35 / 36
第四章 あなたと友達になれない
否定ができない
しおりを挟む
小春が退院したのは四ヶ月後の十月だった。本当は早めに退院して仕事に復帰したかったのだが、柊と早苗が反対し、完治するまで入院することを約束させられたのだ。二人が心配しているのは怪我だけではない。精神面も含まれていた。
小春は刃物を持った薬物中毒者に追われて、廃墟で二人きりだったのだ。他にも死んだ記憶がある。入院中は定期的にカウンセリングも受けることになった。
また、柊は毎日病室に訪れた。美味しいフルーツを持って来ては、小春に食べさせてくれる。会社を休んで来てくれることも度々あり、仕事は大丈夫なのかと聞けば、柊は早苗と目を合わせて笑うだけ。
その笑みの理由を知ったのは、小春が退院する日だった。病室に柊の父である衛が訪れたのだ。彼は疲れ切った様子で、早苗を見るとタンポポのようにほわほわと笑う。どうやら今回、柊に見合いをさせるという話は半分くらいは嘘だったらしい。孫の顔を早苗が生きているうちに見せたいというのは本当だ。しかし、政略結婚をするつもりはなかった。柊がよく会っている女友達が一人だけいるので、きっかけがあればすぐにくっつくだろうと思ったのだとか。
そのお節介の結果、衛は最悪な結果を招いてしまったため、小春が退院するまで早苗に会うのを禁止されていた。追加で、柊の仕事を一部やっていたそうだ。
衛は謝ってくれたが、小春は謝るようなことではないと思った。衛が小春に対し、酷いことをしたわけではないのだ。
……しかし早苗の怒りは収まっていないため、空気は冷え冷えとしていた。
柊と共に病院を出た後、小春が向かうのは彼のマンションだ。小春が住んでいたアパートは解約する予定で、今後は同棲することに決めていた。小春は夜に一人でいると、たまに死んだ時のことや明音に追われた時のことがフラッシュバックする。入院中は隣に早苗がいてくれたので寂しくなかったが、まだ一人で眠るのは怖かった。もちろん、柊と一緒に暮らしたい気持ちもある。
「はぁ……やっと小春と暮らせる」
「柊くん、まだ靴も脱いでないのに」
柊は小春が玄関に入ると後ろから抱きしめた。彼女の肩に顎を置き、頭をすりすりと動かす。
小春は猫のような柔らかい髪が首に擦れてくすぐったかった。
「んっ、ちょっと……ひゃっ」
このままだと、すぐにでもベッドに行きそうな雰囲気だ。夕飯は食べて来たので、その辺りは心配ない。
けれど小春は今の状態でベッドには行きたくなくて、柊の腕をぺちぺちと叩いた。
「小春は嫌なの?」
「そうじゃなくて……」
「せっかく両思いになったのに、母さんと同じ病室だったから全然恋人らしいことできなかったんだよ」
「で、でも、キスはした……よ?」
柊は仕事が終わればギリギリまで病室にいるが、そうでなくても朝だけ顔を見に訪れることもある。豪華な病室には会議室もあるので、そこで仕事していることもたまにあったため、早苗がいない隙を狙ってキスする時間はそれなりにあった。小春からすれば、かなり……いちゃいちゃしていた記憶がある。
「キス以外ができてないんだよ」
「う……じゃあ、せめてシャワーを浴びてきてもいい?」
「一緒に入ろうか」
「だめ。ちゃんと洗わせて……その後なら、いいから」
そうしなければ、小春は恥ずかしかった。
柊との経験はあるものの、体の恥ずかしい部分を執拗に舐められたのだ。それに一度始まれば、すぐには終わらないだろう。
恋人ごっこと称してセックスまで許してしまったこともある。そうして柊はもう一回だけと言って何度も小春を求め、いつ日が昇るかも分からない時間に眠りについたのだ。しっかりと洗わなければならない。絶対に。……洗っても、行為が始まればすぐに柊のせいでドロドロになってしまうとしても。
