あなたと友達でいられる最後の日がループする

佐倉響

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第一章 あなたと友達でいられる最後の日

小春、どこ

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「もぞもぞ動いてたのは、気持ちよかったからだったのかな」

 違う、これはじっとしていると落ち着かないから。言葉を出そうと口を開けば、はふ……と気持ちよさそうな声が出た。

「ん……ここが弱いんだね」
「あ――っ、んっ、んぅ……」

 嬉しそうに柊は下半身にある肉芽をころころと転がす。そうされると、秘裂の奥がじんじんと熱を孕んだ。

 どうしてこんなに的確に小春の弱い部分を見つけてしまうのだろう。童貞とはとても思えないほど、柊の愛撫には余裕があり、小春への優しさがあった。

 小春はあまりの気持ちよさでもう心の内側がむきだしになったような気がした。快楽に酔ったのかもしれない。頭はふわふわするし、体はぽかぽかする。

 ピクピクと尖った肉の芽を優しくよしよし撫でられて、腰がビクリと跳ねた。それでも太い指はとまらず、赤く敏感になった箇所をふわふわとした手つきで刺激する。

「胸とここ、どっちが好き?」
「柊くん……あっ……ぅ……好き……」

 その時、柊の手がとまったが腰を揺らす小春は気づかなかった。ただ何か順序を間違えた気がして、舌っ足らずな状態で言い直す。

「柊くん……に、触られる……とこ……全部好き」

 ちゃんと言えて、小春はほうっと息を吐く。けれどすぐに肉豆を押し潰され、高い声が出た。

「あ――、あ……っ、うぅ……」

 潰したまますりすりと撫でられ、細い腰がガクガクと揺れる。追い詰められているのは小春の方なのに、柊は余裕のない掠れた声で「小春」と呼ぶ。あうあうと喘ぐことしかできないほど攻めているのに、呼びかけに答えて欲しそうだった。

「しゅ……――ううっ、あぅ……く……ぅン」

 意識がどこかに引き寄せられてしまう。触られている場所が酷く熱を帯びていた。自分がどこか遠い場所に旅立ってしまうような感覚が恐ろしくて、小春はシーツがくしゃくしゃになるほど引っ張った。

「ひぅ……――ン、ンァっ」
「すごいね、小春。ちゃんと濡れてる」
「あ……あ……やぅ……」
「大丈夫、まだ挿れてないから」

 小春の割れ目はじわりとほころんでいた。そこを柊が小指でそっと触れている。指の腹でそうっと擦れば、奥から愛液が滲みクチクチと音を鳴った。羞恥のあまり涙が出そうになる。なのに体の内側は柊を受け入れようと柔らかくなっていった。

「ふ……ふぁ……」
「可愛すぎ」

 柊の言葉に小春は顔が緩みそうになる。たとえこれがサービスのようなものだとしても、胸に抱いた喜びはすこしも色褪せそうになかった。

「こっちも一緒に気持ちよくなろうか」
「んっ……んんっ……!」

 秘所を弄りながら、柊は唇をそっと胸の膨らみに当てる。ちゅっ、ちゅっと赤い先端を吸い上げた。それは一度や二度ではなく、何度も。小春の様子を窺いながらキスをする。

「だめ、だ……だめ……っ」
「でも下は気持ちよさそうだけど」
「ひぁ……」

 気持ちよすぎて目が潤む。涙は出そうで出なかった。逃げ出したいのに、柊に胸を吸われると動けない。割れ目の奥がじんわりと膨らんでとろんと柊の指先を汚す。撫でられ続けた小さな穴が柊を欲しがるようにビクビクと収縮していた。

「柊く……ん……」

 秘裂に柊の指が掠めるたび、下腹の奥が疼く。まだ経験もないのだから、きっと痛いに決まっている。けれどその唯一の痛みを好きな人が与えてくれるのなら、それは幸福なことなのかもしれない。

 硬くなった胸の先端が舌で舐められ、小春は悶える。それでも体の内側は切なかった。挿ってきて、はやく。そう思うのに、体は未熟だ。そう簡単に柊の指を通してくれない。もどかしくてたまらなかった。

「こら。あんまり腰動かすと危ないだろ」
「う……はぁ……ぅ」
「体、痛くない?」
「……うん」

 なら、もうちょっとずつ指を挿れるよ、と柊が小春の内側を開いていく。針を刺すような痛みが走った。わずかに眉を寄せると、ゴツゴツとした指がとまる。まだ指の先っぽしか挿っていない。

 けれど下の吸い口はぎゅうぎゅうと押し潰さんばかりに柊を吸って快楽を得ている。このまま続けても大丈夫だろうか。自分の口よりも、この口は余計なことを柊に伝えてしまいそうだった。大丈夫? 気づかれない? 本当に? 一瞬にして不安は広がった。

