9 / 28
第9話「保健室に露杏奈を連れて行って会話すること」
しおりを挟む
朝から雨が降っていた。
体育の授業は体育館で、マットの上でゆりかご、前転、後転、横転などの運動。九つ並んだマットのうち、一枚はいつもぼくと唯がセックスに使っているもので、真ん中に体液の大きな染みがついている。そのうえで女子たちが順番にころころ転がるものだから、ぼくは気が気でない。
いつ、誰かが染みの汚れを指摘するかわからない。誰かが指摘したら、きっと注目を集めてしまう。そしてそれが何の染みなのか推理が始まり、勘のいい女子たちはそれが精液だと気づき、もし、昼休みにぼくと唯が姿を消すことを誰かが気づいていたら、そこから犯人のぼくが突き止められてしまうかもしれない。そうだ、陽菜はそのことを知っている。もちろん莉緒菜も。
二人はぼくに背を向けて、後転できない子を応援している。意外にも、みんなマットの汚れに気づかない。このまま気づかないでいてほしい。
「せんせー、露杏奈ちゃんが……」
カナが手を上げて梅津先生を呼ぶ。露杏奈がその場にうずくまっている。黒いジャージ姿の梅津先生が露杏奈の元に駆け寄ってなにか話している。ぼくは気になって遠目に観察する。ダイキがぼくの背中を叩いて「次、藤原、ほら早く」と急かす。
ぼくはマットの上を前転する。体育館の照明がぐるりと縦に回転し、起き上がった時、ぼくは梅津先生に呼ばれる。
「藤原! ちょっと来て」
うずくまった露杏奈の背中を撫でる梅津先生の元に駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「藤原、保健委員だよな。露杏奈ちゃん、具合が悪いから、保健室に連れて行って。赤松先生呼んであげて」
ぼくは身体の火照った露杏奈を抱き起こし、肩を掴ませて歩く。体育館を出る。大丈夫?と声をかけると、露杏奈は頷く。ぼくを見て微笑む。頬が赤い。
* * *
渡り廊下を歩く。ざらざらと降り続く雨の匂いが頬に冷たい。
校舎に戻り、一階の保健室に連れていく。保健室には誰もいない。赤松先生は大体保健室にいない。ぼくは露杏奈をベッドに座らせる。上履きを脱がせる。白地にひよこ柄の短い靴下を履いている。ベッドに寝かせる。
「赤松先生探してくるね」
「待って」
露杏奈がぼくの手を掴む。
「ひとりにしないで」
「すぐ戻るよ」
「いかないで」
ほんとうに不安そうな表情で訴える。ぼくは丸椅子を引き寄せて、ベッド脇に腰掛ける。露杏奈の体操服の上衣に、薄い乳房の形が浮かぶ。
ずっと女の子に対して奥手だったかつてのぼくは、女の子の顔をみて喋ることはなく、胸やお尻から無意識に視線を逸らし、その性を意識しないように努めていた。女という甘い香りのする底なし沼に不用意に足を踏み入れ、溺れることを畏れた。だけど、いまのぼくは、絵里衣や唯たちの沼の狂おしい快楽を識っている。
「熱測る?」
「ううん、ちょっと横になっていれば治るから」
「熱中症かも……」
「違うよ、今日は涼しいでしょ」
窓に雨が打ちつけて、流れる水の筋がくねくねと踊る。大雨なのに校庭は明るい。大杉タウンで降った天気雨を思い出す。唯と愛し合った甘い時間を思い出す。
「乃蒼くんち、お母さん病気なの?」
どこで知ったのか、露杏奈がお母さんのことを訊く。
「うん、病気」
「入院してるの?」
「うん……」
「お父さんはお仕事?」
「海外に単身赴任してるよ。出張って言い張ってるけど……。月に一回は帰ってくるよ」
「えっ、じゃあ、お家ではひとりなの?」
「妹がいるよ」
「乃蒼くんと、妹ちゃんと二人きり?」
「そう」
「淋しくない?」
「淋しいけど、仕方がないよ」
