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第20話「乃木と喧嘩して怪我をする」
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月曜日、注文したノートパソコンが届いた。
開梱してパソコンを取り出す。アルミダイキャストのひんやりした本体と頑丈なヒンジは、学校のパソコン室に並ぶプラスチック製の格安量産機と違って高級感がある。モニタを開くと、真っ黒な画面にぼくの顔が映る。右の眉の隅に絆創膏が貼ってある。週末までに治ってほしい。今日、学校で揉め事があった。
昼休みの終わり頃、菅井くんと一緒に図書館から戻ってくると、麗羅と由衣がまた乃木たちに絡まれていた。
「今週末出発なんだけど、朝九時駅前集合でいいよね? ちょっと早い?」
乃木が麗羅の肩に腕を回して言い寄る。
「えーっ、行くって言ってないよ」
「行くって言ったじゃん! もう叔父さんにも言ったよ」
「いや、それ困る」
「なんで? なんか用事あンの?」
ぼくは自分の席に戻りがてら、「撮影だよ」と言う。長岡が顔をあげる。乃木が半笑いでぼくを睨む。
「お前かんけーねーだろ」
「同じ事務所だよ」
「あれっ? 麗羅ちゃん、コイツと同じバイトしてるの? 何? 貧乏? 金に困ってンの? 金なら相談に乗るよ」
麗羅は少し口を尖らせて「お金のためじゃないよ」と抗議する。
「やめときなって、俺もっと割の良いバイト知ってるよ。紹介しよっか?」
「ヤダ、どーせ闇バイトでしょ」
「いくらもらってるの?」
「だからお金のためじゃないって」
「教えてくれたっていいじゃん、なんで隠すの?」
乃木が麗羅を抱え込む。隣の由衣は怖がってなにも言えない。
「いやっ、ちょっとやめてよ!」
麗羅が悲鳴をあげる。ぼくは近づいて、乃木の腕を掴む。
「嫌がってんじゃん、やめろよ」
「んだテメエ! かんけーねーだろ!」
乃木はぼくに飛びかかって襟首を掴み、机と椅子をひっくり返しながら廊下側の壁までぼくを押す。窓に背中が当たって、ガラスが割れる音が響く。周囲の女子が悲鳴をあげる。
ぼくは乃木の肩を掴んで、思い切り頭突きする。ゴツッと重い音が響いて、火花が散る。乃木は仰向けに倒れる。長岡が助け起こす。学級委員の篠山が「やめろ!」と怒鳴って、ぼくに殴りかかろうとする乃木を羽交い締めにする。菅井くんが割り込む。ぼくの顔をみた麗羅が「優亜くん大丈夫!?」と駆け寄る。頬を触ると、ぬるりとした血が指先につく。
パソコンを机に置く。電源を入れる。絆創膏に触れる。傷は浅いのに、大量出血した。駆けつけた安藤先生はぼくをみて乃木を庇った。乃木の母親がPTA役員で発言権が強いからだと想像した。小学校では喧嘩両成敗だったのに、中学最初の喧嘩で露骨に依怙贔屓された。先生は、ぼくが入院している母親のために仕事をしていることを知っている。PTAに参加していないことを知っている。
初期設定画面が表示される。マンションのインターネット回線に接続する。すぐに使える状態になる。詳しい使い方は由香里さんに聞けばいい。ぼくは帆乃香さんに教わった手順をスマホで確認する。VPNアプリを入れて、匿名ブラウザをインストールする。指定されたURLへアクセスすると、もっさりと鮮やかなページが表示される。
『planet angels』と書かれた英語のサイトだけど、言語設定で日本語を選ぶと、日本語表示に切り替わる。トップページのアイキャッチに、白いブラウスを羽織って前を開けた少女の裸体が表示され、その下は動画のサムネイルがタイル状に並ぶ。クリックするとプレビュー映像が数十秒流れる。大半の動画は素人さんの投稿動画なのだけど、その合間にブループリントの少女たちのヌード動画、オナニー動画、そして、ぼくと乱交する動画が挟まっている。プレビューで見覚えのあるスタジオで鈴音を突く光景が再生されると、あまりのリアリティに冷や汗が流れる。
ログイン画面を開き、帆乃香さんに教わったアカウント情報を入力する。ログインすると、リストされた動画の長さが数十秒のサンプルから、フルサイズの三十分、五十分に切り替わる。ブループリントの古い動画はヌード、オナニー、少女どうしの愛撫ばかりで、今年の四月からぼくの乱交動画が投稿され、視聴数が他とは桁違いに多い。流南と鈴音を相手に初めてカメラの前でセックスした動画は三パートに分かれていて、いずれも評価が高い。
再生する。バッファリングで結構待たされる。地下駐車場の殺伐とした背景の中で、流南と鈴音の裸体が輝く。最近のことなのに、すでに懐かしい。鈴音と流南の割れ目に交互に挿入し、お構いなくびゅくびゅく射精する映像をみていると、あの快感を思い出して勃起してしまう。ぼくが絶倫だとスタッフさんが知らなくて、ぼく自身も自覚がなくて、ぎこちなく好き勝手にセックスした想い出。それが映像になると、セックスの当事者には見えない角度から、その猥褻行為が殊更強調される。乳首を舐められて感じているぼくの表情がアップになる。被写界深度の浅いレンズで、卑猥な姿が美しく彩られる。これが世界中のロリコンに観られていると思うと、なんだか気持ち悪くて恐ろしい。
外国語のコメントが並んでいる。そのへんは他のエロ動画サイトと同じだけど、コメント数が異様に多い。フラットなコメントではなく、フォーラム状になっていて、特定の動画へのコメントではないみたい。誰かが投稿したテーマに対して、大勢がコメントを書き込んでいる。スクロールすると、日本語のスレッドをいくつかみつけた。
