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第1部
第23話「薬品工場へ侵入する計画を立てる顛末」
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ロビー中央の円卓にぼくたちは集まる。
ヴィクトール、ベツ、アキラ、ボリス、ネム、ぼくとユリアとエレナ、それにレピタ。レピタは黒いメイド服を着て飲み物を配る。
普段こういうことに参加しないユリアとエレナもヴィクトールに呼ばれた。バイザーをかけると、いま診療所にいるサチが暗号通信でオンラインになる。
「結論から言うけど、傭兵の雇い主は、みつからなかった。代わりに、こんなものが出てきた」
ヴィクトールがコンソールを叩くと、円卓の中央に屋上でみた建物の立像が表示され、ゆっくり回転する。拡大すると、建物の内外に銃を持った兵士が五人。グルジア文字のラベルの下に、日本語の翻訳が表示される。
四層構造で、一階が充填と梱包、二階が検査と糖衣、三階が調剤と秤量エリア、地下が倉庫と入出庫エリア。
「こいつはエンライの薬品工場で警備をやっていたらしい。そのときの建物の構造と警備ルート、手順の詳細が、電脳のバックアップと一緒にボロボロ出てきた」とヴィクトールが説明する。
「いつのデータ?」とサチが聞く。
「一週間前だね。ちょうど、エドガータウンの倉庫で爆破をやったときだから、警備を強化するためにこの傭兵共を使ったんだろうな。セキュリティ業務に外注使うと、まあ、こんなふうにお漏らしするもんだ」
「じゃあ、あたしたちを襲ったのも……エンライ?」
「それはどーかな、そもそも目的がわからねえ。オレたちの襲撃計画をスパイ経由で知ったんなら、運搬ルートを変えれば済む話だ。わざわざ兵隊使って殺しに来るなんて、解放ゲリラ相手ならともかく、普通じゃねーぜ。大企業にとっちゃリスクでしかないだろ」
「じゃあ、アタシたちはこれからも見えない敵に怯えなきゃいけないの?」
「説明は最後まで聞きな。このマップは薬品庫の警備データだ。警備のルートと交代時間、強化警備と通常警備の両方の情報が入ってる。俺たちはここの睡眠薬を少しだけいただき、解放ゲリラに売り払って、その金でヒバリーヒルに移る。そうすれば、少なくともここみたいな危ない下町で息を潜める必要なんか無い」
ぼくは隣に寄り添うユリアにそっと囁く。
「睡眠薬っていくらで売れるの?」
「七千から八千で売れるよ、買うときは一万。一ケースでもあれば、ヒバリーヒルにでかいセーフハウスが借りられる」
「ヒバリーヒルって?」
「自由民の聖地みたいなとこね。金さえあればなんでも手に入るわ」
ヴィクトールが手を叩く。
「西部ゲリラから、睡眠薬のバルクオーダーが入ってるのはみんな知ってるな。目処が立たないなら他の組織に回すとせっつかれてる。ハルトが動けないのは内緒だ。俺たちだけでなんとかするしかない」
「他の組織って?」とサチが聞く。
「イーライんとこだ。奴ら自身、ゲリラ出身のグループだから、西部ゲリラに顔が利く」
「あいつらもともと東部の人間だよ」
「だから筋を通さねーんだよ、取引するのに挨拶もなしだ」
ぼくがキャンプに匿われた夜、ロン毛のイーライ・シャーショウに会った。ハルトと何かを話したはずだけど、よく覚えていない。
ネムが緑色に輝く煙管を吸って、蒸気を吐く。アキラは椅子に凭れて天井を仰ぐ。ボリスはマップを眺めてずっと貧乏ゆすり。
「作戦は?」とサチが聞く。
「ベツ、よろしく」とヴィクトール。
マップ映像のオーナー名がヴィクトールからベツに変わる。倉庫に赤いマップピンが表示される。
「目標はここ、薬品庫の五番レーンにある睡眠薬だ。梱包済みケースがあるからそれを狙う。だが警備は最も厳重な区画だ。まずはこの建物に侵入する必要がある」
敷地の通用門にある警備詰所が拡大される。警備員は男性二名。銃を所持。
「周囲のフェンスを通過するのは難しくないが、アナログなセンサーレスの監視カメラがある。それを見てるのがここの二人。ユリアとエレナは、この男たちを誘惑してくれ。ほんの数分でいい」
映像が車に移動。路地で五人の人型を下ろして走り去る。サチとネムは北のマンション二棟へ分かれ、屋上にあがる。ぼくとベツ、ボリスは薬品庫へ接近。
「アキラはいつものように周辺を流しながら待機。サチとネムは公団の屋上に上って、狙撃ポイントで待機。壁をぶち抜けるようなデカイ銃を持ってけ。俺たちはフェンスに接近。ユリアとエレナは詰所の男の視線をモニタから逸したらビーコンで連絡くれ、電波状況がわからんから電脳通信は使うな」
映像がフェンスに移動。穴が空いて、サンプルの人型が三人で内部へ侵入。
「監視の厳しい出荷場しか出入りできないようにみえるが、建物北側に古いエレベータ孔が残ってる。ここから地下に降りて、薬品庫の壁を切るんだが……」