露杏奈はぼくをじっとみつめる。セルリアンブルーの透き通る瞳は、何を想っているのか、何をかんじているのかよくわからない。まだ授業中だから、早く戻らないといけないのだけど、できればこのまま露杏奈と喋っていたい。
「あたしのお母さんは日本人だけど、お父さんはベルギーの人なの。ベルギーって知ってる?」
「チョコレートが美味しい国だ……」
「ウフフ……そう、あと日本だとワッフルとかかな」
「露杏奈はベルギーに帰ったりするの?」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんがいるから、ときどきお父さんが帰省するのについていくんだけど、帰るって感じじゃないなあ……。ご飯も美味しいけど、量がちょっと多いね」
「ぼく、海外に行ったこと無いんだ。いつか行ってみたいけど」
「どこ行きたい?」
「暖かいところ……メキシコとか」
「あー食べ物美味しいよね」
「治安悪いみたいだけど……」
「日本が良すぎるから、どこも悪く感じるよ」
露杏奈は他の子たちと比べて大人っぽい喋り方をする。もともと高校生だったぼくにとって、小学生との会話は歯車が噛み合わないことが多いのだけど、露杏奈はテンポがしっくりくる。頭の回転が早い子なのかもしれない。
「あたしのお父さんとお母さん、離婚するかもしれないんだ」
「そうなの?」
「離婚したら、あたし、お父さんと一緒にベルギーに行くことになるとおもう」
ぼくはそのことを知っている。同窓会で高校生の櫛田唯に聞いた。
「お母さんのところには、いられないの?」
「あたしのお母さん、育てる能力ないもん……」
「お母さんの実家とか」
露杏奈が天井をみつめて溜息を吐く。
「お母さんとお父さんって、駆け落ちで結婚してるの。だからお母さんの方の実家には勘当されてるんじゃないかな。行ったことないし……」
露杏奈が寝返りをうって、ぼくに向き直る。紺色のショートパンツから白い太腿が覗く。音楽室からリコーダーの演奏が聴こえてくる。
「ねえ、乃蒼くん、あたしと結婚しない?」
「えっ……」
「乃蒼くんと結婚したら、あたしあの家出て、乃蒼くんと暮らせるじゃん」
ぼくはその言葉を真に受けて頬が熱くなる。汗が噴き出す。露杏奈が自宅にいる光景を思い浮かべてしまう。ぼくの視線が露杏奈の太腿に泳ぐ。これは一種の告白なのか、悪い冗談なのか。
「ぼくたち……まだ小学生だよ」
「アハハッ、嘘だよ、冗談」
「そっか……」
「でも、あたしは、乃蒼くんとだったら付き合ってもいいけどね」
「えっ」
「乃蒼くん、そろそろ戻らないと……」
随分長い時間、授業をサボってしまった。焦って立ち上がり、時計を振り返る。もう二十分くらい過ぎている。露杏奈がぼくの腕を引く。耳元で囁く。
「これは本当だから、内緒だよ」
* * *
雨は夜まで降っていた。
ぼくは湯船に浸かって、浴室の天井をみつめる。結露した雫がまだらに並び、ときおりポタリと落ちる。入浴剤のカモミールの薫りに包まれて、露杏奈の言葉を反芻する。
唯や陽菜たちは可愛くて洗練されたかんじがするのだけど、親近感があって手を触れることのできる女の子たち。お人形のような露杏奈はそういう手が届く子とは思っていなかったし、どこかぼくとは無関係なキラキラした別世界で映画のような素敵な恋をするタイプだと勝手に思い込んでいたから、そんな子の好意の矛先を向けられると、嬉しさよりも焦燥を覚える。
乃蒼くんとだったら付き合ってもいいけどね
あの言葉は一種の告白と受け取っていいのだろうか。
あの後、授業中も露杏奈はいつもと変わりなくて、ぼくにヒソヒソ話しかけてきては、二の腕とふくらはぎで触れ合った。そういえば、ぼくが逆上がりで時を遡行する前の小学校時代でも、露杏奈はそうやってぼくに積極的に話しかけてきた。幼かったぼくは、そういう露杏奈の所作に、誰に対しても馴れ馴れしい子だとおもってひどく塩対応だった。
