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第33話「麗羅が音信不通」
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「英玲奈、ごめんね、麗羅ちゃん連絡取れないわ」
レイチェルがスマホに目を落としたまま英玲奈に言う。ぼくはバスタオルを身体に巻いてスタジオに戻ってくる。鏡の前の椅子に座ると、由真さんが髪を梳かしてくれる。全裸のまま隣に座った英玲奈は、片足を椅子の肘掛けにかけて、五十インチモニタで再生されるさっきの映像を眺める。全てのシーン撮影が終わった流南と鈴音は、衝立の向こうで私服に着替える。愛佳は少し濡れた髪を瑛美さんがブローする。
「おーい、英玲奈」
「え?」
ぼんやりしていた英玲奈がレイチェルを振り返る。
「麗羅ちゃんね、連絡取れないんだ」
「IMCもですか?」
「全然駄目。いま梨衣菜さんが自宅に呼びに行ったんだけど、今日は時間的に無理そう」
「あたし麗羅ちゃんと撮るの楽しみだったのに……」
「スチルだけ撮ったら、今日はあがっていいよ。優亜くんも」
「あたしと優亜くんだけで撮るのは駄目ですか?」
「場面がつながらないでしょ。最悪、代役立てないと……」
「じゃあ、友梨奈」
「あの子、風邪でしばらく休み。溶連菌だって」
「ヨーレン? 何ですか?」
「喉が痛くなる病気。いま紀乃ちゃん交渉してるけど、デビューでストーリーものは厳しいよね」
「今日のギャラは変わりませんか?」
「いつもと同じだよ。中止は英玲奈のせいじゃないんだし」
どうやら麗羅が音信不通らしい。この後の撮影のために、心と身体を準備していたのに、なんだか気が抜ける。そう言えば、麗羅は何者かにIMCで脅迫を受けていた。お母さんの葬儀でバタバタしてすっかり忘れていた。
「レイチェル、ぼく……伝えてないことが」
「え? 何?」
「五月一日に母が亡くなって……」
「お母さん?」
「昨日、葬儀でした。だから、来週火曜日まで学校休みです」
「えーっ! 早く言ってよ。明日以降の撮影、延期するよ」
「いえ、しなくていいです。むしろ学校休みなので、来週の平日二日は働けます」
「マジで? いいの? 優亜くんスチル撮影の予定溜まってるから、それなら一気にやっちゃうか」
「はい、お願いします」
「ほんとにいいの? お母さん亡くなったんでしょ」
「はい。家でじっとしてる方が色々考えて辛いので」
「そっか。優亜くんお父さんいないよね。引っ越したりするの?」
「いま、近所に住んでる叔母のところに行くかどうか、迷ってて……」
「それならウチの寮に入ったら? 梨衣菜に言っておくよ」
「女子寮ですよね?」
「女の子しかいないけど、女子寮ってわけじゃないよ」
「そんなところにぼくを入れて、大丈夫ですか?」
「撮影のとき以外は、避妊してれば別に好きにしていいんじゃない」
避妊は一度もしたことがない。今度誰かとプライベートでセックスするときは、ちゃんと避妊しようと思う。それにしても、ブループリントの女性は性的タブーにオープン過ぎる。もしかすると、ぼくが禁忌と考えている諸々が童貞的なのかもしれない。ぼくはまだ中学一年生だし、撮影でセックスしていても、女の子のことを理解しているわけじゃない。誰かとつきあったこともない。誰かを好きになったことも。
ぼくは振り返って、帆乃香さんの姿を探す。どこにもいない。いつも撮影が終わると姿がみえなくなる。ぼくのことを避けているのではないかと心配したこともあったけれど、帆乃香さんは一番若いからみんなに酷使される。のんびり休憩する暇もない。愚痴を言う相手もいない。どこか別の部屋か別の階へ機材を運んでいるのだろう。なんだか可哀相だ。
レイチェルがスマホに目を落としたまま英玲奈に言う。ぼくはバスタオルを身体に巻いてスタジオに戻ってくる。鏡の前の椅子に座ると、由真さんが髪を梳かしてくれる。全裸のまま隣に座った英玲奈は、片足を椅子の肘掛けにかけて、五十インチモニタで再生されるさっきの映像を眺める。全てのシーン撮影が終わった流南と鈴音は、衝立の向こうで私服に着替える。愛佳は少し濡れた髪を瑛美さんがブローする。
「おーい、英玲奈」
「え?」
ぼんやりしていた英玲奈がレイチェルを振り返る。
「麗羅ちゃんね、連絡取れないんだ」
「IMCもですか?」
「全然駄目。いま梨衣菜さんが自宅に呼びに行ったんだけど、今日は時間的に無理そう」
「あたし麗羅ちゃんと撮るの楽しみだったのに……」
「スチルだけ撮ったら、今日はあがっていいよ。優亜くんも」
「あたしと優亜くんだけで撮るのは駄目ですか?」
「場面がつながらないでしょ。最悪、代役立てないと……」
「じゃあ、友梨奈」
「あの子、風邪でしばらく休み。溶連菌だって」
「ヨーレン? 何ですか?」
「喉が痛くなる病気。いま紀乃ちゃん交渉してるけど、デビューでストーリーものは厳しいよね」
「今日のギャラは変わりませんか?」
「いつもと同じだよ。中止は英玲奈のせいじゃないんだし」
どうやら麗羅が音信不通らしい。この後の撮影のために、心と身体を準備していたのに、なんだか気が抜ける。そう言えば、麗羅は何者かにIMCで脅迫を受けていた。お母さんの葬儀でバタバタしてすっかり忘れていた。
「レイチェル、ぼく……伝えてないことが」
「え? 何?」
「五月一日に母が亡くなって……」
「お母さん?」
「昨日、葬儀でした。だから、来週火曜日まで学校休みです」
「えーっ! 早く言ってよ。明日以降の撮影、延期するよ」
「いえ、しなくていいです。むしろ学校休みなので、来週の平日二日は働けます」
「マジで? いいの? 優亜くんスチル撮影の予定溜まってるから、それなら一気にやっちゃうか」
「はい、お願いします」
「ほんとにいいの? お母さん亡くなったんでしょ」
「はい。家でじっとしてる方が色々考えて辛いので」
「そっか。優亜くんお父さんいないよね。引っ越したりするの?」
「いま、近所に住んでる叔母のところに行くかどうか、迷ってて……」
「それならウチの寮に入ったら? 梨衣菜に言っておくよ」
「女子寮ですよね?」
「女の子しかいないけど、女子寮ってわけじゃないよ」
「そんなところにぼくを入れて、大丈夫ですか?」
「撮影のとき以外は、避妊してれば別に好きにしていいんじゃない」
避妊は一度もしたことがない。今度誰かとプライベートでセックスするときは、ちゃんと避妊しようと思う。それにしても、ブループリントの女性は性的タブーにオープン過ぎる。もしかすると、ぼくが禁忌と考えている諸々が童貞的なのかもしれない。ぼくはまだ中学一年生だし、撮影でセックスしていても、女の子のことを理解しているわけじゃない。誰かとつきあったこともない。誰かを好きになったことも。
ぼくは振り返って、帆乃香さんの姿を探す。どこにもいない。いつも撮影が終わると姿がみえなくなる。ぼくのことを避けているのではないかと心配したこともあったけれど、帆乃香さんは一番若いからみんなに酷使される。のんびり休憩する暇もない。愚痴を言う相手もいない。どこか別の部屋か別の階へ機材を運んでいるのだろう。なんだか可哀相だ。
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