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第26話「麗羅が脅迫され、お母さんが危篤になる」
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お弁当を食べ終わった後、スマホに通知が表示されているのに気づく。
麗羅のIMCからで、『部室棟の裏に来て』と短いメッセージが送られていた。いつの間にか教室に麗羅の姿がない。由衣は別の女子と喋っている。
ぼくは慌てて教室を出る。先にお手洗いに行く。トイレに入ると、手を洗っている男子がしきりに後ろを振り返っていた。その視線の先は死角になっている。様子がおかしい。
「あれじゃわかんねーよ。ちゃんとしたの買えよ」
乃木の声だ。覗き込むと、乃木と島田、長岡の三人組が、同じクラスの井口くんを取り囲んでいる。ぼくはみつからないように個室に入る。座って話し声を聞く。
「ぼく会員じゃないから……」
「会員になればいいじゃん」
「でもビットコインとかですよ」
「だから何?」
「高いんです」
「あー金無いの? じゃあお前がちゃんとしたの落としたら、俺達が買ってやるよ。会費いくら?」
「大体、月額で一万円くらいで……」
「くらいってなんだよ」
「仮想通貨なので、毎日変動するんです」
「じゃあ、一本五千円で買ってやる。二本ゲットしたらトントン、三本ならお前儲かるじゃん」
「いや、でも、ぼくパソコン親に没収されてて……」
ドカッと蹴飛ばすような音が響く。
「取り返せよ。ガキかよ」
ぼくは個室を出る。井口くんを庇ってまた揉めたら、また先生たちから悪者にされてしまう。ぼくは乃木たちに背を向けて手を洗う。目の前の鏡越しに様子を伺う。長岡が井口くんの髪の毛を掴んで、ポケットに手を突っ込んだままの乃木が耳元で囁く。
「お前さ、立場わかってる? お前ン家の親がウチの銀行からいくら借りてるか知ってんの? 貸し剥がすよ。もう他行で借り換えできねーんだろ?」
「あの、せめて替わりのパソコンがあれば……」
「パソコンならなんでもいいの?」
「ウインドウズがいいです」
ぼくが鏡越しにみていることに、島田が気付いて振り返る。
「おい、何ジロジロみてんだよ、臭いんだよ貧乏人」
ぼくはハンカチで手を拭いて、振り返らずにトイレを出る。井口くんには悪いけど、揉めてる理由がよくわからない。それにいま急いでいる。
* * *
階段を駆け下りる。外廊下を伝って体育館の裏へ。部室棟の裏で、逆さにした側溝ブロックに座る麗羅の姿をみつける。スマホに目を落とす。近づくと、青ざめた顔を上げる。
「麗羅ちゃん、どうしたの?」
「優亜くん……どうしよう」
「何?」
「これみて」
麗羅がスマホを差し出す。IMCのプライベートチャットに、匿名のメッセージが届いていた。
『この動画、お前だろ? バラ撒かれたくなかったら、オナニーしてるところ撮って送れ』
動画の添付ファイルがあって、開くとplanet angelsのプレビュー動画が流れる。身体を大きく反って、腰を上下にスナップさせるあられもない姿と喘ぎ声が響く。麗羅が顔を覆って肩を震わせる。
「こんなことになるなんて……あたし……」
「麗羅ちゃん、大丈夫だよ。これだけなら顔わからないよ」
「だって、本編観られたらバレちゃう。これ観られる人は、お金払えば本編も観られるでしょ」
「梨衣菜さんに相談してみるよ」
ぼくはIMCで梨衣菜さんに電話をかける。出ない。この時間は梨衣菜さんもお昼休みのはずだけど。一度呼び出しを切って、今度はレイチェルにかけようとする。逆にスマホが着信して振動する。病院からだ。出る。
「はい、宇佐美です」
『宇佐美優亜くん、典子さんの息子さんですか?』
「はい、そうです」
『いますぐ病院まで来てください。お母様が大変重篤な状態です』
麗羅のIMCからで、『部室棟の裏に来て』と短いメッセージが送られていた。いつの間にか教室に麗羅の姿がない。由衣は別の女子と喋っている。
ぼくは慌てて教室を出る。先にお手洗いに行く。トイレに入ると、手を洗っている男子がしきりに後ろを振り返っていた。その視線の先は死角になっている。様子がおかしい。
「あれじゃわかんねーよ。ちゃんとしたの買えよ」
乃木の声だ。覗き込むと、乃木と島田、長岡の三人組が、同じクラスの井口くんを取り囲んでいる。ぼくはみつからないように個室に入る。座って話し声を聞く。
「ぼく会員じゃないから……」
「会員になればいいじゃん」
「でもビットコインとかですよ」
「だから何?」
「高いんです」
「あー金無いの? じゃあお前がちゃんとしたの落としたら、俺達が買ってやるよ。会費いくら?」
「大体、月額で一万円くらいで……」
「くらいってなんだよ」
「仮想通貨なので、毎日変動するんです」
「じゃあ、一本五千円で買ってやる。二本ゲットしたらトントン、三本ならお前儲かるじゃん」
「いや、でも、ぼくパソコン親に没収されてて……」
ドカッと蹴飛ばすような音が響く。
「取り返せよ。ガキかよ」
ぼくは個室を出る。井口くんを庇ってまた揉めたら、また先生たちから悪者にされてしまう。ぼくは乃木たちに背を向けて手を洗う。目の前の鏡越しに様子を伺う。長岡が井口くんの髪の毛を掴んで、ポケットに手を突っ込んだままの乃木が耳元で囁く。
「お前さ、立場わかってる? お前ン家の親がウチの銀行からいくら借りてるか知ってんの? 貸し剥がすよ。もう他行で借り換えできねーんだろ?」
「あの、せめて替わりのパソコンがあれば……」
「パソコンならなんでもいいの?」
「ウインドウズがいいです」
ぼくが鏡越しにみていることに、島田が気付いて振り返る。
「おい、何ジロジロみてんだよ、臭いんだよ貧乏人」
ぼくはハンカチで手を拭いて、振り返らずにトイレを出る。井口くんには悪いけど、揉めてる理由がよくわからない。それにいま急いでいる。
* * *
階段を駆け下りる。外廊下を伝って体育館の裏へ。部室棟の裏で、逆さにした側溝ブロックに座る麗羅の姿をみつける。スマホに目を落とす。近づくと、青ざめた顔を上げる。
「麗羅ちゃん、どうしたの?」
「優亜くん……どうしよう」
「何?」
「これみて」
麗羅がスマホを差し出す。IMCのプライベートチャットに、匿名のメッセージが届いていた。
『この動画、お前だろ? バラ撒かれたくなかったら、オナニーしてるところ撮って送れ』
動画の添付ファイルがあって、開くとplanet angelsのプレビュー動画が流れる。身体を大きく反って、腰を上下にスナップさせるあられもない姿と喘ぎ声が響く。麗羅が顔を覆って肩を震わせる。
「こんなことになるなんて……あたし……」
「麗羅ちゃん、大丈夫だよ。これだけなら顔わからないよ」
「だって、本編観られたらバレちゃう。これ観られる人は、お金払えば本編も観られるでしょ」
「梨衣菜さんに相談してみるよ」
ぼくはIMCで梨衣菜さんに電話をかける。出ない。この時間は梨衣菜さんもお昼休みのはずだけど。一度呼び出しを切って、今度はレイチェルにかけようとする。逆にスマホが着信して振動する。病院からだ。出る。
「はい、宇佐美です」
『宇佐美優亜くん、典子さんの息子さんですか?』
「はい、そうです」
『いますぐ病院まで来てください。お母様が大変重篤な状態です』
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