それだけじゃない。ぼくは女の子の好意や興味に対して、露骨に壁を作る癖があった。ぼくは女の子が怖かった。女の子の好意を受け入れると、ぼくは下にみられて自由に踊らされるのではないかと心配していた。あるいは好意にみえるその仕草は誰にでも向けられる平等な施しではないか、それを受け取って喜んでいることを影で蔑まれるのではないかと疑った。そんな猜疑の成れの果てに、ぼくは私立の男子中学を受験して、女のいない生活を選び、鈍色の安寧を手に入れたけれど、あれは間違った選択だ。
脱衣所で妹が服を脱いでいる影が磨りガラスのむこうにみえる。中折ドアが開いて、裸の亜香里が入ってくる。シャワーを浴びて、浴槽に浸かる。
ぼくに抱かれるように座るなり、勃起したぼくのおちんちんを後ろ手で握ってマッサージする。ぼくは亜香里の薄い胸を撫でて、ちいさな乳首を摘む。指先で刺激すると、肩が跳ねる。仰け反って、ぼくの肩に頭をのせる。頬を寄せると、亜香里はぼくに顔を向ける。唇が触れ合いそう。
「お兄ちゃん、絵里衣ちゃんの女子寮に連れ込まれてる?」
「えっ……?」
「絵里衣ちゃんに聞いたよ」
「なんで、絵里衣のこと知ってるの」
「同じピアノ教室だもん。女子寮、近いでしょ」
絵里衣は唯たちのバレエ教室でピアノを弾いていると言っていた。まさか亜香里と同じ教室でピアノを習っているなんて。
「もし、お兄ちゃんが厭なら、あたし言ってあげるよ」
「厭じゃ……ないけど」
「唯ちゃんは?」
「唯は……」
「してるんでしょ……これ、挿れてるんでしょ」
亜香里がぼくのおちんちんを両手でマッサージする。
「無理矢理されてるって、聞いたよ。でもお兄ちゃん、厭がらないって」
「うん……」
「唯ちゃんのこと、好きなの?」
「好きっていう感情はないんだけど……」
「好きじゃないのに、エッチするんだ」
「うん」
「お兄ちゃん、雰囲気がエロいもんね」
「ぼくエロいの?」
「すごいエッチ好きそうな顔だよ」
ぼくは童顔だからなるべく前髪を上げるようにしてるのだけど、髪型を変えたらこんどは唇がエロいとユウナに言われたことがある。真意はわからないけれど、エロい顔と言われることは嫌いじゃない。ぼくは自分の顔が割と好きだけど、鏡でみるとふと他人のような気がして、恥ずかしくて眼を逸らすことがある。あれはなんという現象かしらないけれど、鏡に映る自分に長時間見惚れるナルシストとは正反対の心持ちはじぶんに自信がないからだ。
「あたし、お兄ちゃんに何かされても、誰にも言わないよ」
「何かって……」
「きもちいいこと」
亜香里は顔を横に向けて、薄い唇から舌を差し出す。ぼくは何も考えず、差し出された赤い舌に吸いつく。じぶんの唇の中に吸い込んで、舌を絡め合う。頭の芯がじいんと痺れて、熱くて甘いものが溢れる。いままで触れ合っても我慢してきた箍が外れて、小学四年生の妹と、男と女になりかける。
* * *
拳一つ分くらい開いたサッシの隙間から、涼しい夜風が吹き込む。部屋の明かりを一番暗くしているのにあんまり暗くない。
ぼくの部屋のベッドの上、仰向けのぼくに亜香里がお尻を向けて覆いかぶさり、ぼくは亜香里の割れ目に舌を滑らせ、亜香里はぼくのおちんちんを咥える。
指で小さな割れ目を拡げて、桜色の陰唇を観察する。唯や陽菜よりも更に幼くて、陰唇の色が薄くて、濡れないし、匂いもしない。唇を密着させて陰核を吸い出し、舌でソフトに転がして刺激する。両手を伸ばして、亜香里の乳首を指で弾く。脇腹に指を滑らせると、亜香里はくすくす笑う。それ以上の反応がない。処女はそういうものかもしれない。
