【R18】ハロー!ジャンキーズ

藤原紫音

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第1部

第8話「バイザーを貰う顛末」

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「そうだ、リオがいた別の世界って、どんなところだ?」とベツが急に話題を変える。
「ぼくは……日本というところに住んでいました」
「ニホン……?」
「ぼくたちの世界にも、ネットはありました。でも、電脳でアクセスするものじゃなくて、パソコンやスマートフォンみたいな機械が必要です」
「そーなんだ、ネットはどんなところだった?」
「調べ物したり、動画みたり、音楽聴いたり……。そういうのを、検索するんです」
「俺達のと似てるな」
「そうなんですか?」
「ダイブできるのか?」
「え?」
「リオはここのネットは未体験だよな」
「そうです……」

 ベツは頭のバイザーを取って、ぼくの頭にのせる。
 大きな金属製のサングラスのような形状。眼鏡のようにかける。真っ暗で何も見えない。小さな電子音が響いて、視界がひらける。ぼくを覗き込むベツの姿に青白い輪郭が描かれ、半透明のウインドウに膨大な情報。

 ベツヤク・アブラール、男、四十二歳、セクター5出身、現住所不定、現無職、元自動車修理工、元爆弾処理業者、元清掃作業員、元SKF派遣部隊第三小隊所属……。

「あっ、すごい……。これ、ベツさんのことがわかりますよ」
「公開してるプロフィールな。それだけじゃねーよ、外みてこいよ」

 そう促されて、ぼくは椅子を立ち上がり、バイザーの両耳を手で押さえたままよろよろ歩く。
 肉眼の視界と変わらないのだけど、右上に建物内部の俯瞰ふかんマップが表示される。バルコニーに出る。
 格子状の屋根の隙間から雨粒がポタポタ滴るなかで、黒髪のネムと鼻ピアスのシュウジが水タバコをくゆらす甘い香り。ネムとシュウジの名前が表示される。ネムが二十八歳だと表示されるけど、見た目は女子高生と変わらない。ビルの谷間に視線を向けると、膨大な動画広告が目に入る。

 損害保険、自動車、ギャンブル、不動産、弁護士、転職スカウト、個人年金、営業支援、人工ユニット、介護、ドラッグ、売春、セクター越境、普通の広告も、違法な広告も一緒に並んでいて、眼を向けた先の広告の音がきこえる。様々な言語表記が飛び交う。漢字、簡体字かんたいじ繁体字はんたいじ、キリル文字、アルファベット、タイ文字、ギリシャ文字、ヘブライ文字、ひらがな、一番多く見られるのは漢字とカタカナ。

 空中の道路の輪郭、それに大量の道路標識。見える範囲では少なくとも四層構造になっている。交差点では上下に曲がるラインまであって、そこに沿って空に浮かぶ車が直進車の通過を待っている。
 いずれの高層ビルにも名前があって、各階に車の昇降口があって、カラフルな指示線に彩られる。

「それでみえるのが、オーバーレイっていうネット。見分け方しらないと、みえてるものが現実か非現実かわからなくなる」

 ベツがバルコニーに出てくる。遠くで落雷の音。生ぬるい雨。風にのって流れてくる油と生ゴミと焼け焦げた匂いは現実だろうか。上を向いても下を向いても様々な情報ウインドウが開く。だめだ、情報過多。ぼくはバイザーを脱ぐ。

「ぼくの知ってるネットと全然違います」
「調べ物したり、音楽聴いたりするのは、ダイバーネットって言うんだ。バイザーでダイブできるぜ」
「電脳があるのに、こういうのが必要なんですか?」
「電脳だけじゃたいしたことはできない、そのバイザーが電脳につながって色々夢をみせてくれる」

 そういえば、ハルトやサチもバイザーをつけていた。いや、ゴーグルか。もっと分厚くてゴツいやつ。ぼくはバイザーをベツに差し出す。

「それやるよ。新しいの手に入れたから」
「いいんですか?」
「リオの言うスマートフォンみたいなもんだから、必要だろ?」
「ありがとうございます」

 * * *

 あっ、あっ、あん。

 仰向けのぼくの上で、裸のユリアが上下する。エレナがぼくの股間に舌を滑らせる。二人と同じすべすべの股間に夕陽が伸びる。
 ぼくは巨根になっただけでなく、陰毛も脇毛もほんのり生えていた髭もなくなって、銀色の産毛が頼りない陽の光に輝く。

「リオは骨格が女だね、セックスは最高だけど……、あん、あっあっあっ……はーっ、すごい」

 ユリアを突き上げると、這いつくばったエレナも一緒に喘ぐ。それをみていると、電脳通信してみたくなる。

「ぼくのって……きもちいいですか?」
「マジで最高だよ」とユリア。
「ちょっと……大きいですよね」
「十一インチだね、こんだけ長いとふにゃふにゃになるのに、流石フェラーレはガチガチだよ」
「フェラーレって……ブランドですよね」
「最高級のね。娼婦とか、セックスが好きな女が選ぶファック専用のユニットブランドだよ。男のフェラーレはリオだけじゃないかな」

 ベツから聞いた話では、バイオユニットは機械ユニットと違って生身と変わらないから、セックスが好きな人が選ぶ。だけどものすごく高い。

「フェラーレに優るちんぽなんかないよ……匂いも、味も、リオの体温も、入ってる感触も、あーっ、もう、ほんとたまんない、ふ……あーっ、マジできもち……いい」

 エレナがぼくの顔を跨いで、指でじぶんの割れ目を拡げる。ぼくとつながったユリアがエレナを背中から抱いて、肩越しに舌を絡め合う。乳房を両手で包んで、乳首を摘む。
 ガクガク震えるエレナの割れ目に、ぼくは舌を挿し込む。掻き回す。ユリアを突き上げる。ちゃぷちゃぷ、くちゃくちゃ、ウェットなセックスが寝室に響く。ふたりとも全身を引き攣らせて、同時に絶頂する。その恍惚の姿がとても神々しくて、めちゃくちゃ羨ましい。

 ぐったりしたエレナをユリアが抱きとめる。二人は交代する。
 震えが止まらないまま、エレナはぼくを濡れた割れ目に沈めてしまう。休む暇もない。エレナが後ろ手をついてピストンし、ユリアがぼくの乳首を左右交互に舐める。
 ぼくだってきもちよくてイキそうなのに、エレナのクスリのせいで、なかなかイかない。限界を超えて水風船を膨らませるように、快楽が限度を超えて全身に注入され続けるようで、手足が痙攣してうまく動かせない。快楽に溺れるとはこのことだ。

 * * *

 爆弾専門のベツに、この世界についていろいろと断片的な話を聞いた。ぼくの少ない脳味噌ではまだまとめきれないけれど。

 セクター4には狭いエリアに二千万人以上の市民と自由民が暮らしていて、電脳政府が自治している。
 他にもセクター5から9まであって、全部まとめてボストクナヤ・コミュニスティチェスカヤゾーナと言うらしい。エイヤフィヤトラヨークトルみたいに「知ってるだろ?」という勢いで教わったから何語かわからない。これはひとつの国ではなく、な連合国のようなものらしい。

 ここでは子供が生まれると、ほとんどの場合は電脳を埋め込まれる。
 上流階級は両親の元で育てられるけれど、貧民層は育児院で母親と共に育ち、学習施設で子供時代を過ごす。中産階級はほとんどいないけど、学習施設に入るのは貧民と同じ。そこで適正に応じた進路が与えられ、頭脳労働者や肉体労働者に振り分けられる。そして、ルールに束縛されたレールの人生を歩む。
 自由意志はあるようで無い。結婚も出産も、その後の育児も制度によって保証される代わりに、自由な恋愛も友人関係も築けない。そういう世界を望んだのは、他ならぬ市民たち自身なのだけど、どうしてこうなったか理解していない。
 恐ろしいディストピアのように思えるけれど、ぼくの記憶にある社会もそう変わりないのかもしれない。

 大戦については詳しく聞けなかった。
 二十年以上前に大戦を経験したというのはぼくたちの世界に少し似ているけれど、この世界では大戦前の情報を大方失ってしまった。生きている人間の大半が死に絶え、生存可能な土地が狭くなるほどのひどい戦争だったらしい。
 減った人口をもとに戻すために育児院や学習施設のような社会システムが誕生した。
 そんな戦争の経験からか、国家に準じるものはさっきも出てきたボストクナンチャラで、これはセクターごとに分かれた自治政府の上位フォレストでしかなく、国という意識は市民の心にないようだ。

 自由民であるハルトやベツたちは、電脳睡眠薬を盗んでは転売して生計を立てている。万引と違って大掛かりな泥棒だから途轍もなくリスクのある転売だけど、アンプル一本が一万クレジットになる。
 年に一、二度仕事をするだけで、この人数が遊んで暮らせる。一度睡眠薬に手を出すと、他の非合法な商売がバカバカしくなるそうだ。

 見た目はおっかないけれど、彼らは悪の組織にはみえない。
 彼らにしてみれば、手助けした奴が仲間になれば、欲しい物が手に入りやすくなる。メンバーは多ければ多いほどよい。だけど、彼らの仲間同士のつながりはとても疎にみえる。
 ふらっとキャンプに入ってくるやつもいれば、いつの間にかいなくなるやつもいる。政府のスパイだって潜り込む。政府のスパイは過激派の解放ゲリラが目当てだから、ただの自由民のキャンプを密告することはない。政府は積極的に自由民を捕えて管理社会に引き戻すことはしない。
 政府や社会にとって、自由民はレールから脱落した無職の貧困層に過ぎない。市民のネットワークは、そんな貧困層を自己責任と切り捨てる。

 * * *

「あーっ、いくっ、出る……エレナ」
「出して、いっぱい、リオの、新鮮なせーし……、あっ」

 びじゅうううっと勢いよく放つ。エレナとユリアが同時に悲鳴をあげて絶頂する。びゅくびゅくと痙攣を伴って精液を注ぎ、エレナに抱かれたユリアの股間に口をつけてくちゃくちゃ掻き混ぜる。
 出し尽くす。力尽きる。ぐったり。涙目で裸の二人を見上げる。二人とも長い絶頂の最中で、天井を仰いだまま震え、エレナの指先がユリアの乳首をつまんで震わせる。視界の隅に人影。

 頭を横に向けると、部屋の扉が開いていて、ドア枠に肘を突いたサチが黄色いガムを膨らませて、全裸で絡み合ったぼくたちを眺める。ガムが割れて萎む。みられて恥ずかしいのに、ぼくの性器は萎まない。

「リオ、仕事だよ。シャワー浴びたらロビーに来な」
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