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第75話「チンピラに麗羅の正体を教わる」
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撮影後、ぼくは英玲奈と愛佳、苺香と一緒にレイチェルの車で帰る。
まだ六時半なのにすっかり日が暮れて、外は少し肌寒い。後部座席の真ん中に座ったぼくに英玲奈と愛佳が寄り添って寝息を立てる。助手席の苺香も眠り込んでる。昨日も今日もとくべつ撮影がハードというわけじゃないけど、あのお菓子みたいな錠剤のせいで撮影後はひどく眠くなる。疲れがひどい。
「優亜くんさぁ、いま一人で暮らしてるの?」
レイチェルが訊く。
「はい、一人です」
「親戚の叔母さんところに行くんじゃなかった?」
「住民票は移してありますよ。でも、ぼくは一人で生活したくて、叔母さんはぼくを受け入れたくないみたいなので、バイト代の一部を渡して今のマンションの家賃を払ってもらっています」
「中学生で一人暮らしって大変じゃない? ブループリントの寮に入らない?」
「今はまだ……でも、そのうちお願いするかも」
「英玲奈と同室になるけど」
「あれ? 英玲奈は愛佳と同室じゃないんですか?」
「愛佳はね、三月で卒業なんだよ」
「えっ……なんでですか?」
「実家の事情だって」
「そうなんですね……」
「だから空きができるの」
「どういうところですか?」
「普通のマンション。一フロア五世帯で、二フロア借り切ってるけど、一部屋空いてるの。今の優亜くんの住んでるところよりだいぶ狭いけどね。風呂トイレキッチンがあって、七畳くらいの洋室と日当たりの良いバルコニー。オートロックついてて、寮長の浦野さんが二階に住んでる」
「浦野さんって……」
「寮長は動画のアップロードやってるから、優亜くんのこと知ってるよ。でも、撮影のこと知らない子もいるから、バルコニーとかでエッチしたら駄目だよ」
車がその女子寮の前で停まる。女子寮というよりただの賃貸マンション。英玲奈たちを揺り起こして車から降ろす。ぼくも一緒に降りる。
「優亜くん、自宅まで送るよ」とレイチェルが言う。
「近いんで歩きます」
「明日九時に迎えに来るから、寝坊しないでね」
「はい、お疲れさまです」
まだ眠そうな英玲奈たちをエントランスに連れていき、エレベータを呼んでキスをする。愛佳が「部屋来て」と言うけど、目の焦点が合わない子たちとセックスできない。ぼくも眠い。
「また今度」と言って女子寮を後にする。
路地を真っ直ぐ歩く。女子寮からぼくのマンションまで徒歩四分。英玲奈たちにとっては、ぼくのマンションの方が小学校に近いから、泊まった方が登校が楽だと言っていた。自宅マンションの前に、見覚えのあるワゴンが停まっていた。助手席のウインドウが開いて、内野が顔を出す。
「よお、宇佐美くん。出かけてたの?」
「内野さん、こんばんは。晩御飯まだ食べてないです」
「あーゴメン、今日は奢れないんだ。もう俺ら帰るから」
「え? 北九州にですか?」
「そう」
「ワタナベは見つかったんですか?」
「鞍掛死んで手がかりねーもん。諦めるよ」
「そうなんですね」
「宇佐美くん、ハメ撮りしたら買うから連絡頂戴」
ぼくは薄ら笑い。
内野がポケットから名刺を差し出す。受け取る。内野の名刺ではなく、知らないスタジオと、女の名前と、住所。
スタークフロントスタジオ
アクター
美濃怜吏
「これは?」
「それ、麗羅ちゃんの本名」
「え……」
「未練があるなら、会いにいってみな。その子はほとんど何も知らないから」
ぼくは言葉を失う。美濃怜吏? 聞いたこともない名前。どうしてこれが麗羅の本名なんだろう。
「宇佐美くんさあ」
「はい……」
「乃木たち始末した?」
その一言で背筋が凍る。
