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海の夢
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吉村さんのベッドで、海の夢をみた。
階段を下りて、砂浜を海に向かって歩く吉村さんの後を追う。彼が着た服の背中に書かれた文字を読もうとする。それが文字であることはわかるのに、どうしても読めない。
こんなに明るい日なのに何故見えないんだ、と俺は焦る。
雲ひとつない青空に太陽の光が輝く晴天で、光が足りないわけはなく、目が見えていないのか、と不安になるが、海に視線を移せば、沖に立つ波までくっきりわかる。
吉村さん、と呼びかけると、彼は振り向く。片方の目から流れた涙が頬に流れている。
驚いて近づこうとするが、足が前に出ない。
「どうしたんですか」
吉村さんは答えなかった。
思慮深そうで、憂鬱そうな目の色ともの言いたげに薄く開いた唇。この人の顔を見たいと思ってもそんなにじっと見る機会もなかったなと俺は思う。
右目から、涙が次から次へと溢れるのは自然なことのようで、彼の表情は普段と変わらない。
もう一度、吉村さん、と呼ぼうとして目が覚めた。
隣に彼はいなかった。
枕の向こうに目をやると、ひどく年季の入った箪笥が、カーテンの隙間から射し込む光に照らされていた。
もう一度目を閉じると、風が吹き渡る広い空間の感覚がまだ周囲に感じられる。
波の音がしていた。子どもが遊ぶ声、潮の香り。靴が砂浜にめり込む感触まで鮮やかな夢。
現実の吉村さんは、時々右目を拳で拭う。その仕草には気づいていたが、昨夜、うつ伏せになって本を開いたまま目を擦っている時に尋ねると、
「疲れ目で涙が勝手に出る」
という答えだった。
「そんなことあるんですか?」
と俺が聞くと、吉村さんは本を閉じた。
「昔から。ドライアイとか前に医者に言われたけどよく知らん」
「そっちの目からだけってことですか?」
「視力も右が悪いから、なんかあるんだろ」
階段を下りて、砂浜を海に向かって歩く吉村さんの後を追う。彼が着た服の背中に書かれた文字を読もうとする。それが文字であることはわかるのに、どうしても読めない。
こんなに明るい日なのに何故見えないんだ、と俺は焦る。
雲ひとつない青空に太陽の光が輝く晴天で、光が足りないわけはなく、目が見えていないのか、と不安になるが、海に視線を移せば、沖に立つ波までくっきりわかる。
吉村さん、と呼びかけると、彼は振り向く。片方の目から流れた涙が頬に流れている。
驚いて近づこうとするが、足が前に出ない。
「どうしたんですか」
吉村さんは答えなかった。
思慮深そうで、憂鬱そうな目の色ともの言いたげに薄く開いた唇。この人の顔を見たいと思ってもそんなにじっと見る機会もなかったなと俺は思う。
右目から、涙が次から次へと溢れるのは自然なことのようで、彼の表情は普段と変わらない。
もう一度、吉村さん、と呼ぼうとして目が覚めた。
隣に彼はいなかった。
枕の向こうに目をやると、ひどく年季の入った箪笥が、カーテンの隙間から射し込む光に照らされていた。
もう一度目を閉じると、風が吹き渡る広い空間の感覚がまだ周囲に感じられる。
波の音がしていた。子どもが遊ぶ声、潮の香り。靴が砂浜にめり込む感触まで鮮やかな夢。
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「疲れ目で涙が勝手に出る」
という答えだった。
「そんなことあるんですか?」
と俺が聞くと、吉村さんは本を閉じた。
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