あなたと友達でいられる最後の日がループする

佐倉響

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第一章 あなたと友達でいられる最後の日

心を隠して

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 柊が酔いから醒める様子はなく、耳まで赤くなっていた。普段、隙のない表情はどこかぼんやりしている。小春の両頬を包み込むように触れた。

「……どこまでならいい」
「柊くんが大丈夫なところまでなら」

 何だそれ、と柊が笑う。笑っているのにすこしも嬉しそうではなかった。小春はできる限り何でもない風を装っていたが、この返答は間違いだったのかもしれない。

「あの……でも私もしたことない」
「全然、いい」

 強調するように言うと、柊が顔を近づける。なくていいよ、と目尻を下げる柊に小春は緊張が解れるどころかさらに高まってしまう。大きな手のひらが安心させようと動くのに、視線の置き場が見つからない。

 柊は唇が触れてしまいそうなほど顔を近づけ、小春の様子を観察していた。その頭は今、何を考えているのだろう。

 心の中を覗かれてしまいそうで落ち着かなかった。どうか最後まで暴かれないで、と小春は祈るように目を瞑る。

 勢いよく目を閉じたからか、柊は喉を鳴らして笑うと唇を合わせた。

 ツン、と触れ合った唇に小春の意識が向く。唇以外何も意識できずじっとする。柊の唇がすこしでも動けば、肩に力が入った。この後は何をすればいい。

「んっ……!」

 ガチガチに固まっていると、小春の唇がぺろりと舐められた。思わず声を上げると、開いた唇に柊の舌が入ってくる。むにゅりとそれは小春の小さい口の中に侵入し、窮屈そうに動いた。もっと口を開ければいいのか。

 小春が顎の力を抜くと、キスが深くなる。満足に動けるようになった舌は先っぽで口内の底で大人しくしている舌にちょっかいをかけた。ツンツンと突くこともあれば、引っかいてくることもある。

 舌だから痛みはない。小春は舌を奥に引っこめるが、柊の舌は長かった。器用に小春の舌に絡みついて前へ出そうとしてくる。

「んっうう……う……うっ」

 呼吸もままならず、柊の胸を両手で押す。

 しかし、初めてのキスに翻弄される小春は普段の力も発揮できなかった。

 どうしようもなくなって小春は柊のシャツを握る。目尻には涙が浮かびかけていた。それでもしばらくすると慣れていく。混乱も収まり、息の吸い方も覚えていった。

 逃げるのをやめると、柊の手が小春の頬や耳を優しく撫でてくれる。不思議なことに、キスをする直前にあった全身の強張りが解けていた。

「小春の口の中、ふわふわしてる」

 ようやく唇が離れた時の第一声がそれだった。唇も舌も頬の裏側も、全部そうだと言われて小春は俯く。

「……そ、そんなの知らなくていい」
「頬も柔らかいよな。つねったらすごい伸びるし」
「う……」
「小春も舌出してみる?」

 そうすれば柊のやったことをやり返すことができるだろうか。考えてみるが、きっと舌の長さも幅も厚みも柊に勝てるところがない。できることなら柊の口の中がどうなっているのか、小春は自身の舌で確かめたかった。口内の広さも、歯の形も、舌の形も、今しか知るチャンスはない。それでもギリギリのところで抑えてしまう。恋心を隠している小春にはできないことだ。首を横に振る。

「そんなに緊張しなくていい。気軽に考えれば――俺は一切、抵抗しないし」

 至近距離で視線を交わす。熱っぽい瞳だった。その目に見つめられて、小春の中で何かが剥がれ落ちる。

 俺の唇はここだよ、と柊はふわりと唇を寄せた。そのまま何もせず待っている。

 たどたどしく舌を前に出すと、柊の唇は迎え入れるようにわずかに開く。そのまま舌を柊の中に入れたら、どうしていいのか分からなくなった。何もしないわけにはいかず、前歯をちろちろと撫でてみるが何か違う気がして泣きたくなる。どうやったら柊のように動けるのだろう。舌の長さがちっとも足りなかった。

「は……はぅ……っ」

 やめてしまいたいのに、舌を引っこめることもできず小春はつたない動きですりすりと擦る。柊が鼻で笑うと、もう消えてしまいたくなってとうとう舌を戻して唇を強く閉ざした。

「ごめん、ごめんって」

 柊は肩を震わせて謝罪した。まったく誠意がない様子に、小春はもう意地でも顔を見せたくなくて、近くにあった枕で顔を隠す。できないことなんてするものではなかったと、涙が浮かんだ。

「笑ったんじゃない。くすぐったくて」

 許して、と男性なのに可愛らしい声音で囁く。

「なあ、小春」
「……っ」

 すこしして、柊の表情から笑みが消える。

「悪い。苦手なことさせたよな。無理してやってくれたのに」

 柊は小春が顔を埋めている枕を優しく取った。するとやっぱり、と心配そうに小春を見て目尻に浮かんでいる涙を拭う。

 泣いていたことに、どうして気づいたのだろうか。そんな風に察することはできなるのに、どうして肝心な部分は気づかずにいてくれるのだろう。

「あんまり可愛かったから、いじめてごめん」

 つい、小春は憎たらしいものを見るような目で睨んでしまった。

 今まで柊から「可愛い」なんて言われたことはない。「よく食べる」なら何度も言われたが、容姿のことには一切触れられたことはなかった。

 それでも流れていた涙がぴたりととまってしまうのだから、小春は悔しくなる。

「小春、唇以外も触っていい?」

 こんなに恥ずかしい思いをしているのに、すんなりと頷いてしまう。考える間もなかった。

「俺のこと、好きなだけ触っていいから」
「んっ……ふぁ……」

 服の上から胸の膨らみを撫でられる。小春は悩ましげに吐息をもらし、身をよじった。くすぐったさとは別の、違う感覚が迫ってくる。

 柊に触れていいと言われても、触る余裕はない。口を手で覆い、もう片方の手はシーツを掴んだ。どうせ柊のように色気のある触り方なんてできないし、彼の硬い筋肉を触れたら触った手のひらがふにゃふにゃに蕩けてしまいそうだった。

「それだとキスできないよ、小春」

 唇の代わりにと、柊は耳にキスをする。人の心をこれでもかとかき回すような魅惑的な囁きだった。

 言われるがまま覆っていた手を外し、柊の唇を受け入れる。

「んっンンっ……」

 当てた唇がふにふにと動く。舌は差しこまず、ただ触れ合わせるだけのキスだった。

 小春のレベルに合わせてくれている。そう思うと胸がツキリと痛み、申し訳ない気持ちになった。だが、柊が今触れているのは唇だけではない。胸を撫でていた手がゆるゆると下へ移動を始める。脇腹を通って腰を掴むと、揉むように動き、小春は体のどこかがむずむずした。

 つい息を止めてしまうと、柊の唇が離れていく。

「体撫でるとなんかもぞもぞしてるよな」
「……慣れなくて」
「嫌?」
「緊張する」
「俺と一緒だ」

 どこが。

 小春が信じられないものを見るような目を向けると、どうして分かってくれないのだと柊は苦笑する。

「小春も俺みたいにヤケ酒すればよかったな」
「そんなことをしたら、柊くんを無事に連れて帰れない」
「小春がたくさん飲んでふにゃふにゃになってたら、俺が酒を飲むのをやめてるよ」

 だったらこんなことにはなっていないのではないだろうか。酔って思考もままならない女性を襲うような男ではないだろう。顔を赤くして気持ちよさそうに笑っている柊が羨ましかった。

「ああでも、酒のせいじゃなくて俺のせいで赤くなってる小春が見られるから、こっちの方がいいのか」
「……私だって、お酒飲んでるよ」

 だから頬が赤くなっているのはそのせいだ。柊のせいで赤くなっているわけではない。色気のあることを言えばいいのに、どうしてもその姿勢だけは崩せなかった。

「本当? なら小春が絶対に赤くなりそうなことしようか」

 平然とした態度を取ったはずなのに、柊の何かを刺激してしまったのか。彼は小春のスカートに手をかけるとあっという間に小春の衣服を脱がしてしまった。下着すら身に纏っていない状態にされて心細くなる。なのに柊はじっと小春の肌を眺める。あまりにも恥ずかしくて腕を動かして胸を隠そうとすれば、柊は「隠すの?」と目を細めた。

「……私だけ脱いでる」
「なら小春も俺の服を脱がせばいい」
「自分で脱がないの?」
「俺はまだ脱がなくてもいいかな。今脱いだらどこもかしこも肌で小春に触れたら我慢できなくなる」
「それなら私、も……っん」

 ベッドの端に置かれた服を見つけ小春は手を伸ばしかけたが、露わになった両胸が柊の手で包みこまれる。そしてすりすりと揉まれて、小春は腰をくねらせた。

「んっんんっ」
「ここ、好き?」
「……んっ、ふ……ふぅ……ンンっ」

 どう答えていいのか分からなかった。その間にも柊は胸を責めてくる。休むことはできなかった。指の腹で胸の先端をすりすりと擦られ、たまらずに吐いた息が震える。ゴツゴツとした指先が柔らかい胸に食い込めば、閉じていた唇が開いてしまった。

「あっ……」
「乳首すべすべだね」
「ンッ――……!」

 やめて、と手で胸を隠すこともせず、小春はシーツを掴んだ。

「どんどん膨らんでくる」
「うう……っ、何でそんなこと言うの」
「可愛いから」

 軽い調子なのに参ってしまう。相手は酔っ払いだ。本気にしてはいけない。そう思っても小春の体は足の先まで熱く燃えていた。

「はぁ……ん……っむ」

 頭の中がチカチカする。胸を弄られたまま柊にキスされ、今度はもう声を抑えることができなくなっていた。小春が途切れ途切れに悩ましい声を出すと、柊が興奮していくのが唇から伝わってくる。柊は厚い舌を入れ、小春の中を隅々まで暴いていく。

 最初はどうしていいか分からなかったのに、今度は小春も舌を動かせた。応えるように舌先でそっと柊の舌を撫でると、彼の肩がビクリと揺れる。

 だが反撃されることはなく、意外にも彼の舌は小春を褒めるように優しく撫でてくれた。気持ちいい。恥ずかしいのに、嬉しくてもっと柊に触られたくなる。

 唇を触れ合わせたまま、大きな手のひらが胸を離れていく。足の付け根をいやらしく撫でられ、きゅっと足を閉じる。それでも股の間に指を滑りこませて、恥ずかしい箇所に指先が触れた。

「んぁ……んっ」

 頑なに足を閉じていたのに、たった一度の触れあいに足から力が抜ける。そうなるともう指は完全に足の間に挟まって、何の抵抗もできなくなった。

 秘裂がすりすりと撫でられ、小春の背筋にゾクリと甘い痺れが走る。だめ、と言いたいのにキスをしたままでは言えず、それをいいことに柊は股の丘をすりすりとさすり始めた。

「んっんんっ……んっはぁ、あ……ふぁっ」

 柊の動きに合わせ、小春の腰がふるふると揺れる。割れ目の先にある肉の豆も同様に擦られて辛い。もう唇が離れても、やめてなんて言えなくなっていた。
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