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第3部
第16話「シュウレイの首を尋問する顛末」
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孤児院の受付に座って、窓ガラスを流れる雨粒を眺める。
この時代、バイザーからカジュアルにネットに接続するには、インターネット回線を使う。ぼくの時代のインターネットと違って接続は手間だし、回線は不安定だし、情報も遅いからニュースを求めるには不向きだ。かと言って、ダイバーネットはアクセスするとき、全身が異世界転生するのだから、スマホを取り出して調べ物をするような使い方はできない。
そういういくつかの点で、進歩が後退と抱合せになっていることを感じる。
ブルートゥースのイヤホンを旅行に持っていくといつも充電器を忘れて、旅先で有線のイヤホンを買う羽目になる。スマホ決済のクラウドが大規模障害になるのが怖くて現金を手放せない。予備校の授業にメモ用にタブレットを持ち込んでも、気づけばノートにペンを滑らせる。それが進歩と割り切れないうちは、大人しく古くて不便なものを併用し続けるしかない。
館内入口の自動ドアが開いて、裸に直接白衣を纏ったウェンディが現れる。ぼくをみつけてすごい笑顔になる。ぼくもなぜだか嬉しくなって駆け寄る。抱きつく。
「どーしたんだい、よくみつけたね」
「ダイバーネットでここの孤児院の子が教えてくれたの」
「ああ、ダークサイトだね」
「そう」
「子供ともファックするようになったんだ。きもちよかったかい?」
ウェンディが服の上からぼくの陰茎を撫でる。ぼくはウェンディとキスをする。
「ユタニの首が必要なんだ」
「診療所に置いてあるよ。何に使うの?」
「シュウレイに訊きたいことがある」
ぼくたちは孤児院を出て、ウェンディの車で診療所へ向かう。
シルバーの流線型ボディが雨粒を弾き、バイパスのコーナーで傾くたびにシューッと音を立てる。久しぶりに乗り心地の良い洗練された車に乗った気がする。
建物の隙間から、ユリシナ教会の尖塔がみえる。ぼくの家族と、ネムが納骨される墓地のあるところ。
「あんたの女はあの教会に眠ってるんだっけ」
「そうだよ」
「墓参りするかい?」
「いいよ、思い出すと辛いから」
「ハネムラはライラの恋人だと思っていたけど……」
「え?」
「あの子、ライラの……」
「今、ハネムラって言わなかった?」
「それがどうしたの」
「ネムだよね」
「ハネムラだから、ネム。死んだサチがそう名付けたんだよ」
「本名はハネムラ・サエ?」
「知ってるじゃん」
息を呑む。車は走り続けているけど、時が止まったようにすべての記憶を呼び起こす。
波根村紗英はぼくのセフレだった子だ。わからない。どうしてネムが波根村紗英なのか。偶然、同姓同名の人物なのか。思い起こせば、ネムと紗英は雰囲気は違うけれど、顔立ちが似ていた。ちょうど、生身のぼくがフェラーレボディに換装して浮世離れした顔立ちになった変化と似ていた。そのせいで、ぼくが紗英に気づかなかったように、紗英もぼくに気づかなかったのか。
コクーンビルの四十五階にウェンディの新しい診療所があった。以前のようなスラム街じゃなくて、洗練された都会のど真ん中。ハルトやベツ、ボリス、ヴィクトールのことを思い出す。
いま思えばとんでもない武装ギャングの一員として、銃をぶっ放し、ドラッグに溺れ、女たちと好き勝手にファックするぶっ飛んだ日常を送っていた。結局いまもあまり変わっていないけれど、あの頃の日々の密度が懐かしい。
車がビルの駐車場に滑り込むと、ライラたちの車が停まっていた。ガルウィングが開いて、ルシアとユリアが手をふる。
* * *
診療所内は相変わらず薄暗く、足元の間接照明が下から光を投影するムーディーな空間で、病院とはおもえない。
治療室で腕を機械化した男がアンドロイドナースから診察を受ける。子供を膝に抱いた母親が待合室のソファに座っている以外に患者はいない。闇医者は開業医じゃないから、患者が押し寄せることもない。
メアとルシアは待合室でお茶を飲む。ユリアとエレナは外階段で電脳ドラッグの煙管を吹かす。ぼくとライラは第二診察室に入る。
診察室にウェンディが例の炊飯器みたいなハイバネータを持ってくる。
冷気が床に流れ、ウェンディがスイッチを入れると、内部に光が灯ってユタニ・シュウレイの千切れた首がハイバネータの窓からみえる。青白い保存液に浮かんで目を閉じている。ウェンディが長方形のリモコンを渡す。
「これで話ができるよ。でも、生きてたころとは違うからね」
ぼくはリモコンを受け取る。ライラが覗き込む。これ生きてるのかよ、と呟く。
「シュウレイ、聞こえる?」
反応が無い。
「シュウレイ!」
ぼくは大声で呼びかけて、テーブルを叩く。シュウレイの首はまぶたを開く。周囲をきょろきょろ確認して、ぼくをみつけてニヤリと笑う。
土曜の夕方にやってる役に立つ機関車みたい。こいつにはもう一度役に立ってもらう。
「バルクのアンプルは追加注文のために二割が余剰在庫として用意されている。それが欲しいなら医療チームに連絡してくれ」
「ユタニ・シュウレイ。あんたがモナリザの息子っていうのは本当なの?」
「正確には、モナ、リザ、それは一単語ではない。そして私が彼女の息子というのは」
「絵の話ではなく、イスカリオテのボスのことだ」
「ハハハ」
「違うなら話は終わりだけど」
「私は彼女の私生児だ」
「ありえない」
「ありえなくはない。生殖制限法の施行前に産まれたのだからな」
「モナリザの本体はどこにいる?」
「教えると思ったか」
「取引しよう」
「なら私を解放しろ」
「いいよ、情報が本当なら」
「モーリス、ゲラルディーニ記念病院の元院長モーリスを探せ」
「どこにいる?」
「それは自分で探せ。私に頼るな」
シュウレイの首はまぶたを閉じる。もう問いかけに答えなくなる。ライラがため息をつく。ウェンディがハイバネータのスイッチを切る。保管庫に運び去る。
「またモーリスが出てきた」とぼく。
「偉い医者なんだろ?」
「ぼくが目覚めた病院の院長で、ゲリラの襲撃を生き延びたって警察で聞いた」
「探すの難しそうだね」
ウェンディが戻ってくる。ぼくをいきなり診察台に押し倒し、シャツから陰茎を引きずり出す。ちゅるるるっと根元まで飲み込んでしまう。両手を伸ばして、シャツの上から乳首を弾く。思わず声が出る。
「あっ、ウェンディ。患者さんが待ってるよ」
「ちゅるる、じゅるっ。ぷはぁ、患者はナースが診るんだよ」
そう言ってぼくを跨ぐ。巨根を濡れた割れ目に沈める。ウェンディはライラを引き寄せて、ぼくの上でぬるぬると舌を絡め合い、割れ目に指を出し入れする。
「モーリス元院長の居場所を知らない?」
「知ってるよ」
「どこにいる?」
「アタシをイかせたら、教えてあげる」
この時代、バイザーからカジュアルにネットに接続するには、インターネット回線を使う。ぼくの時代のインターネットと違って接続は手間だし、回線は不安定だし、情報も遅いからニュースを求めるには不向きだ。かと言って、ダイバーネットはアクセスするとき、全身が異世界転生するのだから、スマホを取り出して調べ物をするような使い方はできない。
そういういくつかの点で、進歩が後退と抱合せになっていることを感じる。
ブルートゥースのイヤホンを旅行に持っていくといつも充電器を忘れて、旅先で有線のイヤホンを買う羽目になる。スマホ決済のクラウドが大規模障害になるのが怖くて現金を手放せない。予備校の授業にメモ用にタブレットを持ち込んでも、気づけばノートにペンを滑らせる。それが進歩と割り切れないうちは、大人しく古くて不便なものを併用し続けるしかない。
館内入口の自動ドアが開いて、裸に直接白衣を纏ったウェンディが現れる。ぼくをみつけてすごい笑顔になる。ぼくもなぜだか嬉しくなって駆け寄る。抱きつく。
「どーしたんだい、よくみつけたね」
「ダイバーネットでここの孤児院の子が教えてくれたの」
「ああ、ダークサイトだね」
「そう」
「子供ともファックするようになったんだ。きもちよかったかい?」
ウェンディが服の上からぼくの陰茎を撫でる。ぼくはウェンディとキスをする。
「ユタニの首が必要なんだ」
「診療所に置いてあるよ。何に使うの?」
「シュウレイに訊きたいことがある」
ぼくたちは孤児院を出て、ウェンディの車で診療所へ向かう。
シルバーの流線型ボディが雨粒を弾き、バイパスのコーナーで傾くたびにシューッと音を立てる。久しぶりに乗り心地の良い洗練された車に乗った気がする。
建物の隙間から、ユリシナ教会の尖塔がみえる。ぼくの家族と、ネムが納骨される墓地のあるところ。
「あんたの女はあの教会に眠ってるんだっけ」
「そうだよ」
「墓参りするかい?」
「いいよ、思い出すと辛いから」
「ハネムラはライラの恋人だと思っていたけど……」
「え?」