ちゅごっ、ちゅごっ、ちゅるごっ、おちんちんを呑み込んだ亜香里が卑猥な音を立てて、喉の奥でマッサージする。どことなくたどたどしくて、だけど欲深く、ぼくを吸い込んでしまおうとする。フェラチオされていると、膣とは違う柔らかな圧迫を受けるのに、おちんちんがもっと強い絞めつけをもとめてますます熱り立つ。腰が勝手に上下に動く。亜香里はぼくの大きな陰嚢を片手で握って、ぼくの上下運動を抑えようとするのだから、ますます刺激を求めてしまう。
「ちゅぼっ……はぁ、はぁ、お兄ちゃん、めちゃくちゃおっきい」
「亜香里……挿れていい?」
「這入るかなぁ……」
ぼくたちは起き上がる。亜香里を仰向けにする。ぼくは亜香里の両脚を拡げて、割れ目に舌を差し込んでクチュクチュ音を響かせる。両手を伸ばして亜香里の乳首を摘む。亜香里はぼくの髪に指を絡めて、肩を震わせてかすかに喘ぐ。
起き上がって、机の上からドラッグストアで買ったアルガンオイルを取る。亜香里の割れ目に垂らす。おちんちんにも垂らす。長い陰茎の根元を握って、先端を亜香里の割れ目に押し付ける。ぐっと体重をかける。這入る気配もなく、亀頭が陰唇ごとめりこんでいく。
「いーっ、お兄、痛い」
「やっぱ痛い? やめとく?」
「ううん、して……犯して」
亜香里が両手を伸ばして、ぼくの乳首を摘む。潤んだ瞳でぼくをみつめる。いままでみたことのない、切ない女の表情でぼくの男を求める。
ぼくはアルガンオイルのボトルを亜香里の割れ目に押し付けて、処女に注入する。おちんちんにも追加で垂らす。もういちど、亜香里の割れ目におちんちんの先端を押し付ける。両腕で亜香里の両脚を抱えあげて、ゆっくり体重をかける。亜香里がぼくの肩を掴んで、ぼくをみつめたまま唇を噛んで痛みを堪える。さっきほど力を入れていないにも関わらず、ぶりゅっと皮がめくれるような感触を伴って、亜香里の熱い粘膜に包まれる。
体育の授業は体育館で、マットの上でゆりかご、前転、後転、横転などの運動。九つ並んだマットのうち、一枚はいつもぼくと唯がセックスに使っているもので、真ん中に体液の大きな染みがついている。そのうえで女子たちが順番にころころ転がるものだから、ぼくは気が気でない。
いつ、誰かが染みの汚れを指摘するかわからない。誰かが指摘したら、きっと注目を集めてしまう。そしてそれが何の染みなのか推理が始まり、勘のいい女子たちはそれが精液だと気づき、もし、昼休みにぼくと唯が姿を消すことを誰かが気づいていたら、そこから犯人のぼくが突き止められてしまうかもしれない。そうだ、陽菜はそのことを知っている。もちろん莉緒菜も。
二人はぼくに背を向けて、後転できない子を応援している。意外にも、みんなマットの汚れに気づかない。このまま気づかないでいてほしい。
「せんせー、露杏奈ちゃんが……」
カナが手を上げて梅津先生を呼ぶ。露杏奈がその場にうずくまっている。黒いジャージ姿の梅津先生が露杏奈の元に駆け寄ってなにか話している。ぼくは気になって遠目に観察する。ダイキがぼくの背中を叩いて「次、藤原、ほら早く」と急かす。
ぼくはマットの上を前転する。体育館の照明がぐるりと縦に回転し、起き上がった時、ぼくは梅津先生に呼ばれる。
「藤原! ちょっと来て」
うずくまった露杏奈の背中を撫でる梅津先生の元に駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「藤原、保健委員だよな。露杏奈ちゃん、具合が悪いから、保健室に連れて行って。赤松先生呼んであげて」
ぼくは身体の火照った露杏奈を抱き起こし、肩を掴ませて歩く。体育館を出る。大丈夫?と声をかけると、露杏奈は頷く。ぼくを見て微笑む。頬が赤い。
* * *
渡り廊下を歩く。ざらざらと降り続く雨の匂いが頬に冷たい。
