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第2部
第1話「ピアノ発表会の回想」
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鳥栖山ホールのステージ袖で出番を待つ。深呼吸する。
『十七番、袴田梨央くん、バッハ、小フーガト短調』
アナウンスが聞こえて、ぼくはステージに歩み出る。拍手が響く。客席に向けて一礼する。集中していて、お客さんの顔が見えない。
お母さんと、妹の友梨がどこかにいるはずだけど、今は気にしていられない。ピアノの椅子に座る。
もう一度深呼吸して右手だけを鍵盤にのせ、主旋律に触れていく。
本来パイプオルガンで弾くこの曲をピアノで再現するには、急いでも遅れてもだめだと先生にしつこく刷り込まれた。無我でなければならない。今日は心が乱れない。調子が良い。
第十九小節に差し掛かったそのとき、突然、バン、と大きな音がして、会場の照明が消える。鍵盤がみえなくなる。客席がざわつき、係員が走る音がきこえる。
ぼくは演奏を中断して、照明が回復するのを待つ。
暗闇の中で、誰かがぼくに抱きつく。甘い香りがたちのぼる。
甘い香りの誰かがぼくのベルトを外し、ジッパーを下ろし、下着の中から陰茎を引きずり出す。にゅるりと飲み込む。甘い香りの誰かが頭を上下させて、ぼくを愛撫する。
快感と焦燥で、全身に汗が噴き出す。
* * *
目をあけると、白い柔肌が絡み合う爛れた光景が飛び込んできた。
ぼくはセーフハウスの自室の巨大なベッドに全裸で仰向けになり、裸のエレナとジュリエ、セクサロイドのレピタがぼくに肌を寄せ、ぼくの股間に這いつくばったユリアが陰茎を咥えて、にゅるにゅると愛撫する。
その様子を、天井に埋め込まれたサイネージが鏡になって映しだす。ユリアが口を離す。
「おはよ、シャワー浴びる?」
「いま何時?」
「十一時、昨夜ははしゃぎすぎたね」
ぼくはエレナたちを起こさないように、そっと起き上がる。ユリアと一緒にベッドを降りる。
部屋に備え付けのシャワーボックスに一緒に入って、シャワーを浴びる。シャワーボックスのガラスにユリアを押し付けて、後ろから挿入する。優しく突く。右手で抱えたユリアの下腹部が、長い陰茎で突くたびに膨らむ。
雨があがって、窓の外は珍しく柔らかな陽が差していた。
ヒバリーヒルは自由民による夜の街だから、昼間は出歩く人の姿も、車も少ない。ゴミの回収車が調子のずれたメロディを奏でながら、地面の道路を走り抜ける。灰色の薄汚れた建物群のところどころで、干された洗濯物が風に揺れている。
ここに移ってから四ヶ月が過ぎた。
大きな出来事はおろか、ロクに仕事もない日々が続いていた。
こんなふうに昼頃に起きて、シャワーを浴びて、栄養剤を飲んで、夕方までだらだらとセックスして、また栄養剤を飲んで、日が落ちると電脳ドラッグをキメて、女たちがセックスをネット配信する。
ついこの間まで二千人が接続していたのに、今や一万五千人以上の女たちがぼくとオンラインで毎晩ファックする。そこでもらえるチップの金額も高額になってきたから、公安や国税に目をつけられないか心配だ。
「今日、仕事……でしょ?」とユリアが聞く。
「久しぶりに、外に出られるよ」
「危ない……仕事なの?」
「ぼくは積替えと運搬だから、危なくないよ」
「いつも……心配だよ、け……あっ、あっ、あっ、怪我しないでよ」
「大丈夫だよ、ありがとう」
豊満な乳房を両手で包んで、ユリアを後ろから突き上げる。ユリアは悲鳴をあげて、爪先立ってガクガク震える。絶頂に震える子宮頸を突き上げて、動きをとめる。待つ。
ユリアの震えが収まると、陰茎を引き抜く。ユリアが振り返って咥える。シャワーに濡れるユリアのアッシュグレーの髪をくしゃくしゃにする。
シャワーボックスから出て、ぼくはクリーンボックスから着替えを取り出す。服を着る。バイザーを被る。
ここではバイザーはスマホと同じくらい大事な機器だから、セックスとシャワーのとき以外は肌見放さない。ヴィクトールなんか四六時中つけている。
ユリアは再びベッドに寝転んで、また眠ってしまう。
『十七番、袴田梨央くん、バッハ、小フーガト短調』
アナウンスが聞こえて、ぼくはステージに歩み出る。拍手が響く。客席に向けて一礼する。集中していて、お客さんの顔が見えない。
お母さんと、妹の友梨がどこかにいるはずだけど、今は気にしていられない。ピアノの椅子に座る。
もう一度深呼吸して右手だけを鍵盤にのせ、主旋律に触れていく。
本来パイプオルガンで弾くこの曲をピアノで再現するには、急いでも遅れてもだめだと先生にしつこく刷り込まれた。無我でなければならない。今日は心が乱れない。調子が良い。
第十九小節に差し掛かったそのとき、突然、バン、と大きな音がして、会場の照明が消える。鍵盤がみえなくなる。客席がざわつき、係員が走る音がきこえる。
ぼくは演奏を中断して、照明が回復するのを待つ。
暗闇の中で、誰かがぼくに抱きつく。甘い香りがたちのぼる。
甘い香りの誰かがぼくのベルトを外し、ジッパーを下ろし、下着の中から陰茎を引きずり出す。にゅるりと飲み込む。甘い香りの誰かが頭を上下させて、ぼくを愛撫する。
快感と焦燥で、全身に汗が噴き出す。
* * *
目をあけると、白い柔肌が絡み合う爛れた光景が飛び込んできた。
ぼくはセーフハウスの自室の巨大なベッドに全裸で仰向けになり、裸のエレナとジュリエ、セクサロイドのレピタがぼくに肌を寄せ、ぼくの股間に這いつくばったユリアが陰茎を咥えて、にゅるにゅると愛撫する。
その様子を、天井に埋め込まれたサイネージが鏡になって映しだす。ユリアが口を離す。
「おはよ、シャワー浴びる?」
「いま何時?」
「十一時、昨夜ははしゃぎすぎたね」
ぼくはエレナたちを起こさないように、そっと起き上がる。ユリアと一緒にベッドを降りる。
部屋に備え付けのシャワーボックスに一緒に入って、シャワーを浴びる。シャワーボックスのガラスにユリアを押し付けて、後ろから挿入する。優しく突く。右手で抱えたユリアの下腹部が、長い陰茎で突くたびに膨らむ。
雨があがって、窓の外は珍しく柔らかな陽が差していた。
ヒバリーヒルは自由民による夜の街だから、昼間は出歩く人の姿も、車も少ない。ゴミの回収車が調子のずれたメロディを奏でながら、地面の道路を走り抜ける。灰色の薄汚れた建物群のところどころで、干された洗濯物が風に揺れている。
ここに移ってから四ヶ月が過ぎた。
大きな出来事はおろか、ロクに仕事もない日々が続いていた。
こんなふうに昼頃に起きて、シャワーを浴びて、栄養剤を飲んで、夕方までだらだらとセックスして、また栄養剤を飲んで、日が落ちると電脳ドラッグをキメて、女たちがセックスをネット配信する。
ついこの間まで二千人が接続していたのに、今や一万五千人以上の女たちがぼくとオンラインで毎晩ファックする。そこでもらえるチップの金額も高額になってきたから、公安や国税に目をつけられないか心配だ。
「今日、仕事……でしょ?」とユリアが聞く。
「久しぶりに、外に出られるよ」
「危ない……仕事なの?」
「ぼくは積替えと運搬だから、危なくないよ」
「いつも……心配だよ、け……あっ、あっ、あっ、怪我しないでよ」
「大丈夫だよ、ありがとう」
豊満な乳房を両手で包んで、ユリアを後ろから突き上げる。ユリアは悲鳴をあげて、爪先立ってガクガク震える。絶頂に震える子宮頸を突き上げて、動きをとめる。待つ。
ユリアの震えが収まると、陰茎を引き抜く。ユリアが振り返って咥える。シャワーに濡れるユリアのアッシュグレーの髪をくしゃくしゃにする。
シャワーボックスから出て、ぼくはクリーンボックスから着替えを取り出す。服を着る。バイザーを被る。
ここではバイザーはスマホと同じくらい大事な機器だから、セックスとシャワーのとき以外は肌見放さない。ヴィクトールなんか四六時中つけている。
ユリアは再びベッドに寝転んで、また眠ってしまう。
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