開梱してパソコンを取り出す。アルミダイキャストのひんやりした本体と頑丈なヒンジは、学校のパソコン室に並ぶプラスチック製の格安量産機と違って高級感がある。モニタを開くと、真っ黒な画面にぼくの顔が映る。右の眉の隅に絆創膏が貼ってある。週末までに治ってほしい。今日、学校で揉め事があった。
昼休みの終わり頃、菅井くんと一緒に図書館から戻ってくると、麗羅と由衣がまた乃木たちに絡まれていた。
「今週末出発なんだけど、朝九時駅前集合でいいよね? ちょっと早い?」
乃木が麗羅の肩に腕を回して言い寄る。
「えーっ、行くって言ってないよ」
「行くって言ったじゃん! もう叔父さんにも言ったよ」
「いや、それ困る」
「なんで? なんか用事あンの?」
ぼくは自分の席に戻りがてら、「撮影だよ」と言う。長岡が顔をあげる。乃木が半笑いでぼくを睨む。
「お前かんけーねーだろ」
「同じ事務所だよ」
「あれっ? 麗羅ちゃん、コイツと同じバイトしてるの? 何? 貧乏? 金に困ってンの? 金なら相談に乗るよ」
麗羅は少し口を尖らせて「お金のためじゃないよ」と抗議する。
「やめときなって、俺もっと割の良いバイト知ってるよ。紹介しよっか?」
「ヤダ、どーせ闇バイトでしょ」
「いくらもらってるの?」
「だからお金のためじゃないって」
「教えてくれたっていいじゃん、なんで隠すの?」
乃木が麗羅を抱え込む。隣の由衣は怖がってなにも言えない。
「いやっ、ちょっとやめてよ!」
麗羅が悲鳴をあげる。ぼくは近づいて、乃木の腕を掴む。
「嫌がってんじゃん、やめろよ」
「んだテメエ! かんけーねーだろ!」
乃木はぼくに飛びかかって襟首を掴み、机と椅子をひっくり返しながら廊下側の壁までぼくを押す。窓に背中が当たって、ガラスが割れる音が響く。周囲の女子が悲鳴をあげる。
ぼくは乃木の肩を掴んで、思い切り頭突きする。ゴツッと重い音が響いて、火花が散る。乃木は仰向けに倒れる。長岡が助け起こす。学級委員の篠山が「やめろ!」と怒鳴って、ぼくに殴りかかろうとする乃木を羽交い締めにする。菅井くんが割り込む。ぼくの顔をみた麗羅が「優亜くん大丈夫!?」と駆け寄る。頬を触ると、ぬるりとした血が指先につく。
パソコンを机に置く。電源を入れる。絆創膏に触れる。傷は浅いのに、大量出血した。駆けつけた安藤先生はぼくをみて乃木を庇った。乃木の母親がPTA役員で発言権が強いからだと想像した。小学校では喧嘩両成敗だったのに、中学最初の喧嘩で露骨に依怙贔屓された。先生は、ぼくが入院している母親のために仕事をしていることを知っている。PTAに参加していないことを知っている。
初期設定画面が表示される。マンションのインターネット回線に接続する。すぐに使える状態になる。詳しい使い方は由香里さんに聞けばいい。ぼくは帆乃香さんに教わった手順をスマホで確認する。VPNアプリを入れて、匿名ブラウザをインストールする。指定されたURLへアクセスすると、もっさりと鮮やかなページが表示される。
『planet angels』と書かれた英語のサイトだけど、言語設定で日本語を選ぶと、日本語表示に切り替わる。トップページのアイキャッチに、白いブラウスを羽織って前を開けた少女の裸体が表示され、その下は動画のサムネイルがタイル状に並ぶ。クリックするとプレビュー映像が数十秒流れる。大半の動画は素人さんの投稿動画なのだけど、その合間にブループリントの少女たちのヌード動画、オナニー動画、そして、ぼくと乱交する動画が挟まっている。プレビューで見覚えのあるスタジオで鈴音を突く光景が再生されると、あまりのリアリティに冷や汗が流れる。
ログイン画面を開き、帆乃香さんに教わったアカウント情報を入力する。ログインすると、リストされた動画の長さが数十秒のサンプルから、フルサイズの三十分、五十分に切り替わる。ブループリントの古い動画はヌード、オナニー、少女どうしの愛撫ばかりで、今年の四月からぼくの乱交動画が投稿され、視聴数が他とは桁違いに多い。流南と鈴音を相手に初めてカメラの前でセックスした動画は三パートに分かれていて、いずれも評価が高い。
再生する。バッファリングで結構待たされる。地下駐車場の殺伐とした背景の中で、流南と鈴音の裸体が輝く。最近のことなのに、すでに懐かしい。鈴音と流南の割れ目に交互に挿入し、お構いなくびゅくびゅく射精する映像をみていると、あの快感を思い出して勃起してしまう。ぼくが絶倫だとスタッフさんが知らなくて、ぼく自身も自覚がなくて、ぎこちなく好き勝手にセックスした想い出。それが映像になると、セックスの当事者には見えない角度から、その猥褻行為が殊更強調される。乳首を舐められて感じているぼくの表情がアップになる。被写界深度の浅いレンズで、卑猥な姿が美しく彩られる。これが世界中のロリコンに観られていると思うと、なんだか気持ち悪くて恐ろしい。
外国語のコメントが並んでいる。そのへんは他のエロ動画サイトと同じだけど、コメント数が異様に多い。フラットなコメントではなく、フォーラム状になっていて、特定の動画へのコメントではないみたい。誰かが投稿したテーマに対して、大勢がコメントを書き込んでいる。スクロールすると、日本語のスレッドをいくつかみつけた。
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