少佐は銃弾で嘘をつく

棚引日向

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22 少佐誕生

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「慌てないでください。あなたが考えているようなことではありません」
 フィルスマイヤー少佐の態度は冷静そのものだが、そう言われてもフレンゼンは気が気ではなかった。
「話す順序がよくありませんでした。まず、シュミット少佐死亡の件について、皇国軍としては不問に付すことにしました。実行者であるミシェルさんはすでに亡くなっています。先ほどアンヌさんが言っていたように、罪と罰で相殺された、と考えることにしました」
「それも聞いていたんですね」
 盗聴器が設置されているらしい。
「まだ幼いとはいえ、シュミット少佐が育てた貴重な人材です。失うわけにはいきません。しかし、そのまま放置しておいてよいのか、ある日、どこかへ逃げてしまう可能性だってある。間違って王国軍にでも拾われたら、その損失は計り知れない。だから扱いを決めかねていたんです」
「わたしたち、褒められてるんだよね?」
「マリー、調子に乗るな!」
「はあい」
「誰かが、彼女たちに、ずっと皇国軍にいてくれ、と伝えた方がいい。もっと言えば、誰かがシュミット少佐の代わりに彼女たちを束ねてくれたら、と考えました」
 少佐はそこで話をやめ、フレンゼンを真っ直ぐに見た。
「私ですか!」
 クヌート少将は、さすがに皇国軍の軍令部長だ。偶然、フレンゼンがベッカー大尉に相談を持ちかけたことで、複数の問題を一度に解決する手を考え出したのだ。ベッカー大尉がいるところでは、シュミット少佐を心配する振りをしながら、見えないところで計画を進めていたのだろう。
「そういうことです。ただし、条件が二つあります」
 フィルスマイヤー少佐は、そこで一呼吸置いた。
「一つ、カール・フレンゼンという総務部経理課主任は、軍の特別任務中に殉職。一つ、ヴェルナー・シュミット少佐は、現在も生きている、とする」
「ということは?」
「私と同じ階級では不足ですか?」

 フレンゼンは殉職したので、遺族年金などが支払われる規則だが、彼にはそれを受け取る人間がいないので、財産と殉職一時金は、すべて国庫に収められた。
「もしかすると、もうアイロッソ皇国には二度と帰れないのか……」
 彼は、三代目ヴェルナー・シュミット少佐として、ウスナルフ王国の首都オディロダムで少女四人とともに任務を遂行することになった。実は、少し前に亡くなったのは二代目で、その本名は、フィルスマイヤー少佐でも知らないそうだ。時機を選んで、軍のプロファイルのシュミット少佐のページは、元カール・フレンゼンの年齢や身体的な特徴に書き換えられるらしい。
 そして表向きは、雑貨屋のモーリス・オブライエンとして、四人の少女たちと一緒に働いている。ミシェルの不在を誤魔化すために、四人は服装や髪の長さをそろえたそうだ。もうその必要はなくなったのだが、どうやら元に戻す気はないようだ。

 シュミット少佐となったフレンゼンは、先代のシュミット少佐がミシェルに撃たれたとき、手加減をしたのではないか、と勝手に想像している。先代であれば、その瞬間、急所だけでもかわすことができただろうに。きっとミシェルに撃たれることを選んだに違いない、と。
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