【R18】ハロー!ジャンキーズ

藤原紫音

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第1部

第29話「西部ゲリラと取引する顛末」

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 デンバーヴィレッジという寂れた郊外の街に、使われていない給電ステーションがあった。ぼくたちはそこで睡眠薬を西部ゲリラと取引する。

 ハルトたちがステーションの屋根の下で、ゲリラの黒いステルス軍用機が垂直に着陸するのを見ている。ぼくは離れた廃墟の屋上から、その様子をバイザーで拡大する。
 姿を消して、サチのロバエフ狙撃銃を構える。散らかった屋上のバルコニースペースに、狙撃銃だけが置かれているように見えるだろう。これはネムが使っていたもの。十キロを超える対物ライフルは、大砲のような太い弾丸を発射する。サイボーグでもどこかに命中すれば流体静力学上、確実に殺害できる。

 バイザーの隅にハルトの視界が暗号通信で開く。可変するエンジンがついた軍用機から赤黒い戦闘服に身を包んだ兵士が降りてくる。彼らを病院でみたことを思い出す。砂埃が舞い上がる。兵士の間から、青い肌の女が近づく。
 人工的なプラチナブロンドの髪を巻いて、眼が赤く発光する。アンドロイドか、全身サイボーグ。ぼくのバイザーが検索して、女の情報を表示する。

 フェオドラ・リカーニア、四十四歳、西部ゲリラの指揮官。それ以上のことはわからない。この情報も任意入力されたもので公開プロフィールじゃない。見た目は二十代だ。ここの女の年齢にはあまり意味がない。

 軍用機がエンジンを止める。

「バルク注文のアンプル二百本、揃ったぜ」とハルトが言う。

 サチがケースを開ける。フェオドラがアンプルを一本取って、成分計で分析する。突撃銃を持った兵士は九人、こちらはベツとボリスしか銃を持っていない。
 闇取引には不利な状況だけど、ぼくはフェオドラの胸に照準をあわせる。彼らは周囲をスキャンしているだろうけど、熱光学迷彩で姿を消したぼくはみつからない。

「完璧ね。これだけの本数、手に入れるのは容易じゃないわ」
「ウチには透明人間がいるもんでね」
「例のフェラーレの子ね」
「あー、知ってんだ」
「私達が誘拐を手助けしたのよ、忘れたの?」
「そーだったな」
「その子はどこにいるの?」
「セーフハウス」
「嘘ね、どこかで私に銃を向けているわ」

 見抜かれて冷や汗をかく。だけど狼狽えない。気持ちを揺らさない。フェオドラの胸の谷間から眼をそらさない。己の役割を全うする。ネムがそうしたように。

 フェオドラとハルトが有線でつながる。すごい金額が一瞬で決済される。ハルトはケーブルを外し、サチがフェオドラにケースを渡す。

「まいど、追加オーダーがあれば、いつでも連絡ちょうだい」とハルトが指を二本立てる。

 フェオドラはハルトに背を向ける。兵士に囲まれて軍用機へ歩く。振り返る。

「これはオーダーじゃ無いけど……」
「なんだ?」
「ゲラルディーニ病院で、私達が追っていた女のこと」
「ナースか?」
「いいえ、女医よ。ユニット移植もできる腕利きの雇われ電脳医。ソフィア・イズランデルという名前で闇医者をやっていたことがあるわ」
「そいつが何をした」
「迷惑な情報を持ってるの。心当たりがあったら、教えて」
「はいよ」

 軍用機が飛び立つ。離れていく。見えなくなるまで、照準を外さない。南の空に消えると、ようやく息を吐く。大量の汗をストールで拭う。
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