48 / 109
第2部
第8話「武装集団に襲われる顛末」
しおりを挟む
ドアをノックする音。
抱き合ったままのぼくとライラは首だけを入り口に向ける。暗がりの中に裸のサチが立っていた。肩にバスタオルをかけて、手に持った煙管を吸うと、カートリッジが黄色く光ってサチの顔を照らす。
「ライラ、あんたユタニのところ抜け出していいの?」とサチ。
「サチ……ああ、忘れてたよ。あんたたちに伝えなきゃ、いけないことが、あン」
ライラが上体を起こすと、つながったままの陰茎がライラの子宮内でぐるりと角度を変える。サチがベッド脇のソファに腰掛ける。煙を吐く。ライラがぼくに密着したまま、腰だけをゆっくり前後させる。
保安灯の光がサチを下から照らす。
「どうやらあたしがモグラだって、気づかれたんだよ。それで……逃げて、来た」
「じゃあ、アタシらのことも……」とサチが狼狽える。
「サチのことは信用してるみたいね、いい女だって言ってたよ」
「どうやって逃げてきたの」
「歩いてさ」
サチが驚いた表情になり、窓の外を振り向く。目を凝らす。窓から差し込む赤紫のネオンが揺れる。
突然、銃声が轟き、ガラスが割れる。
ライラがつながったままのぼくを抱いて、ベッドを転がって床に落ちる。サチもソファから転がって床に伏せる。割れたガラスが寝室のカーペットに散らばる。壁を銃弾が撃ち抜いて破片が飛び散る。
頭を抱えて悪い言葉を叫ぶサチを横目に、ぼくに覆いかぶさったライラは、残酷に微笑みながら身体を波打たせ、ぼくをピストンする。こんなときに笑っている。
たくさんの銃弾がめちゃくちゃに撃ち込まれて、死ぬかもしれないのに、ライラはぼくに舌を絡めて「またイキそうだよ」と囁く。そして身体をくの字に折って、ぼくの胸に頬をおしつけて絶頂する。
こんな極限状態なのに、ぼくもまた射精してしまう。
銃撃が止む。発射音、離れたところで爆発が起きる。建物全体が揺れて、サチが悲鳴を上げる。窓の外を破片が散らばる。続いてロバエフの射撃音が三発轟き、静寂が訪れる。
絶頂がおさまると、ライラは腰を浮かしてぼくを引き抜く。濡れた陰茎を根元まで飲み込んで、じゅるるっと啜る。口を離して、呟く。
「後をつけられたみたいだね」
* * *
ぼくたちは隠れ家を出て、ミズモトパブリックというビルの駐車場五階にピックアップを駐める。サチが窓を開けて、空になった煙管のカートリッジを投げ捨てる。別のカートリッジをセットする。
運転席のヴィクトールが振り返って、指先でぼくの頭のバイザーをかけさせる。暗号通信が開く。
「ユタニの手下だ、これさっきの」
バイザーの真ん中にボリスが構えたロバエフのガンカメラ映像が流れる。ロケット弾を撃った直後のスキンヘッドが黒いバイザーをかけているシーンで一時停止、映像を拡大し鮮明化すると、筋肉質の二の腕に盾を貫通する鉾のタトゥーがみえる。ラックレスでも見かけたユタニのロゴだ。
再生すると発砲音が響き、男の上半身がゴムを弾いたように吹き飛ぶ。
「だせえタトゥーだな」とヴィクトール。
「三人殺ったが二人逃した。あの隠れ家は使えないな」とボリスが言う。
「見られた?」とサチが訊く。
「赤外線だから顔は見られてないな。暗視ゴーグルつけてたやつは殺した」
「だいたい、なんでバレたんだい?」
ピックアップの後部座席でぼくにまとわりついたライラが頭を起こす。
「マロリーを盗んだんだよ、そしたら盗聴回線だった」
「マロリーって、決済用の?」とヴィクトールが身を乗り出す。
「そうだよ、未使用かどうかわからないけど、シュウレイがセキュアストレージに保管してるものだから、あたりかも。何を盗んだかはバレてないよ、盗んだものは無くなってないから」
「マロリーってなんだい?」とサチ。
「大雑把に言うと、銀行回線との間に入り込める中継ウイルスだ。使い勝手はよくないが、うまく行けばニセの決済を作り出せる」とヴィクトールが説明する。
「決済し放題ってことかい?」
「まあそうだな、暗号化コード一本で一回だけ使える。デカイ取引に噛ませばすごい稼ぎになるんだが、未使用かどうか戻って調べたいな」
寄り添ったライラがシャツの上からぼくの陰茎を撫でる。ヴィクトールが車載ナビのマップを調べる。ボリスが煙草に火をつける。サチの煙管の蒸気と混じってカオスな香りが充満する。
「この時間、エンライの周辺はノロノロだ。北回りだとエゼキエルの庭を通ることになるぜ」とヴィクトール。
「南は?」とボリスが訊く。
「バイパスの無い道ばかりだから、二時間はかかる。エンライの脇を通るほうがマシだな」
「渋滞で襲われたら積むぜ。治安の悪いエゼキエルの庭を通れよ」
「じゃあ追手は頼むぜ、俺は自動運転に集中するから」
抱き合ったままのぼくとライラは首だけを入り口に向ける。暗がりの中に裸のサチが立っていた。肩にバスタオルをかけて、手に持った煙管を吸うと、カートリッジが黄色く光ってサチの顔を照らす。
「ライラ、あんたユタニのところ抜け出していいの?」とサチ。
「サチ……ああ、忘れてたよ。あんたたちに伝えなきゃ、いけないことが、あン」
ライラが上体を起こすと、つながったままの陰茎がライラの子宮内でぐるりと角度を変える。サチがベッド脇のソファに腰掛ける。煙を吐く。ライラがぼくに密着したまま、腰だけをゆっくり前後させる。
保安灯の光がサチを下から照らす。
「どうやらあたしがモグラだって、気づかれたんだよ。それで……逃げて、来た」
「じゃあ、アタシらのことも……」とサチが狼狽える。
「サチのことは信用してるみたいね、いい女だって言ってたよ」
「どうやって逃げてきたの」
「歩いてさ」
サチが驚いた表情になり、窓の外を振り向く。目を凝らす。窓から差し込む赤紫のネオンが揺れる。
突然、銃声が轟き、ガラスが割れる。
ライラがつながったままのぼくを抱いて、ベッドを転がって床に落ちる。サチもソファから転がって床に伏せる。割れたガラスが寝室のカーペットに散らばる。壁を銃弾が撃ち抜いて破片が飛び散る。
頭を抱えて悪い言葉を叫ぶサチを横目に、ぼくに覆いかぶさったライラは、残酷に微笑みながら身体を波打たせ、ぼくをピストンする。こんなときに笑っている。
たくさんの銃弾がめちゃくちゃに撃ち込まれて、死ぬかもしれないのに、ライラはぼくに舌を絡めて「またイキそうだよ」と囁く。そして身体をくの字に折って、ぼくの胸に頬をおしつけて絶頂する。
こんな極限状態なのに、ぼくもまた射精してしまう。
銃撃が止む。発射音、離れたところで爆発が起きる。建物全体が揺れて、サチが悲鳴を上げる。窓の外を破片が散らばる。続いてロバエフの射撃音が三発轟き、静寂が訪れる。
絶頂がおさまると、ライラは腰を浮かしてぼくを引き抜く。濡れた陰茎を根元まで飲み込んで、じゅるるっと啜る。口を離して、呟く。
「後をつけられたみたいだね」
* * *
ぼくたちは隠れ家を出て、ミズモトパブリックというビルの駐車場五階にピックアップを駐める。サチが窓を開けて、空になった煙管のカートリッジを投げ捨てる。別のカートリッジをセットする。
運転席のヴィクトールが振り返って、指先でぼくの頭のバイザーをかけさせる。暗号通信が開く。
「ユタニの手下だ、これさっきの」
バイザーの真ん中にボリスが構えたロバエフのガンカメラ映像が流れる。ロケット弾を撃った直後のスキンヘッドが黒いバイザーをかけているシーンで一時停止、映像を拡大し鮮明化すると、筋肉質の二の腕に盾を貫通する鉾のタトゥーがみえる。ラックレスでも見かけたユタニのロゴだ。
再生すると発砲音が響き、男の上半身がゴムを弾いたように吹き飛ぶ。
「だせえタトゥーだな」とヴィクトール。
「三人殺ったが二人逃した。あの隠れ家は使えないな」とボリスが言う。
「見られた?」とサチが訊く。
「赤外線だから顔は見られてないな。暗視ゴーグルつけてたやつは殺した」
「だいたい、なんでバレたんだい?」
ピックアップの後部座席でぼくにまとわりついたライラが頭を起こす。
「マロリーを盗んだんだよ、そしたら盗聴回線だった」
「マロリーって、決済用の?」とヴィクトールが身を乗り出す。
「そうだよ、未使用かどうかわからないけど、シュウレイがセキュアストレージに保管してるものだから、あたりかも。何を盗んだかはバレてないよ、盗んだものは無くなってないから」
「マロリーってなんだい?」とサチ。
「大雑把に言うと、銀行回線との間に入り込める中継ウイルスだ。使い勝手はよくないが、うまく行けばニセの決済を作り出せる」とヴィクトールが説明する。
「決済し放題ってことかい?」
「まあそうだな、暗号化コード一本で一回だけ使える。デカイ取引に噛ませばすごい稼ぎになるんだが、未使用かどうか戻って調べたいな」
寄り添ったライラがシャツの上からぼくの陰茎を撫でる。ヴィクトールが車載ナビのマップを調べる。ボリスが煙草に火をつける。サチの煙管の蒸気と混じってカオスな香りが充満する。
「この時間、エンライの周辺はノロノロだ。北回りだとエゼキエルの庭を通ることになるぜ」とヴィクトール。
「南は?」とボリスが訊く。
「バイパスの無い道ばかりだから、二時間はかかる。エンライの脇を通るほうがマシだな」
「渋滞で襲われたら積むぜ。治安の悪いエゼキエルの庭を通れよ」
「じゃあ追手は頼むぜ、俺は自動運転に集中するから」
1
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる