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第15話「露杏奈が口を聞いてくれなくなること」
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週明け、隣の露杏奈はとうとう一切ぼくの方を見なくなった。喋ることもなくなった。
授業中の一分一秒が肌の痛みのように感じられる。ぼくは上の空で梅津先生の話を聞き流す。目を閉じると、陽菜と亜香里の裸体が瞼に浮かぶ。絵里衣と玲蘭のぬるぬるした愛撫を思い出す。そうやって辛い時間をやり過ごす。
ふと目を開けると、露杏奈の美しい横顔が視界に入って、胸が締めつけられる。
お昼休みになるとふらりと独りで教室を出て、唯と莉緒菜、陽菜の三人と、空き教室で合流する。もともと六年四組という今は存在しないクラスが使っていた教室には鍵がかかっていて、ぼくたちは予め開けておいた窓から侵入し、内側から鍵をかける。
いくつもある空き教室の中からこの部屋を選んだのは、壊れた備品の保管庫に使われていたから。動かない時計、折れた大型コンパス、破れた黒板消し、金具が錆びた平均台、そういうものの中に、走り幅跳びで使う深い体育マットがあって、ぼくたちはその上で裸になってセックスする。
陽菜と莉緒菜がぼくの胸に舌を滑らせ、唯がぼくのおちんちんを咥える。誰もいない教室に、ちゅるちゅる、ぴちゃぴちゃと三人の愛撫の音が響く。唯が喉の奥までずるりと呑み込んで、陽菜と莉緒菜の舌が脇腹から乳首に滑って、肌がぶわっと粟立つ。
「乃蒼くん、授業中なに考えてるの?」
莉緒菜が訊く。
「え、なんで?」
「だって、ずっと眼閉じてるじゃん。寝てる感じじゃないし」
「それは……」
「露杏奈のことが、気になる?」
唯がおちんちんから口を離して核心を突く。おちんちんにベビーオイルを垂らす。ぼくを跨いで、おちんちんを割れ目に押し当てる。濡れた割れ目が開いて、みちみちみちと巨根を呑み込んでいく。きもちよくて涙が滲む。
「気になるけど……もう諦めたから」
「どうして?」
「今と、露杏奈のどちらかを選ぶなら、ぼくは……今のままがいい」
つっちょ、つっちょ、と唯が丁寧にピストンを始める。
陽菜が舌を乳首に強く押し付けて、ぬるぬるマッサージして、莉緒菜が乳首をちゅっかちゅっかと吸い上げる。ぼくは二人を抱いて胸を張り、唯のリズムに合わせて腰を上下させる。
「乱交の方がきもちいいもんね」と陽菜が言う。
「いけないことかもしれないけど……こんなにきもちいいこと、生きてる間に経験できるなんて、あーっ、普通は、ないと、おもうから……」
「あたしたちも、乃蒼くん以外とはヤだよ。乃蒼くんだからするの」
「ぼくだから……エッチしてくれるの?」
「ねえ、袴田くんとは? 梨央くんも良くない?」
莉緒菜が訊く。
「あー、あの子も乃蒼くんと同じ匂いがするね」と陽菜。
「匂いって?」
「フェロモンっていうか、エッチしたくなる匂いがする。ふたりとも顔可愛いのに、エロいイメージしかないよ。乃蒼くんは、エッチするたびに匂いが強くなる感じ。腋とか、首筋とか、すーっ、はーっ、あーたまんない」
陽菜がぼくの腋に鼻をおしつけて深呼吸する。莉緒菜もぼくの首筋に鼻を埋める。唯が後ろに身体を反って、ぼくの膝に手をついて腰だけをつちゃつちゃと上下させる。
「ぼくって……臭いの?」
「アハハ、違うよ、いい匂い、めちゃくちゃエロい匂い。他の男の子でこういう匂いって嗅いだことないから、なんて言っていいかわからないけど」
陽菜がぼくの腋を舐めながら言う。
匂いのことは亜香里にも言われた覚えがある。
夜中、ぼくのベッドに仰向けの亜香里に覆いかぶさって、体力が尽きるまでずっと突き続ける最中、亜香里はぼくの乳首を摘んで、お兄ちゃんとてもいい匂いがする、セックスの匂いがする、と囁いた。
「あーっ、乃蒼くん、いく……いっ、あっ、あっ、あっ、あえっ、ひっ、いっ……」