「あの子、ライラの……」
「今、ハネムラって言わなかった?」
「それがどうしたの」
「ネムだよね」
「ハネムラだから、ネム。死んだサチがそう名付けたんだよ」
「本名はハネムラ・サエ?」
「知ってるじゃん」
息を呑む。車は走り続けているけど、時が止まったようにすべての記憶を呼び起こす。
波根村紗英はぼくのセフレだった子だ。わからない。どうしてネムが波根村紗英なのか。偶然、同姓同名の人物なのか。思い起こせば、ネムと紗英は雰囲気は違うけれど、顔立ちが似ていた。ちょうど、生身のぼくがフェラーレボディに換装して浮世離れした顔立ちになった変化と似ていた。そのせいで、ぼくが紗英に気づかなかったように、紗英もぼくに気づかなかったのか。
コクーンビルの四十五階にウェンディの新しい診療所があった。以前のようなスラム街じゃなくて、洗練された都会のど真ん中。ハルトやベツ、ボリス、ヴィクトールのことを思い出す。
いま思えばとんでもない武装ギャングの一員として、銃をぶっ放し、ドラッグに溺れ、女たちと好き勝手にファックするぶっ飛んだ日常を送っていた。結局いまもあまり変わっていないけれど、あの頃の日々の密度が懐かしい。
車がビルの駐車場に滑り込むと、ライラたちの車が停まっていた。ガルウィングが開いて、ルシアとユリアが手をふる。
* * *
診療所内は相変わらず薄暗く、足元の間接照明が下から光を投影するムーディーな空間で、病院とはおもえない。
治療室で腕を機械化した男がアンドロイドナースから診察を受ける。子供を膝に抱いた母親が待合室のソファに座っている以外に患者はいない。闇医者は開業医じゃないから、患者が押し寄せることもない。
メアとルシアは待合室でお茶を飲む。ユリアとエレナは外階段で電脳ドラッグの煙管を吹かす。ぼくとライラは第二診察室に入る。
診察室にウェンディが例の炊飯器みたいなハイバネータを持ってくる。
冷気が床に流れ、ウェンディがスイッチを入れると、内部に光が灯ってユタニ・シュウレイの千切れた首がハイバネータの窓からみえる。青白い保存液に浮かんで目を閉じている。ウェンディが長方形のリモコンを渡す。
「これで話ができるよ。でも、生きてたころとは違うからね」
ぼくはリモコンを受け取る。ライラが覗き込む。これ生きてるのかよ、と呟く。
「シュウレイ、聞こえる?」
反応が無い。
「シュウレイ!」
ぼくは大声で呼びかけて、テーブルを叩く。シュウレイの首はまぶたを開く。周囲をきょろきょろ確認して、ぼくをみつけてニヤリと笑う。
土曜の夕方にやってる役に立つ機関車みたい。こいつにはもう一度役に立ってもらう。
「バルクのアンプルは追加注文のために二割が余剰在庫として用意されている。それが欲しいなら医療チームに連絡してくれ」
「ユタニ・シュウレイ。あんたがモナリザの息子っていうのは本当なの?」
「正確には、モナ、リザ、それは一単語ではない。そして私が彼女の息子というのは」
「絵の話ではなく、イスカリオテのボスのことだ」
「ハハハ」
「違うなら話は終わりだけど」
「私は彼女の私生児だ」
「ありえない」
「ありえなくはない。生殖制限法の施行前に産まれたのだからな」
「モナリザの本体はどこにいる?」
「教えると思ったか」
「取引しよう」
「なら私を解放しろ」
「いいよ、情報が本当なら」
「モーリス、ゲラルディーニ記念病院の元院長モーリスを探せ」
「どこにいる?」
「それは自分で探せ。私に頼るな」
シュウレイの首はまぶたを閉じる。もう問いかけに答えなくなる。ライラがため息をつく。ウェンディがハイバネータのスイッチを切る。保管庫に運び去る。
「またモーリスが出てきた」とぼく。
「偉い医者なんだろ?」
「ぼくが目覚めた病院の院長で、ゲリラの襲撃を生き延びたって警察で聞いた」
「探すの難しそうだね」
ウェンディが戻ってくる。ぼくをいきなり診察台に押し倒し、シャツから陰茎を引きずり出す。ちゅるるるっと根元まで飲み込んでしまう。両手を伸ばして、シャツの上から乳首を弾く。思わず声が出る。
「あっ、ウェンディ。患者さんが待ってるよ」
「ちゅるる、じゅるっ。ぷはぁ、患者はナースが診るんだよ」
そう言ってぼくを跨ぐ。巨根を濡れた割れ目に沈める。ウェンディはライラを引き寄せて、ぼくの上でぬるぬると舌を絡め合い、割れ目に指を出し入れする。
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