられる。定期的に撹拌させていたこともあり、ワインは上手く発酵しているようだ。
サーシャとクラウスはその香りに頬を緩めている。ちなみに二人はこれから俺がすることに興味があってついてきたらしい。
俺は樽に近付き、上から覗き込む。
深い赤紫色をした液体は俺の知るワインそのもので、素人目には完成しているように見えた。
この状態でも皮や種を濾せば飲めなくはないが、まだ酸っぱいらしい。美味しいワインを造るにはここから木樽でさらに熟成させ、まろやかな味わいへと変化させる必要があるとのこと。
とはいえその前に皮や種を取り出す必要がある。
魔術を使ってそんな七面倒な作業を一瞬で終え、改めて果汁だけを樽に入れ直す。
ちなみに皮や種もさらに圧力をかけて搾る工程――圧搾を経れば、通常の赤ワインより渋みのあるフリーラン・ワインとかいうワインに変わるらしいが、一旦それは置いておこう。
さて、ようやく熟成の工程に入れる。
熟成にかかる期間はなんと二年以上。
ワイン製造は長い……待ってられるかあ!
ということで俺の魔術を使って、熟成の期間を短縮させることにした。
どうやら熟成において重要なのは、ゆっくりワインを酸化させることと、木樽の香りをワインに移すことらしい。
ならば空間魔術を用いて、短時間で同様の効果をワインに与えればいい。
「おいおい、空間魔術って最先端技術じゃないのか?」
俺が二人にこれから行う魔術の説明をすると、クラウスがそう質問してきた。
どうやらクラウスは魔術の歴史には疎いようだ。
「いや、かなり前の技術ですよ」
「ぜっっっっったい違うわ!」
サーシャとクラウスに何故か呆れられながらも、俺はワインに空間魔術を施していく。
これによって本来二年の工程は、二日に短縮されるのだ。
そうして二日後、とうとう自家製赤ワインが完成した。
クラウスとバストンはいち早く飲みたいのか、お昼から家に押しかけてきた。
完成祝いにと瓶詰めしたワインをクラウスとバストンに数本ずつ渡したのだが、数時間後には酔っ払った状態で次を買いに来た。そして今度はうちの庭で酒盛りを始めた。
「ふむ、これが『ドーマ・ワイン』か」
バストンの呟きにクラウスが頷く。
「間違いなく売れるな」
いつの間にか名前が決まっていたらしい。
ワインおじさんズのお墨付きだ。相当できはいいのだろう。
そんなことがありながらも日は暮れ、夕飯の時間。
俺もせっかくなので、ワインを嗜んでみる。
自家製だ。たとえ味が不味くても美味いと思えるに決まっている。
「…………これは!」
全然わからんッ!
そもそも俺はワインを飲んだことがなかった!
だがワインの本場、帝国出身のサーシャやナターリャが満足していたので、良しとしよう。
ラウラも飲みたがったが、匂いを嗅いだだけで寝てしまった。あまりに弱すぎる。
仕方がないのでラウラを寝室まで連行し、ベッドに寝かせる。
驚くほど軽いが、戦闘の時に見せる強靭な力はどこから湧いているのだろうか。
「……まって」
部屋を出ていこうとすると、ラウラがそう言って服の裾を掴んできた。
起きていたのか。
酔っ払っているのか頬は少し赤く、目はぼやーと虚ろだ。
「どうしたんだ?」
「もう少し、一緒にいて」
「……ああ」
その言葉を最後に、俺たち二人は口を閉じた。
薄暗い寝室で、無言の時間が流れる。何を考えているのかわからない彼女の瞳を長く見つめていると、吸い込まれてしまいそうだ。
薄桜色の髪はぴょこっと跳ね、長いまつげが瞬きの度に揺れる。
ラウラは儚くも美しい、新雪のような雰囲気を纏っている。
思わず髪を撫でると、ラウラは無言でにへらとはにかむ。
「…………もう眠たいんだろ」
「うん、おやすみ」
寝ぼけたような声で返事をすると、ラウラはそのままベッドに潜り込んだ。
部屋を出ると、妙な感覚がした。ラウラの笑顔が妙に脳裏に焼き付いている。
この感情は一体……?
自分で自分の感情がわからないなんて初めての経験だ。
結局、その日はあまり眠れなかった。
ワインの完成からさらに二週間が経った。
ここのところ、寒さが厳しくなってきており、冬が深まっているのを感じる。
森の動物たちは巣にこもり、氷が張るほど気温が下がる日も珍しくない。
そんな中、俺は知り合いを訪ねるべく、ローデシナの村を歩いていた。
ウチは冷暖房完備だからぬくぬくだが、村では毎年凍死者が出るらしく、グロッツォを中心とした若者衆がせっせと薪を集めている。
死人が出ても寝覚めが悪いので、先ほどラウラが伐採した木々を魔術でこっそり広場に積んでおいた。この冬を乗り切るには十分な量だろう。
「お、おい、この薪、一体誰の仕業だ……!?」
「大方予想はつくけどな……」
そんな風に言いながら、村人たちがこちらをチラチラと見てくる。
ギクリ。
視線から逃げるように移動すると、露店を出しているヨルベを見つけた。
ヨルベは普段は王国領にある都市、グルーデンで馬車商をしており、ローデシナにもちょくちょく顔を出している商人だ。ローデシナに来る際に馬車を出してもらったことがきっかけで知り合ったのである。
向こうも俺を見つけたようで「お、なんや久しぶりやなあ」なんて声をかけてくる。
ローデシナは物資が不足しているため、行商人は食料やら薪やら服やら……とにかく色々売りに来るのだ。
普段ならば村人はそんな行商人の元に祭りのように集う……のだが。
「……閑古鳥と仲良しみたいですね」
周囲を見渡すと、俺以外に人影は見当たらない。
ヨルベは恨めしそうに俺を睨んできた。
「誰のせいやと思ってるんや」
俺は心当たりがあるだけに「あはは……」と愛想笑いをするほかない。
冬に備え、薪以外の物資も山ほど村に用意したからなぁ……
しかし、ヨルベはふっと笑う。
「ま、誰かさんのおかげでアタシの懐はホカホカやからええんやけどな」
「あんなものが売れるんですか?」
実はヨルベが寄り付かなくなったら寂しいので、彼女が来る度に戦闘用魔導具だったり、治癒スクロールだったりを売っているのだ。大した性能ではないので二束三文にしかならないだろう――そう思っていたのだが。
「そろそろ家が建つで。それも王都の一等地にな」
「魔導具とかスクロールを売ったお金でですか? ははは、まさかぁ!」
「アタシはアンタが怖いわ」
ん? どういうことだ……ただ要らないものを処分しているだけだというのに。
よくわからんがまあ良い思いをしているようなら何よりか。
それよりも大事な用事がある。
「そうだ。また買ってもらいたいものがあるんですよ」
「なんや。お姉さんに見せてみぃ」
金の匂いを嗅ぎ取ったヨルベお姉さんに、先日造ったワインを一本手渡す。
するとヨルベは眉を寄せる。
「申し訳ないけどなあ、手造りワインは売れへんで。アタシにも商人としてのプライドはある。素人が作ったモノを流通させるわけにはいかへんのや」
「あ、そうなんですか。それは残念です」
肩を落としてヨルベからワインを回収しようとした、その時だった。
「待ってもらおうか」
声のした方を見て、ヨルベは驚愕の表情を浮かべた。
「ア、アンタは……!」
突如現れたのは、貫禄のある佇まいの男。
片手にワイン瓶を持ち、正装に身を包んだその姿を見て、ヨルベは叫ぶ。
俺、ドーマは家畜を解体して保存するための部屋――保存室を訪れていた。
先日のラミア探しは飛竜が出たことで、むしろそっちと遭遇する方が危険だろうという結論になり一時中断となった。
風が次第に冷たくなり、冬将軍の到来を予感させるこの頃だ。
せっかく空いた時間はうちの冬支度――つまり、家畜を保存食にするのに充てようと思い至ったのである。
うちでは野菜や家畜を自前で育てているからな。
「ウーさんにブーちゃん、ニコラを許してほしいのです……」
保存室の奥、ニコラは牛や豚をデカい肉切り包丁でバッタバッタと斬り伏せていた。
血塗れで包丁を振り回す幼女。とんだホラーである。
ニコラは家畜や作物の一つ一つに名前を付けるほど愛情を持って育てている。
それなのに笑顔でそいつらを無慈悲に収穫して調理し、「これは元トムでこれは元ジェリーで……」と名前を紹介しながら俺たちに食わせてくるわけで……どう折り合いをつけているんだろうと不思議に思わずにはいられない。
「ウーさんのお肉はハムに……ブーちゃんのお肉はベーコンに……」
ニコラがそう呟きながら作業しているのを見て、俺は思わず恐怖に震えた。
手遅れになる前に、あいつを逃がしてやらなければ……
俺は慌てて保存室を抜け出し、養豚場へ向かう。
一際大きく、額に傷のある豚が俺の方へ寄ってきた。
名前をアレックスという。
「アレックス、ここはダメだ。こっちへ来い」
「ブヒ?」
俺はあらゆる魔術を駆使し、有無を言わさず――ブヒブヒは言わせたが――アレックスを連行する。
中庭の陰になっているところまで避難したあと、俺はポッケからドングリを取り出し、アレックスに差し出す。
「よしよしアレックス、ゆっくり食え」
「ブヒッヒッ」
愛い奴め。
カラスに襲われていたところを保護した当初は近寄ってすらこなかったのに。
餌付けの甲斐あって、アレックスはすっかり俺に懐いていた。
美味しそうにドングリを頬張る様はあまりにも可愛い。間抜けな顔からも愛嬌が溢れている。
俺はアレックスに対して、真剣に愛着を抱いている。
アレックスなしでは生きていけないほどに。
慈しみを込めて、アレックスを撫でる。
その時、猛烈な悪寒が俺を襲った。
「おや、よく肥えた豚さんが一匹……」
「ひ、ひぃっ!? ニコラ……」
ヌッと不気味な笑みを携え現れたのは、血塗れの肉切り包丁を持ったニコラだった。
彼女は肥えたアレックスを見て、ニタリと笑う。
「待ってくれ、こ、これは違うんだ!」
俺の弁明を無視して、ニコラはゆっくりとこちらに近付いてくる。
「豚さん、みんなが待っているのですよ」
て、天国で!?
「ひっ! 逃げろアレックス!」
「ブヒッ?」
ドングリを食べることに夢中なアレックスは、非道な殺意に気付かない!
くっ、ここは伝家の宝刀、最終奥義の土下座を使って媚を売るしか……
「――っと、冗談なのです。この豚さんは殺さないのですよ?」
ニコラは先ほどまでの恐ろしい表情が嘘だったかのように、優しく微笑んだ。
俺はビクビクしながら聞く。
「そ、そうなのか?」
「ご主人様が大切になさっている豚さんなのです。ニコラも愛情は大切にするのです」
「なんてこった」
ニコラは作物や畜産に対しては冷血メイドであり、アレックスとてハムにされても不思議ではないと思っていた。しかし、どうやらそれは俺の思い違いだったようだ。
良かったな、アレックス。
「そんなことより、ワインの醸造をやってみたいのです」
ニコラの突然の提案に、俺は思わず顔を向けた。
「ワイン?」
ニコラが言うには、ローデシナ村には食料はあれど飲み物が水くらいしかなく、酒もほとんどないんだとか。
ハムやベーコンといったアテはあるのに酒はない状況か。
この家に住む者のほとんどは酒を飲まないが、帝国組のサーシャやナターリャは呑兵衛なので辛かろう。
そういえば、厳しい寒さをしのぐためにアルコールは必要だとクラウスもぼやいていた。
もしも余れば高値で売れるだろうし……ワイン造り、アリかもしれない。
「だけどワインなんて造れるのか?」
俺が疑問を呈すと、ニコラは胸を張る。
「フフフ、このニコラに任せてほしいのですよ!」
と、いうわけで家のみんなにクラウスと、冒険者ギルドの職員であるバストンを加えたメンバーでワイン製造に勤しむことになった。
村ではブドウが山ほど取れるが、ワイン造りのノウハウは辺境にまで伝わっていなかったらしい。
クラウスとバストンが話を聞くなり、家に大量に除梗された状態のブドウを持ってきてくれた。
バストンは俺の肩に手を置いて笑みを浮かべる。
「ふむ、同胞ドーマよ。今日ほど同胞を誇らしく思った日はない」
「そんなに!?」
どんだけ酒に飢えてたんだよ。
「これだけあればワイン風呂ができるわね……」
「まったくだ。ジュルリ」
サーシャとクラウスの目がイッている。
……早く作業を進めねば。いつの間にか周囲にヤバい酒好きが増えているのだ。
「今回造るのは黒ブドウを使った赤ワインなのです」
ニコラの言葉に、バストンとクラウスの二人は満足そうに頷いている。
「ふむ、なかなか乙だ」
「渋みがいいんだよな、渋みが」
二人はこう言っているが、酒をほとんど飲まない俺にはワインの違いがよくわからない。
自称ワインのお姉さんことサーシャに解説を請う。
彼女曰く、果汁や皮、種までブドウの全てを使うのが赤ワイン。果汁だけを利用するのが白ワイン。そのため赤ワインの方が渋みを感じられるらしい。
……またつまらぬ知識を得てしまった。
さて、そんなこんなでワインの製造が始まる。
まずは果実を砕いて果汁を抽出する破砕という作業からだ。
「全部魔術で潰しちゃっていいか?」
適当に魔術を放とうとしたら、「ま、待ちなさい!」と言われ、サーシャに肩を掴まれた。ふと周りを見ると、ワインおじさんことバストンとクラウスも俺を囲んでいる。
な、なんだこの異様な光景は……
「馬鹿野郎! ブドウは魔術で潰すんじゃねえ! 足で踏んで潰すんだよ!」
こんなに真剣に怒るクラウス、戦闘の時にも見たことないぞ。
「踏む?」
ニコラも俺と同じく不思議に思ったらしい。
「魔術で潰すのと何が違うのです? 魔術の方が早くて正確だと思うのです」
だがやれやれとばかりにサーシャが嘆息した。
「わかってないわね。これは『儀式』なのよ。ブドウを人の足で踏み潰すこと自体に意味があるの」
「でもなんか、ばっちくないか?」
「ばっちくないわよ!!」
サーシャが吠えた。
衛生的にどうなのかなぁって思っただけなんだけど……
プンプンしているサーシャに代わり、バストンが落ち着いた様子で説明してくれる。
「ふむ、同胞よ。何も全てのブドウを踏むわけではない。最初に一部のブドウを踏み、それでワインを造るのだ」
次いでクラウスが補足する。ワインおじさんズによる見事な連携プレー。
「そうだ。んでその完成品をブドウの神に祈りと感謝を込めて捧げるんだよ。それ以外は魔術で潰したブドウを使っても問題はないというわけだ」
神に感謝を示すためと言われてしまえば、効率化を極めし魔術師である俺も引き下がらざるを得ない。
俺以上に効率化を極めしメイドのニコラも渋々頷いた。
ちなみにノコやラウラはワインになど興味がないのか後ろの方で日向ぼっこしている。
俺もそっちに交ざりたい。
「ひとまずブドウを踏まなきゃいけないことはわかりました。じゃあ早速踏んでいいですか?」
俺の問いかけに今まで饒舌だったクラウスとバストンは急に口ごもる。
「う、まあそれがだな……」
「なんというか……まあ俺たちゃあ、一時間ぐらい散歩してくるからよ、その間に儀式を終わらしといてくれ」
そう言い残し、突然離脱するクラウスとバストン。意味がわからん。
だがハテナを浮かべる俺とニコラを放置して、サーシャはテキパキと大きな桶を用意し、そこにブドウの果実を敷き詰めた。
そして暇を持て余したラウラやノコ、ニコラを招集する。サーシャの手には真っ白のワンピースが握られている。どうやら事前に『儀式』に備えて用意してきたものらしい。
『着替える場所を用意して』とサーシャに目で訴えられた俺が魔術で外部から見えない空間を用意すると、四人はそこで着替え始める。
しばらくすると、ワンピースを纏った四人が出てきた。
「サーシャ、俺もブドウを潰すの手伝おうか?」
「要らないわ」
あっさりと用なしの烙印を押されてしまった。
俺も散歩に行けばよかったぜ!
すると側で静かに様子を眺めていたナターリャが、俺に一冊の本を渡してきた。
『ゴブリンでもわかる! ワイン製造!』
おちょくったタイトルだがノケモノにされるのも癪なので、読み込むことにする。
本の冒頭のページに神に奉納するワインに関する情報が載っていた。
どれどれ……
最初の儀式では穢れなき処女の足で果実の破砕を行い、それで造ったワインを納める。
処女の足で踏まれることでワインが純潔さと聖性を持ち、美味しくなるためである、と。
なるほど、そんな意味があったのかー。
どうやらブドウの神はユニコーンだったらしい。
などと俺が失礼なことを考えている間に、四人はブドウ踏みを開始していた。
「……ひゃっ、結構冷たいわね」と、どこか楽しそうに驚きの声を上げるサーシャ。
「んっ……ごつごつする」と口にしつつも、いつも通りの無表情でぶどうを潰すラウラ。
「ベタベタしてて気持ち悪いのです」と言いながら、嫌そうな顔で小さく足を動かすニコラ。
「ブドウ如きがキノコの上に立とうなど百年早いです」と偉そうにしているノコ。
そんなふうにキャッキャしながら四人がブドウを踏んでいる側で、俺はいたたまれない気持ちに襲われていた。
なるほど、今ならばワインおじさんズが離脱したワケもわかる。
若い女性が白の衣装を身に纏い、素足で赤いブドウを踏み潰す様は白と赤の対比が美しく、確かに華やかだ。
だがなんだろうか、この謎のいかがわしさは……
俺は結局イフと散歩に出かけた。
途中でクラウスやバストンと合流したので、一緒に魚を釣ることにする。
釣りは煩悩退散にちょうどいいからな。
「「釣りはいいぞ」」
ワインおじさんたちは、釣りおじさんと化していた。
しばらく釣りを堪能して家に戻ると、儀式はすでに終わっていた。
よし、ここからは力作業だ。俺も協力できるだろう。
そんなわけで、残りのブドウを魔術で砕く。
結構な量があったが、魔術を使えばあっという間だった。
そうして搾った果汁を巨大な木樽に入れ、工房で保管する。発酵させることで糖分をアルコールに変えるのだ。普通は一ヶ月以上の時間をかけて天然発酵させるのだが、今回はノコのキノコに含まれる酵母を使う。
キノコパワーは万能なのだ。
「しょうがないのでキノコの実力を見せてやります」
ノコをやる気にさせるため、俺はエールを送る。アルコールだけに。
「ヒュー! 流石ノコ!」
「人間さんうるさいです」
「はい」
ノコは文句を言いつつも、なんやかんや酵母を与えてくれた。
そうして出来上がった液体を、大きな樽に詰めて工房に運び込み、今日やることはとりあえず終了だ。
ワイン造りは初めてだったが、案外楽しかった。完成するのが楽しみだ。
二週間ほどが経った。
今日は仕上げの作業を行う予定だ。ワインを保管していた工房にサーシャとクラウスとともに入ると、芳醇なブドウの香りに加えて、アルコール特有のツンとした匂いが感じられる。定期的に撹拌させていたこともあり、ワインは上手く発酵しているようだ。
サーシャとクラウスはその香りに頬を緩めている。ちなみに二人はこれから俺がすることに興味があってついてきたらしい。
俺は樽に近付き、上から覗き込む。
深い赤紫色をした液体は俺の知るワインそのもので、素人目には完成しているように見えた。
この状態でも皮や種を濾せば飲めなくはないが、まだ酸っぱいらしい。美味しいワインを造るにはここから木樽でさらに熟成させ、まろやかな味わいへと変化させる必要があるとのこと。
とはいえその前に皮や種を取り出す必要がある。
魔術を使ってそんな七面倒な作業を一瞬で終え、改めて果汁だけを樽に入れ直す。
ちなみに皮や種もさらに圧力をかけて搾る工程――圧搾を経れば、通常の赤ワインより渋みのあるフリーラン・ワインとかいうワインに変わるらしいが、一旦それは置いておこう。
さて、ようやく熟成の工程に入れる。
熟成にかかる期間はなんと二年以上。
ワイン製造は長い……待ってられるかあ!
ということで俺の魔術を使って、熟成の期間を短縮させることにした。
どうやら熟成において重要なのは、ゆっくりワインを酸化させることと、木樽の香りをワインに移すことらしい。
ならば空間魔術を用いて、短時間で同様の効果をワインに与えればいい。
「おいおい、空間魔術って最先端技術じゃないのか?」
俺が二人にこれから行う魔術の説明をすると、クラウスがそう質問してきた。
どうやらクラウスは魔術の歴史には疎いようだ。
「いや、かなり前の技術ですよ」
「ぜっっっっったい違うわ!」
サーシャとクラウスに何故か呆れられながらも、俺はワインに空間魔術を施していく。
これによって本来二年の工程は、二日に短縮されるのだ。
そうして二日後、とうとう自家製赤ワインが完成した。
クラウスとバストンはいち早く飲みたいのか、お昼から家に押しかけてきた。
完成祝いにと瓶詰めしたワインをクラウスとバストンに数本ずつ渡したのだが、数時間後には酔っ払った状態で次を買いに来た。そして今度はうちの庭で酒盛りを始めた。
「ふむ、これが『ドーマ・ワイン』か」
バストンの呟きにクラウスが頷く。
「間違いなく売れるな」
いつの間にか名前が決まっていたらしい。
ワインおじさんズのお墨付きだ。相当できはいいのだろう。
そんなことがありながらも日は暮れ、夕飯の時間。
俺もせっかくなので、ワインを嗜んでみる。
自家製だ。たとえ味が不味くても美味いと思えるに決まっている。
「…………これは!」
全然わからんッ!
そもそも俺はワインを飲んだことがなかった!
だがワインの本場、帝国出身のサーシャやナターリャが満足していたので、良しとしよう。
ラウラも飲みたがったが、匂いを嗅いだだけで寝てしまった。あまりに弱すぎる。
仕方がないのでラウラを寝室まで連行し、ベッドに寝かせる。
驚くほど軽いが、戦闘の時に見せる強靭な力はどこから湧いているのだろうか。
「……まって」
部屋を出ていこうとすると、ラウラがそう言って服の裾を掴んできた。
起きていたのか。
酔っ払っているのか頬は少し赤く、目はぼやーと虚ろだ。
「どうしたんだ?」
「もう少し、一緒にいて」
「……ああ」
その言葉を最後に、俺たち二人は口を閉じた。
薄暗い寝室で、無言の時間が流れる。何を考えているのかわからない彼女の瞳を長く見つめていると、吸い込まれてしまいそうだ。
薄桜色の髪はぴょこっと跳ね、長いまつげが瞬きの度に揺れる。
ラウラは儚くも美しい、新雪のような雰囲気を纏っている。
思わず髪を撫でると、ラウラは無言でにへらとはにかむ。
「…………もう眠たいんだろ」
「うん、おやすみ」
寝ぼけたような声で返事をすると、ラウラはそのままベッドに潜り込んだ。
部屋を出ると、妙な感覚がした。ラウラの笑顔が妙に脳裏に焼き付いている。
この感情は一体……?
自分で自分の感情がわからないなんて初めての経験だ。
結局、その日はあまり眠れなかった。
ワインの完成からさらに二週間が経った。
ここのところ、寒さが厳しくなってきており、冬が深まっているのを感じる。
森の動物たちは巣にこもり、氷が張るほど気温が下がる日も珍しくない。
そんな中、俺は知り合いを訪ねるべく、ローデシナの村を歩いていた。
ウチは冷暖房完備だからぬくぬくだが、村では毎年凍死者が出るらしく、グロッツォを中心とした若者衆がせっせと薪を集めている。
死人が出ても寝覚めが悪いので、先ほどラウラが伐採した木々を魔術でこっそり広場に積んでおいた。この冬を乗り切るには十分な量だろう。
「お、おい、この薪、一体誰の仕業だ……!?」
「大方予想はつくけどな……」
そんな風に言いながら、村人たちがこちらをチラチラと見てくる。
ギクリ。
視線から逃げるように移動すると、露店を出しているヨルベを見つけた。
ヨルベは普段は王国領にある都市、グルーデンで馬車商をしており、ローデシナにもちょくちょく顔を出している商人だ。ローデシナに来る際に馬車を出してもらったことがきっかけで知り合ったのである。
向こうも俺を見つけたようで「お、なんや久しぶりやなあ」なんて声をかけてくる。
ローデシナは物資が不足しているため、行商人は食料やら薪やら服やら……とにかく色々売りに来るのだ。
普段ならば村人はそんな行商人の元に祭りのように集う……のだが。
「……閑古鳥と仲良しみたいですね」
周囲を見渡すと、俺以外に人影は見当たらない。
ヨルベは恨めしそうに俺を睨んできた。
「誰のせいやと思ってるんや」
俺は心当たりがあるだけに「あはは……」と愛想笑いをするほかない。
冬に備え、薪以外の物資も山ほど村に用意したからなぁ……
しかし、ヨルベはふっと笑う。
「ま、誰かさんのおかげでアタシの懐はホカホカやからええんやけどな」
「あんなものが売れるんですか?」
実はヨルベが寄り付かなくなったら寂しいので、彼女が来る度に戦闘用魔導具だったり、治癒スクロールだったりを売っているのだ。大した性能ではないので二束三文にしかならないだろう――そう思っていたのだが。
「そろそろ家が建つで。それも王都の一等地にな」
「魔導具とかスクロールを売ったお金でですか? ははは、まさかぁ!」
「アタシはアンタが怖いわ」
ん? どういうことだ……ただ要らないものを処分しているだけだというのに。
よくわからんがまあ良い思いをしているようなら何よりか。
それよりも大事な用事がある。
「そうだ。また買ってもらいたいものがあるんですよ」
「なんや。お姉さんに見せてみぃ」
金の匂いを嗅ぎ取ったヨルベお姉さんに、先日造ったワインを一本手渡す。
するとヨルベは眉を寄せる。
「申し訳ないけどなあ、手造りワインは売れへんで。アタシにも商人としてのプライドはある。素人が作ったモノを流通させるわけにはいかへんのや」
「あ、そうなんですか。それは残念です」
肩を落としてヨルベからワインを回収しようとした、その時だった。
「待ってもらおうか」
声のした方を見て、ヨルベは驚愕の表情を浮かべた。
「ア、アンタは……!」
突如現れたのは、貫禄のある佇まいの男。
片手にワイン瓶を持ち、正装に身を包んだその姿を見て、ヨルベは叫ぶ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5,181
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。