唯が声を絞り出して、身体を折ってぼくの胸に頬をおしつける。陽菜が唯とくちゃくちゃ舌を絡め合う。一分以上続く恍惚のじかん。ぼくは莉緒菜とキスをして、露杏奈のことを思い出さないように努める。集中が途切れると、露杏奈の優しいまなざしが浮かんでくる。彼女の好意を踏みにじったのはぼくの方なのに、そのイメージを振り払うことができない。
唯が身体を起こして、ぼくも起き上がる。陽菜と莉緒菜が横向きに抱き合って、脚と腕を絡め合い、にゅるにゅるとキスをする。女の子どうしのキスは柔らかそうで羨ましい。
唯がおちんちんにオイルを垂らす。ぼくは莉緒菜におちんちんを挿れる。子宮を数度突き上げて、おちんちんを引き抜く。今度は陽菜に挿れる。腰を横軸に回転させて、陽菜の膣内をかき混ぜる。引き抜く。また莉緒菜に挿れる。抜く。陽菜に挿れる。抜く。莉緒菜に挿れる。陽菜に挿れる。交互に滅多挿しにして、二人の膣を味比べする。唯はこの行為を利き膣と呼ぶ。ぼくより女の子の方がずっと卑猥な言葉をしっている。
「乃蒼くん家って、お母さん帰ってこないの?」
唯が素朴に質問する。
* * *
日曜日の午前中、ぼくと亜香里はお母さんの入院している病院にお見舞いに行った。
時を遡る前は、月に一回くらいしかお見舞いに行かなかったのに、ぼくは毎週末お見舞いに訪れる。阿佐ヶ谷のあの長い商店街でお菓子や果物、お母さんが欲しいと言ったものを探して買ってくる。その日は高級な桃をカゴいっぱいに買ってきて、お母さんが皮を剥いて切ってくれる。
「美咲叔母さんは見に来てくれてる?」とお母さんが訊く。
「うん、来てくれるよ」
ぼくのマンションには美咲叔母さんが隔週木曜日に様子を見に来てくれる。ぼくたちはネットスーパーで食べるものや日用品を買っているからあんまり困っていないのだけど、定期的に大人が様子を見に来てくれないと、お母さんは安心しない。美咲叔母さんは美味しいお菓子を買ってきてくれて、お茶を淹れて一緒に食べて少しお喋りしたらすぐに帰ってしまう。
妹は窓から線路と商店を眺める。七夕祭りの飾りが風に揺れる。その日は猛暑日で、アスファルトに照りつける日差しが反射して窓から差し込み、病室の天井も照らす。
「ねえ、お母さん。仮の話だけど、もし好きな子ができて、その子に嫌われてしまったら、どうすればいいの?」
「好きな子ができたの?」
「ううん、違うけど……。本で読んだ話」
「乃蒼は、どうすればいいと思う?」
「うーん、もう一度、想いを伝えればいいのかな」
「それもわかるけど、嫌われた原因があるんだよね」
「うん」
「その原因と向き合わないと……。ただ、好きだ好きだ、では女の子は振り向いてくれないよ」
露杏奈はぼくが唯たちと乱交しているのを目撃して、ぼくに対して抱いていた好意が揺らいだことは間違いないけれど、決定的にぼくを嫌ったのは、ぼくがその乱交に露杏奈を誘ったからだ。いや、正確には、露杏奈がぼくに誘わせた。あれは乗ってはいけない罠だった。
やりたいだけでしょ。あたしは誰かの大切なひとになりたいの、その他大勢の女は厭。
少し考えればそんなこと当たり前だし、わかりきったことなのに、ぼくの心に妙な引っかかりがある。きっと、唯や絵里衣たちのせいだ。ぼくを快楽の坩堝に陥れ、判断を曇らせた。あの子たちは、普通の女の子とは少し違う。
ぼくがぼく自身に抱いている自己のイメージをまったく見ようとせず、表面的なぼくの身体とセックスだけに着目する。だから、奥手で臆病だったぼくは、一ヶ月ちょっとの間に別人のようにオープンでエロい男子になってしまった。今日の午後、絵里衣たちが訪れて、また昨日のようにセックスすることを心底楽しみにしている。
「お母さんは、お父さんのことが……いまのお父さんのことが嫌いになったりしないの?」
「お父さんのことを嫌いになったりしないよ」
「前のお父さんは?」
「あなたのお父さんは一人だけですよ」
お母さんは、ぼくのほんとうのお父さんについて話すことを避ける。ぼくは私生児として生まれているから、ほんとうのお父さんのことを知らない。
「お兄、みて、今日は七夕祭りみたい」
亜香里が窓の外を指差す。
窓に近づくと、浴衣や法被を着た人たちが駅の方へ歩いていく。多分、商店街の七夕まつり。今日は中杉通りを歩いてきたからわからなかったけれど、毎年商店街の店外にいろいろなキャラクターのハリボテが下がって、賑やかな祭りが催される。
「お祭り行っておいで、お母さん少し眠るから」
お母さんがぼくと亜香里にお小遣いをくれる。お父さんからも貰っているからいらないのだけど、ぼくたちは受け取る。ぼくは「また来るね」と言って、亜香里の手を取って病室を後にする。病院を出るたびに、あと何回お母さんに会えるかカウントする。
* * *
お昼休み明け、掃除の時間にぼくは教室を掃き掃除しながら、露杏奈に話しかけようとする。
「ねえ、露杏奈ちゃん」
ぼくが声をかけてもあっちを向いたまま。もう一度声をかける。
「露杏奈ちゃん」
「話しかけないで」
ぼくの方を見ずにそう言って離れていく。
唯がぼくの袖を引いて窓際に連れてくる。ぼくは教室に背を向けて、唯はぼくの股間を触る。勃起したままのおちんちんは、ショートパンツを飛び出てシャツの中へ反り返る。
「今は無理だよ、もうちょっと時間置かなきゃ」と唯が言う。
「でも、夏休みになっちゃうよ」
「あたしたちがセックスしてるってことに慣れるまで、そっとしておかないと」
「慣れるまで?」
唯はシャツに手を挿れて、おちんちんに直に触れる。
「乃蒼くんってそういう子なんだって、今はショック受けてるけど、慣れればそういう前提で話ができるでしょ。そこからが勝負だよ」
「どういう勝負?」
「だから、乃蒼くんがめっちゃヤリまくってる男の子だって理解して、そういう子って思って接するようになれば、絶対露杏奈ちゃん、乱交に興味持つよ」
ぼくは窓に映る露杏奈の後ろ姿に目をやる。あれだけ決定的にぼくを嫌った彼女が、時間が経てば振り返ってくれるなんて、今はとても想像できない。
授業中の一分一秒が肌の痛みのように感じられる。ぼくは上の空で梅津先生の話を聞き流す。目を閉じると、陽菜と亜香里の裸体が瞼に浮かぶ。絵里衣と玲蘭のぬるぬるした愛撫を思い出す。そうやって辛い時間をやり過ごす。
ふと目を開けると、露杏奈の美しい横顔が視界に入って、胸が締めつけられる。
お昼休みになるとふらりと独りで教室を出て、唯と莉緒菜、陽菜の三人と、空き教室で合流する。もともと六年四組という今は存在しないクラスが使っていた教室には鍵がかかっていて、ぼくたちは予め開けておいた窓から侵入し、内側から鍵をかける。
いくつもある空き教室の中からこの部屋を選んだのは、壊れた備品の保管庫に使われていたから。動かない時計、折れた大型コンパス、破れた黒板消し、金具が錆びた平均台、そういうものの中に、走り幅跳びで使う深い体育マットがあって、ぼくたちはその上で裸になってセックスする。
陽菜と莉緒菜がぼくの胸に舌を滑らせ、唯がぼくのおちんちんを咥える。誰もいない教室に、ちゅるちゅる、ぴちゃぴちゃと三人の愛撫の音が響く。唯が喉の奥までずるりと呑み込んで、陽菜と莉緒菜の舌が脇腹から乳首に滑って、肌がぶわっと粟立つ。
「乃蒼くん、授業中なに考えてるの?」
莉緒菜が訊く。
「え、なんで?」
「だって、ずっと眼閉じてるじゃん。寝てる感じじゃないし」
「それは……」
「露杏奈のことが、気になる?」
唯がおちんちんから口を離して核心を突く。おちんちんにベビーオイルを垂らす。ぼくを跨いで、おちんちんを割れ目に押し当てる。濡れた割れ目が開いて、みちみちみちと巨根を呑み込んでいく。きもちよくて涙が滲む。
「気になるけど……もう諦めたから」
「どうして?」
「今と、露杏奈のどちらかを選ぶなら、ぼくは……今のままがいい」
つっちょ、つっちょ、と唯が丁寧にピストンを始める。
