あなたと友達でいられる最後の日がループする

佐倉響

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プロローグ

現実

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 昼間であっても、廃ビルの中は幽霊が出てきそうなほどじめっとした雰囲気が漂っていた。すこし前までは賑やかな喧騒と華やかな建物に囲まれていたのが嘘みたいだ。壁はところどころ剥がれているし、床には一部割れたガラスの破片が散乱している。

 窓から差し込む光が空中に舞っている塵をぼんやりと照らしていた。思い切り息を吸ったら体に悪そうで小春こはるは笑いそうになる。

 ここ以外にも周囲は廃墟となったビルが建ち並んでいた。外では鳥のさえずりが聞こえている。空も淡い水色でのどかだ。あんまりにも穏やかだから、大学生の頃こっそり聴きに行った演奏会のことを思い出す。

 大きな舞台の上にしゅうは一人で立ち、バイオリンを弾いていた。顔がほとんど見えないくらい遠くから見ていたけれど、演奏は覚えている。耳に残る優しい音色でうららかな気分になっているはずなのに、小春の心はざわついていた。

 彼は本来、とても遠い人だ。今は気安く話せるけれど、いつかは縁が切れてしまう。その事実をまざまざと実感できたからだろう。

 不意に、頭の中で再生していたバイオリンの音色が途切れる。

 コツリコツリと足音が聞こえていた。現実が迫っている。物音を立てないよう息を潜めているのに、足音は真っ直ぐに小春へ向かっていた。

 俯くと床には道しるべのように血痕が残っている。小春の腕にある切られた箇所からは血が流れていた。血がとまる様子はなく、体がドクドクと脈打つのを感じて怖くなる。切られたら血が出るのは当然だ。小春はそんな簡単なことすら頭に浮かばないくらい混乱していた。

 だけどもう一歩も動けない。足には激痛が走り、立ち上がるのも困難だった。手元には鞄もないから、スマホで連絡を取ることもできない。

(それにもう、ループもできない)

 今になって小春は四月十七日を繰り返していた理由が分かる。

 柊は小春と友達の期間を長引かせたかったと言っていたが、それは嘘だった。

 ふと、別れ際に見た柊の笑った顔を思い出す。

 あの顔がずっと続いていればいい。

 もう縁を切った友達のことなんて忘れていい。

 今度こそ小春のことなど忘れて、幸せになればいい。

 もう誰も小春を助けられる人はいない。

「……――っ」

 唇を小さく動かすと、目尻に涙が浮かんだ。

 声が出ない。

 怖い。助けて。死にたくない。

 心臓がバクバクと音を立てている。その振動が喉にまで伝わって、小春は吐きそうになった。
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