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第1部
第9話「アンドロイドプラントに侵入する顛末」
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アキラが運転する下品な車の後部座席に座り、流れていく高層ビルにオレンジのネオンが輝くのを窓から眺める。前の席にハルトが座り、ぼくの隣にサチ。
サチは自分の身長くらいありそうなデカいライフルを持っていて、黒い弾倉に銀色の実弾を一つずつ押し込む。
「いーか、リオ。俺とサチがお前をプラントの整備区画まで連れて行く。区画内は俺たちは入れないから、お前一人だ。おニューの筐体を適当に選んで、担いで持ち出せ。セクサロイドだから軽いのばっかだけど、オツム空っぽのネイセリアと間違うな。最近出たばかりのレピタを持ち出すんだ。警備のロボットはともかく、万が一、虫みたいな奴がいたら歩みを止めろ。武器を持ってなければ大丈夫。バレても警報がなるくらいだからビビるな」
ハルトがさっきも聞いた内容をおさらいする。
ハルトが頭に乗せた白いバイザーはマジックで目が描かれていて、着ているジャケットの胸にはゴシック体で『カルシウム不足』と描かれている。気になって話に集中できない。
「うまく、姿を消せるかどうか……」
「できるさ、一回できたんだろ」
「一回だけです」
「じゃあ二回も三回も変わらねえよ」
ぼくたちはアンドロイドプラントに忍び込み、アンドロイドを一体盗み出す。
アンドロイドは精巧に作られた人間と変わらない姿のロボットで、上流階級の市民が生活の中で利用する。家事、育児、労働、セックス、教育、介護、鑑賞。そんな高級品がどうして必要なのかについては聞いてない。
「警報がなったら、どうすればいいですか?」
「走れ。盗んだアンドロイドは持ってこいよ」
「捕まったりしないですか?」
「もたもたしてると、武装した人間の警備が駆けつける」
不安になる。駄菓子の万引とはわけが違う。空を飛ぶ車より高価な製品を、製造工場から直接盗み出すのだ。
やがて窓から円形の建物が見えてくる。
* * *
エンライ・エヴゲニーのロゴが光るアンドロイドプラント。
車はゆっくり下降して、スモッグの間から薄汚れた道路がみえてくる。ドスンと衝撃が走り、空飛ぶ車が普通の車になる。アキラがハンドルを握る。聞き慣れたロードノイズと路面の振動に何故か安堵する。
霧なのかスモッグなのか、それとも塵なのか、視界がとても悪くて、道路はところどころヒビ割れ、穴があいている。振動もひどい。信号待ちで停まる。歩道を歩く人通りは多いけれど、地上を走る車の姿はみえない。上空はあんなに行き交っているのに。
「リオ、バイザーもらったのか」
「はい、ベツさんに」
「使い方、わかるか?」
「いえ、あまり……」
ハルトが手を伸ばしてぼくの頭にのせたバイザーをかけさせる。首筋のケーブルをバイザーにつなぐと勝手に電源が入って、肉眼より精密な映像がひろがる。
ハルト・ラザレフカ、二十八歳、セクター5出身……、住所や職業欄が伏せ字になっている。ハルトの指が目の前に迫る。ぼくのバイザーを指先でピンチすると映像が拡縮する。タップするとアプリアイコンが現れ、指先を滑らせて目的のアイコンで離す。現在地の透過マップが表示される。スマホと変わらない。
「こんな感じ、わかった?」
「指で操作するんですか?」
「そう、字読める?」
「読めます」
表示される言葉は全部日本語。可読性の高い丸ゴシックフォントで、青白い透過表示だけど、白い背景のときは縁取りされる。渋谷の美味い焼きビーフン屋のシャッターに描かれたストリートアートにそっくりのゲスいアイコンも並んでいるけど、その意味はわからない。なにか卑猥なアプリに見える。
車は大通りから路地に滑り込み、ビルの影で停まる。ぼくとハルト、サチは車を降りる。アキラの乗った車は走り去る。
ビルの谷間にある路地は二車線の広さで、向かいのリキュールショップの明かりが濡れた地面に映り込む。
汚れたカートにポリタンクを載せたレゲエスタイルの男がゴミ箱を漁り、壁際にはビキニスタイルの女たちが水タバコの煙を吐いてぼくたちに手招き、鉄パイプを自販機に突っ込む男、路上に座り込んで音楽に合わせて踊る男女、模様が光るレインコートを着た女が箱型の犬ロボットを連れて歩き、小太りのオッサンがビキニスタイルの娼婦たちと交渉を始める。
ゴチャゴチャして猥雑な街角は大通りまで続き、汚くて臭くて異様な活気に満ちている。
ハルトが路地の奥に歩く。ぼくとサチが続く。鈍色の高層ビルの間に挟まれたレンガの雑居ビルに入り、狭い階段を下りて地階へ。
薄暗い通路もバイザーが光を増幅してクリアに見える。この異世界に照明が足りないのは、必要がないからだろうか。鉄の扉の前に黒いコートを着た大男が二人。ハルトが素通りして扉を開ける。サチが続く。ぼくは大男に腕を掴まれる。
「連れだから」とハルトが振り返る。
大男はぼくの腕を離す。
扉を通過して真っ暗な通路を抜けると、腹に響くキックドラムが150BPMを超えて疾走するクラブのダンスの渦に迷い込む。大勢の男女が踊る隙間を縫って、必死でサチの姿を追う。ハルトはもう見えない。
ぼくはバイザーをタップしてメニューを出す。追跡モード。サチをタップすると、人混みの闇にサチの輪郭が蛍光グリーンで表示される。距離二十フィート。離されないようについていく。
非常口に出る。階段を下る。下品なガバサウンドが壁を伝って響いてくる。どんどん下る。空気が冷える。一番下まで降りると、巨大な貯水槽にアーチ状の橋がかかっていて、その上を駆け抜ける。マップを出す。
地下通路の地図ではここは土の中のはずだ。マップの隅に、アンドロイドプラントが近づく。
上下に湾曲した地下通路を千歩以上駆けると、上に登るハシゴで立ち止まる。ハルトが登る。サチが後に続く。ぼくは最後に上る。目の前にサチの形のいいお尻。
ハシゴの上はまた地下通路だったけれど、壁と天井に様々な太さのパイプとケーブルが張り巡らされ、さっきのような汚水の臭いがしない。マップでは、ちょうどプラントの中央にある洗浄ラインの真下。再び走る。ハルトもサチも大きな銃を持っているのに全然息切れしない。ぼくは必死。
業務用エレベータに到着。走り疲れたぼくは壁に持たれて肩で息をする。汗びっしょり。エレベータが上がる。
「ハルト、リオは機械化してないから、走りっぱなしじゃ疲れるよ」とサチが気遣う。
「じゃあ、こっから上は歩くか」
「ぼく……、大丈夫です」と強がる。
エレベータの扉が開く。グレーのカーペットが敷かれた近代的な通路をゆっくり進み、曲がり角で止まる。しばしば、ハルトとサチは無言で静止する。
ダイバーネットにアクセスしているときは五感がネットにつながるから、動きがとまる。再び歩き始める。中腰で、静かに進む。床の仄かな明かりで照らされた廊下の両側に扉が並ぶ。そのうちのひとつを抜ける。
広大な空間にアンドロイドの製造ラインがスペースマウンテンの線路のように複雑に入り組み、コンベアを流れる人型のアンドロイドが逆さに吊られて、人工皮膚を蒸着する工程がみえる。製造の最終工程。それが済むと、無菌エリアで洗浄とパッキングが行われる。
ぼくはパッキング前のアンドロイドを盗むのだ。その先に進んでしまうと、盗難防止タグが埋め込まれてしまう。
蒸着機の下を這いつくばってくぐり抜ける。サチがケースからライフルを取り出す。構える。
ぼくはハルトと一緒に先へ進む。無菌室の入り口。扉が音もなく開く。拳銃を構えたハルトがぼくに眼で合図する。