 想っていることを隠したいのなら、これはしたらいけないことだ。今になって気づいたのに、もう何もかもが遅かった。

「あ、あ……っ」

 体がとまってくれない。柊が手をとめてくれているのに、小春は自分で腰を指に近づける。ぬっと細い管が指の太さまで広がった。

 この関節はどの関節だろう。

 まだ挿りきらなかった第二関節が入り口でで引っかかっていた。もう一度腰を動かすとゴツゴツとした骨の感触がぶつかる。うまく挿らなかった。

「ごめん、小春。そんな風にされたら……我慢できない」
「ンッ……!」

 とまっていた指がぐっと小春の細い管を広げた。自分で動いても挿りきらなった指が根元まで挿っていた。ドクンドクンと肉壁が脈打っている。休む暇もなく、指がトントンと動いて内壁を擦ってくる。小さな痛みは大きな快楽に呑み込まれて、小春は体を震わせた。

 けれどそれだけでは終わらない。クチュクチュと耳を塞ぎたくなるような淫らな音がする。柊は蜜路をかき混ぜ、小春の愛液をたっぷりと外に出した。

「は……は……ぅう……ん……っ」

 指を引き抜かれると、わずかに開いたままの秘裂からたらりと愛液がこぼれ落ちる。擦られて熱くなっていた箇所は、柊がいなくなると寂しいくらいに冷たくなっていく。その心細さに、小春の洞穴が収縮した。

「もういいよな」
「柊く……んんむっ」

 柊は勢いよく服を脱ぎ捨てると、ベッドの横にあるサイドチェストからコンドームを取り出した。

「そ、それ……挿るの……?」
「挿るよ」

 コンドームの包みを歯で噛んで乱暴に千切ると、ガチガチに固まった屹立に装着する。その太さは指とは比べものにならなかった。まるで柊とは別の生き物みたいだ。

「へ、へ……あ」

 思わず身動いでしまう小春の両手を柊が握る。恋人のように指を絡めて握ると、ベッドに押しつけた。そのまま股間を足の間に当てて、ゆるゆると秘裂を押し広げる。

「ン……ぅんっ、ん――っ!」

 柊が腰を倒すと、先端がぬるんと滑るように挿ってしまった。指の時よりも痛みはあったのに、唇からこぼれ落ちたのは嬌声だった。頭に伝わってくるのは衝撃で、何も分からないまま声だけが溢れる。その唇を柊に吸われ、繋いだ手に力がこめられた。

 そうしていると何でも大丈夫な気がしてしまうのだから不思議だ。小春の体から余分な力が抜けていく。すると柊も肩の力を抜き、小春に体重をかけた。

「小春……こはる……」
「んぅ……」

 蜂蜜みたいなねっとりとした重みで、体の芯が蕩けそうになる。想像した通り、柊の体に触れると小春は弱かった。このままこの体に潰されてしまいたい。いつか体が離れてしまうことを想像するとゾッとする。そして他の女性のものになるのだ。幸せな時間が終わろうとしている。挿入してしまったら、もう下り坂を歩くだけだ。

 ――離れたくない。

 この一年はとくに柊と会っていなかった。それでも好きだという想いは薄れてくれなかったのに、これからどうするのだろう。小春はいつまでも好きでいる自分をありありと想像できた。柊が結婚すれば、人伝に聞くことになるのだろうか。SNSをやっていないから、そこから近況を知ることもできない。それはある意味では幸いなことだった。

 柊は呼吸を荒くしながら、小春の唇に噛みつくようにキスをする。蜜路に埋めた先端がじっと動きを見せず、耐えるように鼓動していた。

「動いても大丈夫か」
「……ん」
「痛いとか、遠慮なく言ってくれよ」
「……んん」
「小春、こっち見て」

 いつの間にか下がっていた視線を持ち上げる。柊の顔を見ると、胸がズキリと痛んだ。

 見合いで出会った相手ともこんな風にするのだろうか。それとも、もっと優しく抱くのだろうか。アルコールの酔いが醒めてしまったのか、考えたくもないことばかり頭に浮かぶ。それは優しく抱いてくれる柊に対して失礼だった。

「柊……く、ん」
「どうした」
「……激しいの、が……いい……」
「……無茶を言うなよ」

 柊の言っていることは当然だった。まだ屹立をすべて受け入れていない。

 けれど、小春の中はその先端を美味しそうにしゃぶっていた。

「俺、できれば優しくしたいんだけど」
「だめ?」
「……分かった」

 柊は物言いたげな目を向けたが、最終的には小春にキスをする。
 そして、ずるずると太い幹のような屹立が動き始めた。

「……――――っ」

 ずしん、と下腹に鈍い痛みが走る。反射的に肩が上がり、ぷるぷると両足が震えた。蜜路はいっぱいいっぱいに押し広げられて、ビクビクと収縮し柊に張りついている。柊はそんなことなど気にせず、またずしん、ずしんと奥を抉った。柊の存在が体に刻み込まれていく。はっ、と息が何かに堰きとめられた。

「これがいいの?」
「あぅ……う、うっ……」

 恐ろしいくらい大きな波が小春をさらう。下腹部に力がこもり、蜜路が屹立をこれ以上ないくらい強く締めつける。

「ん……小春、あ……イッてる?」

 たぶん、柊の言葉通り小春はイッていた。だが、首を横に振る。そうしなければ行為が終わってしまうような気がした。本当はすこし休みたいくらい感じているのに、正直になれない。

「そんな風に反応されたら、俺、甘えるよ」
「んっ、ああああ――!」

 イッている最中なのに、再び奥を抉られる。脳裏が真っ白に染まり、唇がわななく。

 腹の中が熱かった。ぱちゅんぱちゅんと肌がぶつかり、体の内側にカッと火が出るような熱が生まれる。

「俺も小春の奥、一番好きだよ。でもこうしてたくさん抉ったら、辛くない?」
「ひゃっ……ひぅ……う」

 必死で首を横に振ると、柊は困ったように笑う。そうかな、と言いつつも行動は意地悪で、自身の屹立ですりすりと奥を擦った。何て容赦のない男だろうか。そのままじんじんする小春の奥をこれでもかというほど抉り続け、休む暇もなく訪れる絶頂に鳴き続けた。


 体はまるで泥のようだった。なのに心地のいい温もりが小春を包んでくれていた。

 目を覚ました小春は、しばらくの間ぼんやりした。

 部屋は暗く、耳を澄ますと規則正しい寝息が聞こえる。とても気持ちよさそうに眠っていた。

 今は何時だろうか。いや、何時でもいい。早くここから出なければいけない。

 あれほど柊のそばから離れたくないと心の中で叫んでいたのに、この時の小春は自分でも驚くほど冷静だった。柊の腕から抜け出し、脱がされた衣服をかき集めて身に着ける。部屋の照明は消しているが、真っ暗で何も見えないわけではない。加湿器にある運転ランプの小さな光だけで充分だった。

 最後に鞄を掴んで柊の家を出る。しばらく何も考えずにただただ走った。緑のヒールシューズが悲鳴みたいに甲高く鳴っている。

「はっ……はっ……」

 柊の家から離れてようやく、小春の目から涙がこぼれた。すぐに口を覆い、声を抑える。それでも我慢したものが全部出てきてしまう。

 どうして最初から逃げなかったのだろうか。そうすれば、こんなに苦しい別れ方にはならなかったのに。柊はどう思うだろうか。

 朝起きたら嫌な気分になっているはずだ。下心を隠して近づいてくる女性が嫌いだと言っていたから。最初はそうでなくとも、柊に恋をしているのに友達で居続けた。きっとバレただろう。

 カンカンカンと音がして顔を上げると、そこには遮断機があった。あまりにも気が滅入っていたせいで、知らずに歩きかけていた。

 小春は目を擦り、鞄の中からスマホを取り出す。今は何時だろうか。見れば二十三時前。まだ電車で帰られそうだ。

 気が緩んだ途端、スマホの画面が切り替わる。

 電話の呼び出し音が流れていた。

 一瞬迷って、小春は拒否のボタンを押す。何も聞きたくなかった。

 すると今度は上部に通知が現れた。

『小春、どこ』

 柊からトークアプリにメッセージが届いている。

 早く、電車に乗ろう。

 柊は今、小春を追いかけているような気がした。

 今の自分を見られたら、すべてが白日の下にさらされる。電車の走る音が近づいている。もうすこしだ。これが通り過ぎれば走って駅に行こう。

『ちゃんと話そう』

 次々に言葉が送信されてくる。怖くなって、小春は震える手で『ごめんね』と入力する。それ以外、何を伝えればいいのだろう。

 後は送信ボタンを押すだけだった。

「え」

 バン、と背中に強い衝撃が走る。持っていたスマホは宙に浮いていた。それでも小春の目はスマホ以外を映していなかった。無重力のように自分が軽くなった状態で文字を読もうとする。

 けれど横からくる光が眩しくて、よく読めない。

『俺は小春のこと――』

 何が書かれているのだろう。ひたすら目を凝らす。そうしてようやく読めたはずだった。

 それなのに大きな音がすべてかき消してしまう。

 今、何が起こっているのか小春には分からなかった。
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