亡国の草笛

うらたきよひこ

文字の大きさ
上 下
148 / 236
第七章 盛夏の逃げ水

第百四十八話 盛夏の逃げ水(13)

しおりを挟む

(2章開幕です!短めですが……)


 隆人はティナの案内で長いこと過ごしてきた迷宮から遂に出ることに成功する。そしてその先に広がっていたのはまさに大都市といえるものであった。


「うわ、すごいなこれは……」
「どうですかリュート様、これが迷宮都市です」


 迷宮都市ディアラ、それはグランザム連合王国に位置する都市であり、その地下に広がる迷宮によって栄えている。 
 その迷宮ーー大迷宮ディアラはその世界でも最大規模の迷宮でありその底は見えず、一説には世界の果てに続いているのではないかとも言われる程の魔境である。


 その一方で今なお数多くの冒険者達にとっての憧れの場であり毎日多くの冒険者が迷宮にもぐる。
 そしてその冒険者を相手にする商店や宿ができ、それが村になりやがて街になった。


 現在その規模は王国の都市でも最大クラスにまでなっており、迷宮を中心とした半径2キロの円状の都市に数万人がひしめきあっている。


 ちなみに、世界には他にもいくつか迷宮都市があるが、その全てが元となった迷宮の名称をそのまま都市の名称としている。


「予想以上に大きいね、これは驚いたな」
「迷宮から見て北が貴族区、東が商業区、南側の一部が行政区で、南側の残りと西側が住居区になっているんですよ」


 この都市に始めてきた隆人に、ある意味先輩と言えるティナが迷宮都市の構造を教えてくれる。


 ちなみに、今更だがこの世界には貴族が存在する。この王国にいるのは官僚として政治的な立場を持つ法衣貴族と、自分達の領地を持ちそこを管理している領地貴族の二種類が存在する。と、この辺の話はおいおい出てくるとして、この迷宮都市も貴族の領地である。
 そしてこの規模の都市をまかされる程の貴族となると派閥を持っており、その派閥内の貴族達の別邸と呼べるものがあるのが、先の貴族区なのである。
 街の北側にあるが基本的に一般市民はほとんど近づかない場所でもある。


「先ずはギルド……冒険者ギルドに行きましょう!私の帰還報告とリュート様もこの都市に滞在するのであれば登録しておいた方がいいですし」
「そうだね、しばらくはここを拠点にするだろうし身分がないのは色々不便そうだ」
「冒険者ギルドはすぐそこにあります、場所としては商業区になりますね」


 一応冒険者ギルドは政府とは独立した組織であり、街の商業区に存在することが多い。


 迷宮の出口から商業区の方面に進むこと数分、隆人達は冒険者ギルドに着いた。周辺と比べて一際大きな建物で横には厩舎のようなものもある。
 ティナは慣れた足取りでギルドの中に入っていき、隆人もそれに着いていくようにギルドに入った。


「広いね、そして……うぅん……」
「どうしたのですか?リュート様」
「いや、テンプレだなって思ってね」
「てんぷれ?何のことでしょう?」
「……なんでもないよ」


 冒険者ギルドの中は一言で言えば「予想通り」であった。入って右側に受付のようなところが何列かあり、そこに何人かの冒険者が列を作っている。そして左側は酒場のようになっていた。アルコールが入った冒険者達が騒いでいる。
 まさにテンプレ、小説やゲームの中にある冒険者ギルドのイメージそのものだった。


「ではリュート様、受付の列に並びましょうか。冒険者登録は受付で申請すればできますよ」
「ありがとう、助かるよ。にしてもなんか騒がしくないか?」


 たしかに、ギルドの中の様子は忙しないといったものである。職員達もあたふたと動き回っているし、冒険者達も忙しそうに準備している。


「ねぇ君、何かあったのかい?」
「なんだお前知らないのか?下層にAランクの魔物が出たらしい!さっき下層探索中のパーティが一つ壊滅状況で帰ってきて、ギルドに着くなり大声で報告してきたんだよ。今緊急の討伐隊の招集やらなんやらでギルドは大騒ぎさ」


 隆人はその場にいた冒険者1人に話を聞く。それによると迷宮で問題が起き、ギルドはその対処に追われているということらしい。
 そして隆人達にとってこの話は聞き覚えなんてものではない。「下層」「Aランクの魔物」という単語で大体の予想がついた。


「ねぇ、そのAランクの魔物ってもしかしてサイクロプスじゃない?」
「なんだ知ってるじゃないか、そうだよ35階層にサイクロプスが出たんだ、DかCランクまでしかいないはずの下層でAランクなんて前代未聞の大事件だよ!」
「…………リュート様」
「うん、多分……ね」


 そこまで聞いて隆人達は納得した。ここで騒ぎになっているAランクの魔物は十中八九アイツサイクロプスだろう。


「これは、思った以上に大騒ぎになっちゃったんですね……。早く報告しないと手遅れになりそうです」
「俺の冒険者登録は後回しだね」


 早くサイクロプスの討伐報告をしないとと受付に並ぶーーわけもなく、緊急用にすぐ横に準備されている別受付の方に向かう。


「すいません!緊急の報告なんですけど!」
「……どうしました?」


 ティナの声にギルドの中から人が出てくる。ティナがサイクロプスの討伐についての報告をする。


「ーーというわけで、サイクロプスについては討伐完了しました」
「わかりました。一応確認は必要ですが警戒レベルは下げても良さそうですね」


 とりあえず一通りの説明を終え、ひと段落と思ったところで……


「ティナちゃん!無事だったんだね!」


 そんな声と共に男4人組のパーティが近づいてくる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...