ぼくはコートを脱ぐ。その場で深く息を吸う。ゆっくり吐く。眼を閉じると、ネムの裸が瞼に浮かぶ。
心がぎゅっと絞られて、ふっと自分の姿が消えたことを感じる。ハルトが親指を立てる。
ぼくは立ち上がり、無菌室に入る。背後で扉が閉まる。真っ直ぐ歩く。両脇に消毒工程のコンベアがゆっくり流れ、青と赤紫の光が乱反射する。床を四角い警備ロボットが走り抜ける。ぼくを無視する。
足音を立てずに、ゆっくり呼吸する。暗闇に紛れるように、自分の存在を消す。
目的のパック前のアンドロイドのレーン。まるで出荷待ちのジャケットみたいに鉄のパイプに整然とぶら下がった裸の少女のアンドロイドには頭髪が無かったけれど、キャンプのバルコニーから見たエヴゲニーの広告のセクサロイドに似ている。いや、微妙に違う。よくみると、すべての個体は少しずつ顔貌が違う。
『よーし、レピタだな、それ適当に選んで持ってきて』
バイザーに開いた音声通信で、ハルトが指示する。ぼくの視界はハルトが共有している。ぼくは手近な一体を抱える。軽い、と聞いていたのにかなり重い。三十キロはある。肩に担ぐ。
ぼく自身は透明だけど、肩に担いだアンドロイドの姿は消えない。めちゃくちゃドキドキする。オーシャンズ11のようなスマートな盗みを想像していたのに、似ているのは大胆なところだけで、警備ロボットの間を歩いて単にこのまま持ち帰るのだ。種も仕掛けもない。
来た道を引き返す。宙に浮くレピタの姿がガラスに映る。ぼくが触れているところが抉られたように歪んで赤い輪郭が現れる。
警備ロボットとすれ違うたびに冷や汗がどっと出るけれど、難なく扉まで戻る。扉が開いてハルトが手招きする。親指を立てる。手のひらで「待て」の合図。ハルトの視線はぼくの背後に注がれる。
ぼくは、つい、振り返ってしまい、レピタを担いだ自分の姿を暴露する。
巨大な金属のスズメバチが空中からぼくにレーザー光を当てる。
発砲音、スズメバチが粉々に砕け散って、細かい部品をキラキラと通路にぶちまける。ライフルを撃ったサチが蒸着機の下から這い出てくる。ハルトがぼくの抱えたレピタを奪い取る。
「逃げるぜ」
サチは自分の身長くらいありそうなデカいライフルを持っていて、黒い弾倉に銀色の実弾を一つずつ押し込む。
「いーか、リオ。俺とサチがお前をプラントの整備区画まで連れて行く。区画内は俺たちは入れないから、お前一人だ。おニューの筐体を適当に選んで、担いで持ち出せ。セクサロイドだから軽いのばっかだけど、オツム空っぽのネイセリアと間違うな。最近出たばかりのレピタを持ち出すんだ。警備のロボットはともかく、万が一、虫みたいな奴がいたら歩みを止めろ。武器を持ってなければ大丈夫。バレても警報がなるくらいだからビビるな」
ハルトがさっきも聞いた内容をおさらいする。
ハルトが頭に乗せた白いバイザーはマジックで目が描かれていて、着ているジャケットの胸にはゴシック体で『カルシウム不足』と描かれている。気になって話に集中できない。
「うまく、姿を消せるかどうか……」
「できるさ、一回できたんだろ」
「一回だけです」
「じゃあ二回も三回も変わらねえよ」
ぼくたちはアンドロイドプラントに忍び込み、アンドロイドを一体盗み出す。
アンドロイドは精巧に作られた人間と変わらない姿のロボットで、上流階級の市民が生活の中で利用する。家事、育児、労働、セックス、教育、介護、鑑賞。そんな高級品がどうして必要なのかについては聞いてない。
「警報がなったら、どうすればいいですか?」
「走れ。盗んだアンドロイドは持ってこいよ」
「捕まったりしないですか?」
「もたもたしてると、武装した人間の警備が駆けつける」
不安になる。駄菓子の万引とはわけが違う。空を飛ぶ車より高価な製品を、製造工場から直接盗み出すのだ。
やがて窓から円形の建物が見えてくる。
* * *
エンライ・エヴゲニーのロゴが光るアンドロイドプラント。