校舎に戻り、一階の保健室に連れていく。保健室には誰もいない。赤松先生は大体保健室にいない。ぼくは露杏奈をベッドに座らせる。上履きを脱がせる。白地にひよこ柄の短い靴下を履いている。ベッドに寝かせる。
「赤松先生探してくるね」
「待って」
露杏奈がぼくの手を掴む。
「ひとりにしないで」
「すぐ戻るよ」
「いかないで」
ほんとうに不安そうな表情で訴える。ぼくは丸椅子を引き寄せて、ベッド脇に腰掛ける。露杏奈の体操服の上衣に、薄い乳房の形が浮かぶ。
ずっと女の子に対して奥手だったかつてのぼくは、女の子の顔をみて喋ることはなく、胸やお尻から無意識に視線を逸らし、その性を意識しないように努めていた。女という甘い香りのする底なし沼に不用意に足を踏み入れ、溺れることを畏れた。だけど、いまのぼくは、絵里衣や唯たちの沼の狂おしい快楽を識っている。
「熱測る?」
「ううん、ちょっと横になっていれば治るから」
「熱中症かも……」
「違うよ、今日は涼しいでしょ」
窓に雨が打ちつけて、流れる水の筋がくねくねと踊る。大雨なのに校庭は明るい。大杉タウンで降った天気雨を思い出す。唯と愛し合った甘い時間を思い出す。
「乃蒼くんち、お母さん病気なの?」
どこで知ったのか、露杏奈がお母さんのことを訊く。
「うん、病気」
「入院してるの?」
「うん……」
「お父さんはお仕事?」
「海外に単身赴任してるよ。出張って言い張ってるけど……。月に一回は帰ってくるよ」
「えっ、じゃあ、お家ではひとりなの?」
「妹がいるよ」
「乃蒼くんと、妹ちゃんと二人きり?」
「そう」
「淋しくない?」
「淋しいけど、仕方がないよ」
露杏奈はぼくをじっとみつめる。セルリアンブルーの透き通る瞳は、何を想っているのか、何をかんじているのかよくわからない。まだ授業中だから、早く戻らないといけないのだけど、できればこのまま露杏奈と喋っていたい。
「あたしのお母さんは日本人だけど、お父さんはベルギーの人なの。ベルギーって知ってる?」
「チョコレートが美味しい国だ……」
「ウフフ……そう、あと日本だとワッフルとかかな」
「露杏奈はベルギーに帰ったりするの?」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんがいるから、ときどきお父さんが帰省するのについていくんだけど、帰るって感じじゃないなあ……。ご飯も美味しいけど、量がちょっと多いね」
「ぼく、海外に行ったこと無いんだ。いつか行ってみたいけど」
「どこ行きたい?」
「暖かいところ……メキシコとか」
「あー食べ物美味しいよね」
「治安悪いみたいだけど……」
「日本が良すぎるから、どこも悪く感じるよ」
露杏奈は他の子たちと比べて大人っぽい喋り方をする。もともと高校生だったぼくにとって、小学生との会話は歯車が噛み合わないことが多いのだけど、露杏奈はテンポがしっくりくる。頭の回転が早い子なのかもしれない。
「あたしのお父さんとお母さん、離婚するかもしれないんだ」
「そうなの?」
「離婚したら、あたし、お父さんと一緒にベルギーに行くことになるとおもう」
ぼくはそのことを知っている。同窓会で高校生の櫛田唯に聞いた。
「お母さんのところには、いられないの?」
「あたしのお母さん、育てる能力ないもん……」
「お母さんの実家とか」
露杏奈が天井をみつめて溜息を吐く。
「お母さんとお父さんって、駆け落ちで結婚してるの。だからお母さんの方の実家には勘当されてるんじゃないかな。行ったことないし……」
露杏奈が寝返りをうって、ぼくに向き直る。紺色のショートパンツから白い太腿が覗く。音楽室からリコーダーの演奏が聴こえてくる。
「ねえ、乃蒼くん、あたしと結婚しない?」
「えっ……」
「乃蒼くんと結婚したら、あたしあの家出て、乃蒼くんと暮らせるじゃん」
