ヴィンセント～イケメンヴァンパイア2人の物語

第一章 若きヴァンパイア

禁断の愛

静かな夜の帳が降りる中、リリスの部屋には淡いランプの光が揺らめいていた。その光はヴィンセントの端正な顔立ちを柔らかく照らし出している。彼の金色の髪は柔らかな波を描き、彫刻のような鼻筋と鋭い青い瞳が際立つ。その瞳はまるで人間のものではないほど透き通っており、リリスでさえ息を飲むほどだった。黒いジャケットを軽く肩に羽織っただけの姿は気取らないが、彼の持つ自然な気品を際立たせている。

「ヴィンス、そんなふうにじっと見つめられると困るわ。」リリスは窓辺から彼を振り返り、薄く笑う。彼女の声には軽い調子が混ざっていたが、その瞳にはどこか揺れる感情が隠されている。

「見ているだけで美しいものを、どうして目を離せる？」ヴィンセントは微笑みながら、彼女に近づいた。その声は低く穏やかで、言葉に宿る真剣さが胸に響く。

リリスはヴィンセントの言葉にわずかに目を伏せる。彼女自身が気づかぬうちに頬が熱を帯びていた。「あなた、本当に不思議な人ね。私が何者か、少しは疑問に思わないの？」

「何者かなんてどうでもいい。」ヴィンセントはリリスのすぐ近くに立ち、静かに囁いた。「僕にとって大事なのは、あなたがここにいるということだけだ。」

その言葉にリリスの胸が微かに疼く。悪魔である自分にこんな言葉を向ける人間がいるとは思いもしなかった。目の前のヴィンセントは、恐れも疑念も抱くことなく、ただ彼女をまっすぐに見つめている。

「愚かな人間ね。」リリスは小さくため息をつきながらも、瞳を逸らすことができなかった。「でも、そんな愚かさが時に愛おしくなるなんて思わなかったわ。」

「愛おしいと思ってくれるなら、それで十分だ。」ヴィンセントはリリスの手を取った。その仕草は紳士そのもので、彼の大きく温かい手が彼女の細い指を包み込む。

リリスの目が揺れる。その手を拒むこともできたのに、彼女はただ黙って受け入れた。悪魔である自分がこんなにも人間に心を動かされるとは思ってもいなかったのに。

ヴィンセントはゆっくりとリリスの顔に手を伸ばし、その頬をそっと撫でる。「あなたは、僕が知るどんな存在よりも美しい。」

「そういう甘い言葉、他の人にも言っているんじゃないでしょうね。」リリスは挑発するように微笑んだが、その声はどこか震えていた。

「君にしか言わない。」ヴィンセントはまるで誓うかのように答えた。

次の瞬間、彼の顔がリリスの顔に近づいた。リリスは息を呑むが、逃げることも拒むこともしない。唇が触れるまでのわずかな時間が永遠にも感じられる。そして、二人の唇が重なった瞬間、世界が静まり返った。

そのキスは優しくも深く、触れ合うだけでお互いの心が通じ合うようだった。ヴィンセントの手が彼女の腰にそっと触れ、リリスの体を引き寄せる。その温もりに、リリスは知らず体を預けていた。

「ヴィンス……。」リリスは小さく彼の名を呼び、そっと目を開ける。その瞬間、彼の瞳に映る自分を見て、胸の奥に言葉にできない感情が広がった。

「僕は、君を離したくない。」ヴィンセントは静かに言いながら、彼女の髪を指先で優しく梳く。

「本当に愚かな人……。」リリスは微笑みながら彼の胸に額を預けた。その笑みは彼女にしては珍しく、優しいものだった。

二人はそのまま静かに寄り添い、言葉以上の絆で結ばれていることを感じていた。リリスは自分が悪魔であることを忘れ、ヴィンセントもまた彼女が特別な存在であることに触れようとしない。ただ、二人が共にいるという事実だけが、今の彼らにとってすべてだった。