【R18】ハロー!ジャンキーズ

藤原紫音

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第2部

第17話「情報屋から情報を買う顛末」

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 場末のバーラウンジのようなレトロ空間に、ライラとつながったままジャンプアウトする。
 誰もいない。ライラが腰を打ち鳴らして、イク、イク、と喘ぐ。ぼくはライラを突き上げて、先端がじゅぷりと子宮に包まれる。リアルの子宮よりずっとソフトな感触に引っ張られる。子宮内に精を噴射する。結合から派手に精液を噴き出して、床にぶちまける。

「ここはチャットルームじゃないんだけど」

 不意に背後から声をかけられる。振り返ると黄色から青にグラデーションした長い髪の女が立っていて、床にぶちまけた体液を見下ろして舌打ちする。ライラが身体を離す。床に片足で爪先立ってグラデーションの女をみつめる。

「ヤン・ユーチェンっていう情報屋を知らない?」とライラが訊く。
「知らないね」

 ライラがデジタルコインを指で弾く。女が空中で受け取る。女の瞳が赤白の太極図になっている。

「一週間前に来たけど、毎日来るわけじゃないよ」
「どうすれば会える?」
「人肉捜索したら?」
「それで見つけられたら楽なんだけど」
「じゃあ、現れるまで待つんだね。なんか飲むかい?」

 木製の床の上を、掃除ロボットが滑ってくる。ぶちまけた体液を拭き取る。
 ダイバーネットは重力を無視できたり、瞬時に移動できたり、物理法則だけは都合よくできているけれど、壊したものは修理が必要だし、汚したり散らかしたものが勝手に片付いたりしない。カウンター席に座る。長い髪の女がカクテルを作る。グラスを並べる。女の瞳が白く発光する。

「人がいないね」とぼくが言う。
「この店にはハッカーなんかこないし、奴らから情報を買おうなんて奴も来ないよ」
「公安は?」
「リッテンビル自体がダークサイトだから、このへんウロウロしてる公安は買収されたやつばかりさ。ところで、ヤン・ユーチェンに何を聞きたいんだい」

 ライラがカクテルグラスを傾けて答える。

「ユタニが潤沢に持ってるドラッグの品目リストが欲しいの」
「そんなのどうするの?」
「価格交渉したいから」
「ヤン・ユーチェンは千クレジットで売るかもしれないね」と女が提案する。
「千かぁ……全リスト貰えるなら」
「いいわ」

 ライラと女の間にトレードウインドウが表示される。最初の五品目だけが表示されたサムネイルのリストに対して、ライラが千クレジットをチェックする。取引が完了すると、ライラが手をふる。意識がぎゅっと勢いよく現実に引き戻される。

 * * *

 車がドールストリートの駐車場に滑り込む。バイザーを上げて、ぼくは恐る恐るお腹を触る。大丈夫、濡れていない。ダイバーネットでセックスして射精しても、現実ではせいぜい勃起するくらい。極度にリアルな夢をみている感じだ。

「じゃあ、外からサポートしてるから、なんかあったら連絡ちょーだい」

 そう言ってライラはぼくとキスをしてから車を降りる。バイザーをかけると、ライラの音声通信だけが開く。サチともつながる。音声通信は実際に喋らないといけないから、スパイ活動に向かない。こういうところは文字入力できるスマートフォンの時代のほうが優れている。

「ダイバーネットでファックしてただろ」とサチが言う。
「なんで……バレたの」
「あの子、ダイブ中なのにめっちゃ喘ぐし。あーん、リオぉ、なかにだしてえ、って」
「ダイバーネットでライラとセックスするのは初めてだよ」
「きもちよかった?」
「本物と違ってつるつるしてて、人工的なかんじだけど、ライラの感触だった」
「ダイブセックスって、みんな学習施設のときにハマるんだよね。でもリアルでセックスしてから味気ないから飽きちゃうけど、なんかアニメみたいにぬるってしてるから、たまにヤリたくなるね」

 車が駐車場を出て、バイパスから道路に降りる。雪がすごくて、あまり地上を走る車がないから積もった雪がまだ除雪されていない。車が時々滑る。
 ユタニが持っているホテルに入る。緩やかな上り坂のロータリーを回ってエントランスに到着すると、ぼくたちは車を降りる。ベルボーイが駆けてきて、荷物を持ってくれる。車は無人運転で駐車場へ走っていく。

 フロントでチェックインを済ませる。エレベータに乗ると、ライラから音声通信が入る。

「ドラッグリスト解析したら、ユタニはクセノフィオフィラを入荷してるね。五千アンプル」

 ぼくとサチはバイザー越しに目を合わせる。余計なことは言わずに沈黙する。ベルボーイがいるし、どこで盗聴されているかわからない。エレベータが八階に到着する。
 ベルボーイが部屋へ案内する。チップを渡すと、サチがトランクを開いて着替え始める。フォーマルなドレスを着る。ぼくもジャケットに着替える。

「クセノフィオフィラって、セックスドラッグなのに末端価格めちゃくちゃ高いですよね」とぼくは訊く。
「アンプルだからね、二千から三千くらい」
「そんなの売ってくれますか?」
「金はあるんだから、あとはユタニ次第よ」

 今回睡眠薬は取引に使えない。単価が高くてアンプルが小さいから、高額でも手で運べる程度の量になる。
 運搬に手間がかかる大型アンプル系のドラッグを材料にして取引場所を指定し、ユタニを縄張りから引きずり出すのが目的だ。
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