【R18】ハロー!ジャンキーズ

藤原紫音

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第2部

第21話「サチと駆け落ちの約束をする顛末」

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 雪が舞う昼下がり、ユリシナ教会の鐘が鳴る。

 ぼくは教会の全貌が見渡せる雑居ビルの最上階で、壁の隙間からロバエフ対物ライフルを構える。雨だけでなく、雪の下でも熱光学迷彩は使えない。壁際でライラが観測鏡を覗き込む。

 ユリシナ教会は第一次極東大戦の時代に自然発生したルーツを持たない新興宗教で、遺棄された寺院や教会の墓地を買い取り、ボランティアで管理を行う慈善団体だった。これといってはっきりした教義や歴史があるわけではなく、個人が己の欲望に忠実なこの時代における数少ない善意の集団で、女性はシスター、男性はマスターと呼ばれる位階制度のないメンバーによって運営され、寄付によって維持されている。どんなものでも金で買えるこの時代で、最もコントロールが難しい中立の共同体がユリシナ正教会だ。

「ユタニの狙撃手はいない?」とぼくが訊く。
「熱も動体も無し。ここが一番良いポイントだけど、あとは向かいの廃工場ね。あれじゃ隠れるところがないわ。雪降ってるからイ式もいないし」
「シュウレイは来るかな?」
「流石に高額取引だからね、手下に任せると持ち逃げされちまうよ」
「いくらだっけ……六百万?」
「五千アンプル全部ならそうだね」
「五千アンプル全部買うって言ったよ」
「リオ、もしかして寒いの?」

 ぼくは寒くて声が震える。ライラは首筋から股間まで大きくカットされたレオタードを着ていて、素肌が雪に濡れても平気そう。

「ライラは寒くないの?」
「バイオユニットは加温組織入ってるから、暖かくできるんだよ」
「それ知らない、どうするの?」
「フェラーレなら公式からドライバ落とせると思うけど……あっ、来た」

 ぼくはバイザーの倍率を上げる。ユタニの黒いバンが二台、教会の駐車場へ滑り込んでくる。運転席を拡大する。シュウレイの姿は確認できない。

 ほぼ同時に、反対側の教会正門から俗悪なピックアップの新車が突入してくる。知能の欠如した獅子舞みたいな顔面がLEDをギラつかせ、邪悪を機械化したような有鉛ハイオクエンジンが黒煙を放屁しながら坂を上る。洗練されたエレガントなEV車しか売ってない時代に、どこからあんな頽廃的な車をみつけてくるのだろう。

 教会の中庭で停車したピックアップから、サチ、ベツ、ボリスが降りる。中庭の対角線で、ケースの台車を押す男たちの中から、ユタニ・シュウレイが進み出て両手を上げる。その後ろに、あのニットマスクの女がみえる。ぼくはサチの姿を拡大する。いつものビキニスタイルで、両脇に大型拳銃M24Rを二梃ぶら下げる。

 * * *

 ユタニのホテルからフェオドラのキャンプに戻ったぼくたちは、急ごしらえの作戦室でフェオドラに状況を説明する。フェオドラはくわえタバコで話を聞く。

「どうして睡眠薬じゃなくてセックスドラッグなの?」
「睡眠薬じゃ、ホテルで取引終わっちゃうだろ。シュウレイを外に引っ張り出すには、嵩張かさばって、百万クレジットを超える品物じゃないといけない」と寝不足のサチが喧嘩腰。
「ユリシナ教会ではよく取引するの?」
「今回が初めてだね」
「わかったわ、それで進めて。但し、我々は支援できない」
「期待してねーよ」
「ハルトはお留守番ね。取引が終わったらデンバーへ、もし決裂したら、ゴルリッツへ」
「ゴルリッツのどこ?」
「指示するわ」

 フェオドラが作戦室を出ていく。長テーブルに座ったハルトが壁の時計をみている。ベツは腕組みしたまま考え事。ボリスは乾燥したパンのようなサイボーグ食を食いちぎり、水で流し込む。ヴィクトールはコンソール端末を眺めていて、ライラは椅子の背もたれを抱いて「ゲリラの基地にはクスリもねーの?」とぼやく。いまウェンディがどこでどんな目に遭っているかわからない。サチがハルトを振り返る。

「ベツとボリスに運び屋を手伝ってもらいたいんだ」とサチが言う。
「そうだな、キャンプの男たちは今回は使えない」とハルト。
「取引が終われば、フェオドラはあたしたちを解放してくれるの?」
「約束は守る女だ、疑っても打つ手がねーしな」
「リオとライラには、遠隔で支援してもらうよ」
「スラム街の教会だ。相手も狙撃手がいると思ったほうがいい」
「わかった。リオ、ロバエフに消炎器つけるから、やり方覚えてもらうよ、ついてきな」

 サチがぼくを連れ立って作戦室を出る。掩蔽壕えんたいごうを抜けて、女戦士たちの宿舎へ入る。生身の女達の匂いを敏感に感じ取り、股間が燃えるほどたけった乱交の夜を思い出し、勃起してしまう。サチの個室に入る。サチが内鍵をかけて、ぼくの首に腕を回す。キスをする。

「あー、リオ、あたしもうダメだ……ハルトの前で誤魔化し続けられない」
「どうして? 自然だったよ」
「嘘をつくのも稼業だからね、だけどハルトを騙し続けるのは無理だよ。どうしよう」

 ホテルで電脳セックスしたあと、ぼくたちは同期を切ればきっと元通りになると軽く考えていたけれど、それは間違いだった。一度味わった男女でひとつになる究極の快楽は、簡単には忘れることができない。

「クセノフィオフィラ使って、ハルトともシンクロしてみたら?」
「今更無理だよ……。ああ、リオ、なんでアンタなんかとセックスしちゃったんだろう。ねえ、挿れて、我慢できないよ」

 サチがぼくを抱いたままベッドに仰向けになり、紐状のビキニパンツのスナップボタンをパチリと外す。濡れた美マンが顕になり、クレマチスの優美な芳香が立ち上る。ぼくはスキニーパンツを膝まで下ろして、シャツを脱ぎ捨てる。サチに覆いかぶさって、ぬちゅるるるっと根元まで躊躇いなく沈める。

「……あっ、ぐっ」

 サチがうめき声を漏らす。突き上げた子宮頸がぎゅぎゅっと引き攣って、ぼくから精を吸い出すように膣全体が乳搾りする。一突きでサチが絶頂したことに驚き、ぼくは吐息を漏らして、サチの膣に精液を注ぐ。我慢してもどんどん溢れてくる。結合から噴き出して、シーツを濡らす。サチの両脚がぼくの腰を引き寄せ、ぼくの乳首を指先で刺激しながら、ぬるぬると舌を絡ませる。

「ゲリラが解放してくれたら、リオ、あたしと一緒に逃げるかい?」
「いいよ、逃げよう」
「ナザレ空港に知り合いがいるんだ。セクター4から出て、誰も知り合いのいないセクターに密航しよう」

 ぼくを拾ってくれたハルトに対するひどい裏切りを、不義を働きながら打ち合わせる。じぶんがとんでもなく悪い男になったことを自覚する。もし失敗したら、殺されても仕方がない。
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