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第1話「ぼくの秘密について」
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ぼくには誰にも話したことのない秘密が二つある。
最初の秘密は小学五年生のときの事件がきっかけだった。あまりに恐ろしい出来事だったから、病弱なお母さんはもちろん、お母さんと離婚したお父さんにも、先生にも、仲の良い友だちにも話したことはない。もしかしたら、お母さんはしっているのかもしれない。もししっていて、ぼくに黙っているなら、どうして黙っているのだろう。
ぼくは校舎の二階から転落して大怪我をして、担ぎ込まれた病院で頭に何かを埋め込まれた。頭蓋骨が骨折していて、その骨接ぎに何かを埋め込んだのかもしれないけれど、ぼくは埋め込まれたなにかを自覚することがあるし、稀にひどい頭痛に襲われるようになった。それは目玉や耳にスプーンをねじ込んで、脳味噌を掻き出されるような激しい痛みだ。病院からもらった薬を使っているけれど、大抵頭痛の治療は上手く行かず、失神してしまう。頭痛が起きる頻度はまちまちで、半年に一回ほど大きな波が来る。それを凌ぐと、しばらくは何も起こらない。
この激しい頭痛のことは、お母さんも、従姉妹の由香里さんも、お医者さんも、学校の先生もしっている。だけど、その原因が、病院で埋め込まれた何かであることは、誰にも言っていない。もし喋ってしまうと、開頭手術を受けることになるかもしれない。頭の手術は麻酔をしても意識があるのだから、グラインダーのような回転する歯で頭蓋骨を切られる恐ろしい振動と轟音に耐えなければならない。あの恐怖をもう一度味わうくらいなら、この地獄のような頭痛を耐える方がいくらかマシに思える。
ぼくは東京中西部の中野区と新宿区の境目あたりで産まれた。
小さい頃はお父さんもお母さんも揃っていて、近所に住んでいる従姉妹の家庭とも行き来が頻繁で、平凡な家族だった。その生活が一変したのは、ぼくが小学五年生の頃、あの事件が起きた直後だった。お父さんが職場の女の人と不倫をして、そのことがお母さんにバレて、離婚することになった。そこまではよくある話かもしれないけれど、親権の話になったとき、叔母が「優亜くんのお父さんは、ほんとうのお父さんじゃないからねぇ」と口走った。ずっとお父さんはぼくのお父さんだと信じてきたのに、裏切られたような気分だった。
お父さんはぼくのために養育費を払ってくれるけれど、それだけでは足りないから、お母さんはパートを掛け持ちして働きに出るようになった。その無理がたたったのか、お母さんは重い病気になって、長期間入院することになった。
マンションに取り残されたぼくの面倒をみるために、叔母と従姉妹の由香里さんが交代で泊まりに来てくれた。そのとき、二つめの事件が起こり、秘密が増えてしまった。二つめの秘密については、もちろん誰にも話したことはないし、思い出すこともない。
最初の秘密は小学五年生のときの事件がきっかけだった。あまりに恐ろしい出来事だったから、病弱なお母さんはもちろん、お母さんと離婚したお父さんにも、先生にも、仲の良い友だちにも話したことはない。もしかしたら、お母さんはしっているのかもしれない。もししっていて、ぼくに黙っているなら、どうして黙っているのだろう。
ぼくは校舎の二階から転落して大怪我をして、担ぎ込まれた病院で頭に何かを埋め込まれた。頭蓋骨が骨折していて、その骨接ぎに何かを埋め込んだのかもしれないけれど、ぼくは埋め込まれたなにかを自覚することがあるし、稀にひどい頭痛に襲われるようになった。それは目玉や耳にスプーンをねじ込んで、脳味噌を掻き出されるような激しい痛みだ。病院からもらった薬を使っているけれど、大抵頭痛の治療は上手く行かず、失神してしまう。頭痛が起きる頻度はまちまちで、半年に一回ほど大きな波が来る。それを凌ぐと、しばらくは何も起こらない。
この激しい頭痛のことは、お母さんも、従姉妹の由香里さんも、お医者さんも、学校の先生もしっている。だけど、その原因が、病院で埋め込まれた何かであることは、誰にも言っていない。もし喋ってしまうと、開頭手術を受けることになるかもしれない。頭の手術は麻酔をしても意識があるのだから、グラインダーのような回転する歯で頭蓋骨を切られる恐ろしい振動と轟音に耐えなければならない。あの恐怖をもう一度味わうくらいなら、この地獄のような頭痛を耐える方がいくらかマシに思える。
ぼくは東京中西部の中野区と新宿区の境目あたりで産まれた。
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