姥捨法

そろばん戦士

文字の大きさ
上 下
1 / 1

姥捨法

しおりを挟む
 いつまで経っても解決しない高齢者問題に皆が頭を抱えていた時、とある政治家が画期的な政策を打ち出した。その名も「姥捨法」。「姥捨特区」と呼ばれる壁で囲まれた街を造り、そこに一定以上の年齢になった高齢者を隔離するのだ。街の中はバリアフリーで生活に不便はないが、自分達のことは自分達でしなくてはいけない。もし脱走でもしようものなら厳重に処罰する。
 もちろん、残酷かつ非人道的だとして相当な批判があった。しかしこれ以外に方法も思いつかない。そして不安が残るもののこの法案は可決された。
 それからしばらくの月日が流れた。
「父さん……」
「そう泣くな、俊雄。来るべき時が来た、それだけのことだ。お前ももう立派な父親じゃないか。わしは、暖かい家族に囲まれて幸せな人生だったよ。ありがとう」
「じゃあ、あっちでも元気で」
「ああ。行ってくる」
 家族にはああやって強がったが、やはりいざ自分の身となると不安もある。特区の中はどうなっているのか想像もつかない。入口で手続きを済ませ、意を決して特区の中に足を踏み入れた。
 まず驚かされたのは、想像していたよりも普通の街だったことだ。それどころかむしろ道行く人々の顔には活気が見える。てっきり死ぬのを待つだけの辛気臭い場所だけだと思っていた。
「おっ、新入りかい?みんな最初は驚くんだよ。想像と違ったってな」
 通りすがりの男性が気さくに話しかけてきた。やはり高齢のようだが、活気に溢れているせいか若々しく見える。
「ええ、てっきりもっと暗い雰囲気の場所だと思っていました」
「はは、確かに初めはそうだったよ。だがな、ここでみんなで助け合いながら生活をする内に、不思議と充実感を感じるようになったんだよ。ここでは自分達でやらなきゃいけねえことが沢山ある。外の定年した後のだらだらした生活とは違う、張りのある毎日を送れるようになったんだ」
 男性は楽しそうに笑う。
「体が悪くなったら医者もいるし、分からないことがあったら教師もいる。みんなベテランだしな。ここでの暮らしで認知症が改善されたってやつもいるんだ。自分のやるべきことがあるってのは、やっぱいいもんだな」
 男性の話を聞いている内に、これからの人生に希望が出てきた。こんなところだったとはな。よし、自分だってやってやる。
「お、いい目になってきたな。まあ楽しくやろう。ここでの生活を楽しんで、盆の帰省の時に孫にでも話してやれよ」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3分で読める短編集【幸福な贈り物】

水夏
現代文学
最後の1行まで何が起こるか分からない。オチが痛快な短編集!

命の音が聴こえない

月森優月
現代文学
何も聞こえない。私の世界から音が消えた。 その理由が精神的なものだなんて、認めたくなかった。 「生きてる意味ってあるのかな」 心の中で声が聞こえる。それは本当に私の声なのだろうか。 心の奥に眠る、かすかな命の音。 その音に気付いた時、私の世界は少しずつ動き出す。 これは、何も聞こえない世界で足掻く少女の再生の物語。

とある短編集

小春かぜね
現代文学
短編を纏めた物です!

思うこと

奈月沙耶
現代文学
自慢じゃないけど、わたしの小さなころの夢は玉の輿に乗る事だった。幼稚園の七夕飾りの短冊に「金持ちの男の人とケッコンしてお金持ちになりたい」って書いて先生たちの度肝を抜いた。 そんな私が大人になって思うこと。 inspiredsong「想うこと……」椎名恵

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...