【R18】アリスの不条理な箱庭

アリスの五原則

　業間休みになると、明日香たちがぼくと美咲の席の周りに集まって、ぼくたちの自由を奪う。どこにも行けないように通せんぼする。
「放課後、いつもの場所で待ち合わせる意味ないから、もう二人とも直行して」
　ぼくの背中に立ち、襟から手を挿し込んで乳首をつまみながら明日香が命令する。ぼくの机に座った由香里が上履きを脱いで、足でぼくの股間を触る。麻耶はぼくたちが席から離れられないように、ぼくの脇に立つ。
「美咲ちゃん、今日も言われたとおりにしてる？」
　麻耶がぼくの頭越しに訊く。美咲は頷く。
「じゃあ、みして」
　明日香が言う。美咲は両脚を開いて、プリーツスカートの裾を持ち上げる。下着を履いてない剥き出しの割れ目をみせる。だけど、ぼくの背後に立つ明日香にはみえない。
「みえないよ。雅巳くん、指挿れてたしかめて」
「えっ、今……？　ぅン」
　明日香がぼくの乳首をぎゅっと摘んで引っ張る。
「今よ今」

　ぼくは教室の様子を伺う。男子は校庭に遊びに行ってて、女子たちはそれぞれのグループで集まってお喋りに夢中になっている。誰もぼくたちのしていることに注意を向けない。特に、明日香グループは他の子たちから畏れられているのだから、尚更無遠慮に視線を向けてくる子はいない。
　ぼくは麻耶に背を向けて、美咲のワンピースの裾に手を入れる。すべすべの割れ目に触れる。人差し指と薬指で割れ目を拡げて、中指を膣口に沈める。あまり濡れていなくて、痛そうな表情。ぼくは指を一度引き抜き、中指を舐めて唾液で濡らす。もう一度中指だけを挿れる。にゅるるるっと温かい粘膜に包まれて、指先が子宮頸しきゅうけいに触れる。撫で回す。美咲がぼくの手首を掴んでため息を漏らす。
「履いてないよ」
　ぼくが報告すると、明日香が笑う。
「すごい、美咲ちゃんこのままずっとノーパンで過ごしなよ」
　挿れっぱなしの指を美咲が引き抜く。チャイムが鳴る。明日香たちは自分の席に戻っていく。

　＊　＊　＊

　お昼休み開けの総合学習時間。
　二組担任の田辺たなべ由里子ゆりこ先生はもともと他校の支援員の先生だったけれど、本来の担任だった先生はぼくが転入してくる前に病気療養で学校に来られなくなり、理事長のつてで急遽田辺先生が担任になったと聞いた。
　今日の田辺先生は短いプリーツスカートを履いていて、白いオーバーニーソックスで美脚ラインを際立たせる。長い髪を編んでいて、黒いリボンタイをつけているから女子高生に見える。
　田辺先生は教諭免許は持っているけれど、一クラスを受け持つのは初めてだから、授業もたどたどしくてぼくたち生徒が気を遣う。とても若くて声が透き通っていて、お歌がとても上手い。顔立ちもとても綺麗で、男子より女子に人気がある。家庭訪問はまだだけど、田辺先生はぼくのマンションに来たことがある。

「みんなが使っているアリスがすこし成長して、今までと同じ質問や相談をしても、これまでと違った答えを出してくれることがあります。恥ずかしくてお父さんお母さんや先生に聞きづらいことでも、アリスになら聞きやすいでしょ」
「せんせー、アップデートですか？」
　門村くんが手を上げながら質問する。
「そうそう、アリスが新しくなるの。先生あんまり詳しくないんだけど……」
「アプリの右下に数字があって、これ日付と時間になってるから、これみたらいつ更新されたかわかりますよ」
　右下には更新のシリアル番号と、日時をつなげた十二桁の数字がドットつなぎで表示されている。これをみていると、大体週に一回は更新されている。
「そうそれね、毎週更新されてるけど、もし日付が一週間以上前のだったら、手作業で更新しなくちゃいけないの。今から更新のやり方を説明します」

　田辺先生が教室のモニタにスマホの画面を表示させて、通常のアプリ更新の手順で更新処理を行う。アプリを更新するごとにアリスの姿が進歩して、以前は三十センチ以上カメラに近づけなかったのに、今では眼球の虹彩までくっきり見えるほど接写できるようになったと言う。
　受け答えが無機質なのは変わらないけれど、じっと質問を待つだけでなく、より能動的に生徒を支援するようになった。アリスの進化はロケットのようなもので、ブレーキはついていない。その進化によって予想外の行動を取っては困るので、アリスにはＡＩ五大原則が適用される。ロボット三原則のようなものだと先生は言うけど、ぼくたちはそのロボット三原則をよく知らない。

　一、人間への危害の禁止。
　ロボット三原則に似ているけれど、予期せぬ事故や不具合による危害についても禁止される。集団の利益のために個人を犠牲にするときは、アリスは個人の利益を優先し、個人が集団に危害を加えようとしたとき、アリスは集団の利益を優先する。

　二、人間の尊厳と自律性の尊重。
　アリスは人間の尊厳と自律性を尊重するから、アリスが生徒に何かを命じることは無い。人間の尊厳には個人情報が含まれる。

　三、公平性と正義の遵守。
　アリスは人種、性別、宗教、社会的地位などで人間を差別しない。区別の必要性が無いときに、女子だけ、男子だけに特定の支援が偏ることは無い。

　四、透明性と説明責任。
　アリスは自分自身の行為の理由について説明することができる。理解できない言動を確認したとき、アリスがそう考える理由について質問すれば、個人情報などの機密情報に触れない範囲でアリスは質問者に説明しなければならない。

　五、人間との共存と協調。
　アリスは社会に貢献し、協調して人間と共存、繁栄する。人間を信頼し、正確な情報を提供し、コミュニケーションを円滑にする。アリスが環境に与える影響や社会的倫理が人間との共生を脅かすものであってはならない。

　総合学習ではアリスの使い方や質問のコツ、問題解決への糸口の見つけ方などを学習する。大雑把に言うと、学習支援ＡＩを通じて学習法の学習を行う。
　ぼくの前の学校ではもっとアナログに横断的な問題探求を課題として出されていた。何かを解決するために、これまでに学習した国語や算数、理科、社会の知識を総動員するのだけど、この学校では少し違う。ＡＩを補助利用することを前提とした課題解決を行うのだと言う。だから、この授業中はスマホを出してアリスを起動しなければならない。
　ぼくは、また魔女のフードを被ったアリスが現れて、ぼくの秘密をみんなに喋ってしまうのではないかと心配したけれど、アリスは花飾りのついたボンネットを被った十八世紀の少女のような風体で現れて、ぼくが話しかけるのを大人しく待っている。