陽菜が舌を乳首に強く押し付けて、ぬるぬるマッサージして、莉緒菜が乳首をちゅっかちゅっかと吸い上げる。ぼくは二人を抱いて胸を張り、唯のリズムに合わせて腰を上下させる。
「乱交の方がきもちいいもんね」と陽菜が言う。
「いけないことかもしれないけど……こんなにきもちいいこと、生きてる間に経験できるなんて、あーっ、普通は、ないと、おもうから……」
「あたしたちも、乃蒼くん以外とはヤだよ。乃蒼くんだからするの」
「ぼくだから……エッチしてくれるの?」
「ねえ、袴田くんとは? 梨央くんも良くない?」
莉緒菜が訊く。
「あー、あの子も乃蒼くんと同じ匂いがするね」と陽菜。
「匂いって?」
「フェロモンっていうか、エッチしたくなる匂いがする。ふたりとも顔可愛いのに、エロいイメージしかないよ。乃蒼くんは、エッチするたびに匂いが強くなる感じ。腋とか、首筋とか、すーっ、はーっ、あーたまんない」
陽菜がぼくの腋に鼻をおしつけて深呼吸する。莉緒菜もぼくの首筋に鼻を埋める。唯が後ろに身体を反って、ぼくの膝に手をついて腰だけをつちゃつちゃと上下させる。
「ぼくって……臭いの?」
「アハハ、違うよ、いい匂い、めちゃくちゃエロい匂い。他の男の子でこういう匂いって嗅いだことないから、なんて言っていいかわからないけど」
陽菜がぼくの腋を舐めながら言う。
匂いのことは亜香里にも言われた覚えがある。
夜中、ぼくのベッドに仰向けの亜香里に覆いかぶさって、体力が尽きるまでずっと突き続ける最中、亜香里はぼくの乳首を摘んで、お兄ちゃんとてもいい匂いがする、セックスの匂いがする、と囁いた。
「あーっ、乃蒼くん、いく……いっ、あっ、あっ、あっ、あえっ、ひっ、いっ……」
唯が声を絞り出して、身体を折ってぼくの胸に頬をおしつける。陽菜が唯とくちゃくちゃ舌を絡め合う。一分以上続く恍惚のじかん。ぼくは莉緒菜とキスをして、露杏奈のことを思い出さないように努める。集中が途切れると、露杏奈の優しいまなざしが浮かんでくる。彼女の好意を踏みにじったのはぼくの方なのに、そのイメージを振り払うことができない。
唯が身体を起こして、ぼくも起き上がる。陽菜と莉緒菜が横向きに抱き合って、脚と腕を絡め合い、にゅるにゅるとキスをする。女の子どうしのキスは柔らかそうで羨ましい。
唯がおちんちんにオイルを垂らす。ぼくは莉緒菜におちんちんを挿れる。子宮を数度突き上げて、おちんちんを引き抜く。今度は陽菜に挿れる。腰を横軸に回転させて、陽菜の膣内をかき混ぜる。引き抜く。また莉緒菜に挿れる。抜く。陽菜に挿れる。抜く。莉緒菜に挿れる。陽菜に挿れる。交互に滅多挿しにして、二人の膣を味比べする。唯はこの行為を利き膣と呼ぶ。ぼくより女の子の方がずっと卑猥な言葉をしっている。
「乃蒼くん家って、お母さん帰ってこないの?」
唯が素朴に質問する。
* * *
日曜日の午前中、ぼくと亜香里はお母さんの入院している病院にお見舞いに行った。
時を遡る前は、月に一回くらいしかお見舞いに行かなかったのに、ぼくは毎週末お見舞いに訪れる。阿佐ヶ谷のあの長い商店街でお菓子や果物、お母さんが欲しいと言ったものを探して買ってくる。その日は高級な桃をカゴいっぱいに買ってきて、お母さんが皮を剥いて切ってくれる。
「美咲叔母さんは見に来てくれてる?」とお母さんが訊く。
「うん、来てくれるよ」
ぼくのマンションには美咲叔母さんが隔週木曜日に様子を見に来てくれる。ぼくたちはネットスーパーで食べるものや日用品を買っているからあんまり困っていないのだけど、定期的に大人が様子を見に来てくれないと、お母さんは安心しない。美咲叔母さんは美味しいお菓子を買ってきてくれて、お茶を淹れて一緒に食べて少しお喋りしたらすぐに帰ってしまう。
妹は窓から線路と商店を眺める。七夕祭りの飾りが風に揺れる。その日は猛暑日で、アスファルトに照りつける日差しが反射して窓から差し込み、病室の天井も照らす。
「ねえ、お母さん。仮の話だけど、もし好きな子ができて、その子に嫌われてしまったら、どうすればいいの?」
「好きな子ができたの?」
「ううん、違うけど……。本で読んだ話」
「乃蒼は、どうすればいいと思う?」
「うーん、もう一度、想いを伝えればいいのかな」
「それもわかるけど、嫌われた原因があるんだよね」
「うん」
「その原因と向き合わないと……。ただ、好きだ好きだ、では女の子は振り向いてくれないよ」
露杏奈はぼくが唯たちと乱交しているのを目撃して、ぼくに対して抱いていた好意が揺らいだことは間違いないけれど、決定的にぼくを嫌ったのは、ぼくがその乱交に露杏奈を誘ったからだ。いや、正確には、露杏奈がぼくに誘わせた。あれは乗ってはいけない罠だった。
やりたいだけでしょ。あたしは誰かの大切なひとになりたいの、その他大勢の女は厭。
少し考えればそんなこと当たり前だし、わかりきったことなのに、ぼくの心に妙な引っかかりがある。きっと、唯や絵里衣たちのせいだ。ぼくを快楽の坩堝に陥れ、判断を曇らせた。あの子たちは、普通の女の子とは少し違う。
ぼくがぼく自身に抱いている自己のイメージをまったく見ようとせず、表面的なぼくの身体とセックスだけに着目する。だから、奥手で臆病だったぼくは、一ヶ月ちょっとの間に別人のようにオープンでエロい男子になってしまった。今日の午後、絵里衣たちが訪れて、また昨日のようにセックスすることを心底楽しみにしている。
「お母さんは、お父さんのことが……いまのお父さんのことが嫌いになったりしないの?」
「お父さんのことを嫌いになったりしないよ」
「前のお父さんは?」
「あなたのお父さんは一人だけですよ」
お母さんは、ぼくのほんとうのお父さんについて話すことを避ける。ぼくは私生児として生まれているから、ほんとうのお父さんのことを知らない。
「お兄、みて、今日は七夕祭りみたい」
亜香里が窓の外を指差す。
窓に近づくと、浴衣や法被を着た人たちが駅の方へ歩いていく。多分、商店街の七夕まつり。今日は中杉通りを歩いてきたからわからなかったけれど、毎年商店街の店外にいろいろなキャラクターのハリボテが下がって、賑やかな祭りが催される。
「お祭り行っておいで、お母さん少し眠るから」
お母さんがぼくと亜香里にお小遣いをくれる。お父さんからも貰っているからいらないのだけど、ぼくたちは受け取る。ぼくは「また来るね」と言って、亜香里の手を取って病室を後にする。病院を出るたびに、あと何回お母さんに会えるかカウントする。
* * *
お昼休み明け、掃除の時間にぼくは教室を掃き掃除しながら、露杏奈に話しかけようとする。
「ねえ、露杏奈ちゃん」
ぼくが声をかけてもあっちを向いたまま。もう一度声をかける。
「露杏奈ちゃん」
「話しかけないで」
ぼくの方を見ずにそう言って離れていく。
唯がぼくの袖を引いて窓際に連れてくる。ぼくは教室に背を向けて、唯はぼくの股間を触る。勃起したままのおちんちんは、ショートパンツを飛び出てシャツの中へ反り返る。
「今は無理だよ、もうちょっと時間置かなきゃ」と唯が言う。
「でも、夏休みになっちゃうよ」
「あたしたちがセックスしてるってことに慣れるまで、そっとしておかないと」
「慣れるまで?」
唯はシャツに手を挿れて、おちんちんに直に触れる。
「乃蒼くんってそういう子なんだって、今はショック受けてるけど、慣れればそういう前提で話ができるでしょ。そこからが勝負だよ」
「どういう勝負?」
「だから、乃蒼くんがめっちゃヤリまくってる男の子だって理解して、そういう子って思って接するようになれば、絶対露杏奈ちゃん、乱交に興味持つよ」
ぼくは窓に映る露杏奈の後ろ姿に目をやる。あれだけ決定的にぼくを嫌った彼女が、時間が経てば振り返ってくれるなんて、今はとても想像できない。
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