ヴィンセント~イケメンヴァンパイア2人の物語

とうもろAI

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第一章 若きヴァンパイア

初めての飢え

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夜の静寂を破るように、棺の蓋がゆっくりと開いた。中から現れたヴィンセントの姿は、まるで闇夜の中に浮かび上がる彫像のようだった。彼の漆黒のマントは滑らかに光を受けて揺れ、その裏地から覗く深紅の輝きが、彼の青白い肌をさらに引き立てている。
彼は長いまつげをわずかに震わせながら目を開け、重い眠りから覚めたばかりの瞳でリリスを見つめた。その瞳は深い闇を湛えながらも、どこか脆さを感じさせる微かな光が宿っていた。リリスの胸がきゅっと締め付けられる。彼の美しさと、漂う危うさが同時に彼女を惹きつけてやまない。
ヴィンセントはゆっくりと体を起こし、一歩足を踏み出した。だが、その瞬間、彼の足元がふらつき、ほんのわずかにバランスを崩した。
「ヴィンセント!」
リリスは思わず駆け寄り、彼の腕を支えた。彼は倒れることなく直立を保ったが、その力のない体からは、彼の飢えが痛いほど伝わってきた。




彼は静かに息を吐き、まるで何事もなかったかのように目を閉じる。だがその冷たい手がリリスの腕に触れた瞬間、彼女はすべてを理解した。彼の力が衰えている理由、それは彼が必要とするもの――血が足りていないからだ。
「ヴィンセント……あなた、私に言わなくてもわかるわ。」
リリスは微笑みながら彼の顔を見上げた。その微笑みは優しさと愛に満ちており、彼の疲れた瞳に一瞬の安らぎをもたらす。彼は言葉を発さない。ただ、彼の美しい顔に浮かぶ影が、リリスには痛々しく映った。



彼女はそっと自分の襟元に手をかけ、白い首筋を露わにする。ヴィンセントの目がその動きを追い、一瞬その深い瞳に抑えきれない渇望が垣間見えた。だが彼はそれを押し殺し、顔をそらす。
「……無理をする必要はない。」
低く掠れた声でそう告げる彼の言葉には、彼女を気遣う優しさと、己の飢えを見せることへの羞恥が混ざっていた。
「ヴィンセント、あなたが必要としているなら、私は喜んで差し出すわ。」
彼女はそう言うと、彼の手を取り、自分の首筋に導いた。彼の冷たい指が彼女の肌に触れると、マントが微かに揺れ、その一端が彼女の肩を包み込むように流れる。



ヴィンセントは目を閉じ、リリスの首筋に顔を近づけた。その仕草は、飢えた獣のようでありながらも、どこか優美で儚さを感じさせるものだった。彼の冷たい息が彼女の肌に触れるたび、リリスの体が甘く震えた。
「リリス……」
彼は低く囁くと、鋭い牙をそっと滑り込ませた。甘い痛みが彼女の体を貫き、同時に彼の唇が血を吸い上げる音が響く。彼の腕がマントの中で彼女をしっかりと抱き寄せ、彼女を守ろうとするかのように優しく力強く包み込む。
リリスはその感覚に酔いしれながら、彼の背中に手を回し、より近くに彼を引き寄せた。彼のマントの滑らかな布地が指先に触れ、その冷たささえも心地よい。



吸血を終えたヴィンセントは、リリスをそっと抱きかかえたまま顔を上げた。血の赤が唇を濡らし、彼の瞳にわずかな輝きが戻っている。彼はリリスの頬に唇を寄せ、柔らかな声で囁いた。


「君は、僕にとって唯一の存在だ。」


彼の声には感謝と愛が込められ、その言葉にリリスは微笑み、彼の胸に顔を埋めた。マントが二人を静かに包み込み、夜の闇が彼らを守るように広がっていた。
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