車はゆっくり下降して、スモッグの間から薄汚れた道路がみえてくる。ドスンと衝撃が走り、空飛ぶ車が普通の車になる。アキラがハンドルを握る。聞き慣れたロードノイズと路面の振動に何故か安堵する。
霧なのかスモッグなのか、それとも塵なのか、視界がとても悪くて、道路はところどころヒビ割れ、穴があいている。振動もひどい。信号待ちで停まる。歩道を歩く人通りは多いけれど、地上を走る車の姿はみえない。上空はあんなに行き交っているのに。
「リオ、バイザーもらったのか」
「はい、ベツさんに」
「使い方、わかるか?」
「いえ、あまり……」
ハルトが手を伸ばしてぼくの頭にのせたバイザーをかけさせる。首筋のケーブルをバイザーにつなぐと勝手に電源が入って、肉眼より精密な映像がひろがる。
ハルト・ラザレフカ、二十八歳、セクター5出身……、住所や職業欄が伏せ字になっている。ハルトの指が目の前に迫る。ぼくのバイザーを指先でピンチすると映像が拡縮する。タップするとアプリアイコンが現れ、指先を滑らせて目的のアイコンで離す。現在地の透過マップが表示される。スマホと変わらない。
「こんな感じ、わかった?」
「指で操作するんですか?」
「そう、字読める?」
「読めます」
表示される言葉は全部日本語。可読性の高い丸ゴシックフォントで、青白い透過表示だけど、白い背景のときは縁取りされる。渋谷の美味い焼きビーフン屋のシャッターに描かれたストリートアートにそっくりのゲスいアイコンも並んでいるけど、その意味はわからない。なにか卑猥なアプリに見える。
車は大通りから路地に滑り込み、ビルの影で停まる。ぼくとハルト、サチは車を降りる。アキラの乗った車は走り去る。
ビルの谷間にある路地は二車線の広さで、向かいのリキュールショップの明かりが濡れた地面に映り込む。
汚れたカートにポリタンクを載せたレゲエスタイルの男がゴミ箱を漁り、壁際にはビキニスタイルの女たちが水タバコの煙を吐いてぼくたちに手招き、鉄パイプを自販機に突っ込む男、路上に座り込んで音楽に合わせて踊る男女、模様が光るレインコートを着た女が箱型の犬ロボットを連れて歩き、小太りのオッサンがビキニスタイルの娼婦たちと交渉を始める。
ゴチャゴチャして猥雑な街角は大通りまで続き、汚くて臭くて異様な活気に満ちている。
ハルトが路地の奥に歩く。ぼくとサチが続く。鈍色の高層ビルの間に挟まれたレンガの雑居ビルに入り、狭い階段を下りて地階へ。
薄暗い通路もバイザーが光を増幅してクリアに見える。この異世界に照明が足りないのは、必要がないからだろうか。鉄の扉の前に黒いコートを着た大男が二人。ハルトが素通りして扉を開ける。サチが続く。ぼくは大男に腕を掴まれる。
「連れだから」とハルトが振り返る。
大男はぼくの腕を離す。
扉を通過して真っ暗な通路を抜けると、腹に響くキックドラムが150BPMを超えて疾走するクラブのダンスの渦に迷い込む。大勢の男女が踊る隙間を縫って、必死でサチの姿を追う。ハルトはもう見えない。
ぼくはバイザーをタップしてメニューを出す。追跡モード。サチをタップすると、人混みの闇にサチの輪郭が蛍光グリーンで表示される。距離二十フィート。離されないようについていく。
非常口に出る。階段を下る。下品なガバサウンドが壁を伝って響いてくる。どんどん下る。空気が冷える。一番下まで降りると、巨大な貯水槽にアーチ状の橋がかかっていて、その上を駆け抜ける。マップを出す。
地下通路の地図ではここは土の中のはずだ。マップの隅に、アンドロイドプラントが近づく。
上下に湾曲した地下通路を千歩以上駆けると、上に登るハシゴで立ち止まる。ハルトが登る。サチが後に続く。ぼくは最後に上る。目の前にサチの形のいいお尻。
ハシゴの上はまた地下通路だったけれど、壁と天井に様々な太さのパイプとケーブルが張り巡らされ、さっきのような汚水の臭いがしない。マップでは、ちょうどプラントの中央にある洗浄ラインの真下。再び走る。ハルトもサチも大きな銃を持っているのに全然息切れしない。ぼくは必死。
業務用エレベータに到着。走り疲れたぼくは壁に持たれて肩で息をする。汗びっしょり。エレベータが上がる。
「ハルト、リオは機械化してないから、走りっぱなしじゃ疲れるよ」とサチが気遣う。
「じゃあ、こっから上は歩くか」
「ぼく……、大丈夫です」と強がる。
エレベータの扉が開く。グレーのカーペットが敷かれた近代的な通路をゆっくり進み、曲がり角で止まる。しばしば、ハルトとサチは無言で静止する。
ダイバーネットにアクセスしているときは五感がネットにつながるから、動きがとまる。再び歩き始める。中腰で、静かに進む。床の仄かな明かりで照らされた廊下の両側に扉が並ぶ。そのうちのひとつを抜ける。
広大な空間にアンドロイドの製造ラインがスペースマウンテンの線路のように複雑に入り組み、コンベアを流れる人型のアンドロイドが逆さに吊られて、人工皮膚を蒸着する工程がみえる。製造の最終工程。それが済むと、無菌エリアで洗浄とパッキングが行われる。
ぼくはパッキング前のアンドロイドを盗むのだ。その先に進んでしまうと、盗難防止タグが埋め込まれてしまう。
蒸着機の下を這いつくばってくぐり抜ける。サチがケースからライフルを取り出す。構える。
ぼくはハルトと一緒に先へ進む。無菌室の入り口。扉が音もなく開く。拳銃を構えたハルトがぼくに眼で合図する。
ぼくはコートを脱ぐ。その場で深く息を吸う。ゆっくり吐く。眼を閉じると、ネムの裸が瞼に浮かぶ。
心がぎゅっと絞られて、ふっと自分の姿が消えたことを感じる。ハルトが親指を立てる。
ぼくは立ち上がり、無菌室に入る。背後で扉が閉まる。真っ直ぐ歩く。両脇に消毒工程のコンベアがゆっくり流れ、青と赤紫の光が乱反射する。床を四角い警備ロボットが走り抜ける。ぼくを無視する。
足音を立てずに、ゆっくり呼吸する。暗闇に紛れるように、自分の存在を消す。
目的のパック前のアンドロイドのレーン。まるで出荷待ちのジャケットみたいに鉄のパイプに整然とぶら下がった裸の少女のアンドロイドには頭髪が無かったけれど、キャンプのバルコニーから見たエヴゲニーの広告のセクサロイドに似ている。いや、微妙に違う。よくみると、すべての個体は少しずつ顔貌が違う。
『よーし、レピタだな、それ適当に選んで持ってきて』
バイザーに開いた音声通信で、ハルトが指示する。ぼくの視界はハルトが共有している。ぼくは手近な一体を抱える。軽い、と聞いていたのにかなり重い。三十キロはある。肩に担ぐ。
ぼく自身は透明だけど、肩に担いだアンドロイドの姿は消えない。めちゃくちゃドキドキする。オーシャンズ11のようなスマートな盗みを想像していたのに、似ているのは大胆なところだけで、警備ロボットの間を歩いて単にこのまま持ち帰るのだ。種も仕掛けもない。
来た道を引き返す。宙に浮くレピタの姿がガラスに映る。ぼくが触れているところが抉られたように歪んで赤い輪郭が現れる。
警備ロボットとすれ違うたびに冷や汗がどっと出るけれど、難なく扉まで戻る。扉が開いてハルトが手招きする。親指を立てる。手のひらで「待て」の合図。ハルトの視線はぼくの背後に注がれる。
ぼくは、つい、振り返ってしまい、レピタを担いだ自分の姿を暴露する。
巨大な金属のスズメバチが空中からぼくにレーザー光を当てる。
発砲音、スズメバチが粉々に砕け散って、細かい部品をキラキラと通路にぶちまける。ライフルを撃ったサチが蒸着機の下から這い出てくる。ハルトがぼくの抱えたレピタを奪い取る。
「逃げるぜ」
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