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第50話「盗撮犯を追いかけて怪我をする」
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先に撮影が終わった麗羅は先に帰ったのか、姿が見えない。英玲奈たちはスチル撮影が残っているから、待たずに先に帰る。スタジオを出ると、山手通りが夕焼けに染まっていた。
横断歩道を渡って駅の方へ歩く。スーパーに寄って買い物するか、面倒だからハンバーガーでも食べて帰るか、書店で新刊本を探すか、いろいろ迷う。夏休みに入ってから、ぼくの撮影のギャラは時間あたり一万円に増えていた。あまり無駄遣いしないから、自宅にどんどん現金が溜まっていく。銀行に預けたいけれど、梨衣菜さんのいいつけを守る。
中野坂上駅の階段を下る。交差点で信号待ちするより、地下を歩くほうがいい。
大江戸線改札の前を通過して、短いエスカレータを上り、丸ノ内線改札の前を通過して、地上に出るエスカレータに乗る。ふと目を上げると、先にスタジオを出た麗羅が前の方に立っていた。スマホに目を落とす。その麗羅のすぐ後ろに野球帽を被った小太りの男が立っていて、スマホを麗羅のスカートの中に差し込んでいるのに気付いた。
「何してるんですか!?」
ぼくは大声で男に声をかける。一瞬振り返った男は、ぼくと目が合うと、麗羅を突き飛ばすようにエスカレータを駆け上がって逃げる。ぼくはその後を追いかける。エスカレータを上りきったところで男に追いつき、ぼくは男の鞄を掴む。
「いま撮ってただろ!」
「なんだてめー、離せよ!」
男は鞄を振り回して、ぼくに体当たりして突き飛ばす。手摺にぶつかって、一回転して植え込みに転げ落ちる。起き上がったとき、男の姿は消えていて、携帯で電話しているスーツの男性がビルの方を振り返る。立ち上がろうとすると、右足にズキリと鈍痛が走る。麗羅がエスカレータで上がってきて、ぼくを抱き起こす。
「優亜くん、大丈夫!?」
「うん、平気」
「きゃー、血出てるじゃない!」
植え込みの石段に膝をぶつけたのか、グレーのジーンズごとパックリ裂けて血がダラダラ流れる。痛いとかひどい怪我とかそういう心配よりも、来週からの撮影に支障が出ないか心配になる。全然平気じゃない。ぼくは、ちょっと痛い、と泣き言を言う。
横断歩道を渡って駅の方へ歩く。スーパーに寄って買い物するか、面倒だからハンバーガーでも食べて帰るか、書店で新刊本を探すか、いろいろ迷う。夏休みに入ってから、ぼくの撮影のギャラは時間あたり一万円に増えていた。あまり無駄遣いしないから、自宅にどんどん現金が溜まっていく。銀行に預けたいけれど、梨衣菜さんのいいつけを守る。
中野坂上駅の階段を下る。交差点で信号待ちするより、地下を歩くほうがいい。
大江戸線改札の前を通過して、短いエスカレータを上り、丸ノ内線改札の前を通過して、地上に出るエスカレータに乗る。ふと目を上げると、先にスタジオを出た麗羅が前の方に立っていた。スマホに目を落とす。その麗羅のすぐ後ろに野球帽を被った小太りの男が立っていて、スマホを麗羅のスカートの中に差し込んでいるのに気付いた。
「何してるんですか!?」
ぼくは大声で男に声をかける。一瞬振り返った男は、ぼくと目が合うと、麗羅を突き飛ばすようにエスカレータを駆け上がって逃げる。ぼくはその後を追いかける。エスカレータを上りきったところで男に追いつき、ぼくは男の鞄を掴む。
「いま撮ってただろ!」
「なんだてめー、離せよ!」
男は鞄を振り回して、ぼくに体当たりして突き飛ばす。手摺にぶつかって、一回転して植え込みに転げ落ちる。起き上がったとき、男の姿は消えていて、携帯で電話しているスーツの男性がビルの方を振り返る。立ち上がろうとすると、右足にズキリと鈍痛が走る。麗羅がエスカレータで上がってきて、ぼくを抱き起こす。
「優亜くん、大丈夫!?」
「うん、平気」
「きゃー、血出てるじゃない!」
植え込みの石段に膝をぶつけたのか、グレーのジーンズごとパックリ裂けて血がダラダラ流れる。痛いとかひどい怪我とかそういう心配よりも、来週からの撮影に支障が出ないか心配になる。全然平気じゃない。ぼくは、ちょっと痛い、と泣き言を言う。
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