【R18】ハロー!ジャンキーズ

藤原紫音

文字の大きさ
上 下
27 / 109
第1部

第26話「薬品工場から脱出する顛末」

しおりを挟む
 純白の通路の前に、青白い製品棚がずらりと並ぶ。
 天井、壁、床のすべてから強い照明があてられ、どこにも影が落ちないほど明るい空間。この異世界で一番明るい場所かもしれない。しかし、どれほど強い照明も、ぼくの姿を暴くことはできない。

 五番と書かれた棚の通路に入る。透明のケースに電脳睡眠薬のアンプルが百本入っている。濃い緑色に鈍く光るガラス製のアンプル一本で、セクター4の市民の平均月収三ヶ月分になる。
 ぼくはケースの取っ手をそっと掴む。ゆっくり持ち上げる。なにも起きない。もう一つ持ち上げる。ぼくは両手にケースを持って、そっと一歩踏み出す。

 純白の保管庫が赤く染まり、けたたましい警報が鳴り響く。ぼくは軽く飛び上がる。

 銃声、それに爆発音。建物の外から聞こえてくる。ぼくはケースを一つ下ろして、バイザーの通信スイッチを入れる。オンラインアイコンが閃き、右上にベツの映像が開く。走る。伏せる。投げる。爆発。そして撃つ。

『リオ、戻るな。そのまま屋上へ移動しろ』
「でも、警報が」
『光学迷彩のままエレベータで移動すれば誰も気づかない。行け、アキラが迎えに来る』

 ぼくは下ろしたケースを掴み、通路脇のカートに乗せる。外ではなく中へ向かってカートを押す。大丈夫、ぼくの位置はネムが見ている。ぼくを守ってくれている。そう言い聞かせて、保安ゲートをくぐる。
 カートが通過するとゲートがエラー音を鳴らすけど、鳴り響く侵入警報にかき消される。右手の入出荷エリアで作業員がざわつき狼狽える。ぼくは逆方向にきびすを返して、突き当りのエレベータへ。ボタンを押す。エレベータが降りてくる。
 ドアが開くと、ライフルを持った警備員が出てきて冷や汗をかく。ぼくを素通りして入出荷エリアへ。ぼくはカートをエレベータに乗せて、最上階へ。

 立て続けに爆発音。狙撃銃の音も聞こえる。最上階に到着する。ドアが開くと、調剤を行う白衣の男たちが、壁のモニタに集まって外の騒ぎをみている。ぼくの押すカートに気づかない。彼らの背後を通るのは危ない。
 ぼくは秤量ひょうりょうエリアに歩き、壁沿いを歩いて調剤エリアへ抜ける。モニタに集まる集団を迂回する。棚の影から様子を伺い、静かにカートを通過させる。
 非常階段に入ると、ケースを掴んで階段を駆け上がる。屋上まで登る。ドアに鍵がかかっている。レーザーカッターで焼き切る。ケースを持ち、肩をぶつけてドアを破る。屋上に躍り出る。

 豪雨がぼくの頭上に降り注ぐ。虹色の光が散って、ぼくの姿が現れる。雨に濡れると光学迷彩は使えない。そうだった。だけどもう関係ない。

 空を仰ぐと、アキラのピックアップが接近する。あの品のないボディが頼もしくみえる。ぼくは屋上の中央に歩み出て、ケースを持ったまま両手を振る。ピックアップが下降してくる。
 空中でドアが開いて、ネムが姿をみせる。
「リオ、無事かい?」と言って手を振る。

「おい、フェラーレの兄さん」

 背後から声がする。振り返る。
 いなくなったシュウジが、屋上ドアの前に立っている。自動拳銃をぼくに向ける。

「シュウジさん……」
「これも、仕事なの。ごめんね」

 誰かがぼくに抱きつく。パン、パン、パン、パン、と乾いた銃声が響く。
 銃弾が命中する音がきこえて、ぐっ、と呻く声。ピックアップから飛び降りたネムの声。ぼくはネムに抱きつかれたまま、仰向けに倒れる。シュウジが銃を構えたまま近づく。
 ぼくはベツに貰った拳銃を抜いて、シュウジに向けて撃つ。驚いたシュウジも撃ち返す。火花が飛び交う。硝煙が白く立ち込める。

 シュウジが膝をつき、うつ伏せに倒れる。

「ネム! 撃たれて……」

 ぼくに体を預けたままのネムを抱き起こす。ぼくの手に真っ赤な血がべっとり。雨に打たれて、滝のように血が流れる。
 ネムが切れ長の美しい眼を薄く開く。ゲホッと咳き込んで鮮血を吐く。青色の瞳がぼくをみつめる。ネムは震える腕を持ち上げて、ぼくの頬に手を触れる。

「リオ……」
「なに?」
「男なんて……好きになるもんじゃ、ないね」

 ネムの手が力を失い、だらりと垂れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...