【R18】ハロー!ジャンキーズ

藤原紫音

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第2部

第9話「マロリーの情報を解析する顛末」

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 ぼくたちはエゼキエルという東部の武闘派カルテルの縄張りになっている北側の道を通って、無事にセーフハウスへ戻ることができた。

 ロビーの長テーブルに古い手作りの端末を置いて、ヴィクトールが腕組みしてコンソールを眺める。ライラがコピーしたマロリーの暗号鍵解析を行っている。
 使うと無効化される暗号鍵だから、非破壊解析のためにまずはリバースコンパイルするのだと説明してくれたけれど、やっぱりよくわからない。

 久しぶりにセーフハウスにハルトが戻ってきた。
 ボリスとサチにユタニの情報を聞くと、通信が遮断されるセキュアルームにぼくたちを連れていく。ヴィクトールはコンソールを膝にのせたまま。ライラはぼくの隣に座って身体を寄せる。サチはアンプルケースをテーブルの上で開く。U字テーブルに足を上げて、ハルトがネオスポラを咥えたままアンプルをつまんで照明にかざす。

「ユタニから買ったクスリは単価いくらだって?」とハルトが訊く。
「七千だよ、東部にしちゃ随分安いね」とサチ。
「価格競争を始めたのはどこのカルテルかわかる?」
「それはわかんない、なんで?」
「高値で捌こうと東部ゲリラにも接触したんだけど、ここんとこ急激に値が下がってる。薬品輸送車襲撃の事件を知って、東部のカルテルのどっかが販売網を押さえにかかってる感じ。ムカつくよな、これじゃまたフェオドラに買い叩かれちまう」

 ボリスがバイザーをかけて指を鳴らす。ぼくたちはバイザーをかける。室内閉鎖網で視界共有する。ボリスがガンカメラの映像を流す。
 上半身が弾け飛ぶ手下の映像をハルトが停止する。巻戻し、再生、巻戻し、再生、停止、拡大、ユタニのタトゥーがみえる。

「マロリーをコピーしたとき、マウントが盗聴検知したから、ケーブル引き抜いてクラブを出たんだけど、追手がついちゃった」とライラが悪びれずに言う。
「これ、ユタニの手下じゃねえな」とハルトが言う。
「ユタニのタトゥーがあるわ」とサチ。
「銃ぶっ放す奴らが手下でございってタトゥーをみえるようにデカデカと入れねーよ。エゼキエルかイスカリオテの成りすましじゃねーの」
「なんのために?」
「さあな、東部のカルテル共が考えることはわかんねえよ」

 エゼキエル、イスカリオテ、ユタニは東部三大カルテルで、常に敵対している。ダイバーネットでみつけた殺し合いの事件映像は、ぼくの時代のメキシコ麻薬戦争と同等以上にえげつない。

 ヴィクトルがキーを叩く。ゴーグルを上げて、珍しく眉間にシワを寄せて神妙な表情。ハルトもバイザーを上げてヴィクトールに尋ねる。

「マロリーはどうだ?」
「未使用の暗号鍵だよ、たぶんね。使えるのは二つだけ」
「十分じゃないか」
「そうなんだけど、このマロリーの開発元が問題だ。政府管理のユニソスリポジトリ固有の署名ファイルが添付されてる。ユタニがどうやって入手したか知らんが、こいつは野生のハッカーの手製じゃなくて、情報庁で作られた可能性が高いね」

 ハルトがベツを見る。ベツも顔を上げてハルトを見る。ふたりとも驚いた表情。

「ICSは内務省、情報庁の下部組織だ」とベツが言う。
「なんだそれ?」とヴィクトール。
「SKF上がりの情報戦部隊だよ。カルテルを目の敵にしてる連中だが、奴らは情報庁の資格情報を持っている。ちょうど俺たちが東部に出向いたとき、民間の法テラスが襲撃を受けたんだが、ICSが絡んでるって話を聞いて気になってた」
「情報戦部隊なら襲撃はお手の物じゃねーの?」
「セクター法でICSは所属セクター内で実働できないんだよ。そのマロリーとどうつながってるかわからんが……」

 ハルトが煙草に火をつける。ライラがぼくに脚を絡ませて、シャツの上から乳首を摘む。サチがぼくを見て、面白くなさそうな表情をする。

「そうだ、ハルト。リオはまだ自由民じゃないんだって」
「マジか、そういやそうだな。俺たちがゲラルディーニ記念病院から助け出してから、ずっとそのままだったな」

 ハルトが手に持ったアンプルをぼくに投げる、両手で受け取る。
 二インチほどの深緑の小瓶に透明の液体が入っている。これが一万クレジットで売れる。ぼくの時代の日本円で百万以上の価値があるナノマシン製剤だ。

「これ、どうやって使うんですか?」
「首筋に有線端子あんだろ、真ん中に一つだけ電脳薬専用の穴があるから、そこに尖った方を挿し込むだけ、簡単さ。警察は呼べなくなるが、税金は取られない」
「ありがとうございます」
「クーペリアみたいにきもちよくなったりしねーぜ」

 ハルトがそう言うと、ボリスが肩を揺らして笑う。

 * * *

 ミーティングが終わると、ぼくはライラと共に自室に戻る。半裸でベッドに寝転び、水タバコを吹かすユリアとエレナとジュリエが順に起き上がる。ユリアとエレナは、ライラを見るなり嬌声をあげて飛びつく。
 ぼくは服を脱いでシャワーを浴びる。後からライラもシャワーボックスに入ってくる。抱き合ってキスをする。シャワーボックスのガラスにライラを押し付けて、後ろから挿入する。ゆっくり突く。外のユリアが背伸びして、ライラとガラス越しにキスをする。

 シャワーからあがると、四人の女と愛撫し合う。女たちはお互いに有線して、快楽をシェアする。だらしなく絡み合って、挿入したり、フェラチオさせたり、お互いの身体を好きなように貪り、弄ぶ。セックスに決まりきったステップは持ち込まない。

 時計は日をまたいで午前四時半、そろそろ眠い。今日は起きてから場所と相手を変えながら、サチも含めると、一日で十一人と交わった。レピタも加えると十二人か。

 そのレピタは壁際で充電中。ぼくがいないとき、人造ペニスをつけたこのセクサロイドはユリアたちに酷使されている。
 エレナの電脳をコピーされているけれど、人造ペニスをつけて女達に奉仕する日々を過学習した結果、従順な性奴隷に成長し、エレナによく似た別人になった。

「邪魔するよ」

 夢うつつでユリアを突き上げている最中に、サチの声が聞こえる。身体を起こすと、まだ着替えていないサチがガムを噛みながら部屋の入口に立つ。タブレットをぼくたちに向ける。
 キャッシーという風俗店のチラシが表示される。

「レダの店って、ユリアたちの古巣だよね?」
「そーだよ、懐かしー」とエレナが言う。
「ちょっと復帰してみない?」
「いーけど、リオも連れて行っていい?」とユリア。
「ここのギャラリーって男子禁制だろ」
「リオはフェラーレだから入れるよ。むしろフェラーレの男なんて、歩くだけで金とれるよ。レダも大歓迎じゃない」
「いいよ、好きにしな」
「なにしに行くの?」
「売人の交渉だよ、イスカリオテを騙すの」
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