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二話 正夢ってあるのかな?

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「愛華!早く起きないと遅刻するわよ!」

「…うわぁ!もうそんな時間!?」

ジリリ、とけたたましく鳴る目覚まし時計を止めるとベッドから勢いよく起き上がる。
時刻は午前七時を回っていた。このままでは遅刻ルートが確定してしまう。急いで支度を済ませなくてはならない。


「……っつう!」


足に電流のような痛みが走った。パジャマを捲るとそこは少しだが火傷を負った痕が残っていた。それを見て驚愕した。この傷痕の場所は夢の中で怪物の炎を受けた場所だったのだ。

「…嘘でしょ」

思わず声を上げるも、今は支度をしなければ学校へ遅れてしまう。少し痛むが強引に部屋を出て朝食を食べにリビングへ続く階段を降りた。


「ねぇお母さん。正夢ってあると思う?」

「馬鹿なこと言ってないで早く食べて学校行きなさい!」

「は、はーい!」


朝は母の機嫌がとにかく悪い。呑気に質問などしたら明らかに不機嫌の色が増した。これ以上水を差したらきっと散々怒鳴り散らされるだろう。急いで用意されたパンと目玉焼きとサラダを食べ、鞄を持ち、玄関を飛び出す。これが鈴鳴家の日常の一コマだ。





「愛華ちゃん、おはよう…!」

「癒亜おはよ!」


おさげに眼鏡、スカート丈まで校則規定ピッタリの長さ。絵に書いたような真面目なタイプの双葉癒亜フタバユア。小学校に転校してきて、席が隣になったことから仲良くなり家も近いこともあって毎朝通学を共にしている。更に幸運なことに同じクラスだ。


「ねぇ正夢ってあると思う?」

「どうしたの?…急に」

「いやぁ、昨日変な夢見ちゃってさ。夢の中で怪物と戦ったんだけどその時に攻撃された場所が現実でも傷として残ってて」


ハイソックスを下げて癒亜へ見せる。が、そこには傷など一つ存在していなかったのだ。確かにさっきまであった傷が無くなっていた。


「え!?なんで!傷が無い!」

「えっと…愛華ちゃん大丈夫…?疲れてるんじゃないかな…」


ペタペタと自身の足を触る愛華。しかし、痛みも感じなければ傷口も無い。まるで最初から何も無かったかのように。


「私の見間違いだったのかな…?」

「きっとそうだよ…だから心配しなくてもいいんじゃないかな…今日はゆっくり寝るといいよ」

「うん、授業中寝るしかないか」

「いや…それは駄目だよ…」


二人の間に笑いが溢れる。気になることではあったが気にし過ぎても考え込んでしまいそうなのでたまたま悪い夢を見たことにしてこの話は終わろうと思った。癒亜も深入りはせず、話を流してくれて話題は今日の課題のことやクラスのことへと変わった。癒亜はあまりはしゃいだりしないタイプだが話の機転がよく利き、相手の話を盛り上げようとしてくれるとても良い子だ。



⁕ ⁕ ⁕ ⁕

長かった学校もやっと一日の終わりを告げた。入学してまだ間もないがクラスには馴染み友達もそれなりに出来た。このまま何事もなく三年間を終えたい。愛華はこう見えて人付き合いが得意なタイプではなかった。もちろんコミュニケーションが取れない訳ではないし、遊びにだって行くが、どこか疲れてしまう。


「疲れたし早く寝ようかな…ふわぁ…」


あくびを一つすると瞼が落ちてくる。お風呂あがりのポカポカした身体が心地よく眠りへと誘う。その誘いに乗るかのようにゆっくり瞼を閉じた。



ガーネット・フェアリー

聞こえるか?

ガーネット・フェアリー



(ガーネット…フェアリー…)


聞いたことのある呼び方。どこで聞いたんだっけ。確かこの呼び方は…。



「目を覚ますんだ、ガーネット・フェアリー」


「……ん。だ…れ…?」



目を開けると、白い空間だった。真っ白で左も右も前も後ろも何もない空間。ここは…昨日の夢の中!?


「あ、あなたは…!」

「ガーネット・フェアリー、今日も怪物を倒してもらいたいんだ。さあ、変身を!」


ポシェットから昨日と同じハート型の石を取り出した。が、愛華はそれをぬいぐるみへと押し返した。

「冗談じゃない!昨日と言い何なの!?私の夢を邪魔しないでよ!」

ぬいぐるみは目を大きく見開き、実際にはそう見えただけかも知れないが。耳を下げ申し訳なさそうに愛華をみつめた。


「話は…後だ。すまないがアイツを倒してほしいんだ…お願いだ…!」


肩を掴まれ必死の形相で訴えかけてくるぬいぐるみに思わず息を呑んだ。横目を向けると、昨日とは形が異なるがまた怪物が空間を切り裂くように出てきた。愛華は唇をキュッと結んだ。不本意だがぬいぐるみからハートの石を奪う。そして唱える。


「覚醒!ガーネット・ジュエル!」


ピンク色の光が包み込み、メイド服へと変わってゆく。フリルの付いたスカートがふわん揺れた。目を開くと昨日と同じ姿をした愛華が居た。


グワァァァアッ!


「うわっ…何よコレ!」


怪物が吐き出したのは炎ではなかった。ベチョベチョした泥のようなもの。白かったエプロンが茶色に染まった。エプロンだけではない、スカートもパニエも髪も、茶色に染まる。


グワァァァアッ!


「……うわぁっ!」


身軽なステップでかわそうとしたが被った泥に滑りそのまま前のめりに転倒した。何とか攻撃はかわすことが出来たが足を擦りむいた。

白い空間が次々と茶色く染まってゆく。怪物の攻撃は広範囲だった。踏むたびに足場が滑る。このままでは危ないと身の危険を感じた愛華。大きささえ変わらないものの、昨日の怪物よりパワーが増している気がした。


「ガーネット・フェアリー!これを使うんだ!」


ぬいぐるみがポシェットから細い棒のような物を取り出し、愛華へと投げた。それを受け取ると棒は変形し、大きなステッキへと形を変えた。愛華の背丈より大きいステッキだが不思議なことに重さは感じなかった。


「そのステッキはガーネット・フェアリーに応えてくれる!」

「応えてくれるってどういう意味よ!」


グワァァァアッ!グワァオッ!


やばい…!


ぬいぐるみの話に気を取られ、攻撃がこちらへ迫ってくることに気づかなかった。動こうにももう間に合わない。思わず後退りしたが泥に滑り尻もちをついた。


「…っ!助けてっ!」


ステッキをギュッと握り締め叫んだ。すると、ステッキが形を変え、盾の姿へと変形した。そして愛華の前に立ち塞がった。
怪物の攻撃は愛華へは一切当たらずステッキへと衝突した。だが、ステッキはダメージ一つなくまた盾からステッキへと戻り愛華の手に収まった。


「…応えてくれたの…?」


愛華は自身を守ってくれたステッキを優しく撫でた。ステッキは微動だにしないが、力が湧いてきたような気がした。

愛華は立ち上がると怪物へとステッキを向けた。怪物はそれに気づき目をつり上げ、赤く瞳を輝かせた。攻撃がくる…!


「あんたの好きにはもうさせないから!」


ステッキを握り締めるとステッキからピンク色の光が溢れた。そして、愛華は高く飛んだ。怪物目がけて…。
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