少佐は銃弾で嘘をつく

棚引日向

文字の大きさ
上 下
21 / 22

21 横領疑惑

しおりを挟む
「こちらは、レギーナ・フィルスマイヤー少佐」
 少女たちに彼女を紹介する。
「わあ、きれいな人」とソフィーが思わず言った。
「よしてください」
 フィルスマイヤー少佐は、少し恥ずかしそうにした。さすがに面と向かって言われるのには慣れていないようだ。
「こっちは……アンヌ、マリー、ニコル、そしてソフィー」
 どう説明したらよいのか分からず、名前だけを伝えた。
「みなさん、よろしくお願いします」と、また敬礼した。
「少佐はどこまで知っているんですか?」
「はい、大佐」
「もういいですよ。きっと、これで終わったんでしょ?大佐も、もうおしまいです」
「分かりました」
「あの、大佐?」
 アンヌが不安そうな視線を向けた。
「実は、私は大佐ではないんだ。シュミット少佐の上司でもない。調査のために来ただけの経理課の人間なんだ」
「どうりで尾行も満足にできないのに、やけにお金に細かいわけだ!」
 マリーはすぐに順応する。
「すまない、みんな」
 彼は素直に頭を下げた。
「まあ、嘘はお互いさまですから」とアンヌが応じた。
「先ほどから少佐は彼女たちに驚いていない。こんな場面に少女が偶然居合わせるとは考えられないのに」
「そうです。彼女たちのことは、最初から知っていました」
「最初から?」
「はい、皇国軍の諜報機関は優秀です。シュミット少佐が撃たれて亡くなったことも、その実行者が戦争孤児の一人でミシェルという名前だったということも、その後、四人が協力してシュミット少佐の代役を務めていることも」
「すべて知っていて、私に調査させたんですか!」
 フレンゼンは死にかけたことを思い出した。
「申し訳ありませんが、その通りです。クヌート閣下の命令によって調査はすでに完了していました。そこにベッカーを経由して、フレンゼンさんがシュミット少佐に疑いを持ったとの情報が上がってきたんです」
「ベッカー大尉は?」
「彼は、この件では部外者です。というか、ベッカーには別件の容疑がかかっていました。横領です。それだけではありません。シュミット少佐の恩賜の銃を、どうやら奪い取った件。無抵抗の民間人を数多く虐殺した件。それらには確たる証拠がありませんでしたが、こうして複数の証人を得ました」
 フィルスマイヤー少佐は、腕を広げて少女たちを示した。
「そうか、経理課の人間が近づいてきたのは、シュミット少佐の件を口実にした横領疑惑の捜査だと勘繰ったのか」
「はい、だからあなたは命を狙われた」
「危ないところでしたよ」
「ベッカーの行動はこちらで把握していました。フレンゼンさんを殺させてはいけない、だが、あなたはギリギリになっても人を撃てないだろう、ともクヌート閣下はおっしゃっていました」
「そこまでお見通しだったんですね」
「私はこれでも射撃の腕は同期で二番目でした。一番の人間が経理課に行ってしまったので、いまは一番ですが」
「へえ、尾行はダメだけど、銃はうまいんだ」
 またマリーが茶化す。
「しかし、銃の腕だけで少佐が派遣されたわけではないでしょう?」
 射撃能力だけなら、もっと下っ端でも十分だろう。
「はい、クヌート閣下から決裁権を預かってきました。調査は完了していたのに、何も手を打てなかったのは、彼女たちの扱いを決めかねていたからです」
 室内の温度が急降下したようにフレンゼンは感じた。
「ちょっと待ってください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...