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第三章 エドワード

新たな目覚め

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地下室の静寂を切り裂くように、エドワードの瞼が微かに震えた。棺の中の彼の体は、闇の中で新たな命を得ようと蠢き始めている。
その様子を見下ろすヴィンセントは、冷静を装いつつも内心の緊張を隠し切れなかった。
「目覚めよ、エドワード…」
ヴィンセントの低い声が静寂を突き抜ける。
やがて、エドワードの目が開かれた。その瞳はかつての柔らかい輝きを失い、真紅の光を宿している。彼は息を吸い込むように激しく動き出し、胸を押さえながら呻いた。


「…ここは…?俺は…死んだのか?」
エドワードの声は震え、どこか不安げだ。
ヴィンセントはその問いに答えることなく、ただ彼を冷ややかな目で見つめる。
「お前は死んだ。そして、新しい命を与えられた。お前のその体には、私の血が流れている。」
その言葉に、エドワードは驚愕したように目を見開いた。



「お前が…俺を助けたのか?でも、なぜ…こんな…!」
エドワードの動揺をよそに、ヴィンセントは冷静に言葉を続ける。
「お前は選ばれたのだ。この命を得ることで、新たな力を手にした。そして、それはお前の失ったものを取り戻す唯一の方法でもある。」
エドワードは混乱しつつも、体内に流れる異様な力の存在を感じ取った。その感覚は言葉では言い表せないほど強烈で、同時に恐ろしいものだった。




突然、エドワードの中に眠る吸血鬼の本能が目を覚まし、激しい渇望が彼を襲った。彼の牙が鋭く露わになり、ヴィンセントの血の香りが彼を誘惑する。
暗くひんやりとした地下室に漂う緊張感の中、エドワードは胸を押さえながらうめき声を上げた。体中を駆け巡る飢えが、すでに彼の理性を侵食し始めている。
「…ダメだ…もう耐えられない…!喉が焼ける…!」
彼の声は掠れ、目に宿る紅の光が不安定に揺れている。



ヴィンセントはそんな彼を冷ややかに見つめたまま、ゆっくりと歩み寄った。彼の優雅なマントが微かに揺れ、静寂を引き裂くようにその足音が響く。
「分かっている。お前は今、飢えに狂いそうだろう。」
その言葉にエドワードは顔を上げた。だが、次の瞬間ヴィンセントが見せた行動に目を見張る。


彼はマントを少し開き、白いシャツの襟元を緩めると、首筋を無防備にさらした。月光がその肌に反射し、まるで誘うかのように輝く。
「吸え、エドワード。私の血でその渇きを癒せ。」
その声は低く滑らかで、どこか誘惑的だ。
「でも…俺は…!」
エドワードは抵抗するように頭を振る。しかし、内なる本能が彼を蝕み、理性を奪っていく。ヴィンセントはそんな彼の肩を掴み、力強く引き寄せた。



「拒むな。この瞬間を受け入れるんだ。飢えに飲まれるくらいなら、私の血で目覚めを完成させろ。」
エドワードは震える手をヴィンセントの肩に置き、その目を見つめた。ヴィンセントの瞳には冷たさと優しさが同居しており、その表情は全てを受け入れる覚悟を示している。
彼の飢えがついに限界を迎え、エドワードは無意識にヴィンセントの首筋に顔を埋めた。その瞬間、鋭い牙がヴィンセントの柔らかな肌を貫く。


「…っ…」
わずかな苦痛の吐息がヴィンセントの唇から漏れるが、すぐにそれは静寂に溶けていく。
エドワードは流れ込む血の温かさに圧倒され、渇きが満たされていく感覚に体が震えた。彼の指がヴィンセントの肩を強く掴み、深く吸血を続ける。
「エドワード…」
ヴィンセントは低く呟き、彼の後頭部に手を添えた。その動きにはどこか父性と官能が混じり合い、まるでエドワードを抱擁するかのようだ。
エドワードの呼吸が荒れ、胸が上下する。その様子は、飢えを癒すという行為を超え、二人の間に深い絆を刻み込むようだった。




やがて、エドワードは満たされたようにヴィンセントの首筋から顔を離した。その唇にはヴィンセントの血の痕が微かに残り、彼の紅い瞳がさらに鮮烈な輝きを放っていた。
「…これが…俺の新しい命…」
エドワードは呆然と呟き、震える手で口元を拭った。
ヴィンセントは優雅にマントを翻し、首筋から滲む血を白いハンカチで拭いながら微笑んだ。


「そうだ。そしてこれが、お前が歩むべき新たな運命だ。だが覚えておけ、エドワード。この力をどう使うかはお前次第だ。」
ヴィンセントの言葉に、エドワードは静かに頷いた。彼の中で目覚めた新たな力と本能、その全てをこれから自らの意志で支配していくのだと決意するように。
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