ベツがぼくを見る。
「こっから先は、リオ一人だ」
ヴィクトール、ベツ、アキラ、ボリス、ネム、ぼくとユリアとエレナ、それにレピタ。レピタは黒いメイド服を着て飲み物を配る。
普段こういうことに参加しないユリアとエレナもヴィクトールに呼ばれた。バイザーをかけると、いま診療所にいるサチが暗号通信でオンラインになる。
「結論から言うけど、傭兵の雇い主は、みつからなかった。代わりに、こんなものが出てきた」
ヴィクトールがコンソールを叩くと、円卓の中央に屋上でみた建物の立像が表示され、ゆっくり回転する。拡大すると、建物の内外に銃を持った兵士が五人。グルジア文字のラベルの下に、日本語の翻訳が表示される。
四層構造で、一階が充填と梱包、二階が検査と糖衣、三階が調剤と秤量エリア、地下が倉庫と入出庫エリア。
「こいつはエンライの薬品工場で警備をやっていたらしい。そのときの建物の構造と警備ルート、手順の詳細が、電脳のバックアップと一緒にボロボロ出てきた」とヴィクトールが説明する。
「いつのデータ?」とサチが聞く。
「一週間前だね。ちょうど、エドガータウンの倉庫で爆破をやったときだから、警備を強化するためにこの傭兵共を使ったんだろうな。セキュリティ業務に外注使うと、まあ、こんなふうにお漏らしするもんだ」
「じゃあ、あたしたちを襲ったのも……エンライ?」
「それはどーかな、そもそも目的がわからねえ。オレたちの襲撃計画をスパイ経由で知ったんなら、運搬ルートを変えれば済む話だ。わざわざ兵隊使って殺しに来るなんて、解放ゲリラ相手ならともかく、普通じゃねーぜ。大企業にとっちゃリスクでしかないだろ」
「じゃあ、アタシたちはこれからも見えない敵に怯えなきゃいけないの?」
「説明は最後まで聞きな。このマップは薬品庫の警備データだ。警備のルートと交代時間、強化警備と通常警備の両方の情報が入ってる。俺たちはここの睡眠薬を少しだけいただき、解放ゲリラに売り払って、その金でヒバリーヒルに移る。そうすれば、少なくともここみたいな危ない下町で息を潜める必要なんか無い」
ぼくは隣に寄り添うユリアにそっと囁く。
「睡眠薬っていくらで売れるの?」
「七千から八千で売れるよ、買うときは一万。一ケースでもあれば、ヒバリーヒルにでかいセーフハウスが借りられる」
「ヒバリーヒルって?」
「自由民の聖地みたいなとこね。金さえあればなんでも手に入るわ」
ヴィクトールが手を叩く。
「西部ゲリラから、睡眠薬のバルクオーダーが入ってるのはみんな知ってるな。目処が立たないなら他の組織に回すとせっつかれてる。ハルトが動けないのは内緒だ。俺たちだけでなんとかするしかない」
「他の組織って?」とサチが聞く。
「イーライんとこだ。奴ら自身、ゲリラ出身のグループだから、西部ゲリラに顔が利く」
「あいつらもともと東部の人間だよ」
「だから筋を通さねーんだよ、取引するのに挨拶もなしだ」
ぼくがキャンプに匿われた夜、ロン毛のイーライ・シャーショウに会った。ハルトと何かを話したはずだけど、よく覚えていない。
ネムが緑色に輝く煙管を吸って、蒸気を吐く。アキラは椅子に凭れて天井を仰ぐ。ボリスはマップを眺めてずっと貧乏ゆすり。
「作戦は?」とサチが聞く。
「ベツ、よろしく」とヴィクトール。
マップ映像のオーナー名がヴィクトールからベツに変わる。倉庫に赤いマップピンが表示される。
「目標はここ、薬品庫の五番レーンにある睡眠薬だ。梱包済みケースがあるからそれを狙う。だが警備は最も厳重な区画だ。まずはこの建物に侵入する必要がある」
敷地の通用門にある警備詰所が拡大される。警備員は男性二名。銃を所持。
「周囲のフェンスを通過するのは難しくないが、アナログなセンサーレスの監視カメラがある。それを見てるのがここの二人。ユリアとエレナは、この男たちを誘惑してくれ。ほんの数分でいい」
映像が車に移動。路地で五人の人型を下ろして走り去る。サチとネムは北のマンション二棟へ分かれ、屋上にあがる。ぼくとベツ、ボリスは薬品庫へ接近。
「アキラはいつものように周辺を流しながら待機。サチとネムは公団の屋上に上って、狙撃ポイントで待機。壁をぶち抜けるようなデカイ銃を持ってけ。俺たちはフェンスに接近。ユリアとエレナは詰所の男の視線をモニタから逸したらビーコンで連絡くれ、電波状況がわからんから電脳通信は使うな」
映像がフェンスに移動。穴が空いて、サンプルの人型が三人で内部へ侵入。
「監視の厳しい出荷場しか出入りできないようにみえるが、建物北側に古いエレベータ孔が残ってる。ここから地下に降りて、薬品庫の壁を切るんだが……」
ベツがぼくを見る。
「こっから先は、リオ一人だ」
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