「え……いえ……まさか、アハハ……」
「ふーん、まぁどーでもいいや。九州に遊びに来たときは連絡頂戴、じゃあな」
ぼくが何か答える前にワゴンは走り去ってしまう。ぼくは名刺を持ったまましばらく動けない。
まだ六時半なのにすっかり日が暮れて、外は少し肌寒い。後部座席の真ん中に座ったぼくに英玲奈と愛佳が寄り添って寝息を立てる。助手席の苺香も眠り込んでる。昨日も今日もとくべつ撮影がハードというわけじゃないけど、あのお菓子みたいな錠剤のせいで撮影後はひどく眠くなる。疲れがひどい。
「優亜くんさぁ、いま一人で暮らしてるの?」
レイチェルが訊く。
「はい、一人です」
「親戚の叔母さんところに行くんじゃなかった?」
「住民票は移してありますよ。でも、ぼくは一人で生活したくて、叔母さんはぼくを受け入れたくないみたいなので、バイト代の一部を渡して今のマンションの家賃を払ってもらっています」
「中学生で一人暮らしって大変じゃない? ブループリントの寮に入らない?」
「今はまだ……でも、そのうちお願いするかも」
「英玲奈と同室になるけど」
「あれ? 英玲奈は愛佳と同室じゃないんですか?」
「愛佳はね、三月で卒業なんだよ」
「えっ……なんでですか?」
「実家の事情だって」
「そうなんですね……」
「だから空きができるの」
「どういうところですか?」
「普通のマンション。一フロア五世帯で、二フロア借り切ってるけど、一部屋空いてるの。今の優亜くんの住んでるところよりだいぶ狭いけどね。風呂トイレキッチンがあって、七畳くらいの洋室と日当たりの良いバルコニー。オートロックついてて、寮長の浦野さんが二階に住んでる」
「浦野さんって……」
「寮長は動画のアップロードやってるから、優亜くんのこと知ってるよ。でも、撮影のこと知らない子もいるから、バルコニーとかでエッチしたら駄目だよ」
車がその女子寮の前で停まる。女子寮というよりただの賃貸マンション。英玲奈たちを揺り起こして車から降ろす。ぼくも一緒に降りる。
「優亜くん、自宅まで送るよ」とレイチェルが言う。
「近いんで歩きます」
「明日九時に迎えに来るから、寝坊しないでね」
「はい、お疲れさまです」
まだ眠そうな英玲奈たちをエントランスに連れていき、エレベータを呼んでキスをする。愛佳が「部屋来て」と言うけど、目の焦点が合わない子たちとセックスできない。ぼくも眠い。
「また今度」と言って女子寮を後にする。
路地を真っ直ぐ歩く。女子寮からぼくのマンションまで徒歩四分。英玲奈たちにとっては、ぼくのマンションの方が小学校に近いから、泊まった方が登校が楽だと言っていた。自宅マンションの前に、見覚えのあるワゴンが停まっていた。助手席のウインドウが開いて、内野が顔を出す。
「よお、宇佐美くん。出かけてたの?」
「内野さん、こんばんは。晩御飯まだ食べてないです」
「あーゴメン、今日は奢れないんだ。もう俺ら帰るから」
「え? 北九州にですか?」
「そう」
「ワタナベは見つかったんですか?」
「鞍掛死んで手がかりねーもん。諦めるよ」
「そうなんですね」
「宇佐美くん、ハメ撮りしたら買うから連絡頂戴」
ぼくは薄ら笑い。
内野がポケットから名刺を差し出す。受け取る。内野の名刺ではなく、知らないスタジオと、女の名前と、住所。
スタークフロントスタジオ
アクター
美濃怜吏
「これは?」
「それ、麗羅ちゃんの本名」
「え……」
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ぼくは言葉を失う。美濃怜吏? 聞いたこともない名前。どうしてこれが麗羅の本名なんだろう。
「宇佐美くんさあ」
「はい……」
「乃木たち始末した?」
その一言で背筋が凍る。
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