2 / 9
二話 正夢ってあるのかな?
しおりを挟む「愛華!早く起きないと遅刻するわよ!」
「…うわぁ!もうそんな時間!?」
ジリリ、とけたたましく鳴る目覚まし時計を止めるとベッドから勢いよく起き上がる。
時刻は午前七時を回っていた。このままでは遅刻ルートが確定してしまう。急いで支度を済ませなくてはならない。
「……っつう!」
足に電流のような痛みが走った。パジャマを捲るとそこは少しだが火傷を負った痕が残っていた。それを見て驚愕した。この傷痕の場所は夢の中で怪物の炎を受けた場所だったのだ。
「…嘘でしょ」
思わず声を上げるも、今は支度をしなければ学校へ遅れてしまう。少し痛むが強引に部屋を出て朝食を食べにリビングへ続く階段を降りた。
「ねぇお母さん。正夢ってあると思う?」
「馬鹿なこと言ってないで早く食べて学校行きなさい!」
「は、はーい!」
朝は母の機嫌がとにかく悪い。呑気に質問などしたら明らかに不機嫌の色が増した。これ以上水を差したらきっと散々怒鳴り散らされるだろう。急いで用意されたパンと目玉焼きとサラダを食べ、鞄を持ち、玄関を飛び出す。これが鈴鳴家の日常の一コマだ。
「愛華ちゃん、おはよう…!」
「癒亜おはよ!」
おさげに眼鏡、スカート丈まで校則規定ピッタリの長さ。絵に書いたような真面目なタイプの双葉癒亜。小学校に転校してきて、席が隣になったことから仲良くなり家も近いこともあって毎朝通学を共にしている。更に幸運なことに同じクラスだ。
「ねぇ正夢ってあると思う?」
「どうしたの?…急に」
「いやぁ、昨日変な夢見ちゃってさ。夢の中で怪物と戦ったんだけどその時に攻撃された場所が現実でも傷として残ってて」
ハイソックスを下げて癒亜へ見せる。が、そこには傷など一つ存在していなかったのだ。確かにさっきまであった傷が無くなっていた。
「え!?なんで!傷が無い!」
「えっと…愛華ちゃん大丈夫…?疲れてるんじゃないかな…」
ペタペタと自身の足を触る愛華。しかし、痛みも感じなければ傷口も無い。まるで最初から何も無かったかのように。
「私の見間違いだったのかな…?」
「きっとそうだよ…だから心配しなくてもいいんじゃないかな…今日はゆっくり寝るといいよ」
「うん、授業中寝るしかないか」
「いや…それは駄目だよ…」
二人の間に笑いが溢れる。気になることではあったが気にし過ぎても考え込んでしまいそうなのでたまたま悪い夢を見たことにしてこの話は終わろうと思った。癒亜も深入りはせず、話を流してくれて話題は今日の課題のことやクラスのことへと変わった。癒亜はあまりはしゃいだりしないタイプだが話の機転がよく利き、相手の話を盛り上げようとしてくれるとても良い子だ。
⁕ ⁕ ⁕ ⁕
長かった学校もやっと一日の終わりを告げた。入学してまだ間もないがクラスには馴染み友達もそれなりに出来た。このまま何事もなく三年間を終えたい。愛華はこう見えて人付き合いが得意なタイプではなかった。もちろんコミュニケーションが取れない訳ではないし、遊びにだって行くが、どこか疲れてしまう。
「疲れたし早く寝ようかな…ふわぁ…」
あくびを一つすると瞼が落ちてくる。お風呂あがりのポカポカした身体が心地よく眠りへと誘う。その誘いに乗るかのようにゆっくり瞼を閉じた。
ガーネット・フェアリー
聞こえるか?
ガーネット・フェアリー
(ガーネット…フェアリー…)
聞いたことのある呼び方。どこで聞いたんだっけ。確かこの呼び方は…。
「目を覚ますんだ、ガーネット・フェアリー」
「……ん。だ…れ…?」
目を開けると、白い空間だった。真っ白で左も右も前も後ろも何もない空間。ここは…昨日の夢の中!?
「あ、あなたは…!」
「ガーネット・フェアリー、今日も怪物を倒してもらいたいんだ。さあ、変身を!」
ポシェットから昨日と同じハート型の石を取り出した。が、愛華はそれをぬいぐるみへと押し返した。
「冗談じゃない!昨日と言い何なの!?私の夢を邪魔しないでよ!」
ぬいぐるみは目を大きく見開き、実際にはそう見えただけかも知れないが。耳を下げ申し訳なさそうに愛華をみつめた。
「話は…後だ。すまないがアイツを倒してほしいんだ…お願いだ…!」
肩を掴まれ必死の形相で訴えかけてくるぬいぐるみに思わず息を呑んだ。横目を向けると、昨日とは形が異なるがまた怪物が空間を切り裂くように出てきた。愛華は唇をキュッと結んだ。不本意だがぬいぐるみからハートの石を奪う。そして唱える。
「覚醒!ガーネット・ジュエル!」
ピンク色の光が包み込み、メイド服へと変わってゆく。フリルの付いたスカートがふわん揺れた。目を開くと昨日と同じ姿をした愛華が居た。
グワァァァアッ!
「うわっ…何よコレ!」
怪物が吐き出したのは炎ではなかった。ベチョベチョした泥のようなもの。白かったエプロンが茶色に染まった。エプロンだけではない、スカートもパニエも髪も、茶色に染まる。
グワァァァアッ!
「……うわぁっ!」
身軽なステップでかわそうとしたが被った泥に滑りそのまま前のめりに転倒した。何とか攻撃はかわすことが出来たが足を擦りむいた。
白い空間が次々と茶色く染まってゆく。怪物の攻撃は広範囲だった。踏むたびに足場が滑る。このままでは危ないと身の危険を感じた愛華。大きささえ変わらないものの、昨日の怪物よりパワーが増している気がした。
「ガーネット・フェアリー!これを使うんだ!」
ぬいぐるみがポシェットから細い棒のような物を取り出し、愛華へと投げた。それを受け取ると棒は変形し、大きなステッキへと形を変えた。愛華の背丈より大きいステッキだが不思議なことに重さは感じなかった。
「そのステッキはガーネット・フェアリーに応えてくれる!」
「応えてくれるってどういう意味よ!」
グワァァァアッ!グワァオッ!
やばい…!
ぬいぐるみの話に気を取られ、攻撃がこちらへ迫ってくることに気づかなかった。動こうにももう間に合わない。思わず後退りしたが泥に滑り尻もちをついた。
「…っ!助けてっ!」
ステッキをギュッと握り締め叫んだ。すると、ステッキが形を変え、盾の姿へと変形した。そして愛華の前に立ち塞がった。
怪物の攻撃は愛華へは一切当たらずステッキへと衝突した。だが、ステッキはダメージ一つなくまた盾からステッキへと戻り愛華の手に収まった。
「…応えてくれたの…?」
愛華は自身を守ってくれたステッキを優しく撫でた。ステッキは微動だにしないが、力が湧いてきたような気がした。
愛華は立ち上がると怪物へとステッキを向けた。怪物はそれに気づき目をつり上げ、赤く瞳を輝かせた。攻撃がくる…!
「あんたの好きにはもうさせないから!」
ステッキを握り締めるとステッキからピンク色の光が溢れた。そして、愛華は高く飛んだ。怪物目がけて…。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる