時の番人〜現実と虚界を守りし者〜

胡蝶あやめ

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 深夜11時55分。もうすぐ深夜零時になろうとしているのに所々ある家の明かりが1つも消えていない。それもそのはず、この街は夜の深夜零時になると不思議な現象が起こる。

 それは、深夜零時になると街の中心にある大きな時計塔の鐘が鳴り響き、街全体へと響かせ鳴り終わると街は別世界へと何もかも変わってしまう。
 街の風景も街の人もみんな変わってしまう不思議な現象。

 街にある大きな時計塔は古いせいかもう何年も普段は鳴っていない。いや、鳴らない。
 なのに深夜零時になると街全体に響かせるほどの音を鳴らして鳴るのだ。

 そしてまもなく深夜零時になる。夜空から覗かせている月光が街全体を照らしている。
 きれいな光を浴びながら時計塔のところに一人の少女の姿がある。

 月光で少女の顔が見える。月光の光を浴びているのは、奈央わたしだった。
 私は一度、時計塔の時刻を見る。まもなく59分になる。時計塔の針が59分になった瞬間、私は瞳を閉じた。

 そして……ゴーン・ゴーンと鐘の音が鳴る。
 鐘がなった瞬間、私は時計塔の頂上にいた。まるで瞬間移動したみたいに。
 そしていつもの私と違う姿をした私がいる。

 先程もお伝えしたが、この街は不思議な現象で私は、いつもと違う奈央わたしがいた。
 ポニーテルにしていた黒髪が金色に変わり、肩より長いストリートに変わっている。白色のベレーボーをぷっくりと大きくした帽子をかぶり両腕には腕輪があり、眼鏡をかけていたはずの眼鏡の姿はどこもなく、黒の潤んだ瞳から青色へと変わっているの。

 時計塔の鐘が鳴り終わると私は右手を上げると右手の腕輪がキランと一瞬光、瞳をつぶり何か唱える。呪文というものだ。どんな呪文かは後ほど。
 呪文を唱え終わると右腕輪が強く光る。腕輪が強く光ると勝手に腕輪は右手から移動すると私の目の前で姿が変わっていく。杖と変わる。

 私が杖を掴むと杖を空へ向けたら星と月しか見えない夜空から突如、鍵穴が現れそこに私の杖を差し込んでガチャと鍵穴を開ける。鍵を開けると強い光が街全体を飲み込んでいく。一瞬で光が町を飲み込んだかと思うと光が消えたあとには、街が変わっている。
 飲み込まれた街はまるで見たこともない、不思議な世界と言ってもいいだろうか、街全体が変わっていた。

一瞬の出来事で街全体は不思議な世界へと変わっていた。そこはまるで、異世界・・・のように見えた。








 月光に照らされていた街は昼間の明るさに変わり、角ばった家や学校などの建物は消え、逆に植物に囲まれたものが多い。まるで熱帯林のようだ。

 この異世界のことを街の人達は『虚界きょかい』と呼んでいる。
 なぜ、街の人がそう呼んでいるのかというと街の人、全員には2つの記憶を持っているからだ。
 1つが現実である明け星市。2つ目がこの異世界の事である。
 この異世界は深夜零時と共に出来る異世界。まるで1つの境界線で別れている事からこの異世界を『虚界』と呼ぶようになったのかも知れない。

 しかし、この明け星市に住む街の人々は2つの記憶があっては混乱するのではと思うが、そうでもない。この虚界にいる時は現実の記憶は眠り欠けている。逆に言えば、現実の時は虚界の記憶が眠る。
 街の時計塔によって区別コントロールされているのだ。とても不思議な事といえる。

 『フィナさん、フィナさん!』

 遠くで私を呼ぶ声が聞こえ、私はその場で立ち止まり後ろを見たの。
 走ってくる少女を見つめる瞳は青色。髪は金色でコートを着て白い帽子を被っているのが私だ。
 虚界での名は倉沢奈央ではなく、フィナ・クーラーと呼ばれているの。

 2つの世界があると同時に私にも、もちろん街の人にも2つの名が存在しているの。
 これも現実と虚界での区別として使われているの。

 「どうしたの?」

 「ルルが……ルルがいないの。どこに行ったのか分からない。お願い、フィナさん。ルルを探して!」

 「確か……あなたの妹さんよね?」

 「はい。ルル、ルル・アーチです」

 「分かったわ」

 私は、左腕輪を左手から外すと呪文を唱えると左腕輪は一度、強く光って一冊の本へと変換したの。

 「時の本よ、ルル・アーチの居場所を教えよ」

 私が呪文を唱えると本は自動的にパラパラとページがめくり、そしてピタッと止まる。私は止まったページを見る。

 「ルルちゃんはこの先にある泉の近くにいるわ。一緒に行きましょう、ルイさん」

 「あっ、私の名前……」

 「妹さんを調べるついでに家族のデータが載っていたから」

 私が持っているこの本は、街の人のデータが載っているの。今の時間帯、虚界でのデータが。

 「行きましょう」

 「はい、お願いします!」

 今度は右腕輪を右手から外すとさっきと同じく呪文を唱える。

 「時の鍵よ。フィナ・クーラーの名にかけて真の姿を表せ!」

 右腕輪が光だし段々と真の姿へと変換していく。右腕輪の光が消えていくと、そこには1つの鍵が現れたの。長さは私の身長よりも高く、頂点には三日月の飾りがある。
 見た目は変わっている形をしているけど、ちゃんとした鍵なの。

 「これに捕まって。そして目を閉じてね」

 「はい」
 
 「時の鍵よ、ルル・アーチの元へ我々を導け」

 呪文を唱えると鍵を中心に大きな魔法陣が現れ、光を放つと一瞬にしてその場から違う場所へとテレポートした。

 「もう、目を開けても大丈夫」

 私の声に反応してルイさんが目を開ける。目を開けると目の前には、妹のルルさんがいたの。
 時の鍵の力で一瞬にして妹さんのいる場所にテレポートしたの。

 「お、お姉ちゃん!」

 「ルル!」

 「お姉ちゃん。どこにもいな……かったからルル、もう……うわぁーーん」

 「ごめんね、一人にして」

 「もう大丈夫ね」

 「ありがとうございます、フィナさん」

 「二人が出会えて良かったわ」

 「ありがとう、フィナお姉ちゃん!」

 私は二人にお礼を言われて『良かった』と言いながらニコリと微笑んでその場をあとにしたの。
 時の番人である私は、現実と虚界の両方の記憶が混乱しないように人々を見守り、そして監視役としての使命があるの。

 私は、虚界で起こった事件、困り事などを解決して町の人々が楽しく過ごせるように日々努力をしないといけないの。
 私は空を見た。ゴーン・ゴーンと鐘が鳴る音。
 これは朝が来たという知らせる鐘の音。

 そして……虚界の中に強い光が溢れ、街全体を包み込み、現実へと変換していく。変わり終わると私は時計塔のところを立っていた。
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