ぼくはその言葉を真に受けて頬が熱くなる。汗が噴き出す。露杏奈が自宅にいる光景を思い浮かべてしまう。ぼくの視線が露杏奈の太腿に泳ぐ。これは一種の告白なのか、悪い冗談なのか。
「ぼくたち……まだ小学生だよ」
「アハハッ、嘘だよ、冗談」
「そっか……」
「でも、あたしは、乃蒼くんとだったら付き合ってもいいけどね」
「えっ」
「乃蒼くん、そろそろ戻らないと……」
随分長い時間、授業をサボってしまった。焦って立ち上がり、時計を振り返る。もう二十分くらい過ぎている。露杏奈がぼくの腕を引く。耳元で囁く。
「これは本当だから、内緒だよ」
* * *
雨は夜まで降っていた。
ぼくは湯船に浸かって、浴室の天井をみつめる。結露した雫がまだらに並び、ときおりポタリと落ちる。入浴剤のカモミールの薫りに包まれて、露杏奈の言葉を反芻する。
唯や陽菜たちは可愛くて洗練されたかんじがするのだけど、親近感があって手を触れることのできる女の子たち。お人形のような露杏奈はそういう手が届く子とは思っていなかったし、どこかぼくとは無関係なキラキラした別世界で映画のような素敵な恋をするタイプだと勝手に思い込んでいたから、そんな子の好意の矛先を向けられると、嬉しさよりも焦燥を覚える。
乃蒼くんとだったら付き合ってもいいけどね
あの言葉は一種の告白と受け取っていいのだろうか。
あの後、授業中も露杏奈はいつもと変わりなくて、ぼくにヒソヒソ話しかけてきては、二の腕とふくらはぎで触れ合った。そういえば、ぼくが逆上がりで時を遡行する前の小学校時代でも、露杏奈はそうやってぼくに積極的に話しかけてきた。幼かったぼくは、そういう露杏奈の所作に、誰に対しても馴れ馴れしい子だとおもってひどく塩対応だった。
それだけじゃない。ぼくは女の子の好意や興味に対して、露骨に壁を作る癖があった。ぼくは女の子が怖かった。女の子の好意を受け入れると、ぼくは下にみられて自由に踊らされるのではないかと心配していた。あるいは好意にみえるその仕草は誰にでも向けられる平等な施しではないか、それを受け取って喜んでいることを影で蔑まれるのではないかと疑った。そんな猜疑の成れの果てに、ぼくは私立の男子中学を受験して、女のいない生活を選び、鈍色の安寧を手に入れたけれど、あれは間違った選択だ。
脱衣所で妹が服を脱いでいる影が磨りガラスのむこうにみえる。中折ドアが開いて、裸の亜香里が入ってくる。シャワーを浴びて、浴槽に浸かる。
ぼくに抱かれるように座るなり、勃起したぼくのおちんちんを後ろ手で握ってマッサージする。ぼくは亜香里の薄い胸を撫でて、ちいさな乳首を摘む。指先で刺激すると、肩が跳ねる。仰け反って、ぼくの肩に頭をのせる。頬を寄せると、亜香里はぼくに顔を向ける。唇が触れ合いそう。
「お兄ちゃん、絵里衣ちゃんの女子寮に連れ込まれてる?」
「えっ……?」
「絵里衣ちゃんに聞いたよ」
「なんで、絵里衣のこと知ってるの」
「同じピアノ教室だもん。女子寮、近いでしょ」
絵里衣は唯たちのバレエ教室でピアノを弾いていると言っていた。まさか亜香里と同じ教室でピアノを習っているなんて。
「もし、お兄ちゃんが厭なら、あたし言ってあげるよ」
「厭じゃ……ないけど」
「唯ちゃんは?」
「唯は……」
「してるんでしょ……これ、挿れてるんでしょ」
亜香里がぼくのおちんちんを両手でマッサージする。
「無理矢理されてるって、聞いたよ。でもお兄ちゃん、厭がらないって」
「うん……」
「唯ちゃんのこと、好きなの?」
「好きっていう感情はないんだけど……」
「好きじゃないのに、エッチするんだ」
「うん」
「お兄ちゃん、雰囲気がエロいもんね」
「ぼくエロいの?」
「すごいエッチ好きそうな顔だよ」
ぼくは童顔だからなるべく前髪を上げるようにしてるのだけど、髪型を変えたらこんどは唇がエロいとユウナに言われたことがある。真意はわからないけれど、エロい顔と言われることは嫌いじゃない。ぼくは自分の顔が割と好きだけど、鏡でみるとふと他人のような気がして、恥ずかしくて眼を逸らすことがある。あれはなんという現象かしらないけれど、鏡に映る自分に長時間見惚れるナルシストとは正反対の心持ちはじぶんに自信がないからだ。
「あたし、お兄ちゃんに何かされても、誰にも言わないよ」
「何かって……」
「きもちいいこと」
亜香里は顔を横に向けて、薄い唇から舌を差し出す。ぼくは何も考えず、差し出された赤い舌に吸いつく。じぶんの唇の中に吸い込んで、舌を絡め合う。頭の芯がじいんと痺れて、熱くて甘いものが溢れる。いままで触れ合っても我慢してきた箍が外れて、小学四年生の妹と、男と女になりかける。
* * *
拳一つ分くらい開いたサッシの隙間から、涼しい夜風が吹き込む。部屋の明かりを一番暗くしているのにあんまり暗くない。
ぼくの部屋のベッドの上、仰向けのぼくに亜香里がお尻を向けて覆いかぶさり、ぼくは亜香里の割れ目に舌を滑らせ、亜香里はぼくのおちんちんを咥える。
指で小さな割れ目を拡げて、桜色の陰唇を観察する。唯や陽菜よりも更に幼くて、陰唇の色が薄くて、濡れないし、匂いもしない。唇を密着させて陰核を吸い出し、舌でソフトに転がして刺激する。両手を伸ばして、亜香里の乳首を指で弾く。脇腹に指を滑らせると、亜香里はくすくす笑う。それ以上の反応がない。処女はそういうものかもしれない。
ちゅごっ、ちゅごっ、ちゅるごっ、おちんちんを呑み込んだ亜香里が卑猥な音を立てて、喉の奥でマッサージする。どことなくたどたどしくて、だけど欲深く、ぼくを吸い込んでしまおうとする。フェラチオされていると、膣とは違う柔らかな圧迫を受けるのに、おちんちんがもっと強い絞めつけをもとめてますます熱り立つ。腰が勝手に上下に動く。亜香里はぼくの大きな陰嚢を片手で握って、ぼくの上下運動を抑えようとするのだから、ますます刺激を求めてしまう。
「ちゅぼっ……はぁ、はぁ、お兄ちゃん、めちゃくちゃおっきい」
「亜香里……挿れていい?」
「這入るかなぁ……」
ぼくたちは起き上がる。亜香里を仰向けにする。ぼくは亜香里の両脚を拡げて、割れ目に舌を差し込んでクチュクチュ音を響かせる。両手を伸ばして亜香里の乳首を摘む。亜香里はぼくの髪に指を絡めて、肩を震わせてかすかに喘ぐ。
起き上がって、机の上からドラッグストアで買ったアルガンオイルを取る。亜香里の割れ目に垂らす。おちんちんにも垂らす。長い陰茎の根元を握って、先端を亜香里の割れ目に押し付ける。ぐっと体重をかける。這入る気配もなく、亀頭が陰唇ごとめりこんでいく。
「いーっ、お兄、痛い」
「やっぱ痛い? やめとく?」
「ううん、して……犯して」
亜香里が両手を伸ばして、ぼくの乳首を摘む。潤んだ瞳でぼくをみつめる。いままでみたことのない、切ない女の表情でぼくの男を求める。
ぼくはアルガンオイルのボトルを亜香里の割れ目に押し付けて、処女に注入する。おちんちんにも追加で垂らす。もういちど、亜香里の割れ目におちんちんの先端を押し付ける。両腕で亜香里の両脚を抱えあげて、ゆっくり体重をかける。亜香里がぼくの肩を掴んで、ぼくをみつめたまま唇を噛んで痛みを堪える。さっきほど力を入れていないにも関わらず、ぶりゅっと皮がめくれるような感触を伴って、亜香里の熱い粘膜に包まれる。
10
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。



覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる