【R18】ハロー!ジャンキーズ

藤原紫音

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第2部

第8話「武装集団に襲われる顛末」

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 ドアをノックする音。

 抱き合ったままのぼくとライラは首だけを入り口に向ける。暗がりの中に裸のサチが立っていた。肩にバスタオルをかけて、手に持った煙管キセルを吸うと、カートリッジが黄色く光ってサチの顔を照らす。

「ライラ、あんたユタニのところ抜け出していいの?」とサチ。
「サチ……ああ、忘れてたよ。あんたたちに伝えなきゃ、いけないことが、あン」

 ライラが上体を起こすと、つながったままの陰茎がライラの子宮内でぐるりと角度を変える。サチがベッド脇のソファに腰掛ける。煙を吐く。ライラがぼくに密着したまま、腰だけをゆっくり前後させる。
 保安灯の光がサチを下から照らす。

「どうやらあたしがモグラだって、気づかれたんだよ。それで……逃げて、来た」
「じゃあ、アタシらのことも……」とサチが狼狽える。
「サチのことは信用してるみたいね、いい女だって言ってたよ」
「どうやって逃げてきたの」
「歩いてさ」

 サチが驚いた表情になり、窓の外を振り向く。目を凝らす。窓から差し込む赤紫のネオンが揺れる。

 突然、銃声が轟き、ガラスが割れる。
 ライラがつながったままのぼくを抱いて、ベッドを転がって床に落ちる。サチもソファから転がって床に伏せる。割れたガラスが寝室のカーペットに散らばる。壁を銃弾が撃ち抜いて破片が飛び散る。

 頭を抱えて悪い言葉を叫ぶサチを横目に、ぼくに覆いかぶさったライラは、残酷に微笑みながら身体を波打たせ、ぼくをピストンする。こんなときに笑っている。
 たくさんの銃弾がめちゃくちゃに撃ち込まれて、死ぬかもしれないのに、ライラはぼくに舌を絡めて「またイキそうだよ」と囁く。そして身体をくの字に折って、ぼくの胸に頬をおしつけて絶頂する。
 こんな極限状態なのに、ぼくもまた射精してしまう。

 銃撃が止む。発射音、離れたところで爆発が起きる。建物全体が揺れて、サチが悲鳴を上げる。窓の外を破片が散らばる。続いてロバエフの射撃音が三発轟き、静寂が訪れる。
 絶頂がおさまると、ライラは腰を浮かしてぼくを引き抜く。濡れた陰茎を根元まで飲み込んで、じゅるるっと啜る。口を離して、呟く。

「後をつけられたみたいだね」

 * * *

 ぼくたちは隠れ家を出て、ミズモトパブリックというビルの駐車場五階にピックアップを駐める。サチが窓を開けて、空になった煙管のカートリッジを投げ捨てる。別のカートリッジをセットする。
 運転席のヴィクトールが振り返って、指先でぼくの頭のバイザーをかけさせる。暗号通信が開く。

「ユタニの手下だ、これさっきの」

 バイザーの真ん中にボリスが構えたロバエフのガンカメラ映像が流れる。ロケット弾を撃った直後のスキンヘッドが黒いバイザーをかけているシーンで一時停止、映像を拡大し鮮明化すると、筋肉質の二の腕に盾を貫通するほこのタトゥーがみえる。ラックレスでも見かけたユタニのロゴだ。
 再生すると発砲音が響き、男の上半身がゴムを弾いたように吹き飛ぶ。

「だせえタトゥーだな」とヴィクトール。
「三人殺ったが二人逃した。あの隠れ家は使えないな」とボリスが言う。
「見られた?」とサチが訊く。
「赤外線だから顔は見られてないな。暗視ゴーグルつけてたやつは殺した」
「だいたい、なんでバレたんだい?」

 ピックアップの後部座席でぼくにまとわりついたライラが頭を起こす。

「マロリーを盗んだんだよ、そしたら盗聴回線だった」
「マロリーって、決済用の?」とヴィクトールが身を乗り出す。
「そうだよ、未使用かどうかわからないけど、シュウレイがセキュアストレージに保管してるものだから、あたりかも。何を盗んだかはバレてないよ、盗んだものは無くなってないから」

「マロリーってなんだい?」とサチ。
「大雑把に言うと、銀行回線との間に入り込める中継ウイルスだ。使い勝手はよくないが、うまく行けばニセの決済を作り出せる」とヴィクトールが説明する。
「決済し放題ってことかい?」
「まあそうだな、暗号化コード一本で一回だけ使える。デカイ取引に噛ませばすごい稼ぎになるんだが、未使用かどうか戻って調べたいな」

 寄り添ったライラがシャツの上からぼくの陰茎を撫でる。ヴィクトールが車載ナビのマップを調べる。ボリスが煙草に火をつける。サチの煙管の蒸気と混じってカオスな香りが充満する。

「この時間、エンライの周辺はノロノロだ。北回りだとエゼキエルの庭を通ることになるぜ」とヴィクトール。
「南は?」とボリスが訊く。
「バイパスの無い道ばかりだから、二時間はかかる。エンライの脇を通るほうがマシだな」
「渋滞で襲われたら積むぜ。治安の悪いエゼキエルの庭を通れよ」
「じゃあ追手は頼むぜ、俺は自動運転に集中するから」
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