「その後なら?」
「……うん」
小春は頷き、耳もうなじもカッと熱くなる。何をするのか想像すると体は震え、落ち着かなくて足をもぞもぞと動かす。
柊はそんな小春の変化を目聡く見つけ、目を細めた。
「分かった。待つよ」
「……ンッ」
柊は小春の耳を軽く噛むと、抱きつくのをやめる。
驚いた小春はむっとした顔で睨むが、柊は嬉しそうに見つめ返すだけだった。
小春はベッドの中に入り、もぞもぞと身動ぐ。柊がシャワーを浴びに行ってから、十五分ほど経っていた。何度も時計を確認しては、頭まで布団を被る。
最後に柊としたのは半年近く前だ。入院中にこっそりしたキスも抱擁は小春を満たしたが、焦れったくもあった。
「小春、もうベッドに入ってるんだ?」
柊は浴室から出て早々に微笑を浮かべる。ベッドに座り、顔だけ出している小春の頬をツンと突いた。
「寝るにはまだ早いって言いそうなのに」
「……今日はもう疲れたから」
実際、昨日は荷物をまとめるので忙しかったし、今日の夕飯は柊と衛と早苗の四人で食べた。のんびりとした雰囲気の食事だったが、小春にとっては柊の両親がいる場である。とくに衛を前にすると、小春は緊張したのだ。……本人は早苗のことしか見ていなかったが。
柊が意地悪なことを言うなら、このまま寝てしまおうか。小春はころりと体の向きを変え、柊に背を向ける。
「疲れているなら、無理はさせない方がいいよな」
部屋の照明が暗くなり、柊がベッドに入ってきた。そして手を伸ばして、小春のお腹に腕を回す。
「柊くん」
「ん……抱きしめると眠りづらい?」
「そんなことはないけど……」
「けど、どうしたの」
小春はどんどん体が熱くなっていった。ぴたりとくっついた体が心地いい。それに近くで好きな人の声がすると、小春は背骨が蕩けそうになる。こんな状態ではとても眠れそうになかった。
「ああ、分かった。前と違って下着、着けたままだよね。脱がないと辛いか」
「そうだけど……あっ」
柊の手によってパジャマのボタンが外れていく。全て外し終えると、パジャマをずらされ背中の半分が露わになった。ホックは呆気なく外れ、小春の胸がふわりと広がる。取ったブラジャーはサイドテーブルの上に置かれ、最後にパジャマのボタンを留めていくだけだった。
「んっ、ふ……っふ、う……んん」
「どうしたの、小春」
「擦れ……て……っは、んく」
ボタンを留めるのを柊はしてくれるが、小春は大袈裟なくらいに体を震わせる。こんな風になってしまうのは、ボタンを掴んで留めようとする柊の腕が胸を擦れるからだった。先ほどまで軽々とやっていたのに、何故か今はもたもたしている。
「そうだった。小春は胸が弱かったよね。大丈夫? かいてあげようか」
「ふ……っふ、ん、ぅああっ」
「ごめんね、小春。敏感なところを刺激して……乳首、硬くなっちゃったね」
「んんぅう、あ、あ、っあぇ、うう……っ」
すりすりと胸の先端を撫でられ、小春はたまらず声が出た。布団を掴み、手に力を込める。それでも楽になることはなかった。
「小春」
柊は小春の体に腰を寄せた。
同時に耳元で名前を呼ばれて、小春は体が熱くなる。
「本当に、このまま寝れそう?」
柊の手がとまってしまった。
はふ、と小春は熱い吐息をもらす。硬く膨らんだ胸の先はもっと弄って欲しいと主張するかのようにジンジンする。
「最初から寝かせる気ないでしょう……」
「まさか。小春が眠たくて仕方ないなら諦めるよ」
小春は一言くらい文句を言おうと、柊に顔を向ける。すると苦しそうに喉を鳴らす音が聞こえた。余裕そうな口ぶりだが、かなり我慢しているのだろう。そんなことをしなくても、小春は求められれば応じるのに。中途半端なことをしているのは、たぶん、小春の言葉を待っているからなのだろう。
――こういう面倒な所を可愛いって思うの、私だけなのかな。
同い年なのに柊は年上のような頼もしさがありつつも、年下のように甘えてくる一面があった。
「……柊くん、キスしてもいい?」
「えっ……いいけど」
反撃された柊の声がうわずる。その反応に小春は満足した。
小春は体の向きを変え、柊に体を寄せる。そのまま顔を近づけて、そっと唇を合わせた。
「んっ……」
柊の唇は柔らかかった。シャワーを浴びたばかりだからか、いつもよりしっとりしているように感じる。入院中は周囲の音に気を配りながらキスをしていたから、こんな風に人目を気にしなくていいのは恋人になってから初めてのことだった。
「好き、柊くん」
「――んッ」
「好き、好き」
言いながら、小春は小鳥のようにつんつんと唇を触れあわせた。
「こは……る……っ、待って」
小春がぎゅうぎゅうと柊に抱きつくと、柊の胸が大きく上下する。改めて好かれているのだと実感して嬉しくなる。
「待って、って言ってるのに……」
「ひゃっ」
調子に乗り過ぎたのか、小春は柊に腰を掴まれてしまった。
「俺、一生小春に勝てない気がしてきた……」
「……ほ、本当にそう思ってる?」
「もちろん」
そんなこと、思っているはずがないと小春は心の中で否定する。
柊に腰を掴まれた小春の股間は、パジャマ越しに灼熱のような砲身がぐりぐりと食い込んでいた。
「んっんんぅう……は、は……あぅ……」
柊はその気になると小春に勝ち目なんてない。長い指でカリカリと胸も下の割れ目もかかれて、小春は弱々しく喘ぐ。瞬く間にパジャマと下着は脱がされ、何も身につけていない状態になっていた。
「ちょっとかいただけなのに、小春の中からどんどん汁が溢れてくる。気持ちいいの?」
「ふっ……んく、んっんんっ」
小春の体がビクビクと震える。たまらない気持ちになり、柊に縋り付くように彼の胸に頭を擦りつけた。
「まだ中に指を挿れてないのにイッたの、小春?」
「あ、あ、うっ……そ、そう……なの……だ、だから指っ……うぅ……」
「挿れて?」
「ちぁ……んッ――――」
ぐちゃぐちゃになっていた割れ目がぐちゅんっと広がる。柊の指はゆるゆると動き、小春の蜜路を刺激した。
小春は恥ずかしいくらい吸いつてしまう自分の下半身に、顔が熱くなる。けれど自分ではとめられないのだ。
四ヶ月間、本当に辛かったのは柊ではなく小春なのかもしれない。柊は一人になる時間があったが、小春にはほとんどなかった。キスをして抱きしめて、その後どうしようもなく体が火照ってしまうことがある。そういう時、小春はうまく体を慰められなかった。
だからもう、火がつくととめられない。
小春は下の口で柊の指をねっとりと吸い、腰を控えめに動かす。そうするとさらに蜜が増える。潜みきれない蜜は外に追いやられ、とろとろと太ももを汚した。
「柊く……ンンっ」
「小春もう……挿れてもいい?」
「うん。挿れて、もう指だけじゃ……んっ……」
「はぁ……そうみたいだね……」
柊も息が上がっていた。もどかしそうにサイドチェストからコンドームを取り出し、袋を破く。
はくはくと収縮する蜜路が柊の熱い猛りによって広がっていく。
「んぁ――――ッ」
小春は頭の中がパチパチと弾けた。一瞬、何も考えられなくなる。久しぶりにその熱を受け入れるからだろうか。指の先まで蕩けてしまいそうなほどの快楽が駆け巡っていく。
こんなに? 前もこんなに気持ちよかっただろうか?
「んっ、柊くん……っ」
首を横に振る。今、奥を抉られたら意識が飛んでしまいそうだった。
「小春……小春……」
「んっ、ふぁ……」
残念ながら、小春の思いは柊に届かない。
柊は熱に浮かされたように、小春の蜜路をじっくりと開いていく。小春の体を隅々まで味わうように腰を動かし、快楽に震える唇をぱくりと食べてしまう。小さな口の中に舌を差し込み、頬の裏や歯茎を舐める。小春も頑張って舌を動かそうとするが、気持ちよすぎてうまく動けなかった。
「あ、あ……イク……イクの……っ」
小春の体は柊を離さないと言わんばかりに熱烈に吸いつく。
「いいよ、小春。いっぱいイッて、ああ……この奥、小春の好きな所、優しく擦るから」
「ううう……! んっ、んくっ、だめっそこは……――っ!」
奥をトントンとほじられ、小春は声にもならない声をあげる。心臓がドクンと大きく高鳴った。蜜路は柊に絡みつき、足はガクガクと揺れる。絶頂は数秒続いた。なかなか収まらなくて、小春はたまらず柊にキスをする。しばらくそうしていると、ようやく呼吸が安定していく。
「柊……くん……」
「まだできそう?」
「ぅん……、あっまだ、柊くんは気持ちよくなってないよね」
「俺はずっと気持ちいいけど」
「でも、出てないよね……」
あれほどたっぷり締めつけたのに、柊のそれは昂ったままだ。
「そんなことを言っていいの、小春?」
「え?」
「俺がわざと出さないよう我慢してるって思わないんだ?」
柊は挿入したまま、指先で割れ目の先にある濡れた肉芽を撫でていく。
「あっあ、あ、ああっ、そ……そこ……同時……はっ」
「でも、俺がこうしないとイケないなら協力してくれるんだよね」
「んっんむっ、んふ、ん、それは――……」
そうだけれども、と最後まで言えない。小春の体は再び、快楽で震えて太い杭にしがみつく。しつこいくらいに同じ場所を抉られ、蜜路は収縮するのに忙しそうだった。
「はぁ……小春、可愛い。好きだよ」
「んっ、あ……わ、わたし、も……っ」
互いに唇を合わせ、くちゅくちゅと音を立てながら舌を絡める。
「そういえば、小春は激しい方が好きなんだよね」
「……っん、え? わ、私そんなこと言った?」
「言ったよ。最初の時、激しくしてって」
「――あ」
そんなこともあったと小春は思い出す。
しかし、それは小春の好みではなかった。
いつか政略結婚した相手とするであろう行為を知りたくなかっただけだ。
「ごめん、小春。忘れてた。今から小春が好きな激しいのをするから」
「え、あ、まっちが――ンンンンンっ!」
ぱちゅん、と肌がぶつかる。
「へ……あ?」
逃げようと腰を引けば、柊は細い腰を掴んだ。
「ち、ちが」
「大丈夫。遠慮しないで、小春。別に激しいのが好きってそんなに恥ずかしいことじゃないし。それに小春、さっきより反応がいいよ?」
「え、あっ……そんなこと、は……――――!」
言っている最中なのに、小春は頭が真っ白になった。
――あ、あれ?
柊は小春にむにゅむにゅとキスをしながら、腰を振りたくってくる。そのあまりの激しさに小春は何度も絶頂を繰り返した。だが、今度は休みなど与えられずひたすら体に快楽を刻まれる。ベッドは波のように揺れて小春のお尻を持ち上げた。
「んっ――! ンンン――――っ!」
頭がぼんやりするほど、体が快楽で沈んでいく。全身ヘトヘトなのに、柊が射精しても、二度目三度目を受け入れてしまった。むしろ小春からねだった時もある。
小春はだめかもしれない、と心の中で呟く。柊に遠慮なく体を貪られてしまうのを好きなのだと認めるしかなかった。
小春は刃物を持った薬物中毒者に追われて、廃墟で二人きりだったのだ。他にも死んだ記憶がある。入院中は定期的にカウンセリングも受けることになった。
また、柊は毎日病室に訪れた。美味しいフルーツを持って来ては、小春に食べさせてくれる。会社を休んで来てくれることも度々あり、仕事は大丈夫なのかと聞けば、柊は早苗と目を合わせて笑うだけ。
その笑みの理由を知ったのは、小春が退院する日だった。病室に柊の父である衛が訪れたのだ。彼は疲れ切った様子で、早苗を見るとタンポポのようにほわほわと笑う。どうやら今回、柊に見合いをさせるという話は半分くらいは嘘だったらしい。孫の顔を早苗が生きているうちに見せたいというのは本当だ。しかし、政略結婚をするつもりはなかった。柊がよく会っている女友達が一人だけいるので、きっかけがあればすぐにくっつくだろうと思ったのだとか。
そのお節介の結果、衛は最悪な結果を招いてしまったため、小春が退院するまで早苗に会うのを禁止されていた。追加で、柊の仕事を一部やっていたそうだ。
衛は謝ってくれたが、小春は謝るようなことではないと思った。衛が小春に対し、酷いことをしたわけではないのだ。
……しかし早苗の怒りは収まっていないため、空気は冷え冷えとしていた。
柊と共に病院を出た後、小春が向かうのは彼のマンションだ。小春が住んでいたアパートは解約する予定で、今後は同棲することに決めていた。小春は夜に一人でいると、たまに死んだ時のことや明音に追われた時のことがフラッシュバックする。入院中は隣に早苗がいてくれたので寂しくなかったが、まだ一人で眠るのは怖かった。もちろん、柊と一緒に暮らしたい気持ちもある。
「はぁ……やっと小春と暮らせる」
「柊くん、まだ靴も脱いでないのに」
柊は小春が玄関に入ると後ろから抱きしめた。彼女の肩に顎を置き、頭をすりすりと動かす。
小春は猫のような柔らかい髪が首に擦れてくすぐったかった。
「んっ、ちょっと……ひゃっ」
このままだと、すぐにでもベッドに行きそうな雰囲気だ。夕飯は食べて来たので、その辺りは心配ない。
けれど小春は今の状態でベッドには行きたくなくて、柊の腕をぺちぺちと叩いた。
「小春は嫌なの?」
「そうじゃなくて……」
「せっかく両思いになったのに、母さんと同じ病室だったから全然恋人らしいことできなかったんだよ」
「で、でも、キスはした……よ?」
柊は仕事が終わればギリギリまで病室にいるが、そうでなくても朝だけ顔を見に訪れることもある。豪華な病室には会議室もあるので、そこで仕事していることもたまにあったため、早苗がいない隙を狙ってキスする時間はそれなりにあった。小春からすれば、かなり……いちゃいちゃしていた記憶がある。
「キス以外ができてないんだよ」
「う……じゃあ、せめてシャワーを浴びてきてもいい?」
「一緒に入ろうか」
「だめ。ちゃんと洗わせて……その後なら、いいから」
そうしなければ、小春は恥ずかしかった。
柊との経験はあるものの、体の恥ずかしい部分を執拗に舐められたのだ。それに一度始まれば、すぐには終わらないだろう。
恋人ごっこと称してセックスまで許してしまったこともある。そうして柊はもう一回だけと言って何度も小春を求め、いつ日が昇るかも分からない時間に眠りについたのだ。しっかりと洗わなければならない。絶対に。……洗っても、行為が始まればすぐに柊のせいでドロドロになってしまうとしても。
「その後なら?」
「……うん」
小春は頷き、耳もうなじもカッと熱くなる。何をするのか想像すると体は震え、落ち着かなくて足をもぞもぞと動かす。
柊はそんな小春の変化を目聡く見つけ、目を細めた。
「分かった。待つよ」
「……ンッ」
柊は小春の耳を軽く噛むと、抱きつくのをやめる。
驚いた小春はむっとした顔で睨むが、柊は嬉しそうに見つめ返すだけだった。
小春はベッドの中に入り、もぞもぞと身動ぐ。柊がシャワーを浴びに行ってから、十五分ほど経っていた。何度も時計を確認しては、頭まで布団を被る。
最後に柊としたのは半年近く前だ。入院中にこっそりしたキスも抱擁は小春を満たしたが、焦れったくもあった。
「小春、もうベッドに入ってるんだ?」
柊は浴室から出て早々に微笑を浮かべる。ベッドに座り、顔だけ出している小春の頬をツンと突いた。
「寝るにはまだ早いって言いそうなのに」
「……今日はもう疲れたから」
実際、昨日は荷物をまとめるので忙しかったし、今日の夕飯は柊と衛と早苗の四人で食べた。のんびりとした雰囲気の食事だったが、小春にとっては柊の両親がいる場である。とくに衛を前にすると、小春は緊張したのだ。……本人は早苗のことしか見ていなかったが。
柊が意地悪なことを言うなら、このまま寝てしまおうか。小春はころりと体の向きを変え、柊に背を向ける。
「疲れているなら、無理はさせない方がいいよな」
部屋の照明が暗くなり、柊がベッドに入ってきた。そして手を伸ばして、小春のお腹に腕を回す。
「柊くん」
「ん……抱きしめると眠りづらい?」
「そんなことはないけど……」
「けど、どうしたの」
小春はどんどん体が熱くなっていった。ぴたりとくっついた体が心地いい。それに近くで好きな人の声がすると、小春は背骨が蕩けそうになる。こんな状態ではとても眠れそうになかった。
「ああ、分かった。前と違って下着、着けたままだよね。脱がないと辛いか」
「そうだけど……あっ」
柊の手によってパジャマのボタンが外れていく。全て外し終えると、パジャマをずらされ背中の半分が露わになった。ホックは呆気なく外れ、小春の胸がふわりと広がる。取ったブラジャーはサイドテーブルの上に置かれ、最後にパジャマのボタンを留めていくだけだった。
「んっ、ふ……っふ、う……んん」
「どうしたの、小春」
「擦れ……て……っは、んく」
ボタンを留めるのを柊はしてくれるが、小春は大袈裟なくらいに体を震わせる。こんな風になってしまうのは、ボタンを掴んで留めようとする柊の腕が胸を擦れるからだった。先ほどまで軽々とやっていたのに、何故か今はもたもたしている。
「そうだった。小春は胸が弱かったよね。大丈夫? かいてあげようか」
「ふ……っふ、ん、ぅああっ」
「ごめんね、小春。敏感なところを刺激して……乳首、硬くなっちゃったね」
「んんぅう、あ、あ、っあぇ、うう……っ」
すりすりと胸の先端を撫でられ、小春はたまらず声が出た。布団を掴み、手に力を込める。それでも楽になることはなかった。
「小春」
柊は小春の体に腰を寄せた。
同時に耳元で名前を呼ばれて、小春は体が熱くなる。
「本当に、このまま寝れそう?」
柊の手がとまってしまった。
はふ、と小春は熱い吐息をもらす。硬く膨らんだ胸の先はもっと弄って欲しいと主張するかのようにジンジンする。
「最初から寝かせる気ないでしょう……」
「まさか。小春が眠たくて仕方ないなら諦めるよ」
小春は一言くらい文句を言おうと、柊に顔を向ける。すると苦しそうに喉を鳴らす音が聞こえた。余裕そうな口ぶりだが、かなり我慢しているのだろう。そんなことをしなくても、小春は求められれば応じるのに。中途半端なことをしているのは、たぶん、小春の言葉を待っているからなのだろう。
――こういう面倒な所を可愛いって思うの、私だけなのかな。
同い年なのに柊は年上のような頼もしさがありつつも、年下のように甘えてくる一面があった。
「……柊くん、キスしてもいい?」
「えっ……いいけど」
反撃された柊の声がうわずる。その反応に小春は満足した。
小春は体の向きを変え、柊に体を寄せる。そのまま顔を近づけて、そっと唇を合わせた。
「んっ……」
柊の唇は柔らかかった。シャワーを浴びたばかりだからか、いつもよりしっとりしているように感じる。入院中は周囲の音に気を配りながらキスをしていたから、こんな風に人目を気にしなくていいのは恋人になってから初めてのことだった。
「好き、柊くん」
「――んッ」
「好き、好き」
言いながら、小春は小鳥のようにつんつんと唇を触れあわせた。
「こは……る……っ、待って」
小春がぎゅうぎゅうと柊に抱きつくと、柊の胸が大きく上下する。改めて好かれているのだと実感して嬉しくなる。
「待って、って言ってるのに……」
「ひゃっ」
調子に乗り過ぎたのか、小春は柊に腰を掴まれてしまった。
「俺、一生小春に勝てない気がしてきた……」
「……ほ、本当にそう思ってる?」
「もちろん」
そんなこと、思っているはずがないと小春は心の中で否定する。
柊に腰を掴まれた小春の股間は、パジャマ越しに灼熱のような砲身がぐりぐりと食い込んでいた。
「んっんんぅう……は、は……あぅ……」
柊はその気になると小春に勝ち目なんてない。長い指でカリカリと胸も下の割れ目もかかれて、小春は弱々しく喘ぐ。瞬く間にパジャマと下着は脱がされ、何も身につけていない状態になっていた。
「ちょっとかいただけなのに、小春の中からどんどん汁が溢れてくる。気持ちいいの?」
「ふっ……んく、んっんんっ」
小春の体がビクビクと震える。たまらない気持ちになり、柊に縋り付くように彼の胸に頭を擦りつけた。
「まだ中に指を挿れてないのにイッたの、小春?」
「あ、あ、うっ……そ、そう……なの……だ、だから指っ……うぅ……」
「挿れて?」
「ちぁ……んッ――――」
ぐちゃぐちゃになっていた割れ目がぐちゅんっと広がる。柊の指はゆるゆると動き、小春の蜜路を刺激した。
小春は恥ずかしいくらい吸いつてしまう自分の下半身に、顔が熱くなる。けれど自分ではとめられないのだ。
四ヶ月間、本当に辛かったのは柊ではなく小春なのかもしれない。柊は一人になる時間があったが、小春にはほとんどなかった。キスをして抱きしめて、その後どうしようもなく体が火照ってしまうことがある。そういう時、小春はうまく体を慰められなかった。
だからもう、火がつくととめられない。
小春は下の口で柊の指をねっとりと吸い、腰を控えめに動かす。そうするとさらに蜜が増える。潜みきれない蜜は外に追いやられ、とろとろと太ももを汚した。
「柊く……ンンっ」
「小春もう……挿れてもいい?」
「うん。挿れて、もう指だけじゃ……んっ……」
「はぁ……そうみたいだね……」
柊も息が上がっていた。もどかしそうにサイドチェストからコンドームを取り出し、袋を破く。
はくはくと収縮する蜜路が柊の熱い猛りによって広がっていく。
「んぁ――――ッ」
小春は頭の中がパチパチと弾けた。一瞬、何も考えられなくなる。久しぶりにその熱を受け入れるからだろうか。指の先まで蕩けてしまいそうなほどの快楽が駆け巡っていく。
こんなに? 前もこんなに気持ちよかっただろうか?
「んっ、柊くん……っ」
首を横に振る。今、奥を抉られたら意識が飛んでしまいそうだった。
「小春……小春……」
「んっ、ふぁ……」
残念ながら、小春の思いは柊に届かない。
柊は熱に浮かされたように、小春の蜜路をじっくりと開いていく。小春の体を隅々まで味わうように腰を動かし、快楽に震える唇をぱくりと食べてしまう。小さな口の中に舌を差し込み、頬の裏や歯茎を舐める。小春も頑張って舌を動かそうとするが、気持ちよすぎてうまく動けなかった。
「あ、あ……イク……イクの……っ」
小春の体は柊を離さないと言わんばかりに熱烈に吸いつく。
「いいよ、小春。いっぱいイッて、ああ……この奥、小春の好きな所、優しく擦るから」
「ううう……! んっ、んくっ、だめっそこは……――っ!」
奥をトントンとほじられ、小春は声にもならない声をあげる。心臓がドクンと大きく高鳴った。蜜路は柊に絡みつき、足はガクガクと揺れる。絶頂は数秒続いた。なかなか収まらなくて、小春はたまらず柊にキスをする。しばらくそうしていると、ようやく呼吸が安定していく。
「柊……くん……」
「まだできそう?」
「ぅん……、あっまだ、柊くんは気持ちよくなってないよね」
「俺はずっと気持ちいいけど」
「でも、出てないよね……」
あれほどたっぷり締めつけたのに、柊のそれは昂ったままだ。
「そんなことを言っていいの、小春?」
「え?」
「俺がわざと出さないよう我慢してるって思わないんだ?」
柊は挿入したまま、指先で割れ目の先にある濡れた肉芽を撫でていく。
「あっあ、あ、ああっ、そ……そこ……同時……はっ」
「でも、俺がこうしないとイケないなら協力してくれるんだよね」
「んっんむっ、んふ、ん、それは――……」
そうだけれども、と最後まで言えない。小春の体は再び、快楽で震えて太い杭にしがみつく。しつこいくらいに同じ場所を抉られ、蜜路は収縮するのに忙しそうだった。
「はぁ……小春、可愛い。好きだよ」
「んっ、あ……わ、わたし、も……っ」
互いに唇を合わせ、くちゅくちゅと音を立てながら舌を絡める。
「そういえば、小春は激しい方が好きなんだよね」
「……っん、え? わ、私そんなこと言った?」
「言ったよ。最初の時、激しくしてって」
「――あ」
そんなこともあったと小春は思い出す。
しかし、それは小春の好みではなかった。
いつか政略結婚した相手とするであろう行為を知りたくなかっただけだ。
「ごめん、小春。忘れてた。今から小春が好きな激しいのをするから」
「え、あ、まっちが――ンンンンンっ!」
ぱちゅん、と肌がぶつかる。
「へ……あ?」
逃げようと腰を引けば、柊は細い腰を掴んだ。
「ち、ちが」
「大丈夫。遠慮しないで、小春。別に激しいのが好きってそんなに恥ずかしいことじゃないし。それに小春、さっきより反応がいいよ?」
「え、あっ……そんなこと、は……――――!」
言っている最中なのに、小春は頭が真っ白になった。
――あ、あれ?
柊は小春にむにゅむにゅとキスをしながら、腰を振りたくってくる。そのあまりの激しさに小春は何度も絶頂を繰り返した。だが、今度は休みなど与えられずひたすら体に快楽を刻まれる。ベッドは波のように揺れて小春のお尻を持ち上げた。
「んっ――! ンンン――――っ!」
頭がぼんやりするほど、体が快楽で沈んでいく。全身ヘトヘトなのに、柊が射精しても、二度目三度目を受け入れてしまった。むしろ小春からねだった時もある。
小春はだめかもしれない、と心の中で呟く。柊に遠慮なく体を貪られてしまうのを好きなのだと認めるしかなかった。
20
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる