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第2部
第16話「ダイバーネットで情報屋を探す顛末」
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雪の降る八号線バイパスを、サチの車が走る。
ぼくとライラは後部座席で並んで座り、バイザーをかけて有線してからダイブする。
初めてのグループダイブは、薄暗い竪穴をライラと手を取り合って落ちていく。穴を抜けると、壮大な仮想空間に空中楼閣が拡がり、現実時間と同じように西の空に日が沈み、赤紫に染まった空を落ちていく。
「ユタニがダイバーネットで本拠にしてるのは、リッテンビルってところなの。デカイ割に頻繁に場所が変わるから探さないといけないね」
「どうやって探すの?」
「他人の電脳に訊くんだよ」
ライラは派手なアニメキャラのコスプレ衣装で、長いマントがふわふわと空中に漂う。落下速度が緩み、ライラが手を離す。ぼくは慌ててライラに抱きつく。
ダイバーネットでこういう衣装を着る方法がわからない。ぼくはいつもデフォルトの灰色の囚人服みたいな無課金ユーザースタイルでウロウロしているから、ネット内で衆目を集めることはない。
ぼくたちの周囲に捜索アプリが並ぶ。ライラは朱雀捜索を選択し、リッテンビルの場所を探す。
「結果が返るまでどこかで待ってよう」
ライラが言う。ぼくたちはダークサイト系のエクスペリエンスモールに飛ぶ。
巨大な通路の両サイドに膨大な立体映像が光り輝き、セックスとドラッグと暴力が吹き荒れる。日が落ちて、通路の床に青白い光が走る。その上を大勢のアバターが歩く。デフォルト服を着ているのはぼくくらいだから、ここでは逆に目立ってしまう。
ぼくとライラは紫に発光するベンチに座る。向かいのベンチには、膝に女をのせてセックスしてる男。その隣では最強の電脳ドラッグ、クセノフィオフィラを後頭部に打ち込んで白目を向いた半裸の男女が痙攣している。自販機の脇にに倒れた給仕アンドロイドを鉄パイプで殴りつける男が汚い英語を喚き散らし、血まみれの女を全身タトゥーの裸の女が引きずってぼくたちの前を通過する。イービスタウンのスラム街でももうちょっと秩序がある。
「リオ、その服なんとかしたほうがいいね」
「どうやって衣装変えるの?」
「アバターアプリあるだろ、顔も身体も変えられるよ」
ぼくはアプリリストからアバターアプリを開く。自分の姿が立体映像になって表示される。
ライラが被服をタップすると、衣装リストが現れて、莫大な衣装のサムネイルが並ぶ。ライラが勝手に選ぶ。肩と腕だけを覆うシュラグに、男娼が履くような股間をくり抜いたタイツで、下着無し。胸もお腹も股間も露出する。ライラは少し迷って、天女の羽衣を選ぶ。決定をタップすると、ぼくのデフォルト服が猥褻なデザインに変わる。露出した腰回りを、ぼくの周りに浮かんだ天女の羽衣が巧みに隠すようにふわふわと漂う。
「これ大丈夫なの?」
「そういうの嫌いなやつはフィルタしてるから平気、ほら、リオ、これ舐めて」
ライラが舌に緑の薬をのせて差し出す。ぼくはライラと舌を絡める。現実のざらっとした粘膜と違って、CGのアニメみたいなつるっとした独特な触感で、薬が溶けると全身が熱くなって、瞬く間に勃起する。
ライラがビキニパンツのピンを外して割れ目を露出し、ぼくの巨根をちゅるりと沈めてしまう。もちもちの粘膜はリアルで感じたことがないシリコン的な柔らかさがあって、ライラが上下するたびに、ちゃぷちゃぷと濡れた音が強調される。
* * *
ダークサイトの路上でダイブセックスを楽しんでいる最中、捜索結果が返ってくる。ぼくはダイブした目的を半ば忘れかかっていた。ライラはあっさりセックスを中断して、リッテンビルにジャンプする。
空に浮かぶ球状の巨大建造物は、天井部分にリッテン・マウザーのロゴタイプが回転するダークサイトの総合ポータルになっていた。エントランスホールで行き先を選べるけど、拡縮できる球体マップで見る限り、この凄まじい違法建築の仮想ビルは新宿区くらいの広さがある。
「リオ、探して」
「なにを?」
「リオがしってる名前のところ」
「ぼくが知ってる名前って?」
ぼくは球体を指先で回して調べるけど、知らない名前のサイトばかり。
「たくさんありすぎて……」
「わかんない?」
「なんていうところ?」
「あたしにもわからないの、めちゃくちゃ古いネットの有名なサイト名で運営されてるところが一箇所あるらしくて、そこの情報屋に会いたいんだ。ダメ元だから、わかんなければいいよ、セックスしよう」
ライラがぼくにまとわりつく。周囲に人がいるのに、天女の羽衣の中に跪いて、ぼくの陰茎をちゅるりと根元まで飲み込む。周りの人はぼくたちを無視して素通りするか、チラ見してニヤけるかで、みんな忙しなくて反応が薄い。
「まって、探してみるよ」
「いいよ、セックスしながら、探して」
ライラが片脚を上げて、ぼくの陰茎を胎内に沈める。ぼくに両脚を巻きつけて、ぼくの肩に腕をかける。ほとんど重さを感じない。ぼくはライラを片腕で抱いて、立ったまま突く。もう一方の手でマップの球体をくるくる回す。ぼくの向かい側で同じようにマップを回す男女の姿。ぼくたちが目に入らないみたい。
日本語のサイト名が多いけど、英語、ロシア語、中国語、スペイン語の名称も多く、翻訳された文字も表示されていて、それらが重なり合ってみえるから、眺めているだけで情報が多すぎて頭が痛くなる。
ピンチすると拡大されて、エリアマップに詳細なサイトやリソース、コンテンツの名称と、派手なアイキャッチ動画が流れる。古いネットの有名なサイト、と言われても思い出せない。古いってどれくらい古いのか。ぼくは小学生の頃にはパソコンを買ってもらってネットは見ていたけれど、動画サイトばかりみていて、インターネット自体にあまり詳しくない。ネットなんて生まれる前からあるものだし、すでに膨大なサイトとコンテンツに溢れた電子の海で……
「あっ」
思わず声が出た。ライラがぼくに抱きついて「出していいのよ」と囁く。マップを戻す。いまなにか見覚えのあるものが視界に入った。どれだ。見失った。畜生。適当にピンチインすると、見覚えのある文字列が戻ってくる。
日本海溝
なんだ、海溝か。なぜこれに引っかかったかわからないけれど、無意識に気になった。タップしてジャンプする。
ぼくとライラは後部座席で並んで座り、バイザーをかけて有線してからダイブする。
初めてのグループダイブは、薄暗い竪穴をライラと手を取り合って落ちていく。穴を抜けると、壮大な仮想空間に空中楼閣が拡がり、現実時間と同じように西の空に日が沈み、赤紫に染まった空を落ちていく。
「ユタニがダイバーネットで本拠にしてるのは、リッテンビルってところなの。デカイ割に頻繁に場所が変わるから探さないといけないね」
「どうやって探すの?」
「他人の電脳に訊くんだよ」
ライラは派手なアニメキャラのコスプレ衣装で、長いマントがふわふわと空中に漂う。落下速度が緩み、ライラが手を離す。ぼくは慌ててライラに抱きつく。
ダイバーネットでこういう衣装を着る方法がわからない。ぼくはいつもデフォルトの灰色の囚人服みたいな無課金ユーザースタイルでウロウロしているから、ネット内で衆目を集めることはない。
ぼくたちの周囲に捜索アプリが並ぶ。ライラは朱雀捜索を選択し、リッテンビルの場所を探す。
「結果が返るまでどこかで待ってよう」
ライラが言う。ぼくたちはダークサイト系のエクスペリエンスモールに飛ぶ。
巨大な通路の両サイドに膨大な立体映像が光り輝き、セックスとドラッグと暴力が吹き荒れる。日が落ちて、通路の床に青白い光が走る。その上を大勢のアバターが歩く。デフォルト服を着ているのはぼくくらいだから、ここでは逆に目立ってしまう。
ぼくとライラは紫に発光するベンチに座る。向かいのベンチには、膝に女をのせてセックスしてる男。その隣では最強の電脳ドラッグ、クセノフィオフィラを後頭部に打ち込んで白目を向いた半裸の男女が痙攣している。自販機の脇にに倒れた給仕アンドロイドを鉄パイプで殴りつける男が汚い英語を喚き散らし、血まみれの女を全身タトゥーの裸の女が引きずってぼくたちの前を通過する。イービスタウンのスラム街でももうちょっと秩序がある。
「リオ、その服なんとかしたほうがいいね」
「どうやって衣装変えるの?」
「アバターアプリあるだろ、顔も身体も変えられるよ」
ぼくはアプリリストからアバターアプリを開く。自分の姿が立体映像になって表示される。
ライラが被服をタップすると、衣装リストが現れて、莫大な衣装のサムネイルが並ぶ。ライラが勝手に選ぶ。肩と腕だけを覆うシュラグに、男娼が履くような股間をくり抜いたタイツで、下着無し。胸もお腹も股間も露出する。ライラは少し迷って、天女の羽衣を選ぶ。決定をタップすると、ぼくのデフォルト服が猥褻なデザインに変わる。露出した腰回りを、ぼくの周りに浮かんだ天女の羽衣が巧みに隠すようにふわふわと漂う。
「これ大丈夫なの?」
「そういうの嫌いなやつはフィルタしてるから平気、ほら、リオ、これ舐めて」
ライラが舌に緑の薬をのせて差し出す。ぼくはライラと舌を絡める。現実のざらっとした粘膜と違って、CGのアニメみたいなつるっとした独特な触感で、薬が溶けると全身が熱くなって、瞬く間に勃起する。
ライラがビキニパンツのピンを外して割れ目を露出し、ぼくの巨根をちゅるりと沈めてしまう。もちもちの粘膜はリアルで感じたことがないシリコン的な柔らかさがあって、ライラが上下するたびに、ちゃぷちゃぷと濡れた音が強調される。
* * *
ダークサイトの路上でダイブセックスを楽しんでいる最中、捜索結果が返ってくる。ぼくはダイブした目的を半ば忘れかかっていた。ライラはあっさりセックスを中断して、リッテンビルにジャンプする。
空に浮かぶ球状の巨大建造物は、天井部分にリッテン・マウザーのロゴタイプが回転するダークサイトの総合ポータルになっていた。エントランスホールで行き先を選べるけど、拡縮できる球体マップで見る限り、この凄まじい違法建築の仮想ビルは新宿区くらいの広さがある。
「リオ、探して」
「なにを?」
「リオがしってる名前のところ」
「ぼくが知ってる名前って?」
ぼくは球体を指先で回して調べるけど、知らない名前のサイトばかり。
「たくさんありすぎて……」
「わかんない?」
「なんていうところ?」
「あたしにもわからないの、めちゃくちゃ古いネットの有名なサイト名で運営されてるところが一箇所あるらしくて、そこの情報屋に会いたいんだ。ダメ元だから、わかんなければいいよ、セックスしよう」
ライラがぼくにまとわりつく。周囲に人がいるのに、天女の羽衣の中に跪いて、ぼくの陰茎をちゅるりと根元まで飲み込む。周りの人はぼくたちを無視して素通りするか、チラ見してニヤけるかで、みんな忙しなくて反応が薄い。
「まって、探してみるよ」
「いいよ、セックスしながら、探して」
ライラが片脚を上げて、ぼくの陰茎を胎内に沈める。ぼくに両脚を巻きつけて、ぼくの肩に腕をかける。ほとんど重さを感じない。ぼくはライラを片腕で抱いて、立ったまま突く。もう一方の手でマップの球体をくるくる回す。ぼくの向かい側で同じようにマップを回す男女の姿。ぼくたちが目に入らないみたい。
日本語のサイト名が多いけど、英語、ロシア語、中国語、スペイン語の名称も多く、翻訳された文字も表示されていて、それらが重なり合ってみえるから、眺めているだけで情報が多すぎて頭が痛くなる。
ピンチすると拡大されて、エリアマップに詳細なサイトやリソース、コンテンツの名称と、派手なアイキャッチ動画が流れる。古いネットの有名なサイト、と言われても思い出せない。古いってどれくらい古いのか。ぼくは小学生の頃にはパソコンを買ってもらってネットは見ていたけれど、動画サイトばかりみていて、インターネット自体にあまり詳しくない。ネットなんて生まれる前からあるものだし、すでに膨大なサイトとコンテンツに溢れた電子の海で……
「あっ」
思わず声が出た。ライラがぼくに抱きついて「出していいのよ」と囁く。マップを戻す。いまなにか見覚えのあるものが視界に入った。どれだ。見失った。畜生。適当にピンチインすると、見覚えのある文字列が戻ってくる。
日本海溝
なんだ、海溝か。なぜこれに引っかかったかわからないけれど、無意識に気になった。タップしてジャンプする。
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