【R18】逆上がりの夏の空

藤原紫音

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第22話「お母さんが外泊すること」

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 木曜日、午後。

 ぼくと亜香里はマンションの前で、帰宅するお母さんを迎える。タクシーで帰ってきたお母さんは、最初に入院したときとおなじようなベージュのワンピース姿だった。ぼくはその姿をみただけで泣きそうになって目を逸らす。亜香里が天真爛漫に話しかける。

 マンションの部屋に入ると、リビングに通じる和室に荷物を置く。ぼくは普段つけないテレビをつける。亜香里が冷蔵庫からミントのミネラルウォーターを出す。

「お部屋、綺麗にしてるね」
 お母さんが珍しく褒める。男子校の厳しい寮生活で、部屋の片付け、洗濯、掃除、生活に関わる規律を身に着けた。ベッドのシーツは午前中に洗濯して、マットレスはベランダで干している。
「毎日掃除してるよ」
「乃蒼くん、亜香里ちゃんと仲良くしてるの?」
 お母さんが訊く。
「うん、ぼくたち仲良しだよ」
「朝は一緒に登校してる?」
「ピアノ教室は送りだけで、帰りはじぶんで帰ってくることが多いけど」
「まあ、お迎えもしてあげて」
「そうしたいけど、時間がバラバラでいつ終わるかわからないもん。スマホがほしいよ」
「お父さんに買ってもらいなさいよ。安いのあるでしょ」
「パソコン買ってもらったばかりだし……」
「普段、お母さん家にいられないから、もうスマホぐらいは持っておいた方がいいよ」

 スマホを買ってもらえるならちょっと嬉しい。スマホを持っている絵里衣たちと連絡が取れるし、菱田梨衣菜が共有する動画もカジュアルに観られるし、露杏奈とのセックスを撮影できる。
 今日、露杏奈は朝方自宅に帰った。お母さんが帰ってくるまで居てほしかったのだけど、「この次ね」と言ってキスされた。露杏奈とお母さんは一度病室で会っただけだ。
「美咲叔母さんは来てる?」
「夏休みになってから、叔母さん仕事が忙しくてあんまり来られないんだって。先週、蜜柑持って来たよ」
「ご飯はちゃんと食べてる?」
「お父さんがネットスーパーで惣菜買ったりできるようにしてくれたから、困ってないよ」
「お父さんは何時頃帰ってくるのかねぇ」
「もう戻ってる予定だけど、また飛行機遅れてるのかも」
 ちょうどそのとき、玄関の電子錠が開く音がして、お父さんが帰宅する。ベージュのジャケットを着て黒い革のリュックを背負って、廊下の途中で立ち止まって靴下を脱ぐ。ただいま、と言う。亜香里が早速「お父さん、スマホ買って」と言う。

 * * *

 ぼくたちは夕方、タクシーで料亭に食事に行く。

 亜香里と一緒に座敷の前の廊下を歩いて、庭の向こうに見えるお寺のお堂を覗き込む。蒸し暑い日だったけれど、楓の葉に覆われた庭は涼しい。鹿威ししおどしに流れる水の音しか聞こえない。瓢箪型の池があって、錦鯉が泳いでいる。

「お母さんって、退院できるの?」
 亜香里がぼくに訊く。
「まだ退院できないよ。今日は一時帰宅だって」
「良くなってきているの?」
「そうだね、良くなってるね」
「お母さんが退院したら、あたしお母さんと一緒に寝たい」
「いいよ」
 亜香里が背伸びして、ぼくの耳元で囁く。
「家でエッチできなくなるね」

 くすくす笑って、座敷に戻る。お父さんとお母さんが美咲叔母さんのことを話している。料理が運ばれてくる。前菜は焼き茄子、そしてお刺身の盛り合わせ、サーモン炙り焼き、合鴨のロース、白身魚の南蛮漬け、枝豆、佃煮、天麩羅。亜香里がぼくの天麩羅を奪って、佃煮を押し付ける。

「お友達の亮二くん、大政中学を受験するんだって」
 お母さんが言う。初めて聞いた。
「亮二が?」
「亮二くんのお母さんが、今から受験の準備だって慌ててたのよ」
 ぼくが過去に戻ってくる前、亮二は他のみんなと一緒に近くの市立中学に進学したはずだ。あまり関わっていない亮二の運命まで変わり始めている。亮二の成績はぼくと同じくらいだから、多分受かるだろう。そして、あの男子しか存在しない鉛色の春を迎えることになる。亮二ともっと仲が良ければ、考え直すようにアドバイスするのだけど、そこまで親しくない。

「乃蒼くんは受験しないの?」
「しないよ、普通の中学がいい」
「大政中学は私立の有名校だから、普通の学校よりちゃんとしてるよ」
「全寮制の男子校なんて、性格歪んじゃうよ」
 はっきり断る。無理矢理受験させられても、わざと落ちる。ぼくを大政中学に入学させることはできない。
「女の子いないのが厭なの?」
「今の友達と別れるのが厭」
「お兄ちゃん、女子の友達いっぱいいるんだよ」
 亜香里が話題を逸してくれる。
「そうなの?」
「意外とモテるんだよ。露杏奈ちゃんも家に遊びに来るし」
「露杏奈ちゃんって、あのお見舞いにきてくれたモデルの子?」
「そうそう、夏休みになってから、毎日遊びに来るよ」
「まあ、女の子と何して遊ぶの?」
 もはや日常と化した乱交を思い浮かべて、冷や汗が出る。昨夜も一晩中、露杏奈に包まれていた。

 食事の後、ぼくたちは写真館に行く。写真館の中判カメラで家族写真を撮影する。
 撮影後に現像室に入って、複数枚撮影した写真から、六つ切りにして台紙に入れるものを選ぶ。亜香里がふざけた表情をしているものが多い。お澄まししている写真を選ぶ。

 写真館を出て、ぼくたちはマンションには帰らず、駅前のホテルに泊まる。お父さんとお母さんは角の二人部屋に、ぼくと亜香里は斜向かいの二人部屋。どこも混んでいて、大部屋が取れなかったのだとお父さんが言い訳する。
 ぼくと亜香里はお父さんとお母さんの部屋に入り浸って、テレビをつけてコンビニで買ってきたお菓子を食べながら、お父さんのパソコンでスマホを選ぶ。

「スマホ、なんでもいいの?」
 亜香里が訊く。
「なんでもよくは無いよ。安いのにしろ、これとか」
 お父さんが機種代無料のやつを指差す。こういうのは大体フリックの反応が悪い。ぼくと亜香里はあれこれ相談して、型落ちのちょっといいやつを選ぶ。

 久しぶりに帰国したお父さんよりも、お母さんの方がよく喋る。亜香里が仲良しになった唯や陽菜、莉緒菜のことをべらべら喋るから、ぼくは冷や汗をかいて口数が減る。セックスばかりしているから忘れていたけれど、唯と陽菜は同じバレエ教室に通っていて、亜香里がピアノを弾きに行くことがある。莉緒菜は妹がいて、お互いいろいろな髪型を作って登校する。家に遊びに来るときも、サイドの編み込みを後ろで輪っかにしたり、とても複雑な髪型にしている。亜香里がぼくに跨ってセックスしている間に、亜香里の長い髪を莉緒菜がハーフアップにしてくれて、ぼくは女の子が女の子の髪を作っている姿にひどく欲情した。そういう肌色の想い出ばかりが瞼に浮かぶ。

 夜更け、ぼくと亜香里は自分たちの部屋に戻り、一緒にシャワーを浴びる。
 ボディソープで泡だらけになる。浴室の壁に亜香里を押し付けて、後ろから挿入する。痩せてあばらの浮いた胸を撫でて、乳首を摘む。夢中でピストンすると、セックスのぬちゃぬちゃが狭い浴室によく響く。亜香里が後ろに手を回して、結合に触れる。
「あ……お兄ちゃ……カタぃ」
「今日、朝からずっと我慢してるから、はーっ、きもちいい」
「お兄ちゃん、一日我慢……できないよね」

 亜香里を突きながら、シャワーを出す。泡を洗い流す。つながったまま髪を洗う。洗い流す。おちんちんを引き抜いて、突き挿す。抜いて、挿れる。なんかいも抜き挿しして、挿入の快感を楽しむ。亜香里はお尻を突き出して、とろけるような声を漏らす。
 一緒に身体を拭いて、寝室に戻る。ベッドの上で再びひとつになる。仰向けの亜香里を無心で突く。亜香里はぼくを見つめたまま、ぼくの乳首を指先で愛撫する。脇腹やわき、首筋にも指を滑らせる。肌がざわざわと粟立あわだつ。お互い声を堪える。

「梨衣菜さんの動画、あれ……絶対、どこかで売ってそう」
「そう……なの?」
「趣味って言ってるけど……、あっ、あっ、あっ、て……手間かけすぎだよ。指示も細かいし」
「売ったら、捕まるよ。ぼくたち、小学生だし」
「ね、ヤバイよね……。あたしは、お兄ちゃんとの、えっ……エッチ、あん、観られても、平気だけど」
「恥ずかしくない?」
「恥ずかしい方が……きっ、あっ、あっ、いっ、きもち……いいじゃん」
「そうなんだ……」
「露杏奈ちゃんも、観られるの……す、あっ、好きって言ってたし」
 亜香里は自分の両脚に細い腕を巻きつけて、肩まで膝を持ち上げる。ぼくは上体を起こして、結合に目を落としてピストンする。性器だけがにゅるにゅる密着して、得も言われぬ快感が染み渡る。亜香里が膝を曲げて、足指の先でぼくの乳首に触れる。

 かつて童貞だったぼくが想像していたセックスは、もっとつるんとしてシンプルで重さのない非日常的なものだったけれど、現実ははるかに複雑でぬるぬるしてびしょ濡れで、味も匂いもある日常的なものだった。おちんちんだけでなく、からだじゅうあらゆるところがきもちよくて、濡れた音も甘い声もすべてが快感に直結する。絵里衣と玲蘭に乳首を吸われるまで、乳首がこんなに敏感できもちいいとは知らなかったし、女の子がこんなに積極的に求めるとも思わなかったし、なによりこんなに長時間楽しめるものだとは知らなかった。ぼくも女の子も、なんかい絶頂しても満たされず、夏休みに入ってからは体力の続く限りセックスに没頭した。

「音……すごいね」
 亜香里がそう呟いて笑う。ぼくたちの結合から、ぬちゃぬちゃ、ぶちゃぶちゃ、セックスでしか立たない音が響く。
「エッチだね……」
「お兄ちゃんのちんぽが、おっきいから、あっ、いっ、イクっ」
 亜香里が身体を縮めて痙攣する。膣がぼくを呑み込むように蠕動する。ぼくは動きを止めて射精を堪える。ホテルのシーツを汚したくない。我慢するのは得意。なんども射精の危機を乗り切ると、身体が慣れて快感だけを享受できる。じっとしていても、いや、むしろじっとしている方が、女の子の膣感をじっくり堪能できる。

「おっきいから?」
「普通……股間がぶつかって、パンパン鳴るでしょ。お兄ちゃんは、おっきいから……」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「あたしだって、エッチな動画くらいみるもん。色々みたけど、お兄ちゃんよりおっきい人、いないよ」
「おっきすぎるよね、ごめんね」
「おっきいの……好き。奥に当たるもん」
「奥がきもちいいの?」
「うん、堪らない」

 ぼくは再び亜香里を突き始める。亜香里は両手でぼくの胸を撫でる。指の腹が乳首を弾いて、ぼくは肩を震わせる。亜香里より甘い声が漏れる。
「お母さん、いつ退院できるの?」
 ぼくは言葉に詰まる。亜香里はぼくのお母さんと血の繋がりはないのに、ぼくよりお母さんのことが好きだ。亜香里はお母さんが死んでしまうことを、まだしらない。
「今年中には退院できるといいね」
「ウフフ……それまで、いっぱいエッチしようね」
 亜香里はぼくの肩に腕を回して引き寄せる。キスをする。甘い、お菓子のような匂いがする。ぼくは夢中で亜香里を突き下ろす。亜香里が両脚をぼくの腰に巻き付けて、ぎゅっと引き寄せる。我慢できず、ぼくは亜香里の胎内に思いっ切り噴射する。
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