伝統

そろばん戦士

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伝統

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「あなた、もうそろそろお彼岸ですよ」
「そうか、ではお墓参りをするとするか。お前たち、こっちへおいで」
 父は二人の子供たちを呼ぶ。そして一家四人で、パソコンの前に座った。
 時は今より少し先の未来。人々は墓に対する問題に直面していた。相変わらずだが人口は増え続け、その分死ぬ。そうすると、墓を作らなければいけない。同じ墓に入る分にはまだいいのだが、いざこざがあって別々にしなければいけない時もある。そんなことになれば金はかかるし、土地だって無限にあるわけではない。やがて墓じまいするものも現れ、この文化はこのまま消えゆくかと思われた。
 だが、思わぬアイデアが出た。それは、墓をデジタル化してしまえばいいということだ。こうすれば場所は不要、費用もそれほど掛からない。墓を分けるのも簡単であり、個人ごとに作ることさえ出来てしまう。このアイデアは早速実用化され、各家庭のインターネットに標準搭載されることになった。
「さあお前たち並びなさい。おっと、随分汚れているな。もうちょっとこまめに参らなきゃダメだな」
 画面の中では、『佐藤家』と書かれた墓が3DCGで表示されている。だが、見るからに苔にまみれて汚れていた。これは墓参りを怠らせないようにするための工夫であり、長くほったらかしにしているとこのように汚れていってしまうのだ。父親は横のツールバーからブラシを選択し、墓を擦る。こうすることで少しずつ汚れが落ちていき、やがて元の綺麗な状態に戻った。
「今のを見たか。次からはお前たちがやるんだぞ」
「はあい」
 次はツールバーから線香を選び、火をつけて備える。そして家族で目を瞑り手を合わせ、拝む。やはり大事な部分は昔と変わらないのだ。
 一通りの手順が終わると、次は墓自体をクリックする。すると墓が開き、そこに収められている故人の写真を見ることが出来るのだ。これこそが一番の特徴。写真や動画だけではなく、生前に録音しておいた肉声、ホログラムで再現された全身像も見ることが出来る。今までの墓の役割を担いつつ、さらに進化した結果といえるだろう。
 父親はふと思う。様子は大きく変わったが、本質的なことは変わらず、むしろ昔より便利になった。つまるところ、伝統とはこういうことなのだ。人から人へ受け継がれ、その時代によって姿を変える。だが、大切なことだけはいつも変わらないのだ。
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